燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード204

 

 

 

 

(キレがあるとは言え、最速140km/h。練習試合でも関東大会でも、嫌という程見てきた。)

 

 

打席に入った千丸は、打席へ入りながら足場を慣らす。

 

投手から外野手にコンバートした彼は、前の試合でも2打点。

それだけでなくチャンスメイカーとして幾度となく得点に絡んできた。

 

 

春から急に頭角を表してきた選手だったが、やはりこの市大三校の先頭打者を任されるだけの実力の持ち主であった。

 

 

 

 

(嫌な打者だぞ。初球から思い切りくるからな。)

 

 

御幸がそうサインを出すと、沢村はコクリと小さく頷いた。

 

息を吐くと同時に瞳がきらりと輝く。

それを見て、エースの姿とまた重なった。

 

 

(ここは。)

 

(出し惜しみせず、ですね。)

 

 

グローブの中で縫い目を動かし、構える。

 

 

打者である千丸が打席でバットを掲げるのを確認すると、沢村は両腕をスッと振り上げた。

 

 

天高く振り上げられた両腕は頂点まで達すると、頭の後ろで抱えるようにして静止。

そこから全身を半回転させると、ここから沢村のオリジナリティ。

 

軸足で綺麗に立ったところから、右脚を高々と上げる。

 

並外れた体幹と柔軟性を生かした、豪快なフォーム。

そこから右手のグローブを壁のようにして、限界まで体の開きを抑える。

 

 

打者目線から見れば中々出どころも見えにくいフォーム。

そして次の瞬間、左腕から放たれたのは、速球であった。

 

 

 

(やっぱ、真っ直ぐ…!)

 

 

 

コースとしては、甘め。

それも千丸の得意なインコースの中段。

 

初球でも迷いなく振り抜き、ドン詰まりした。

 

 

(えっ。)

 

 

完全に、打たされた。

そう悟った時には、もう遅い。

 

得意なインコースだったからこそ、食いついてしまった。

 

 

恐らく今のが。

 

 

(カットボール。こんなに手元で曲がるのか…。)

 

 

ベースを踏む前に、前園のファーストミットから乾いた音が鳴る。

 

まずったなと思い、千丸は天を仰ぐ。

 

 

ストレートを軸にする投手だからこそ、初球から狙っていた。

そこを逆手に取られ、初球からストレートに近いボールをわざわざ得意なコースに投げ込んできたのだろう。

 

 

 

 

「っし。」

 

 

まずは一つ。

狙い通りのアウトに、沢村は息を吐き出しながら小さく2度頷いた。

 

 

御幸も同じように頷き、今の沢村の初球が良かったと表現する。

 

少し高かったが、概ね悪くない。

それこそ相手は狙い球と勝手に反応してくれて、振ってくれた。

 

 

狙い通り。

できれば、初回は3人で終わらせておきたい。

 

 

次もまた、右。

 

この次、つまりクリーンナップから左打者が続く。

 

 

 

 

 

御幸はここで、一つのサインを出した。

 

 

(今日の状態を見る。浮いてもいいから、しっかり腕振れよ。)

 

 

胸元に置かれたグローブがぴくりと動く。

そしてまた、モーションに入る。

 

 

 

2番の森に投げ込んだ初球は、外角の速球。

外角少し甘め、しかし決して悪いコースではない。

 

キレのあるストレートに、振り負けない。

 

そうして振ったバットはストレートの軌道に上手く合わせて。

 

 

 

思い切って、空振った。

 

 

(この速度で沈んだ。それに、少し逃げた?)

 

 

軌道としては、スプリットに近い。

しかしそれにしてはシンカーのように少し逃げた。

 

 

このボールの正体を探っているうちに、沢村はまたすぐに右足を振り上げる。

 

 

2球目も同様に、このスプリット系。

やはりまた、利き手側に曲がりながら落ちて、芯を外された。

 

 

これが夏から投げ始めている、高速のシンカー。

それとも、高速のスプリットか。

 

ストレートに近いところから高速で急に落ちるところはスプリットに近い軌道。

しかしその変化の仕方を見ると、どこかツーシームやシンカーのような動きをする。

 

 

速い。

 

このボールをケアしながら、チェンジアップもあるのか。

 

 

 

森の中に、焦燥と迷いが生まれる。

そうなればもう、バッテリーの勝ちである。

 

 

 

「っ!」

 

 

鈍い音と共に、内野を転々と転がる白球。

 

差し込まれた打球はサード正面。

完璧なまでのクロスファイアで打者を捩じ伏せ、サードの金丸に処理を委ねた。

 

 

「サード!」

 

 

強豪校の鉄壁守備。

丁寧に捌き、2つ目のアウトを奪う。

 

 

迷いの見せた打者。

対して考える隙も与えずに、テンポよく。

 

そして、変化球のケアを最優先に考えた打者には、こうしてキレのある真っ直ぐで抑える。

 

 

 

ここまでは順調。

しかしここからは、地獄のクリーンナップ。

 

昨年からレギュラーを張っていた宮川が打席に入る。

 

 

左の強打者。

パワーもありシャープなスイングで、低い弾道でもスタンドへ運ぶ。

 

ホームランも怖いが、速い打球で外野の間を抜かれる長打も怖い。

 

 

何より、初回からピンチで主砲とぶつかりたくない。

 

 

 

ここを大事に。

わかりやすく御幸が低めを大きく表現する。

 

沢村も頷き、ワインドアップ。

 

 

(さっきの2番のサードゴロ見りゃ、いやでもストレートに張るだろ。)

 

 

目測通り。

御幸が要求したボールに対して、宮川は大きくスイングを崩された。

 

 

チェンジアップ。

 

無意識に速球に狙いを定めていたため、ここで遅いボールに崩された。

 

 

(これでいい。この宮川には徹底的に攻めるぞ。)

 

 

2球目は、外からさらに逃げるカットボール改。

少し高いが、悪くない変化。

 

これに反応し、バットに当てる。

 

打球は前に飛ばず、バックネットへ突き刺さった。

 

 

(すんません、浮きました。)

 

(大丈夫、変化はいいぞ。)

 

 

ここまでイケイケで押している。

 

御幸自身も正直ひやっとしたが、ここは沢村に目一杯やらせようと大丈夫だとジェスチャーした。

 

 

続いて、外角低めのストレート。

沢村の生命線であり、軸となるボール。

 

わずかに外れて、この試合初のボールカウントを点灯させた。

 

 

 

普段なら、表情を歪める。

しかし集中力を高めている沢村は、ある程度割り切っていた。

 

 

4球目は外で沈むスプリーム。

 

外角中段で変化する、スピードボール。

これが宮川のバットに当たってしまい、鈍いゴロとなってセカンド小湊の正面へと転がった。

 

 

軽快に捌き、アウト。

 

3つ目のアウトカウントを奪ったことにより、2つの赤いランプも消える。

 

 

 

まずは上々の立ち上がり。

ここで御幸は、とりあえず一つ安堵した。

 

 

プレッシャーはかかっているが、ボールは走っている。

コントロールも荒れていないし、何より勢いが素晴らしい。

 

この気迫なら、三高の打者相手でも大丈夫だろう。

 

 

懸念で言えば、やはり変化球が少々高いこと。

 

しかしチェンジアップは低めに投げきれているし、カットボール改は割といつも高めで勝負することがある。

 

 

御幸もさほど、気にしていなかった。

 

 

 

 

 

さて、問題は相手先発の天久光聖。

 

彼の状態によっては、長期戦を見据えなくてはならない。

 

 

 

ゆらりと大きな身体を揺すり、マウンドに上がる。

 

オーバースローで、最速150キロ越えのストレート。

さらに極めて奪三振率の高いスライダーを投げる、本格派。

 

加えて、スラッター。

 

縦の大小のスライダーが加わったことで、投球幅も広がった。

 

 

コントロールは、さほどよくはない。

 

しかし自滅というパターンは、ほぼない。

 

 

 

一つ一つ内容を整理し、倉持は打席へ入った。

 

 

 

(入りは、悪いはず。初球から狙う。)

 

(感化されたって思われたくねーけど、まあいいか。)

 

 

 

まずは初球。

速いボールに完全に狙いを定めた倉持は、天久のフォームに合わせてリズムをとる。

 

放たれた白球は、風を切る。

 

 

(全国No. 1チームに、早々お披露目。出し惜しみなし、唖然としろ…!)

 

 

ストレートに合わせた倉持のバットは、完璧な軌道。

 

しかし結果、から振り。

なぜならその軌道に、天久のボールはないから。

 

 

想定以上に、下。

しかし、スライダーほど落ちきらない。

 

 

これを天久は、曲がりきらないスライダー。

 

「スライ」と、呼んだ。

 

 

(いきなり来やがったか、この球。)

 

 

空振りをして、勘づいた。

これが、天久のスラッター。

 

 

速い。

 

傍から見ればスライダーとの投げ分けかと思っていたのだが、ストレートとも軌道がかなり近い。

 

スピード感で言えばどちらかというとストレートに近い気がした。

 

 

 

2球目もまた、同じボール。

 

今度は目に焼きつける為に、見送る。

ジャイロ回転で少し落ちるスライダー。

 

やはり、見分けるのは至難か。

 

 

そう思い、倉持はバットを掲げた。

 

 

(スライダー?それともスラッター?)

 

(残念、それ以外。)

 

 

 

最後は高めのストレート、150km/h。

 

コースは甘い。

しかし変化球に目がいってしまった倉持はこのスピードボールに着いて来れず、センターフライに抑えられた。

 

 

 

「いきなり大台だな。」

 

 

一塁から帰ってくる倉持に、ネクストバッターズサークルで準備をしていた大野が言う。

 

対して倉持も、頷いて彼の言葉を肯定する仕草を見せた。

 

 

「速えーよ。スライダーに目ェ行ったら確実に着いてけねーな。」

 

「だろうな。」

 

「あと、スラッターが結構速ぇ。思ってたよりもストレートと見分けがつかない。」

 

 

 

実際に球を見た倉持の感想に頷き、大野もバッターボックスへと向かった。

 

 

(ピッチャーとしてのお前はすげー。でもバッターの大野は、正直興味無い。)

 

 

青道高校の2番センター、大野夏輝。

 

高い対応力と抜群のミート力を誇る。

対してパワーはさほどなく、高校通算してもホームランは0である。

 

 

基本は読み打ちだが、運動神経がいい為反応で上手く打つことがある。

 

 

 

(さて、と。変化球は割と得意な方だけど。)

 

 

バットを軽く揺すりながら、考える。

 

選択肢は、ストレートとスライダー、あとはスラッター。

あとはカーブもありえる、フォークは捨ててもいい。

 

 

ヒットは比較的、変化球の方が多い。

 

 

(狙ってみる?スラッター。)

 

 

速い変化球は、苦手ではない。

 

ここで一本打てれば、天久も多少動揺するはずだと。

そう思い、大野は初球を待った。

 

 

 

一球目。

 

唐突に投げられたボールは、若干高めの緩い変化球。

 

 

ぴくりと反応する大野。

 

少し前に出されてしまったが、ここでも大野は粘った。

 

 

(流石に、舐めすぎ…!)

 

 

強い下半身でしっかりと我慢しきり、崩されながらも右手で合わせる。

 

 

 

いきなり投げ込まれたスローカーブ。

天久も少しばかり気を抜いていたのか、甘めのコースに迫る。

 

ドロンとタイミングを外すボールだったが、強引に我慢してショートの頭を超える打球を放った。

 

 

 

「あらー、うま。」

 

 

思わず、天久も目を見開く。

当てるのが上手いのはわかっていたが、初見でスローカーブを当ててヒットにするとは、天久自身も思っていなかった。

 

長打はないとはいえ、やはりクリーンナップの前にランナーを置くのは、いい気分ではない。

 

 

特に高い攻撃力を誇る青道のクリーンナップ。

チャンスに強い打者が並び、対応力が高く一発もある。

 

はっきり言って、天久も打たれた後にまずったと再認識した。

 

 

 

 

何より。

 

 

(あららー。たかみんぜってー怒ってるよ。)

 

 

たかみんというのは、捕手である高見のこと。

 

この高見は大野の様子を伺うために一旦手を出しにくい遅い球、それを低めに投げ切って欲しいとジェスチャーしていた。

 

 

コースは甘く、変化も緩い。

特に甘くなれば打たれやすいボールなだけに、もう少しマシな球を投げてもらいたかった。

 

何より、明らかに気を抜いていた。

 

いくら長打のない打者とはいえ、あそこまで分かりやすく加減されると、捕手目線でも中々に見立てが立てにくいものだ。

 

 

ここで打たれたら、ベンチで言おう。

 

そう思った高見だったが、マウンド上のエースの表情を見て、恐らくそれができることは無いということを感じ取った。

 

 

(派手な髪色。染めてんのかな。)

 

 

どこか、自分の中の世界を持っている。

 

彼の中での、没頭のサイン。

集中力が高まっている時、周囲のことなど関係なしに。

 

 

己の世界に入り込んでいるのだ。

 

 

(見かけによらず、めっちゃ怖かったりして。)

 

 

初球、スライダー。

これを見切ることができず、小湊は空振り。

 

 

(ヤクザ映画とかで、リーダーとは違うけど、官僚クラスの重役。)

 

 

続いてストレート。

内角低めの149km/hに反応出来ず、早くも2ストライク追い込む。

 

 

(裏で何人か抹殺してるタイプかも。何にせよ、ポッケに銃は仕込んでるわ。)

 

 

決め球は、スライ。

凄まじいキレで小さく落ちるこのスライダー系のボールを捉えきれず、球足の速い打球はセカンド町田の正面。

 

4-6-3、鮮やかなセカンドゴロゲッツーで一気に3つ目のアウトを奪った。

 

 

 

「すみません。」

 

「そんなに速いのか、あのスラッター。」

 

 

二塁から戻る大野がそう聞くと、小湊は小さく頷く。

 

やはり、倉持が言った通りかなり速いのか。

そしてそれ以上に、軌道が厄介なのだろう。

 

 

(しかし、これは。かなりの投手戦になりそうだ。)

 

 

自分の外野手用のグローブを左手に嵌めて、大野はそう内心呟く。

 

 

 

2回の表は、いきなり4番から。

 

今大会かなり当たっている星田は、現状の大会本塁打数で言っても3位である。

 

 

一発のある、怖い打者。

それ以上に、高いコンタクト力が怖い。

 

ブンブン振り回してくるパワーヒッターな癖にコンパクトに当ててくるから、よく飛ぶ金属バットのアドバンテージと相まって怖さが増す。

 

 

何かを呟きながら、打席へと入る星田。

その姿を見て、市大三高の田原は人差し指と中指の2本を彼へと突き立てた。

 

 

(確かに沢村ボーイのコントロールは1級品。しかしそれは、ストレートに限ったこと。先程のスプリットが浮いている所を見るに、まだ制御し切れないのだろう。甘く入ればコンパクトにだ、星田ボーイ。)

 

 

天久同様、自分の世界を持つこの星田の姿。

 

独り言をブツブツ呟きながら打席に入る様は誰が見ても怖いのは確かだが、それが集中力を高めている合図だとすれば。

 

御幸も沢村も、一層の警戒心を払っていた。

 

 

(不気味だよな。代表の時も見たけど、スイングも鋭いしよく飛ばす。)

 

 

まずは、ストレートでカウントを取りたい。

 

しかし、狙われている気がする。

初球から狙ってくると仮定すると、ここはスプリームで振らせたいところだが。

 

 

(最悪ボールでもいい。外の低めに。)

 

(高くなれば、狙う。まずはストレート。)

 

 

御幸のサインに頷き、沢村が重ねた両腕を振り上げる。

 

 

ツーシームから中指を外す。

というよりは、スプリットの握りで人差し指を縫い目にかける。

 

スピードを維持したまま若干落ちるこのボールは、利き腕側にシュートしながら少し落ちる。

 

 

スプリットとツーシームを併せ持つボール。

そこから、スプリームと名付けられた。

 

 

理想は、低め。

しかし4番相手で若干力の入った沢村。

 

御幸が構えたコースよりも、僅かに高めに入ってしまう。

 

 

このスプリームは、利き腕側に曲がるという性質上、左打者に向かうように変化する。

 

つまり高めになると、外から入ってくる軌道になる為、左からすれは打ちやすくなる。

 

 

ゾーン内での変化。

とはいえ、極端に高くなった訳では無い。

 

 

始動する星田。

ストレートに合わせたスイングは、ストレートに比べて少し速度の落ちたスプリームに対しては少しタイミングが早い。

 

 

(崩した。)

 

 

そう確信した御幸。

しかし次の瞬間、星田は思い切り下半身で粘り、強引にスプリームにコンタクトする。

 

 

「…ぬん!」

 

 

高々と上がった打球。

 

崩されたせいか、右手1本で振り抜く星田は、打球の行方を見つめる。

 

 

コトンという、金属バットが落ちる音と共に。

星田は人差し指を立てた右腕を突き上げた。

 

 

 

弾道は、高い。

 

右中間へ上がった打球を追いかける大野は、落ちてこない打球に表情を歪めていく。

 

 

(冗談だろ、崩されてんだぜ…!)

 

 

 

しかし追いかけた大野の思いも虚しく。

 

打球は高い弾道を維持したまま、フェンスを超えてスタンドへと辿り着く。

 

 

 

この試合。

いきなり風穴を空けたのは、市大三高の主砲の一振であった。

 

 

 

 

 

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