燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード205

 

 

 

 

 

 

弾き返された打球の行く末を見つめたまま、呆然とする沢村。

 

高い弾道でスタンドへと入った打球は、右中間。

 

崩されながらもしっかりと捉えた打球は、見事にスタンドへと入る先制のソロホームランとなった。

 

 

打たれたボールは、スプリーム。

若干高かったが、ストライクゾーン内での変化とはいえそこまで悪いコースではなかった。

 

 

思わず帽子を外して唇を噛む沢村に、御幸は駆け足で近づいた。

 

 

「どうしようもないホームランだ。あれは打った星田を褒めるしかない。」

 

 

そうして左手のミットを沢村の背中に当てる。

 

実際、上手く打たれた。

というよりは、若干内に入ってくるスプリームの軌道が裏目に出て、少し甘めに入ってしまったのだ。

 

 

アンダーシャツを纏った前腕で額の汗を軽く拭い、沢村は鼻から大きく息を吸う。

 

そして、吐く。

 

 

それを、5回。

繰り返して、沢村は何度も頷いて口を開いた。

 

 

「切り替えました!」

 

「時間かかったな。」

 

 

まだ、1失点。

寧ろ星田に対しては、最も被害の少ない状態で勝負できただけマシだった。

 

このあとしっかりと抑えることができれば、或いは反撃のチャンスは必ずやってくるはずだ。

 

 

「大丈夫。最小限に抑えれば必ず点は取り返す。まずはこの回、ストレートで締め直していこう。」

 

 

御幸の言葉に沢村も頷く。

 

確かに打たれたとは言え、自チームの打線なら必ず点を取り返してくれる。

それを確信していた。

 

何より、もう取られてしまったもの。

今更後悔しても巻き戻ることもなければ無かったことにもできない。

 

 

ならば、切り替えるしかない。

これ以上傷口を広げずに、反撃のチャンスを潰さないようにするのが、今沢村にできる最善であるのだ。

 

 

 

 

 

打席には、5番の佐々木。

しかしここで攻撃の手を緩めないのが、市大三高が強豪校である所以だ。

 

 

(絞め直したいところだろ、ここは!)

 

 

沢村にとって最もコントロールの効くボール。

そして、自信もあり奪三振率も高い、ユニークな球種を投げる沢村にとっての生命線とも言える。

 

 

外角低めの、ストレート。

 

自軍のエースの象徴とも言える、ボール。

これを佐々木は、狙っていた。

 

 

ホームランを打たれた初球。

 

多少厳しく来ても、球種さえわかれば打ち返せると言わんばかりに、弾き返した。

 

 

『打球はセンター前!』

 

 

一塁のベース上で、佐々木がガッツポーズを浮かべる。

 

4番のホームランから、5番のヒット。

できれば星田のあとは3人で切りたかったが、やはりしぶとい。

 

沢村は何の気なしに後ろを見た。

 

 

(落ち着けよ。何も焦る時じゃねえんだ。)

 

 

沢村の視線には、腕を組むエースの姿。

そして目が合うと直ぐに、視線の先のエースは両掌を軽く前に開いてジェスチャーした。

 

 

まだ、序盤。

反撃のチャンスは、幾らでもある。

 

そう思い、沢村は目を瞑って再び深呼吸をした。

 

 

 

 

(ストレート狙いか。分かりやすいけど、こんなにとことん打たれるとはな。)

 

 

恐らく初回は、ストレートをほとんど投げなかったからこその三者凡退。

 

あとは絞め直したストレートを、狙っていたか。

簡単にストライクが取れるこのボール、それだけでなく厳しいコースに攻められる。

 

だからこそ、ホームラン後のストレート。

特に厳しいコースを狙っていたか。

 

 

 

こうなると、何とか建て直したい。

少し次の解答に迷いながら、御幸はマウンドの沢村へと視線を向けた。

 

 

左手でロージンバックを握り、空を見上げる。

 

いつものように声を上げるでもなく、淡々と。

ふわりと舞い上がる白粉が沢村を覆い、放るようにしてロージンバックが落とされた。

 

地面に落ちて、再び煙が舞う。

 

 

 

左手で帽子の鍔を持ち、沢村はゆっくりと目を開いた。

 

 

(あの瞳…?)

 

 

沢村の開いた瞳に、違和感を感じる。

 

きらりと煌めく、黄金色の瞳。

派手では無い、淡く輝くその煌めきは夜空に輝く黄金の月。

 

 

その瞳の輝きは、極限まで集中力を高めている証。

 

一発を浴びて、尚且つノーアウトのランナーを置いた場面。

ここに来て、沢村は集中力を研ぎ澄ましていた。

 

 

 

 

打席には、6番の安達。

ここは手堅く、バントの構えを見せる。

 

まずは奪った得点。

しかしそれ以上に、もう一点が確実に欲しいところ。

 

ここは勝負ではなく、バントでの進塁を選択した。

 

 

 

初球。

御幸は自身の考察が正しいかの裏打ちが欲しく、ここは沢村の状態を確認するべく投げた。

 

 

(目覚める時は、今だぞ。)

 

 

御幸のサインに、沢村が小さく頷く。

研ぎ澄まされた沢村は冷静であり、感覚もまた鋭利になる。

 

クイックで投げ込まれたボールは、緻密なコントロールでインハイへ。

 

 

甲高い音を立てながら、打球は高く打ち上がった。

 

 

『打ち上げたー!高速スライダーでしょうか、手元で変化させるボールを打たせてバントを阻止しました!』

 

 

バントのしにくいとされる内角高め。

さらにそこから変化させて、打者のバットの根元を抉りとる。

 

完璧なコースからカットボール改でさらに変化させて、キャッチャーフライ。

 

 

まずは1アウトを、ランナーを動かすことなく奪うことに成功する。

 

マスクに手をかけた御幸は、半ば俯き気味に口角を僅かに上げた。

 

 

(驚くことはない。お前もとっくにその次元なんだよ。)

 

 

確かに完成度で言えば、昨年の大野の方がまだ上だ。

 

しかしここぞという場面の集中力と独自性で言えば、沢村だって負けていない。

 

 

 

続く打席には、捕手の高見。

決勝の稲実戦の為にも天久を温存したいと思う女房役は、ここで追加点を奪って楽な展開に進めたいと考えていた。

 

 

初球、御幸が構えたコースは外角の低め。

 

最も長打になりにくく、ストライクの見極めが最もしにくい遠いコースである。

 

 

 

コースは、際どい。

更に低めから伸び上がるようにして決まったボールに、高見は思わず見送る。

 

瞬間、僅かにミットを動かす御幸。

 

 

審判の手は、上がった。

 

 

 

思わず審判を見る高見。

 

しかしすぐに自分の行為が今後の攻撃に影響することを懸念して投手へ向き直した。

 

 

2球目も同様のコース。

先程のボールもあった為、これもストライクと判断されかねない。

 

ここは高見もバットを振りに行くも、前に飛ばずファールとなる。

 

 

(やっぱり、ストレートのコントロールはいい。)

 

 

スピードは、136km/h。

そこそこ速い上にキレもあり、ここまでしっかり制球されると中々手が出ない。

 

 

 

続く3球目。

御幸は最後の確認として、普段沢村にはあまり構えないコースに構えた。

 

 

(さて、ここに投げ込めるかどうか。)

 

 

御幸がミットを開いた場所は、先程のボールよりも僅かに外。

 

少し甘く入れば、ストレート狙いで軌道にも慣れてきた高見に弾き返される可能性もある。

外れすぎてしまえば、効果は薄くなる。

 

緻密なコントロールが出来てこそ、要求できるコース。

 

 

集中力を高めている状態。

ストレートのキレも確かに上がっている。

 

しかしもしかしたら、それ以上の能力向上があるかもしれない。

 

 

(もし、夏輝と同じタイプなら。)

 

 

軸足でしっかりと立ちながら、右脚を振り上げる。

 

豪快なフォームから投げ込まれたボールは、御幸が構えたコースと僅かな違いもなく、収まった。

 

 

僅かに外れた…というより、僅かに外したストレート。

審判の手は案の定上がらず、カウントは1-2と已然追い込んだバッテリー有利のままである。

 

 

傍から見れば、ただの一球。

しかし御幸、そして打席に立っていた高見からすれば大きな意味を持つ一球となる。

 

 

(外れたってより、意図して外したのか?)

 

 

距離にして、ボール一個分。

この制御が出来るとなると、見極めが極端に難しくなる。

 

今のように意図して外すことができるとなれば、逆も。

意図して際に入れることも、できるということだ。

 

 

こうなると、よりストライクボールの見極めがしにくく、クサイコースは全て振りに行かなければならない。

ただでさえ長打が狙いにくいコースなだけに、あまり手を出したくないのが本音だった。

 

 

 

4球目。

先程よりも甘めのコース。

 

漸く来た甘いコースに、高見は振りに行く。

 

 

数少ない、失投。

ここを狙いに行き、高見のバットは空を切った。

 

 

振り抜いた後に、高見は御幸のミットを見る。

 

そこには、自分が思い描いていた軌道とは全く別。

具体的に言えば、少し低めのところに決まっていた。

 

 

スプリーム。

ストレートと同様の軌道から高速で、そしてストンと利き腕側に沈む変化球。

 

まんまとしてやられたと、高見は歯を食いしばった。

 

 

 

「OK、ナイスボール沢村!」

 

 

投げ返された白球を右手で掴み、再び沢村はロージンバックに手を当てる。

 

その毅然とした態度に、御幸は心の中でガッツポーズを浮かべた。

 

 

(やっぱ同じだ。あん時の夏輝と。)

 

 

感覚が研ぎ澄まされたことによる恩恵。

ストレートや変化球のキレが増すのに加えて、コントロールが良くなる。

 

ギアを上げたことによる、制球の向上。

 

 

これが、沢村の全速力。

大野夏輝と同じタイプの、最大出力である。

 

 

 

「すげーな。沢村ってこんなにコントロール良いんだ。」

 

 

打席に入るのは、8番ピッチャーの天久光聖。

 

彼に対しても、沢村と御幸は徹底的に攻めた。

 

 

2球連続スプリームで空振りを奪うと、最後はインハイの釣り玉。

 

高めのボールゾーンで空振りを誘うボールを見事に振らせたストレートは、今日最速の138km/hを計測した。

 

 

 

被弾こそしてしまったが、まだ1失点。

まだやり返すチャンスは幾らでもある。

 

それに、沢村が覚醒したことが何より大きい。

 

 

最後、天久を空振り三振に切ってとった瞬間に、今まで抑えていた咆哮を上げる。

 

その背に描かれた背番号は、まだ2桁。

しかしふわりと、エースナンバーが重なったように見えた。

 

 

 

 

 

2回裏。

打席には、4番の御幸。

 

沢村の好投に答えるべくマウンドには、やはりと言ってはあれだが天久が上がる。

 

 

(沢村は、応えてくれた。)

 

 

フッと息を吐き、御幸がバットを掲げる。

 

 

凛としたフォルムは、強打者特有の風格を放つ。

オフを経て力強さと安定感を得た姿は、青道の4番としての威圧としても申し分ないところまで進化した。

 

 

(ここで応えられなきゃ、4番じゃねえ!)

 

 

先程の星田の一発をやり返すように、初球打ち。

 

天久の初球のストレートを捉えて、右中間。

ジャストミートした打球は、鋭く外野の間を抜けてツーベースヒットとなる。

 

 

 

更に5番の白州が甘く入ったスライダーを捉えてセンターオーバー。

フェンスダイレクトの長打を放つ。

 

二塁ランナーの御幸は楽々ホームイン。

 

更に打った白州も二塁へ。

4番と主将の連続ツーベースヒットで、同点。

 

 

刹那の得点劇で天久を一気に攻めたてた。

 

 

『主砲と主将の連続ツーベースで早くも同点!センバツでも存在感を見せたこの2人が、2年生の沢村を盛り立てます!白州のタイムリーツーベースヒットで同点!』

 

 

二塁ベース上で右拳を上げる白州。

 

それに背を向けながら、先程の沢村同様天久もまた深呼吸をし直していた。

 

 

 

 

 

 

 

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