燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード209

 

 

 

 

「すいません、大野先輩。」

 

「何を言ってる。まだ負けていなければ、反撃はこれからする。謝ることはないだろ。」

 

 

ベンチ前、炎天下のマウンドへと向かう降谷に、大野はそっと肩を叩く。

さらに、近くにいた御幸をチラリと見て、付け加えるようにして言った。

 

 

「マウンドはお前たちに任せると言っただろう。だから攻撃は、俺たちに任せておけ。」

 

「はい、お願いします。」

 

 

最後にポンと背中を叩き、大野は自分の定位置へと向かう。

 

それを見送ると、今度は御幸が降谷と共にマウンドへと歩み始めた。

 

 

「去年までのあいつなら、ブルペン行ってたよな。」

 

 

御幸がそう言うと、降谷は肯定するように何度か頷く。

 

以前までの大野は、チームの為になら次回以降の予定なぞかなぐり捨ててでも、流れを変えるべくマウンドへと向かっていた。

 

 

エースだから。

たったその一言で、身を粉にしてチームに尽くしてきた。

 

故に、時には限界を超えることもあれば、身体自体が先に悲鳴を上げてしまうこともあったのだ。

 

 

無論、今もその考えは変わっていない。

一度負ければ終わりのトーナメント形式において、次のことを考えすぎて負けてしまえば本末転倒ではある。

 

だが、今回の大会。

 

大野の心の中にも、変化があったのだ。

 

 

「やっぱり大野先輩にとって、成宮さんはそれほどの相手なんですよね。」

 

 

中学からの因縁の相手。

さらに言えば、2度の夏の大会でいずれも大野は決勝で彼に敗北している。

 

特に昨年の夏は、延長11回にも及ぶ熱闘の果てに、奇しくも同じ球数で互いに力尽きた。

 

 

だからこそ、備えている。

必然的に高い出力を出さざるを得ない試合なだけに、できるだけ力は温存しておきたい。

 

 

「それだけじゃねーよ。」

 

 

御幸の返答に、降谷は首を傾げる。

 

そんな反応に苦笑い。

付け加えるようにして、御幸は降谷に言った。

 

 

「あいつ言ってただろ、任せるって。今まで先輩たちですら信頼することが無かったあいつが、お前たちになら託せるって言ったんだよ。」

 

「僕たちを、ですか。」

 

「頼ることを知らなかった奴が、な。唯一お前と沢村になら委ねられるってよ。素直じゃねーから、そこまで言わねーけどな。」

 

「信頼…任せる…。」

 

 

すると、降谷の内から流れ出る、闘志。

 

 

炎のように巻き上がるオーラが、まるで目に映るかのように存在感を出す。

 

それは、任されたことによる責任。

信頼されたということは、認められているということ。

 

 

「エースになるんだろ?じゃ、応えなきゃな。」

 

「はい。」

 

 

そこからの降谷は、圧巻だった。

 

6番の安達に対しては、ストレート。

5球連続で150km/hオーバーを叩き出し、最後の154km/hで空振り三振。

 

更に高見には、カーブを織り交ぜて緩急。

110km/h代のスローカーブでタイミングを外した後に、155km/hのストレートを高めに投げ込んで空振り三振。

 

 

 

テンポよく2者連続三振で、残した打者は天久光聖。

 

 

(沢村は完璧にボールを操ってた。お前はどーなのよ?)

 

 

前の打席では、勝ち越しとなった内野安打。

この試合、誰が見ても現状MVPは彼である。

 

そんな絶好調男の天久に対しての初球。

 

 

(どーせ、ストレート。いち、にの、さんでしょ。)

 

 

というより、ストレート以外打てない。

 

フォークは対応しきれないし、カーブはタイミングが合わない。

打ち返すなら、ストレート狙い。

 

そんなことを内心で呟くと、天久はバットを掲げる。

 

 

ワインドアップから、リズム良く身体を縦回転。

それに合わせて、天久もタイミングを取る。

 

そして。

 

 

(いち、にの、さ…ん!?)

 

 

完全に振り遅れ、思い切り空振った。

 

コースは、外角高め。

降谷が強く腕を振り切ったこのボールは、吹き上がるようにして天久の想定よりも遥か上を通り過ぎたのだ。

 

 

(これが怪物のエンジンってやつ?明らかに人が投げてる球とは思えない。とんでもねー馬力だわ。)

 

 

2球目は、内角低め。

適度に荒れているから、逆に的が絞れない。

 

 

(操るってよりは、敢えて暴れさせてる?そう考えたら、沢村とはまた別の凄さ。)

 

 

3球目。

最後は高めの釣り球。

 

少しボール球だが、腕を振り切り力強いボール。

 

 

高低の投げ分けで目線が追いつかず、空振り三振。

最後は降谷のストレートを最大限に生かすコースで155km/hをたたき出すと、この回は三者連続の三振で捩じ伏せてみせた。

 

 

熱気漂う神宮球場。

ふわりと舞った雫が太陽光に反射して煌めき。

 

同時に、怪物はマウンドで静かに咆哮した。

 

 

「こいつらこれで2年かよ。そりゃあ投手王国って言われるわ。」

 

 

ユニークなボールを自在に操る沢村。

怪物(モンスター)クラスのボールを暴れさせる降谷。

 

高い完成度を誇りながらも、まだ未完。

 

各チームでもエースクラスの2人との投げ合いは、天久を高揚させ、喜びを与える。

 

 

しかし、欲を言えば。

その2人を超える男。

 

世代最強と言われ、この2人のエースクラスをも優に超える最強のエース。

 

 

魔球と称されるボールを自由自在に手懐ける、無敵のエース。

彼がマウンドに上がると忽ち、彼の独壇場になるほどの圧倒的存在感。

 

 

(ま、叶わねーならいいや。”今の”俺にとっちゃ、勝つことが一番なの。)

 

 

いい投手と、投げ会いたい。

そして高め合いたい。

 

しかしそれ以上に、今はただ勝ちたい。

 

1度逃げ出したのにも関わらず、迎え入れてくれたチームの為に。

 

 

「天久ボーイ、疲れは?」

 

「全然、問題ねーよ監督。心配しなくても、ちゃんと連れてってやっから。」

 

 

田原からの質問に軽く返すと、頭に被ったヘルメットを脱いで帽子に被り直す。

 

 

ベンチに置かれた、草臥れた茶色のグローブに右手を引っ掛ける。

少し重く感じ、それが染み込んだ汗によるものだと考えつくと、左手で持ち上げる。

 

 

「てか、2点もありゃあ十分。もう負けねーよ。」

 

 

不思議と、左手で持ったグローブは重く感じなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残り2回。追い込まれているとは言え、まだ慌てる必要はない。」

 

 

8回の裏に向け、円陣を組む青道ベンチ。

 

この回は、上位からの攻撃。

先頭は、試合開始同様1番の倉持から始まる。

 

終盤にして回ってきた、好打順。

 

試合展開を見ても、これがラストチャンス。

 

 

点差は2点。

天久から奪うには、大きな壁である。

 

 

しかし、この炎天下。

 

天久にとってもかなり応えているはず。

 

元々コントロールはすごく良い訳では無い。

スタミナも極端に多い方では無いため、終盤になれば抜け球は多くなる。

 

 

ラインを上げて、抜け球をしっかり仕留めきる。

 

 

「天久のここまでの奪三振は、12個。確かに多いが、それに比例して球数も107球まできている。それにこの炎天下だ。ここから先は、天久にとっても辛いマウンドになってくるはずだ。」

 

 

ここまで、軌道は見てきた。

ストレートとスライは見分けがつかないが、スライダーは追い込まれるまでなら我慢くらいならできる。

 

高めに浮けば、打てる。

スライダーは捨て、ストレートとスライの小さい変化を狙う。

 

 

あとは、ゴロ。

先ほどの天久の内野安打然り、転がせば何かが起こる可能性は出てくる。

 

フライではなく、極端に低く。

 

打球は上げずに、細かく連打で点を返す。

 

 

地道に、コツコツと。

全員で、力を合わせて勝つ。

 

 

「目の前の勝利のために、全員の力を貸してくれ。行こう、全員で勝つぞ。」

 

 

片岡の音頭に、全員が声を上げる。

 

 

打席に向かう、倉持。

彼に対して、大野は軽く耳打ちした。

 

 

「難しく考えすぎるな。お前なら、対応し切れる。」

 

 

小さく頷き、倉持が打席へと入った。

 

 

ここまでの打撃成績は、3-0

未だに、いいところはない。

 

 

足のイメージだが、今大会打率も3割越えと調子がいい。

 

特にすり足気味で合わせて単打を放ち、塁上でプレッシャーを掛けるという搦手が板についた。

 

 

(足だけじゃん。要は、出さなきゃいいってこと。)

 

 

ロージンバックを指先に当て、馴染ませる。

 

マウンド上から打席を見下ろし、白球を右手の上で転がした。

 

 

(顔こわ。睨み殺す気かよ。)

 

(ぜってー出る。)

 

 

初球、スライダー。

ファーストストライク、そのストレートを狙っていた倉持はバットを止めた。

 

1ボール。

 

やはりスライダーなら、見える。

試合も終盤、追い込まれなければ確かに見切れる。

 

 

続けて2球目。

今度は、高めから低めにまで滑り落ちるスライダー。

 

ゾーン内での変化だったが、これを見送って1-1となる。

 

 

3球目は、ストレート。

148km/hの真っ直ぐは、外の高め。

 

しかしスピードボールに狙いを定めていた倉持はバットを出すが、力強い真っ直ぐに打球は前に飛ばない。

 

打球は球審の横を抜け、ファールとなった。

 

 

(今の仕留めたかったな、高めに来たストレート。)

 

 

内心軽く舌打ちをしたが、表情には出さずに倉持はバットに目を向ける。

 

カウントは1-2。

既に追い込まれており、バッテリーが有利なカウント。

 

 

ここまでの倉持の反応と天久の状態。

それを擦り合わせ、高三はサインを出した。

 

 

(ストレート狙いなのは目に見えてわかる。ただ、スライダーは見えてそうだ。ここは早く仕留めよう。)

 

(OKたかみん。ここは、スライで。)

 

 

ワインドアップから、回転。

 

高三が要求したコースは、低めのボール球。

ストライクゾーンからボールゾーンに落ちる、奪三振率の高いコースへミットは構えられた。

 

 

 

ジャイロ回転で突き進む、速球。

 

バットを掲げた倉持は、すり足でタイミングを合わせる。

 

 

そして、打者に近いところで手元で小さく曲がり始めた。

 

 

(来た、ゾーン内…!)

 

 

難しく、考えない。

合わせるようにして、低めのボールにバットを当てた。

 

 

「っし!」

 

 

金属音と共に、ダッシュ。

打球はショート深いところへと転がっていく。

 

安達も丁寧に捌いたが、ここは倉持の足が勝って内野安打をもぎ取った。

 

 

「っしゃあ!」

 

 

終盤にして出塁した、ノーアウトのランナー。

 

この回詰めなくては勝機が薄くなる青道高校に、最後のチャンスが訪れる。

 

 

(まあ、安定感ってか出塁自体はかなり期待できる様になったよね。)

 

 

打席に向かうは、背番号1。

そして青道高校の繋ぎの2番、アベレージヒッターの大野が打席へと入った。

 

 

(あとは、俺が繋ぐ。)

 

 

脱力しながら、軽くバットを揺する。

 

一発こそないものの、卓越したセンスとバットコントロールで高いヒット性能を誇る選手である。

 

 

(ま、怖かねー。)

 

 

内心で天久は呟く。

 

このピンチの場面で、やはり怖いのは同点の一発。

それが限りなくゼロに近い相手であれば、やはりプレッシャーは少ない。

 

 

(変化球に強いのはわかってんの。ストレートには全然付いてけねーのも。)

 

 

しつこい牽制。

ランナーが、倉持だからというもの。

 

簡単に、走らせたくは無い。

 

 

(大野夏輝。ここで負けて、投げなかったこと後悔しろ!)

 

 

そして、初球。

内角高めの力強いストレート。

 

外の変化球に合わせるのが得意な大野に対して、有効なコース。

 

 

しかし。

 

 

(それは狙ってなきゃの話…!)

 

 

肘を上手く畳み、身体をコマのように回転。

高めを弾き返し、ライト前に落ちる単打で繋ぐ。

 

 

(言ったろ降谷、攻撃は任せろって。休ませて貰ってる分は、ちゃんとバットで取り返す。)

 

 

一塁ベース上、右手を突き上げる大野。

 

終盤にして、最大のチャンス。

ノーアウトながら生まれた2人のランナーに、青道ベンチサイドがさらに盛り上がる。

 

 

「ありゃー、上手く行かねーもんだな。」

 

 

マウンド上で腰に手を当てる天久は、思わずそう零す。

 

ここからクリーンナップ。

青道で最も得点能力を有する打者たちが、並ぶ。

 

 

 

ここまで我慢されていた分、立て続けに上手くやられている。

倉持もスライに上手く合わせられ、大野も完全にストレートを狙われた。

 

ここに来て青道の勝負強さが出てきたと、女房役である高三も感じていた。

 

 

(まあ、こいつら全国獲ってるんだよな。そりゃあ一筋縄じゃ行かねーよ。)

 

 

唇を噛む天久だったが、直ぐに切り替えてボールを受け取る。

 

ノーアウト、ランナー一三塁。

打席へと向かうのは小湊。

 

 

 

 

続けてネクストバッターズサークルに入るのは、4番の御幸。

 

何とか逆転したい、この8回。

自然と身体が強ばることを自覚していたが、4番である以上これも仕方がない。

 

何度か息を吐き、心を整える。

 

 

「御幸先輩。」

 

 

するとその背中に、降谷の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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