燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード214

 

 

 

 

「どうだ、実際受けてみて。」

 

 

ブルペン投球を終えてストレッチをする大野をちらりと見て、落合はすぐさま御幸に視線を戻した。

 

 

無論、いいピッチングには変わりない。

さすがの制球力とボールの質の高さは、目を見張るものがある。

 

 

特にストレート。

パッと見は今日のピッチングでも球速は130km/h前後と、さほど速くないボールだ。

 

しかし、手元で加速するように伸びるこの直球は、やはり高校生のものとは思えないほどの質を誇っている。

 

 

 

あとは、受けている張本人はどう思っているか。

確認作業も兼ねて、御幸へと質問した。

 

 

 

「状態だけで見れば、かなり良いとは思います。ただ…。」

 

 

 

少し言い淀んだ御幸に、落合は少し反応する。

 

外から見れば、しっかり投げ切れている。

変化球も振り切れていた為よく曲がっていたし、キレも申し分ない。

 

 

 

「少し、前のめりになり過ぎていますね。抑えようという気持ちはあるんでしょうけど、少し出力が出過ぎているように感じます。」

 

 

 

やはり懸念は、そこか。

内心でそう呟き、落合は右目を瞑る。

 

如何に稲実が総合力の高いチームとはいえ、攻撃力という観点で言えば市大三高とさほど変わらない。

 

寧ろあのチームの強さは高い守備力と、得点へと結びつける高い戦術と技術による堅実さ。

そして、投手戦を制することができる、成宮という絶対的なエースの存在。

 

 

大野の状態が悪くなければ、大量失点をすることはまずない。

ここまでの試合でもまだ失点はしていない上に、選抜でも許した失点はたったの1点。

 

それも薬師との試合で乱打戦を繰り広げたという、清正社の山田から受けた一発のみ。

 

 

失点は、あまり心配する必要はない。

それに今の打線なら、成宮から1から3点なら取れるはず。

 

そこまで気負う必要もない。

 

 

(しかし、そういう問題じゃあねえんだろうな。)

 

 

口では関係ないと言っていたが、やはり因縁の相手。

 

話を聞けば、中学以来からのライバル関係。

加えて、夏の大会では2年連続決勝の舞台で投げ合っている。

 

その二つとも、大野は敗北を喫している。

 

 

成宮という世代最強左腕との、対決。

そして、これまでの挫折と、甲子園への道を絶たれたという経験。

 

実力というよりは、場面。

 

どこか精神的な部分にはなるが、こういうオカルト的なところで不安が出てくるのも仕方がないことだろう。

 

 

「あいつも高校生ということか。まあ、この舞台で緊張するなというのも無理な話か。」

 

「…それだけじゃ、ないと思うんですよね。あいつにとって成宮は特別な存在なんです。不安で力が入りすぎているのではなく、高揚感から力が抑えきれていないのではないかと、思います。」

 

 

すると落合は腕を組みながら、溜め息をつく。

 

前の試合で沢村と降谷だけに投げさせたのは、完全に明日の成宮対策。

 

 

彼と対等に渡り合えるのは正直、大野しかいない。

その為、決勝の稲実との試合では大野の完投を前提に考えている。

 

大野自身スタミナには不安がさほどないが、それは普段の試合の時の話。

力が入った状態で投げ続ければ、当然いつも以上に早く限界が来てしまう。

 

万が一大野に限界が来た時。

 

沢村と降谷は、疲れが少し残っている状態で考えなければならない。

 

 

川上か、短いイニングなら沢村と降谷か。

はっきり言って、東条には荷が重い相手である。

 

 

理想は大野の完投で、勝ち切ること。

しかしあくまで、理想である。

 

準々決勝での投球を見ても、そう簡単に連打を許してくれる相手ではない。

 

 

長いイニング、とにかく失点を減らしたい。

そう考えると、力配分もまた重要な部分にもなってくる。

 

 

「まあ、仕方ねえな。こればかりは、俺から何か言えるものでもあるまい。」

 

 

そう言って、落合は腕を組んでベンチへと体重を預けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

また別の場所にて、もう1人のエースが決戦に向けて最終調整を測っていた。

 

 

「樹!あと10球、力入れて投げる!」

 

「はい、鳴さん!」

 

 

充実した設備施設に囲まれた、この稲城実業高校。

このブルペン内もまた例に漏れず、プロでも使用される最新機器を揃えている。

 

私立ならではの、資金力。

それだけではなく、OBや後援会等による提供もまた大きな影響を与えている。

 

今まで残してきた実績から来る、期待。

そして静かな圧力でもある。

 

これらは全て、常勝軍団である稲城実業が甲子園で勝つために用意されているのだ。

 

 

(ま、言われなくても分かってるけどね。それに俺は、俺の為に投げる。)

 

 

「真っ直ぐから!」

 

「はい!」

 

 

成宮が声を上げると、応えるように捕手である多田野がミットを構える。

 

同時に、成宮の後ろに立っていたトレーナーがスマホを構えた。

 

 

一息吐き、肩の力を抜く。

そうして、黄色のグローブを胸元へと持ち上げてステップを踏み始める。

 

 

小柄ながらも、足を大きく振り上げるフォームからかなりの躍動感がある。

 

若干スリークォーター気味のオーバースローで放たれたボールは、綺麗な軌道を描きながらミットへと収まった。

 

 

「OK!回転数も軸もかなり良いぞ。」

 

 

トレーナーがスマホを見つめながら、そこに映し出された数値を成宮と確認する。

 

 

「あれがラプソードか。」

 

「高校で導入しているのはかなり珍しいですね。」

 

 

明日の試合で先発をする成宮を見ようと来た記者が、成宮と多田野の間を置かれた機械を見て呟く。

 

 

ラプソード。

メジャーリーグやプロ野球でもよく導入されているシステムのひとつであり、簡単に言えばボールの性質を具体的な数値として表す機器である。

 

主に回転軸や回転数から、そのボールがどう動くのか、どのような軌道を描くのかどうかを視覚的にも見せてくれる。

 

 

今までは感覚的な部分でしか判断できなかった部分を、数値化することで再現や改善を容易にしてくれた。

 

そこからの球質向上から、その日の状態の確認をするパラメータにもなってくれる。

 

 

「んじゃ次、ツーシーム。」

 

 

その言葉に、記者が少しざわつく。

 

夏の大会から投げ始めた、ストレート系の変化球。

高速で変化する、所謂ムービングボールの一種である。

 

ツーシームファストはその中でも、シュート方向に若干曲がりながら沈むボールのことを指す。

 

 

「結構変化してるな。」

 

「スピードもかなりある。これは左バッターは相当苦労しそうですね。」

 

 

投げ込まれたボールは、左打者のインコース。

ストライクゾーンからボールゾーンに抉り込むような軌道を描いた速球は、かなりのスピードを保ちながら変化をしていた。

 

 

さらに、成宮の調整は進んでいく。

 

続けて投げられたボールは、フォーク。

これもまた、しっかりと低めに制球され、鋭く落ちた。

 

 

 

1球ストレートを挟み、再び多田野へ向けて変化球の握りを見せて言った。

 

 

「チェンジアップ。」

 

 

今度はツーシーム以上にざわつく。

 

 

チェンジアップと言えば、成宮の代名詞的変化球。

彼の決め球であり、圧倒的な奪三振率を誇る成宮の伝家の宝刀である。

 

一般的には、緩急を付けるために使われる変化球。

ストレートと同じ腕の振りで遅い球を投げることで、打者のタイミングを外すことができる。

 

しかし成宮のそれは、大きな落差を誇る。

 

 

ストレートと同じような腕の振りから、スクリューのように落ちる。

山勘でタイミングを合わせたとしても、そこから落ちるため対応しきらなければならない。

 

 

正に、本格派である成宮の伝家の宝刀。

そして、唯一無二の固有変化球である。

 

 

要所でストレートを挟みながら、その調子を確認する。

このフォーシームもかなり良く、回転効率もいい部類に入る。

 

球速も、前の試合時点での計測で150km/hを既に越えている。

 

 

これもラプソードによる恩恵のひとつである。

 

 

 

「次、スライダー。」

 

 

そうして投げられたボールは、利き腕とは反対側。

 

リリースポイントの対角線上に滑るようにして曲がるボールは、左打者に対しては逃げるようにして変化をする。

 

 

成宮と言えばチェンジアップだが、このスライダーもまた決め球になる。

 

それこそアメリカチームとの試合では「フリスビー」と称されるほどのキレを誇っていた。

 

 

 

「じゃあ、カーブね。」

 

 

そして、もう1つ。

ラプソードを導入したことによって最も進化を遂げたボールこそが、このカーブである。

 

 

以前まではタイミングを外すボールとして時折投げていたのだが、これを改良。

 

握りと感覚をデータを元に擦り合わせ、尚且つ今年入学の赤松からの助言もあり、キレのある強いボールとなった。

 

 

その結果完成したのは、2回曲がる縦のカーブ。

 

ふわりと浮かんで、弧を描きながら落下する1段目。

強いスピンを掛けたことにより、加速しながら曲がる2段目。

 

 

緩い出処から加速するように曲がるこのボールは、カウント取りだけでなく決め球としても使える、ウイニングボールへと昇華した。

 

 

 

ノビのある最速150km/hのストレートに、鋭い縦横の変化球。

 

さらにゴロを打たせるムービングボールに、緩急をつけながらも三振もとれるカーブ。

 

そして、必殺のチェンジアップ。

 

 

コントロールはそこそこ良く、どのボールもしっかりと制御ができる。

 

勿論、エースである為1試合を投げ切るスタミナは持ち合わせている。

 

 

世代最強左腕の名は、偽りでは無い。

文字通り、最強の投手である。

 

 

 

最後、10球目のストレート。

多田野が乾いた破裂音を鳴らし、成宮の調整を終える合図を示す。

 

ふっと息を吐いた成宮が、グローブを脇に挟んでマウンドから降りながら身体の調子を確認した。

 

 

(前日にあんまこーいうこと思いたくないけど、正直めっちゃ調子いい。)

 

 

左手をぎゅっと握り、開く。

 

球も走っているし、身体のキレもいい。

感覚と数値の乖離もないし、はっきり言って今大会で一番調子が良かった。

 

 

実際、大会が始まってからこの日の為に調整してきた節は、ある。

 

この決勝戦でぶつかる相手は、世代最強右腕と言っても過言では無い相手。

そこに向けて調整するのは、全く不思議なことでは無い。

 

 

何より、最も長い試合が予想される。

昨年は、延長11回まで試合は終わらなかった。

 

 

 

「やはり、すごい対決になりそうだな。」

 

「センバツ優勝の大野もすごいけど、やっぱり成宮の完成度高いな。」

 

 

そんな風にざわつく他の記者の話を尻目に、記者の一人である峰は2人のエースの姿を重ねた。

 

 

(完成度も実力も、互角。数値だけで見れば成宮くんの方が上だが、やはり制球力や球の質という面で言えば大野くんに軍配が上がる。)

 

 

 

球速は最速150km/hの成宮に対して、大野は142km/h。

 

スピードガンで測った単純なスピードであれば成宮の方が速いが、その質で言えば大野も負けていない。

 

 

 

大野は、技。

 

特に純粋なオーバースローから放たれる大野のストレートは回転軸、回転数共に高校野球では類を見ない高さを誇る。

 

 

何より、制球力。

万に一つも間違えないと言われるほど高いコントロールは、全国ナンバー1。

 

ストレートだけではない。

ツーシームからカットボール、さらにはカーブやチェンジアップと多彩な変化球を自由自在に操る様は、技巧派投手の完成系にも見える。

 

 

 

 

対する成宮は、力。

ストレートも高い回転効率を誇っており、ノビがある。

 

全てが高水準で纏まっており、その小柄からは想像も出来ないパワフルなボールを放つ。

 

 

変化球はスライダーとフォーク、あとはカーブにチェンジアップと空振りを奪うのに適したボールを揃えている。

 

高い奪三振率に力強いボールを放る様は、正に本格派左腕の教科書と言っても過言では無い姿である。

 

 

(因縁もあるだろうし、当の本人たちが一番燃えているのだろう。何にせよ、今年の最強投手を決める闘いになることは、間違いないな。)

 

 

真夏の空の元。

3度目の決戦、因縁の闘いは明日決着する。

 

そんな事を考えながら、峰は手元で開いていたノートをポンと閉じた。

 

 

 

 

 

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