ガバ+精神論まみれやで…。
あと大変遅くなりました。
試合前日。
青道高校がミーティングをする裏で、決勝トーナメントへと上がったもう一つの高校たちもまた、決起をしていた。
「当然と言うべきでしょうか、やはり決勝は青道が上がってきました。」
準決勝である市大三高と青道の試合ビデオが終わり、稲実の偵察班である青年が口を開く。
試合結果は、4-3。
誰が見ても互角の相手がやり合った結果の、接戦である。
序盤から先制を許した青道が、終盤に逆転。
4番の御幸のスリーランホームランで試合をひっくり返し、そのまま磐石の投手陣でシャットアウト。
青道の強さとも言える上位打線での得点と強力な投手陣が遺憾なく発揮された試合であった。
「センバツで優勝した強さは伊達ではありません。全てに於いて、昨年を上回る実力を持っていると思って良いでしょう。それほど、今年の青道は完成されています。」
高い攻撃力に加え、鉄壁の守備陣。
そして、絶対的エースの存在。
バントはあまり多くないが、それは各選手の勝負強さ故。
確実に仕留める場面で仕留めることのできる打者が多く揃っている為、得点力は高い。
「4番の御幸は、プロ注目の天久に対して2安打1本塁打の3打点。他の選手たちもかなり曲者揃いなので、注意が必要ですね。」
特に青道が強いと言われる所以は、上位打線の質の高さ。
各々が違う特長を持っており、癖がある。
それでいて全員がハイアベレージという強力な上位打線が形成されている。
1番は昨年同様、倉持洋一。
やはり警戒するべきは、その脚。
卓越した走塁盗塁技術の他に、単純に足が速い為内野安打等も多い。
昨年までは打撃力が課題視されていたが、今大会は打率4割近くとよく打てている。
盗塁も考えると、単打や四死球ですら二塁に到達される可能性が高いため、最も塁に出したくない打者である。
2番での出場が最も多いのは、大野。
高い対応力と柔らかいバッティングで繋ぐ好打者。
選球眼は特段良い訳では無いが優れたバットコントロールで多少のボール球でもヒットゾーンへと落とす技術を持っている。
長打は少ないが、クリーンナップに繋ぐ確率が高いだけでも2番に置かれる理由にはなる。
3番は右の小湊春市。
上位打線で唯一の右打者であり、チーム内トップの打率を誇る天性のヒットメーカー。
木製バットを操るこの好打者は、今大会打率5割。
更に打点も多く、チャンスでの集中力は凄まじい。
勝負強さが光る、右の好打者だ。
反応が速く対応力にも優れている為、速球変化球共に仕留める技術を持っている。
そして、最も注意すべき打者の1人である4番。
チームの扇の要であり、主砲。
都内のプロ注目投手が成宮と大野、天久だとすれば、野手の注目選手の一人。
高い守備力に加え、都内での盗塁阻止率ナンバー1を誇る強肩。
エラーが少なく、確かな捕球技術もある。
打撃でいえば、得点圏での勝負強さは健在。
今大会得点圏打率は7割越えと圧巻。
さらに打率自体も4割後半ととてつもなく当たっている。
冬のトレーニングを経てか、打撃の安定感も増している上に本塁打数も一気に伸ばしている。
準決勝では、試合を決める3ランホームラン。
更に今大会では全試合で得点に絡んでいると、正に4番の働きをみせている。
間違いなく、このチームで最も警戒しなければいけない打者の1人である。
そして、もう1人の要注意人物。
主将であり、卓越した打撃技術を誇る仕事人の白州である。
昨年まではバントや進塁打など小技に長けているというイメージであったが、春以降はその打撃技術にも磨きがかかり、打率長打率共に向上している。
打率は御幸に次ぐチーム3位。
しかし数字以上に、大事なところでよく打つ。
前の市大三高との試合では、先発沢村が失点した直後にタイムリー。
さらに言えば、巨摩大藤巻との1点ゲームを制したとき。
御幸と共に連続ツーベースを放ち、本郷から打点を上げたのはこの男である。
シャープなスイングで、低く強い打球を放つ。
一発もあるが、それ以上に怖いのはランナーを置いた状態で高い確率でそのランナーを返せる技術があるということ。
それだけではなく、高い出塁率。
ランナーを返すだけではなく、自分が出塁してチャンスを作ることもできる。
「普段は大野が2番に入ることが多いのですが、白州が入るケースもあります。御幸が4番としての仕事を全うしてる以上、高い出塁率を誇る白州を上位に置く可能性も十分あります。」
「大野は昨年も決勝では9番に入っていた。そうだな、白州が2番に入る可能性がかなり高いだろう。」
偵察班の考察に、監督の國友も肯定するように補足する。
1点ゲーム、それもかなりハイレベルな投手戦になる。
となればできるだけ、投手への負担は少なくしたい。
長い戦いが想定される以上、お互いの監督はエースにピッチングにだけ集中できるような環境を作ろうと、奇しくも同じ策を取っていた。
「青道の打線は怖いですが、あくまで上位だけです。下位は基本守備がメインになるか、粗が目立つ選手が多いですね。」
当然と言えば当然だが。
そこまで言わなかったが、選手たちも察して頷く。
青道の打線は、とにかく繋げさせないこと。
愚直に転がす、低い打球で内野の間を抜いていく。
できるだけ繋いでいくことで点を取りに行く姿勢は、全員で得点をもぎ取りにいく気概を感じる。
「まあ、白州が2番に入るのはこっちからしたら好都合だよなぁ?本郷とか天久から得点してる一番怖いパターンがなくなる。」
「御幸の前にランナー貯められる方がいやだけどね。」
今大会も主力であるカルロスと白河がそんなことを話す。
確かに、チャンスで確実に仕事をしてくる白州が後ろに居るというのは、怖い。
しかしそれ以上に、御幸が機能してる今はその御幸の前にできるだけランナーを貯めるという方が効果的かもしれない。
前述したように、今大会の御幸は特に4番として機能しているのだ。
「あと問題は投手ですね。相手先発は間違いなく、エースである大野が来るでしょう。」
偵察班が試合のビデオを変更する。
続けて映し出されたのは、青道の初戦である薬師との試合。
この試合は初戦とはいえ、地区でも4本の指に入る強さを誇る薬師との一戦。
完投した彼の成績は、被安打4の無失点。
それ以上に凄まじい投球を、見せていた。
彼の最大出力は、恐らくこの試合。
だからこそ、今大会で最も参考になる試合はこの薬師との試合なのだ。
「昨年夏も手が付けられなかった大野は更にレベルアップして、一回り大きくなったように感じます。」
順々に流される、大野の投球動画。
最速は現時点計測されているもので142km/h。
言わずもがな、キレとノビが常人とは一線を画する。
一般的にノビがあるストレートよりも遥かに多い回転数と、彼の特有の投球フォームも相まって純粋な縦回転が掛かる為、手元で加速するような凄まじいキレを誇るボールとなる。
正に、混じりっけのないストレート。
ある意味、時代に逆行するような真っ直ぐ。
このストレートに加えて、対を為す変化球。
昨年から投げているウイニングボールに加えて、2つの新たな切り札。
まずは、ストレートと対を為すツーシーム。
純粋な縦回転から真っ直ぐの軌道を描くフォーシームに対して、利き腕側にストンと落ちる高速変化球である。
ストレートが手元で伸びるボールだとすれば、ツーシームは伸びずに沈むボール。
同軌道から全く異なる変化をするこのボールに、この稲実ナインたちも昨年、その前の年もまた打ちあぐねていた。
更に、カーブ。
縦に割れる軌道を走る緩いボールだが、回転数が多くキレがある。
変化量でいえばさほど大きくないが、キレが良く軌道とストレートのギャップで高い空振り率を誇る。
投球割合としては、少ない。
だからこそ、突然来ると中々打ちあぐねてしまう。
この2つが、今までも軸にしていた変化球。
加えて、2つの決め球クラスのボールを手にしている。
1つは、ツーシーム同様の高速変化球。
それでいて、全く異なる変化をするボールである。
カットボール。
基本的にはムービングボールの一種であり、利き腕と反対側に僅かに変化するスライダー系のボール。
しかし大野のそれは、ツーシームと同じように彼のオリジナルの変化をする。
ジャイロ回転で伸び上がる、加速するカットボール。
高速で大きく沈むツーシームに対し、このカットは高めで浮き上がるようにして大きく曲がる。
他を追随させない彼固有の変化球は、今大会未だにヒットすら許していない。
もう1つ、最後のピースかチェンジアップ。
最近流行りの変化をしながら沈むボールではなく、どちらかというと遅いストレート。
タイミングを外すことに特化したこのボールは、ストレート系の速いボールを軸としている大野が持つことにより、輝きを増す。
「基本的に軸としているのは、ストレートとツーシーム、あとはこのカットボールですね。カーブはどちらかと言うとカウント取りで用いられることが多いです。チェンジアップは1試合で数球しか投げません。」
抜ければ棒球。
山勘が当たれば簡単に打てるチェンジアップだが、1試合で平均5.6球程度しか投げないボールに山を張っても仕方がない。
尤も、その性質を理解しているからこそ御幸も多くは投げさせていないのだが。
「はっきり言って、弱点らしい弱点はありません。強いて言えばクイックが遅いことでしょうか。しかし牽制が上手いため、迂闊に飛び出すのも危険でしょう。」
ストレートのスピードは最速142km/h。
数値以上にキレとノビがあり、打者目線から見れば相当勢いのあるボールとなる。
昨年は、このストレートとシンカー並みに落ちるツーシームの投げ分けで手も足も出なかった。
その上、今年は新たな武器としてツーシームと同等クラスのカットボール。
互いに全く異なる方向に変化する2つのボールを、ストレートを軸にしながら自由自在、縦横無尽に投げ込んでくる。
針の穴を通す制球力は、どの変化球も巧みに操ることができる。
それを象徴するように、今大会は未だに1つの四死球も出していない。
スタミナ自体も十分にあり、試合終盤になってもコントロールが甘くなったり乱れること自体も殆ど無い。
その上フィールディングも良く、エラー等も特にない。
穴がなく、完成度の高さは全国でも随一。
世代最強左腕が成宮だとすれば、世代最強右腕は間違いなくこの大野夏輝であろう。
淡々と流れ続けるビデオを止め、國友はふっと息を吐いて話し始めた。
「ここまでのレベルになれば、小細工は通じない。単純に、相手を上回るしかないということだ。」
確かに相手は、センバツでも優勝を収めたほど強い相手。
昨年の夏に最後まで追い込んできた彼らは、さらなる進化を遂げて立ち塞がる。
夏の敗戦、そこから勝ち続けてきた末に頂点を見てきた。
間違いなく、今年一番多くの経験をしてきたチームである。
「青道は今この高校野球に於いて最も強いチームだろう。だが、それは我々もそうだ。」
毅然と、淡々と。
冷酷だが、その奥には熱い想いが込められている。
ナインを見回し、國友は言った。
「最強に勝つために、我々もここまで血の滲む努力をしてきた。そうだろう?」
夏の、甲子園。
そこで準優勝し、凱旋。
しかし待っていたのは、秋の大会でのまさかの敗戦。
そこからは、ただひたすらに負けない様に。
全てのチームをねじ伏せる為に、勝ち続ける為に。
力を、付けてきた。
「お前たちは負けていない。各々が自信を持ち、上回る。真っ向から戦い、青道に勝ち切るぞ。いいな?」
理論派で、冷徹。
そんな國友が珍しく、精神論で語る。
それほどまでの、強敵。
察して、ナインたちも大きな声で応えた。
「成宮!」
将から、エースへ。
真っ直ぐ視線を向けて、ただ一言言った。
「次の試合、任せる。」
左手に白球を握り、成宮は小さく頷く。
最早語るまい。
準備は整っている。
覚悟を胸に、もう一人のエースはそっと目を閉じた。