燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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恥ずかしながら…と言いますか、戻って参りました。

とりあえず一区切り(完結とは言っていない)したので、投下していきます。
またまた暫くにはなりますが、お付き合い下さい。

それでは、どうぞ。







エピソード219

 

 

 

 

 

蝉の鳴き声とともに、グラウンドに熱が集まる。

 

観客は既に満員。

この神宮球場は、異常な程に盛り上がっていた。

 

 

試合時間までは、まだ時間がある。

しかし既に、会場は外野の立見席まで埋まるほどの大盛況。

 

それもそのはず。

 

 

対戦は奇しくも、3年連続の同カード。

 

2年連続甲子園に出場、かつベスト8と準優勝と甲子園でも好成績を叩き出している稲城実業。

 

対するは、今年の春の甲子園、通称センバツの覇者である青道高校。

 

 

さらに言えば、今日の先発である2人。

大野夏輝と成宮鳴と言えば、今世代の左右のナンバー1投手2人である。

 

 

下馬評は、五分。

センバツでの功績は勿論素晴らしいものだが、この夏の大会での圧倒ぶりとナインの質。

 

また、1点ゲームになった際の勝負強さも互角と、結果は別として実力は同等だと見られていた。

 

 

 

「3年連続で稲実か、それともリベンジを果たす青道か。エース同士の実力で言えば成宮が上か?」

 

「いやいや、センバツでの大野のピッチングは鬼気迫るものがあったよ。あれを直に見せられちゃあ、気軽に成宮が上とは言えないよ。」

 

 

観客席がざわめく。

 

話題はもっぱら、エース同士の投げ合い。

そして、どちらが上回るかというもの。

 

 

成宮は最速150km/hオーバーのストレートに大きく沈むチェンジアップにキレのあるスライダーとカーブを投げる本格派左腕。

 

コントロールも悪くない上にスタミナもある。

フィールディングや牽制などの立ち振る舞いもかなり良い。

 

 

対する大野は最速こそ142km/hと成宮よりも遅いが、キレのあるストレートと高速変化するツーシームとカットボールを投げ込む技巧派。

 

しかしコントロールの良さは随一。

スタミナもよく球数少なく試合を進めることが出来るため、完投能力が高い。

 

 

それぞれの特徴はあれど、共通点はある。

決め球になりうるストレートに、固有変化球を投げて高い奪三振力を誇る。

何より、没入した時の爆発力がとにかく大きい。

 

 

昨年の夏の大会も分かるように、彼らの投げ合いは多くの観客を魅了していた。

 

 

 

「負けたのか、じゃんけん。」

 

「大丈夫や、白州!お前が運があらへんのはハナから分かってたことや!」

 

「ガンガン攻めてけってメッセージだろ、やってやろうぜ。」

 

 

こんな熱戦の前だが、青道のベンチは和気藹々としていた。

 

今更、焦ることは無い。

それこそ、自分たちがやってきたことを精一杯やり切るしかない。

 

 

しかしその一角。

ベンチの端で独り、孤高のエースの周囲だけは張り詰めた空気が漂っていた。

 

頭からタオルを被り、目を瞑る。

 

 

(まだ、待て。もう少しすれば、解放できる。だから、焦るな。)

 

 

そう、大野は自身に言い聞かせる。

 

早まる鼓動を抑えるように、意図的に深くゆっくりと呼吸をする。

しかし収まらない。

 

早まる鼓動に、高鳴る心臓。

脳が震えると感じるほど、興奮している。

 

 

パンっと、右拳を左手の平に打ち付ける。

 

そしてゆっくりと、息を吐き出した。

 

 

 

 

そんな大野の姿を横目で追う白州。

 

心配は、ハナからしていない。

しかし並ならぬ気迫は、最早異常であり狂気すら感じた。

 

 

「白州。お前のもうひとつの役目だ。この大一番、主将として決めてこい。」

 

「はい。」

 

 

監督から掛けられた言葉に、白州はすぐに返事をする。

 

辺りを見回すと、既に自分と大野以外は示し合わせたかのようにベンチから出ている。

 

それを確認して、白州は大野の肩を叩いた。

 

 

「いくぞ、大野。」

 

「…あぁ、悪いな。」

 

 

そうして、頭から被っていたタオルを落とす。

 

先程までの雰囲気とは打って代わり、朗らかな空気を出す大野。

勘違いかと思うほど声色もいつも通りであり、白州は却って呆気に取られてしまった。

 

 

「遅いっすよ夏輝さん!」

 

「っぱエース様は流石だぜ。社長出勤だな。」

 

「るせ。」

 

 

遅れて輪に入った大野に、沢村と倉持が茶化すようにそう声をかける。

 

 

少しして静寂が訪れる。

恐らく観客も、ベンチ前に集まる青道のナインたちを見て察したのだろう。

 

 

「じゃあ、いいか?」

 

 

無言で、頷くナイン。

 

そんな彼らを1人ずつ見回して、白州は言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「この一年間、キャプテンらしいことができたかどうかは分からない。今でもまだ、はっきり言って不安だ。だけど、これだけは言える。俺はこのチームが、大好きだ。」

 

 

キャプテンシーは、確かに無いかもしれない。

 

絶対的な実力も、リーダーシップもある訳では無い。

しかしそれでも白州は、態度で。

 

天才じゃないからこそ、その努力の数でチームを引っ張ってきた。

 

共に走り、そして個性溢れる彼らを縁下で支えてきた。

 

 

その姿は、前年の主将である結城に近しいものがある。

四番打者としての跡継ぎが御幸だとすれば、主将の立場としては確実に白州が担っていた。

 

 

「最高のチームで、最高の仲間と。俺は最後の最後まで、一緒に戦いたい。願わくばもう一度、頂点でみんなと笑いたい。」

 

 

思わず、全員から笑みが零れる。

白州は胸に手を当て、最後に言った。

 

 

「行こう、甲子園。最高のチームで、最強のチームになろう。」

 

「「おう!!」」

 

 

白州の音頭に、ナインもまた体温が上がっていくのを感じた。

 

 

「俺たちは誰だ!」

 

「「王者青道!」」

 

「誰より汗を流したのは!」

 

「「青道!」」

 

「誰より涙を流したのは!」

 

「「青道!」」

 

「誰より野球を愛しているのは!」

 

「「青道!」」

 

「戦う準備は出来ているか!」

 

「我が校の誇りを胸に、狙うは全国制覇のみ!行くぞぉぉぉ!」

 

「「おおおおおおおお!」」

 

 

 

人差し指を立てて、各々が右腕を天高く突き上げる。

 

青道高校の伝統芸。

そして、王としての誇示。

 

秋以来、久しく見せたこの王者の掛け声に、観客はさらにボルテージを上げる。

 

 

青く染まるスタンド。

そして、湧き上がる歓声。

 

対面にどっしり座り込んでいるエースは、相手方のベンチで立ち上る熱気を肌で直接感じていた。

 

 

大野と同じように、タオルを頭から被るもう1人のエースも、ゆっくりと息を吐き出す。

 

同じ熱気。

同じ風格。

 

 

今日の主役である1人が、その表情を顕にし。

 

そっと、マウンドへと向かった。

 

 

 

『青道高校、スターティングメンバーの発表をします。1番ショート、倉持くん。2番ライト、白州くん。』

 

 

ウグイス嬢のスタメン発表。

会場に響くアナウンスに、観客が僅かにザワつく。

 

普段2番に入っている大野ではなく、コールされたのは白州の名前。

 

しかしその打順変更の理由を、スタンドの観客たちも直ぐに察した。

 

 

『…9番ピッチャー、大野くん。』

 

 

この先発発表に、思わずスタンドも湧き上がる。

 

分かっていたこととは言え、こうして公表があると現実味が増す。

そして今しがたマウンドへ上がったもう1人のエースとの投げ合いが確約されたことを、観客たちは大いに喜んだ。

 

 

 

 

ベンチの端で深呼吸をし、もう一度タオルを頭に被る。

視線を遮りながら、ただ真っ直ぐにマウンドを見つめた。

 

 

(無責任に喜びやがって。こちとら、こんな炎天下の中いつ終わるかも分からねえ投手戦を約束されてんだぞ。)

 

 

そんな風に、内心悪態をつく大野。

 

しかし表情は、彼の深層心理を表すかのように口角を上げている。

さらに僅かに前髪の掛かった目は、少しずつ煌めき始めていた。

 

 

 

先頭打者である倉持が、高く跳躍する。

 

調子を確認するその仕草を見送りながら、大野は再び目を閉じた。

 

 

 

マウンドに立つのは、正真正銘の世代最強左腕。

陽炎が立つほど燃え上がるグラウンドの上で、軽くロージンバックを左手で遊ばせる。

 

 

投手特有のルーティンを見上げ、倉持は打席へと入る。

 

ゆらゆらと舞い上がり、白粉が消える。

光に反射して消える白銀の粉塵を振り払い、仁王立ち。

 

 

(あっつー。)

 

 

呑気にそんな事を考えながら、成宮は首を鳴らす。

 

仄かに金色に輝く髪が、軽く靡く。

深く被られた帽子から、表情を読み取ることは出来ない。

 

小柄ながら、押し潰してくるような威圧感に、倉持は思わず身構えた。

 

 

「…プレイ!」

 

 

球審からの、試合開始のコール。

 

それを聞いて、倉持はバットを立てる。

 

 

ゆったりとしたワインドアップ。

大きな投球フォーム。

 

そこから、軸足で綺麗に立ちつつ右脚を高く振り上げる。

独特な間合いから投げ込まれた初球。

 

 

倉持は、これを狙っていた。

 

 

(ストレートだろ、初球は!)

 

 

狙ったのは、初球。

十中八九ストレートを選択するであろうシチュエーション。

 

出来れば球筋を見たいという先頭打者が多い中、中々に手を出してこない試合開始直後の初球。

 

これを、倉持は狙っていた。

 

 

成宮も比較的初回は荒れやすい。

そこをついての、初球打ち。

 

それは功を奏し、倉持の狙い通り甘めに来たストレートを弾き返した。

 

 

「っしゃあ!」

 

 

センター前に弾き返すヒットで、早速塁に出る。

 

 

いきなりの出塁。

昨年秋までは苦労していた打撃面での成長を見せる一打で、会場を一気に盛り上げる。

 

超高校級の成宮から、いきなりのヒット。

 

 

しかし当の成宮は、まるで焦りの姿を見せなかった。

 

 

(知らねえよ。お前が出たって、返さなきゃ意味ねえだろ。)

 

 

打席に入るのは、この夏絶好調の白州。

 

主将であり、打点に絡むことが多いこの選手。

チャンスメイクから走者一掃まで、幅広く仕事をこなす、チーム内随一の好打者である。

 

 

成宮の目線から見ても、四番の御幸に次いで警戒しなければならない打者だと認識していた。

 

 

目で、ランナーである倉持を制する。

そして、一球牽制を挟む。

 

素早いモーションから、矢のような牽制。

辛うじて、倉持は一塁へと帰塁した。

 

 

(だから、勝手はやらせねえって。)

 

(っぱ、流石にうめえな。)

 

 

腹部に着いた土を軽く払い、またもリードを取る。

 

しかし今度は、クイックから投げ込まれた初球。

同じくストレートで入るこのボール。

 

しかしその球の勢いは、先頭打者の倉持とはまるで別ものであった。

 

 

ミットから鳴らされた、破裂音。

外角低めに投げ込まれたストレートの勢いに、思わず白州も目を見開く。

 

 

(いきなりエンジン全開…というわけか。)

 

 

チラりと、バックスクリーンに目を向ける。

 

球速表示は、148km/h。

しかしそれ以上にキレと勢いがある。

 

昨年のストレートとは、違う。

球速は確かに同じくらい出ていたが、体感速度はまるで違う。

 

 

(次もストレートか。)

 

(と思うでしょ。悪いけど、省エネできるとこはさせてもらうよ。)

 

 

2球目。

クイックモーションでスピードボールを投げる。

 

流石の白州も2球連続の速球を狙う。

 

 

(御幸以外だからって、甘く見るなよ…!)

 

 

狙った速球。

内角中段にズバッと決まる軌道。

 

しかしボールは手元で急速に切り込むように沈む。

 

 

「…っ!」

 

 

気がついた時にはもう遅い。

ミート力の高い白州は上手く対応してしまい、却って球足の早い打球を放ってしまう。

 

 

打球はセカンド正面。

少し前進していた江崎が二塁へ軽やかに捌く。

 

そして、ショート白河も素早いバックアップで一塁へ。

 

足の速い倉持をすぐに捌き、落ち着いて白州。

華麗なダブルプレーで、初回いきなり稲実の内野陣が魅せる。

 

 

 

歯を食いしばり、一塁を駆け抜ける白州は思わず天を仰ぐ。

 

できれば掴みたかった、先制点。

ここでいきなり、成宮も新球を使ってくるとは。

 

 

ツーシームファスト。

打者の手元で小さく動くムービングボールの一つであり、その中でも利き手側に小さく沈む球種。

 

もっと言えば、左バッターの白州からすれば抉り込む変化球となる。

 

 

(お前用でもあるからね、このボールは。)

 

 

チーム内で最も注意すべき打者は、四番である御幸。

 

コンタクト力パワーは高水準であり、尚且つチャンスに強い。

 

 

しかし次いで警戒しなくてはならないのが、この白州。

 

打率が高い上に、ここで欲しいタイミングでよく打つ。

この序盤で言えば、倉持の出塁からのチャンスの拡大を狙っていたところだろう。

 

 

出し惜しみをすれば、簡単に失点する。

そしてその1点が、勝敗を分けるのだ。

 

 

 

味方を信頼していない訳では無い。

寧ろ攻撃力もあり、強いチームだと自覚している。

 

 

しかし相手は、センバツ優勝校。

野手陣も高い攻撃力を誇っているがそれ以上に、堅牢な守備と絶対的なエースが売りのチーム。

 

たったの1点が、試合を決める。

 

それほどまでの相手であり、緊迫した試合になるということは当のエース本人たちが一番よくわかっていた。

 

 

 

最後は小湊。

力強いストレートを軸にガンガン攻めていき、最後は真ん中付近から加速するように落ちるカーブ。

 

これを完璧に振らせ、空振り三振で初回を三人で切り捨てる。

 

 

『空振り三振!最後はキレのあるカーブを見事に振らせて三振です!』

 

(小湊が手も足も出なかった?)

 

 

ネクストバッターズサークルで準備をしていた御幸は、三振で戻ってくる小湊を見つめながらそう思う。

 

小湊と言えば、今大会でも打率5割台をキープしている好打者の1人。

特に左の好打者が白州だとすれば、右の好打者は確実にこの小湊である。

 

 

そんな小湊が、完膚無きまでに三振。

特に変化球の対応力が高い彼が喫した空振り三振に、御幸も成宮の状態に固唾を呑んだ。

 

 

「分かってたことだけど、やっぱり絶好調だな。きつい試合になりそうだぜ。なぁ、夏…」

 

 

自軍のエースに声を掛けた瞬間。

 

御幸の肌を劈く、違和感。

と言うよりは、圧力と言うべきか。

 

 

思わず鳥肌が立つようなそんな空気と共に、大野はタオルを払った。

 

 

「…行くぞ、一也。」

 

「あ、あぁ。」

 

 

そうして、そそくさと準備をする御幸。

防具を付け、マスクに手をかける。

 

尚も横で待つ大野は、ボソリと呟いた。

 

 

「一年、長いようで短かった。色々なこともあった。皆の力でセンバツも勝ち抜けたし、頂点も見ることができた。だが、まだ大きな借りは残したままだ。」

 

 

ちらりと、横目で大野を見る。

 

逆光から、表情は読み取れない。

帽子の鍔に手を当てたエースの姿はいつもと変わらず、頼り甲斐がある。

 

 

「分かってる。お前はお前として、投げればいい。」

 

 

そう言って、御幸は大野の背中をポンと叩く。

 

 

いつもは、絶対的なエース。

チームを勝たせる為に、最善を尽くすこの男。

 

 

しかし今日は、少し違う。

 

ただ一人の投手として。

成宮鳴のライバルとして。

 

 

大野夏輝は、僅かに笑みを浮かべながらベンチからゆっくりと出た。

 

 

「付き合ってもらうぞ、一也。悪いがここから先は、俺のリベンジだ。」

 

「言っただろ、地獄だろうが付き合うって。まあ、俺がそうさせねえけどな。」

 

 

大野と同じように、御幸も笑みを浮かべる。

その表情を見て、大野は驚いた後にすぐ笑顔を浮かべた。

 

 

「行こうぜ、相棒。一緒に頂点、見に行こうぜ。」

 

「当たり前だ、頼むぜ相棒。」

 

 

そう言って、青道高校史上最強のバッテリーは、激戦の地へ足を踏み入れた。

 

 

 

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