燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード241

 

 

 

打席に入るのは、2番の白河。

 

3点リードしているとはいえ、不意の拍子に連打をされて逆転されるなんてことはこの高校野球ではよくある話だ。

 

特に夏の大会。

 

2年半を野球に費やしてきた選手たちの最後の大会、何か魔物のようなものは神宮球場にもいる。

 

 

 

(何も起こさせない…って言えるほど、今の俺に力は無い。だがせめて、少しでもその確率を小さくすることはできる。)

 

 

 

ここまで白河は、フォアボールでの出塁。

 

しかし、コンタクト力や出塁に関してはやはり目を見張るものがある。

なんの事故も起こさない為には、まずこの男を抑えるのは必要最低限であった。

 

 

 

(終わらせるかよ、こんな所で。今の鳴が、あの舞台に行かずに終わって良いわけが無い。)

 

 

 

だが、その何かを起こす為に。

そう簡単に終わらせないだけの力が、稲城実業にはある。

 

 

 

(まずは、内。球威が落ちてるけど、球速的には極端に落ちてるわけじゃない。外一辺倒じゃ、抑えられないからな。)

 

 

 

御幸のサインに頷き、グローブを胸元へと引き上げる。

 

 

初球、内角高めのストレート。

高めのストライクゾーンギリギリ一杯のボールに、白河は手を出さずも前に飛ばずファールとなる。

 

空振りは、中々奪えない。

 

しかし、地道にカウントを稼いでアウトをとることは、できる。

 

 

2球目は、その対角線。

外角低めのストライクゾーンで変化させるツーシーム。

 

打ち損じを狙うには、十分なボール。

 

 

だが。

 

 

 

(そう何度も、やられるかよ…!)

 

 

 

低め、厳しいコース。

しかし、ボール球ではない。

 

内はハナから捨て、厳しい外のコースを狙っていた白河の思惑と合致。

 

食らいつくような形で当てた打球は、セカンド後方へ。

必死に追いかけた小湊の後退も虚しく、ライトとセカンドの間に落ちるヒットとなる。

 

 

「…っ、しゃあぁあー!」

 

 

クールな白河が、吼える。

 

泥臭くてもいい。

どんな形だって構わない。

 

ただ、逆転の糸口を掴み取ることができるのなら。

 

 

 

ノーアウトで許したランナー。

依然、3点差は変わらないが、やはり出したくないランナーを出してしまった。

 

 

そんな最中だったが、まるでいつもと変わらない大野の表情に、打席に入った早乙女は思わず表情を歪めた。

 

 

(おいおい、動揺なしかよ。)

 

 

しかし直ぐに、自身の首を振って打席に集中する。

 

それはそうだ。

ここまで死闘のような投げ合いを繰り広げている相手エース。

 

それも、最強だと思っていた自軍のエースである成宮よりも優位に運んでいるのだ。

 

 

こんな場面で心を乱すような肝ではないか、と。

 

 

(白河さんがあんな風にやってんだ。2年の俺が食らいつかねえでどうする。)

 

 

そうして、バットを担ぐ早乙女。

 

相手は歴戦の猛者。

多くの死闘を乗越え、価値切ってきた無双のエース。

 

こんな場面で、動揺するような投手ではない。

 

 

 

必死の形相で構える早乙女に、表情を変えない大野。

ノーアウト1塁の場面。

 

 

 

(んーー、まじかよ。)

 

(出力が落ちて変化が小さくなったとこを狙われたな。打ち損じとはいえ、金属バットならヒットゾーンに落ちるのも無理は無い。)

 

 

 

大野もまた、相応に焦りを見せていた。

 

三振を取れていたはずのコースで、上手く打たれている。

打ち損じならまだしも、ヒットゾーンに飛ばされるとやはり難しい。

 

 

見慣れてきたのもそうかもしれないが、変化が小さくなっている。

 

元々大野の高い出力と捻りにより大きく落としていた部分が、落ちなくなっているのだ。

 

 

 

打席に立つ早乙女を横目で見た御幸。

 

幸い、ツーシームもスピードはそこまで落ちていないし、極端に制御できていない訳ではない。

 

 

(ここまでまともにヒットは出てないけど、稲実でクリーンナップを任されてる選手。そう簡単に抑えさせてはくれないか。)

 

 

昨日今日とクリーンヒットはないが、準決勝までの打率は5割近い。

 

コンタクト力が高く、チャンス拡大に期待ができる巧打者。

青道でいう小湊のようなバッターである。

 

 

 

初球は、ストレート。

少し内に入ってはいるが、外の厳しいコースを見送って1ストライク。

 

 

続けて投げ込んだボールは、またもストレート。

 

同じように、今度は外角低めの一杯に決まるコースに、早乙女も捉えきれずファールとなる。

 

 

3球目は、見せ球。

内角膝元にボール球のストレート。

 

このボールはコンタクトされたものの、タイミングが早くファールでカウントは変わらぬまま。

 

 

(もう一球いこう。ヒットで繋がれるよかマシだ。)

 

 

要求は、またもインコースのボール球。

 

これを見せ球に、反応次第で最後にカーブがツーシームで仕留める。

 

 

チェンジアップはストレートの出力が落ちている為、やはり上位で使うのは怖い。

 

完全に速球狙いなら、ツーシームで誤認させ打たせる。

ある程度狙いを幅広く取っているのであれば、カーブを引っ掛けさせる。

 

 

意図を汲み取った大野が小さく頷き、セットポジションへ。

 

御幸が構えた、早乙女の胸元へと狙いを定めた。

 

 

 

クイック気味のトルネード。

ストレートが要求通りインコースのボールゾーンへ。

 

 

ここて早乙女は、摺り足でこのストレートに手を出してきた。

 

 

鈍い音と共に、詰まった当たり。

打球がショートの頭上へと上がった。

 

 

「っ、落ちろーっ!」

 

 

 

思わず出た早乙女の叫び。

 

それに呼応するように。

しっかりと振り抜かれた打球は、俊足の倉持でも追いつかずレフトとショートの間に落ちるテキサスヒットとなった。

 

 

処理が僅かに遅れた降谷の隙をつき、スタートを切っていた白河は抜け目なく三塁へ。

 

 

勝利まであと一歩まで詰め寄った青道だったが、ここに来てのノーアウトランナー一三塁のピンチ。

 

ここで遂に、大野にも苦悶の表情が浮かんだ。

 

 

打ち取ってはいるのだが、如何せんちょうど内外野の間。

つまり、絶妙なヒットゾーンに落ちている。

 

元々球威はなく、当たれば飛ぶ大野のボールは、彼にとっての数少ない弱点であり、クイック同様に改善が出来なかった部分。

 

それがここに来て、顕著に弱点として露呈するとは。

 

 

 

(いやぁ、マジか。)

 

(嫌な流れだな。打ち取ってはいるんだが、振り切ってるからいい所に落ちてる。)

 

 

完璧に捉えられている訳では無いが、タイミングが合っているのと振り切られているので上手く打たれている。

 

こうなってくると、攻め方自体を変える必要が出てくると、御幸は自身のマスクに手をかけた。

 

 

やはり、球数を増やす覚悟でボール球勝負をしていくしかない。

 

特にツーシーム。

今まではゾーン内でも高速で大きく落ちていた為、ストレートに偽装させれば多少甘く入っても空振りが奪えていた。

 

加えて、ストレート。

軸となっていたこのボールの威力が落ちたからこそ、ボールを見られる時間が長くなってしまっている。

 

 

 

打席には、山岡。

 

5回裏の逆転2ランホームランが嫌でもチラつくこの場面。

当然観客たちも、”それ”を期待して盛り上がる。

 

 

3点差で迎えた、ランナー一三塁のチャンス。

 

はっきり言って、歩かせる選択肢もある。

 

 

ホームランで、同点。

最悪のケースが脳裏に過ぎる御幸だったが。

 

自身のマスクに手をかけて、マウンド上の手負いのエースに視線を戻した。

 

 

 

マウンド上、深呼吸を2度。

白球を握って仁王立ちの姿は、昨日の最大出力時と同じような影を感じさせる。

 

四番相手だからか、瀕死の大野も最後の出力を振り絞ろうとしていた。

 

 

(行けるのか?)

 

(やる。万が一のひとつも許さん。)

 

 

 

1つの失投が、試合を変える。

打率は低いが、甘い球を待ってそのボールを確実に仕留めることが出来るという、彼の高い技術。

 

ならば、その甘い球を一度たりとも投げない。

 

それを期待されている、投手だから。

 

 

 

初球、外角低め一杯。

 

ストライクゾーンギリギリ一杯、僅かに掠めたボールに、審判の手が上がる。

 

 

球速表示は、124km/h。

しかしキレがある。

 

低めでも垂れることなくピッとゾーンいっぱいに決まる快速球。

 

大野の真骨頂であり、彼最大の武器。

 

 

更に2球目。

今度は僅かに外のボールゾーンへと意図的に外したボール。

 

山岡はこれに手を出すも、空振り。

 

 

2球で、早くも追い込んだ。

 

 

(遊び球は?)

 

(いらん。反応見るに、全然目付けはできていない。このまま外で攻めよう。)

 

(OK。なら、ここだ。)

 

 

3球目も、外のフォーシーム。

 

2球目同様僅かに外れているコース。

それを見て、大野は更にそのサインを覗き込む。

 

 

(やるのか?)

 

(大丈夫だ。俺を信じろ。)

 

 

 

マスク越しだが、大野は御幸が僅かに笑っていることを理解し、大野も頷く。

 

 

構えたコースは、外角低め一杯のコース。

それに対して大野が投げたのは、僅かに外に外れているコース。

 

 

寸分違わず突き進む、大野の快速球。

それは要求通り御幸のミットへ。

 

 

 

しかし、ここまで何度も見てきたこのコース。

 

打席の山岡もまた、バットを出しかけるもそれを止める。

 

 

 

が、ここで御幸が魅せる。

 

軽く全身をストライクゾーン側にズレながらミットを僅かに動かす。

 

 

ごく自然に。

そして、あくまで球審には悟られないように。

 

立ち位置と美しい捕球姿勢。

 

 

元々ほとんどミットを動かさず、ピタリと正当なストライク評価をもらうようにしている彼の組み立て。

 

そして、卓越した制球を誇る大野。

 

 

 

天才を受ける女房役もまた、天才であった。

 

 

「ストラックアウト!」

 

 

吼える大野に、右拳を握りしめる御幸。

対して打席の山岡は天を仰ぐ。

 

 

高い捕球技術と、大野の完璧な制球を信じた御幸のフレーミング。

 

 

(お前はホント…)

 

(どうよ、気に入ってくれたか?)

 

(最高だぜ、相棒。)

 

 

御幸から投げ返された白球を受け取り、流れるようにロジンに手を当てる。

 

 

精密機械ばりの徹底された制球に、ここぞの御幸のキャッチング。

 

抜け目のない投球術を、御幸がさらに加速させる。

 

 

正に、阿吽。

 

ピンチを背負いながらも、まずは見逃し三振で1アウトを奪う。

 

 

 

何とか繋ぎたい稲城実業だったが、ここで打席に向かったのは5番。

 

ここまで大野との熱投を繰り広げた、もう一人のエース。

その成宮を支え、共に闘った男が。

 

 

ひとつの約束を携え、打席へと向かった。

 

 

 

 

 

マウンド上では、汗を一度拭う大野。

打席に入る直前の多田野は、それを横目で見ながら何度も素振りをする。

 

 

(打つんだ。絶対に。)

 

 

そうして、息をふうっと大きく吐き出す。

 

 

身体が熱い。

そして、鼓動が早まっている。

 

自分の体温が確実に上がっているのを、そして確実に心音が大きくていることを自覚しながら、多田野はチラリとベンチへと視線を向けた。

 

 

 

 

 

少し時間は遡り、ベンチ。

 

山岡が打席へと向かう最中、ネクストへと向かう多田野に国友は声をかけた。

 

 

「打てるビジョンは、見えているか。」

 

 

いつもの低い声。

どこかドライで、勝負師の聞き慣れたその声。

 

しかしいつもよりも。

少なくともキャッチャーである多田野は、国友にも焦りが見えていることは理解するには十分な声色であった。

 

 

彼の質問に、しっかりと多田野は頷く。

 

 

制球力は確かに衰えていないが、球威は落ちている。

 

決め球の1つであり右打者潰しのカットボールは終盤全く投げていないし、ツーシームも傍目から見ても変化量が落ちている。

 

 

今のストレートの状態であれば、カーブとチェンジアップは何とか対応し切れる。

 

そう、多田野は信じていた。

 

 

「ここまで成宮はよく投げてくれた。重い腕を振るい、劣勢だと分かりながらも仲間を信じて投げてきた。それを見て何も思わないほど、お前は鈍い男ではないだろう。」

 

 

24回を投げて、失点は6。

緊迫した投手戦の中でも、強力青道打線に完全に流れを掴ませまいと気迫を全面に押し出した圧巻のピッチングでチームを支えていた。

 

全国で見ても、今の良い状態の青道をここまで抑え込めるのは、成宮以外にいないだろう。

 

それ程までの気迫と、闘魂だった。

 

 

「原田のようにやれとは言わん。格好なんぞは、あとで着いてくる。泥臭くていい、お前はお前のやり方で、点を奪ってこい。」

 

 

 

絶対的4番であり、チームを束ねる主将。

纏めるべくしてチームを纏めていた、言わばカリスマ性があった。

 

対して平野は、どちらかと言うとついて行くような形で、王様気質の成宮に食らいついていた。

 

 

どしっと、綺麗な形でなくていい。

彼らしく、ガムシャラに精一杯食らいついて。

 

そして、今は成宮の良き女房役になった。

 

 

「鳴さんと約束したんです。必ず点を取ってくるって。」

 

 

ヘルメットに手をかけ、振り返る多田野。

その表情を見て、国友もまた彼同様の表情を浮かべる。

 

 

「鳴さんはこんなところで終わっちゃいけない。絶対に、甲子園に行かなきゃいけないんです。俺はあの人と…監督とも。みんなで甲子園へ行きたいんです。」

 

「そうか。」

 

 

強い、多田野の想い。

 

かつては成宮に着いていくのに必死だった彼が、今はこうして強い信念を持って。

自分に自信を持って、そう言った。

 

 

少し前とは。

否、この試合を経て確実に男の顔になった多田野の表情を見て、国友は最後の指示を出した。

 

 

「お前ならできる。頑張れ多田野。打って成宮に勝ちを運んでこい!」

 

 

冷徹で、冷静。

 

抽象的な精神論ではなく、普段から理論派であり現実主義の硬派な名将。

 

 

そんな彼が多田野に伝えたのは、技術的な部分でも戦略的な部分でもなく。

 

らしくないその激励に多田野も思わず目を見開くが、直ぐに大きく頷いて打席へと向かった。

 

 

 

 

 

 

1アウトランナー一三塁。

 

見逃し三振で四番の山岡をアウトに切り捨てたものの、依然ピンチには変わりない。

 

打席には、今大会初めてクリーンナップ起用の多田野。

 

 

打席に向かう彼に向けて送られた声援と共に。

 

普段と異なる音が、会場に響き始めた。

 

 

 

アフリカンシンフォニー。

かつての成宮の女房役であり、四番を務めた原田のヒッティングテーマである。

 

ここまでの成宮の熱投と、それに応えるべく多田野の気迫。

それに敬意を表して、彼らの応援団もまた最大級の演出で打席を盛り立てる。

 

 

そして、対するマウンドでバッテリーも臨戦態勢。

ホームランはないが、打点に絡むことが多いバッターだけに、バッテリーも警戒態勢を解くことは無かった。

 

 

(崩されながらしぶとく打ち返すバッターだけに、今は割かしやりたくないバッターの1人だな。)

 

 

背負うようにバットを肩に乗せ、大野のモーションを待ち構える多田野の姿。

 

ここまで当たりはない。

しかし、ここまでの成宮の力投を見た彼が、何もしないわけが無い。

 

 

 

(何より、投手を思う捕手ならば。)

 

(何も起こさないはずもない。それは、分かっているつもりだ。)

 

 

 

一塁ランナーを一度目で牽制し、セットポジションに入る大野。

 

それを確認した多田野がバットを立てる。

 

 

 

初球。

まずは、外のストレート。

 

コントロールは未だ衰えがない。

 

123km/hのキレのあるフォーシームがギリギリ一杯。

まずは彼の制球力の高さを物語るアウトローでカウントを取り1ストライク。

 

 

スピードは落ちている。

しかし、力が抜けている分手元でピッと伸びる軌道はやはり流石というところ。

 

 

(でも、手に負えない球じゃない。あくまで狙い球を絞って。)

 

 

テンポよく2球目。

続けざま、同じコースに僅かに外れるボール。

 

これを、多田野は見送った。

 

 

(今のを見たのか。)

 

(ストレート狙いか?だからこそ、真っ直ぐのライン合わせで外れると判断したか。)

 

 

際どいコース。

それこそ、さっき山岡が見逃し三振でアウトコールを受けたコースと殆ど変わりない。

 

が、この場面はピタリと止めたからこそのボール。

 

 

御幸のフレーミングも頻繁にやれば効果は薄れる。

寧ろ審判からの印象が悪くなってストライクゾーンを狭くしかねない。

 

出来ることなら、ここぞと言うところで使いたい。

 

 

 

3球目は、外のチェンジアップ。

 

外角低めの厳しいコースの緩いボールに多田野もタイミングを外され、ファールとなる。

 

 

追い込んだ。

カウントは、1ボール2ストライクと、遊び球が使えるバッテリーが有利のカウント。

 

 

 

 

バットを構え直した多田野は、再び深く息を吐き出した。

 

 

(鳴さんの夏がこんなとこで終わっちゃいけない。終わらせない。)

 

 

ここまでの努力と葛藤。

そして、エースとして成長していく過程を間近にして見てきたから。

 

共に闘い、支えてきた女房役として必ず打たねばならない。

 

 

 

勝負が決したのは、4球目。

 

外のツーシームファスト。

大野の決め球、空振りを奪いに行った厳しいコース。

 

これを、多田野は打ち返した。

 

 

 

厳しいコースだったが、僅かに高く。

そして、落ち幅が小さくなったこのボール。

 

単体で考えても威力が落ちてしまっている上、ストレートの出力も落ちている為に、絶対的とも言えた2つの組み合わせによるギャップも小さくなってしまっているのだ。

 

 

詰まった打球だったが、快音と共に右中間割れる打球。

三塁ランナーの白河は勿論のこと、一塁ランナーの早乙女もホームへと還る。

 

 

打った多田野は二塁へ。

二塁ベース上、遂に出たタイムリーツーベースに、多田野はベンチへ向けて拳を差し出した。

 

 

(終わらせない。終わらせたくない。ここにいる三年(みんな)が、こんなところで終わっていいはずがない!)

 

 

 

湧き上がる歓声、熱気沸く神宮球場。

 

終盤に試合を決めると言っても過言ではなかった御幸の一撃を喰らってもなお、諦めない。

 

 

取られたら、取り返す。

そして、喰らいつく。

 

最強と謳われた王者が、泥臭くただただ必死で粘る姿に、多くの観客が稲城実業の逆転を期待する。

 

 

幾度となく起きた、逆転。

そして、全く読めない試合の流れ。

 

9回裏最終回にして遂に漕ぎ着けた大舞台。

 

 

1アウトランナー二塁。

得点差は、僅かに1。

 

5-4、一打出れば同点。

 

そして、一発出れば逆転サヨナラとなる千秋楽。

 

 

 

闘将は、沢村をマウンドへと向かわせた。

 

 

 

 

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