燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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ヘッドスライディング展開が、多くて申し訳ない。
だけど甲子園って、そういうものですよね…?





エピソード243

 

 

 

 

 

『繋いだ、繋ぎましたー!江崎気迫のヘッドスライディングで食らいつきます!2アウト満塁!9回裏にして2点を返した稲実が最後の最後で大きなチャンスを創り出しました!』

 

 

 

一塁ベースで、四つん這いのままガッツポーズをする江崎。

 

そして、その執念に呼応するように稲実サイドの応援団もさらに熱を追う。

 

 

 

 

9回裏、2アウトで満塁。

このシチュエーションは勿論だが、御幸にとって。

 

そして青道にとって最も回したくない打者に、打席が回ってしまった。

 

 

 

『これが因果か!死闘の結末を占う最後のこの打席に、稲実エースの成宮が入ります!大野か、成宮か!世代最強を決める決戦の舞台の結末は、2人の直接対決に委ねられました!』

 

 

 

御幸もすぐに主審へタイムを要求。

 

合わせて内野もマウンドへと近づこうとする。

 

 

 

しかしそれを阻んだのは。

マウンドにいる、大野自身であった。

 

 

(夏輝…?)

 

 

駆け寄ろうとした御幸を右手を前に出して制し、ただ成宮をじっと見つめる。

 

 

肩で息をしながら、深呼吸をして呼吸を整える。

 

深く被られた帽子の鍔で、表情は読み取れない。

しかし、御幸は小さく頷いてその場で立ち止まる。

 

 

それを横目で確認した大野また、表情を変えずに深呼吸を続けた。

 

 

 

(結局、お前を直接倒さなきゃ、胸張って勝ったって言えねえんだろ。分かったよ。)

 

 

 

早まっている鼓動を抑えるつもりは、ない。

 

 

 

(このチームが日本一なのは、みんな分かってるんだ。だからあとは…)

 

 

 

幾度となく繰り返した深呼吸をやめ、小さく呟く。

 

 

 

「因縁も、お前との決着も。ここで終わらせる。そうじゃなきゃ、お前も納得できないだろ。」

 

 

 

中学では負け続け。

そして、高校でも二度敗戦を喫した。

 

しかしその全てが、接戦。

どちらが勝ってもおかしくない、正に死闘であった。

 

 

大野も。

もちろん成宮も、互いをライバルだと認め。

 

その因縁めいた関係性もここで決着させると覚悟を決めた。

 

 

 

こちらから視線を曲げない成宮に、大野も目線を合わせたまま。

 

その瞳を、輝かせた。

 

 

 

「終わらせよう、鳴。」

 

 

 

大野がプレートに足をかけ、凛と立つ。

 

 

それと同時に、成宮もまた最後の打席に入る。

 

 

 

ここまで当たりはない。

しかしそれもまた、この最後の大舞台で何かを起こすためだったのかもしれない。

 

ぐるりとバットをひと回しして、掲げる。

 

 

(樹。お前は点を取るって約束を守ってくれた。)

 

 

チームのみんなもまた、大野という強大かつ付け入る隙のない投手からここまで点を取ってくれた。

 

 

あとは。

ここで自分自身が手を下し、大野との決着をつける。

 

 

 

 

打席から見上げる形で、成宮もまた大野を見据える。

 

こちらから見ても、相手はボロボロ。

それは、分かっている。

 

同じ実力で、同じくらい出力を引き出して。

 

そして、こちら側は既に満身創痍なのだから。

勿論、大野もまた同じように出し切っているはず。

 

 

(野球の神ってのは、本当にいるもんだ。)

 

 

でなければ、こんな風に最後に直接対決という形で決着の場まで用意されないだろう。

 

そんなことを考えながら、成宮はふぅっと息を吐いて、呟いた。

 

 

 

「悔いは残さねえよ。俺も、お前にも。」

 

 

最後はどうなろうと。

決して、どちらにも悔いは残らない。

 

そこまで出し切り、投げきった。

 

 

 

あとはその結末を、辿るだけ。

 

 

長きに渡る因縁と、死闘。

その決着は、奇しくも2人のエースの直接対決に委ねられた。

 

 

 

 

 

 

(行けるんだな、夏輝。)

 

 

小さく頷く大野に、御幸も頷いて座る。

 

ここまで当たりはない。

しかし、そんなことがアテになるようなバッターではない。

 

 

何かを起こす力も、魔法も有り得る。

 

だからせめて。

最後の力を振り絞って、その可能性を限りなく低くする。

 

 

何より。

 

 

(俺の全力を、お前にぶつける。)

 

 

 

御幸のサイン。

それを確認して、大野はモーションへと入る。

 

 

セットポジションから、トルネード。

全身の捻転と体重移動、大野夏輝という投手のスペックをフルに活かしたフォームから。

 

まずは、彼の原点とも言えるコースへと投げ込んだ。

 

 

 

「っらァ!」

 

 

 

張り上げた声と共に、乾いた捕球音が鳴り響く。

 

 

まずは外角低め。

131km/hの力一杯の真っ直ぐが、強振された成宮のバットを掻い潜り1ストライク。

 

 

ぽとりと落ちた帽子を拾い上げ、それを確認した御幸が白球を投げ返す。

フルスイングの拍子にズレたヘルメットを、成宮も整えると共にすぐ2球目。

 

互いに満身創痍。

それでも、互いに全力。

 

己の残された力を振り絞り、吐き出す。

 

 

 

2球目も、ストレート。

内角高め、胸元のボールを見送り1ボール。

 

 

カットボールはない。

 

そして恐らく、チェンジアップもこの場面で使うのにはリスクが大きすぎるため捨てていい。

 

 

使えるボールは、ストレートとツーシーム、あとは縦のカーブ。

 

カーブは当てられる。

あとは前2つさえ気をつければ、何とかなる。

 

 

改めて整理し、成宮は再びバットを掲げる。

 

 

3球目も、ここはストレート。

初球と同じ外角低めのコースだが、僅かに外。

 

際どいコースだったが、主審の手は上がらず。

 

 

場内からは、思わずため息のようなどよめきが起きる。

 

 

 

カウント2ボール1ストライク。

バッターカウントで迎えた、4球目。

 

同じく外に構えた御幸。

 

 

続けざまの速球に成宮もバットを出すも、ボールは失速。

コンタクトし切れずに、ファールとなる。

 

 

(ツーシームか。)

 

 

やはり、速い。

それに、ストレートと判断してから落ちる為、最初から狙わなければ打てない。

 

 

並行カウント。

今度は成宮が追い込まれた形となる。

 

 

 

ふと、成宮がベンチサイドへと視線を向ける。

 

涙を流しながら声を張り上げる相棒に、普段剽軽なカルロスや無口な山岡、白河もまたらしくなく声を張り上げる。

 

 

(そんなに必死な顔すんなって。)

 

 

そして、いつも姿勢も表情も崩さずに仁王立ちする国友もまた、汗を流しながら組んだ腕に力が入っている。

 

 

(心配すんなよ。ちゃんと、帰るからさ。)

 

 

内心でそう呟き、成宮は自身が握るバットを軽く握り直す。

 

指一本だけ、それを短く持ち直して。

 

 

 

 

6球目。

続けざま、今度も外のストレート。

 

僅かに振り遅れるも、打球は外野まで運ばれる。

 

 

が、ここはレフト線に切れてファール。

 

 

 

一球一球、投げる度にどよめく会場。

それと共に、会場の熱気もどんどん上がっていく。

 

ファールの度に盛り上がり、そしてため息が響く。

 

 

 

 

 

 

 

(肘が痛え。足も重い。腰も、肩も、上手いこと回んねぇ。)

 

 

息が切れる大野。

 

しかしそれでも、ボロボロの身体にムチを打って投げ続ける。

 

 

7球目。

今度も外のストレートをファールで弾かれ、カウントは変わらないまま。

 

成宮もまた、最後の打席で集中力を最大限にまで研ぎ澄ましている。

 

 

8球目のツーシームすらもファールにされ、大野は思わず天を仰いだ。

 

 

 

甘く入れば、やられる恐怖。

だが厳しく攻めるだけでは、決めきれない。

 

 

どこかで勝負に出なければいけない。

 

しかし、行けるのか。

今の自分自身の全力で、成宮を上回ることができるのか。

 

 

痛みの無かった肘には痛みがぶり返し。

その痛みを分散すべく負担の掛かっていた下半身と広背筋に限界が来ている。

 

 

白球を握る手に力が入らない。

 

 

満身創痍の身体に走るのは、確かな恐怖。

視界の周りに、暗雲のような淀みが広がり始める。

 

冷や汗すら出ないこの状況で、大野の喉に固唾が通った。

 

 

 

 

 

 

息の詰まる中。

突然ピリッと、背中に走った痛み。

 

そこに、視線を向ける。

 

 

誰もいない。

しかし確かに感じた、痛みというか、感触。

 

 

その正体を思い出し、大野はフッと笑ってボールを握り締めた。

 

 

 

(背中を押してくれてんだよな、みんなが。)

 

 

 

青い空から、太陽の光が燦々と。

 

マウンドの大野へと、降り注ぐ。

 

 

頼りになる相棒が、目の前にいる。

後ろから背中を押してくれる、仲間がいる。

信じて声援を送ってくれる、仲間がいる。

 

 

全ての雑念を吐き捨て。

 

全ての想いを胸へと抱え。

 

 

 

大野夏輝という投手の全身全霊が、放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6回から登板した、2人の1年生投手。

 

片や1年生ながら最速140km/hオーバーのストレートで、重量打線である青道を完璧に捩じ伏せた本格派左腕。

 

片や精密機械ばりの制球力と唯一無二の魔球で、高い攻撃力を誇る稲実打線を掌握しきった技巧派右腕。

 

 

1年生とは思えない完成度の背番号二桁の両投手を見て、確かにこの先2年の死闘は予想に容易かった。

 

 

 

そして、その一年後。

晴れて各チームのエースとなった2人の投げ合いとなった決勝は、正に彼らの独壇場と言っても過言ではないほどの熱闘となった。

 

 

幾多の0を重ね、互角の投げ合い。

 

成宮が三振を奪えば、大野も三振をとる。

互いが互いを高め合い、限界を限界でなくす。

 

引くことを知らない両者の投げ合いの末、共倒れという形で2人は同じ回、そして奇しくも同じ球数で力尽きた。

 

 

試合は結果的に、主将であり成宮の女房役である原田の劇的なサヨナラ弾で稲城実業に軍配が上がり、甲子園へと歩みを進めた。

 

 

そして、秋。

大野は肘の怪我で投手としての出場を諦め、成宮は初めて格下相手に取りこぼす形で敗戦。

 

互いに挫折を味わい、二度と負けないことと強くなることを誓った。

 

 

 

そして、春。

投手として完全復活を果たした大野は、強豪巨摩大藤巻を下して勢いそのまま甲子園を制覇。

 

名実共に日本一の投手となって、東京へ凱旋した。

 

 

 

成宮は、敗戦による挫折を。

大野は、勝ち続ける難しさを。

 

これまで持ち合わせていなかった経験を糧に、最終決戦の場となったこの決勝戦に臨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『この青道は、日本一のチームです。そのチームのエースが日本一の投手じゃなければ、いけないと思うんです。』

 

 

 

『心配しないでよ、監督。ちゃんと勝って、このチーム日本一にするから。日本一のチームになるなら、マウンドには日本一の投手がいなくちゃな。』

 

 

 

試合前の因縁と、互いの誓い。

異なる場所で、同じ空を見上げて立てた2人の覚悟。

 

そして。

 

 

 

澄み切った夏空の元で、その決着が遂についた。

 

 

 

 

 

『空振り三振ーー!最後は外角低めの134km/h!渾身のストレートでエース同士の直接対決は終焉を迎えました!』

 

 

 

主審のコールと共に、大野が拳を握り締め吼える。

 

そしてすぐに、自身の右手でその顔面を覆った。

 

 

長かった。

苦しかった。

 

多くの思いと覚悟、そしてそれから開放された安堵感。

 

 

全てが終わったと分かったその時。

確かに大野の頬には、熱いものが通過していた。

 

 

 

 

思い切り空を切ったバットを振り戻し、成宮は打席で立ち尽くす。

 

その表情は、唇を噛みながらもどこか清々しく。

憑き物が取れたかのような表情を浮かべていた。

 

 

 

『互いの執念と執念のぶつかり合い、死闘の末に勝利を手にしたのは二度の敗戦を経験した大野夏輝でした!6時間42分の激闘の末、青道高校、悲願の甲子園出場!』

 

 

 

 

 

 

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