燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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箸休め
苦手な人もいるかもしれませんが、悪しからず。



番外編 とあるライターに記された録

 

 

 

 

7月下旬。

 

一年で最も気温が高くなるこの時期を夏と呼ぶことは言うまでもないが、高校球児の中…否、高校野球ファンの中ではまたそれ以上の意味を持つ季節。

 

 

全国高等学校野球選手権大会。

 

最早夏の風物詩とも言えるほどには、この高校野球というのは日本の中で文化となりつつある。

 

 

夏の甲子園は全国の野球人にとっての目標となり、夢となり。

そして、憧れでもある。

 

 

 

全国で高等学校は、約4600校以上ある中で、野球部としてこの甲子園を目指す高校は3000校以上ある。

 

そこから各地区を49個の地区に分類された中で選出…基、勝ち抜いたことが出来たチームを代表校として集め、聖地と呼ばれる兵庫県の阪神甲子園球場にてその頂点を決める。

 

 

地区予選と言うには、あまりにドラマが多すぎた。

 

 

特にそれを象徴するとも言える地区。

それが、西東京地区である。

 

今大会でも注目されていた高校が集まる当地区。

 

筆頭としてやはり上げられるのは、今年のセンバツの覇者である青道。

更には昨年の夏の準優勝の稲城実業。

春に青道を破った、強豪校である市大三高。

センバツベスト4の薬師。

 

他にも仙泉や成孔と言った強豪校が集まるこの地区は全国の中でも指折りに数えられる激戦区である。

 

正に、群雄割拠。

 

 

熾烈とも言えるこの地区で勝ち上がってきたのは、やはり再注目となった2校。

 

決勝戦の舞台に立ち。

甲子園の舞台を争う決戦の地には、奇しくも3年連続となる同カードとなった。

 

 

両校絶対的なエースを擁し、互いに高い攻撃力と守備力を兼ね備えた総合力の高いチーム同士の対決。

 

何より2人のエース対決は、これで三度目。

 

 

1年時から高い完成度を誇っていた2人のエースの最後の直接対決は、多くの野球ファンたちを虜にした。

 

続けての今記事では、王道に倣ってこの2人にフォーカスを向けよう。

 

 

 

 

 

 

ーー順風満帆とは言えなかった世代最強左腕

 

 

二年連続の甲子園出場に加え、その何れも主戦力として活躍し全国にその名を轟かせたのは、稲城実業のエースである成宮鳴。

 

1年時には、背番号18を背負いながら多くの試合で先発をし、勝利に貢献。

 

2年となって迎えた夏の大会では満を持して、エースナンバーである背番号1を背負い、二度目となった甲子園では準優勝まで導いた。

 

 

彼の高校野球人生はエリート街道まっしぐらだと、多くの人は思うことだろう。

しかし、輝かしいその野球人生は、決して平坦な道ではなかった。

 

 

その代表として上げられるのは、やはり秋季東京都大会の鵜久森との試合。

 

序盤に先制をした試合だが、結果的には成宮が決勝打を打たれたことで敗戦した試合は、当大会で最も大きな番狂わせとも言っても過言では無いだろう。

 

 

甲子園準優勝校が、まさかの敗戦。

更にはエースが決勝打を打たれて逆転負けという、挫折と言うには十分すぎる結果となった。

 

 

主将で四番、さらには守備の要である3年原田を失ったことは、各々が自由に戦っていた稲城実業にとっては大きな打撃となったことだろう。

 

しかしそんな中で味わった、敗戦。

 

 

長い長いオフを越え、己の投球と向き直った春。

 

 

 

「王子」(プリンス)から「王」(キング)へ。

 

満を持して東京都を代表する左腕として春の大会に登場した成宮は、センバツで猛威を奮っていた同地区の薬師高校を完全制圧し、名実共に世代最強の左腕として舞い戻ってきたのだ。

 

 

最速150km/hを超えるストレートに加え、高い質を誇るスライダーやフォーク、高い奪三振率を誇るカーブ。

 

そして彼の代名詞となったチェンジアップ。

 

 

元々コントロールも良く、高い完投力も持つ彼が記録したのは、春の関東大会を通じて防御率0.00。

 

最強の肩書きを背負い、因縁に決着をつけるべく夏の決勝戦へとその駒を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

ーー敗戦と挫折から復活した最強の右腕

 

 

西東京の古豪、打の青道と呼ばれた青道高校に突如として現れた右腕は、その高い制球力から1年時から切り札として夏の大会でフル回転。

 

キレのあるストレートと同速でストンと落ちるツーシームを武器に、数多の打者を手玉にとっていた。

 

 

しかし、二度に渡った成宮との投げ合いでは、共に敗戦。

 

1年夏には、6イニング目となるマウンドで相手投手である成宮にサヨナラ弾を打たれて負け投手。

 

2年夏には、延長10回に同点となる暴投。

激戦の末に、力尽きた。

 

 

更に、彼の高校野球人生は数多の怪我に悩まされることとなった。

 

1年時には下半身の怪我で戦列を離脱。

そして2年の秋には、後に肘の怪我と明かされた大怪我を負い、野手としての試合出場を余儀なくされた。

 

 

センバツを目指した秋季大会では、2番センターとして固定。

チームスローガンであった「全員で勝つ」というコンセプトのもと、見事にセンバツの切符を手に入れた。

 

 

成宮同様、長いオフ。

 

怪我の療養から、新たに投球スタイルを模索した冬のトレーニング期間。

 

 

雪解けと共に迎えた、選抜高等学校野球大会。

 

そこで文字通り復活を遂げた大野夏輝は、初の甲子園のマウンドでその存在を輝かせた。

 

 

最速142km/hの加速するストレートに加え、縦に沈むツーシーム。

更には真横で吹き上がるようにして曲がる魔球、カットボールを新たに加えた三振を奪う投球スタイルで、センバツ優勝まで一気に駆け上がった。

 

 

 

 

 

 

ーー二人のエースの因縁と軌跡

 

 

青道高校と稲城実業高校。

この二校の決勝戦を語る上で外せないのは、大野夏輝と成宮鳴という二人の投手の存在だ。

 

中学のシニア時代から同地区のライバル同士。

本格派の成宮と技巧派の大野として両端のエースは、幾度となくぶつかった。

 

 

結果は全て成宮が勝利を収めていたものの、成宮本人曰くいつも自分を追い込んでいたのは大野だと語っていた。

 

 

踏まえた上で、一年生夏。

同地区の強豪校にそれぞれ進学した二人の対決は、早くも彼らが入学して3ヶ月後に実現した。

 

西東京大会の決勝戦。

当時都内ナンバー1スラッガーであった東清国(現横浜)擁する強打の青道と、高い総合力と守備力を誇っていた稲城実業の対戦は、序盤から一歩も譲らない接戦となる。

 

 

二人がマウンドに上がったのは、同タイミング。

 

5-5で迎えた7回の表裏でマウンドに上がった二人は、ここから熾烈な投手戦を繰り広げることになる。

 

試合は9回で終わることなく、延長12回までそれぞれ無失点。

 

最後は次期エースとなる二人の直接対決の末、一年の成宮がなんと決勝弾となるサヨナラホームランを放って稲城実業に軍配が上がった。

 

 

 

二年生となった2人は、再び同じ舞台で相見えた。

 

互いにエースナンバーを背負い、チームを代表する投手となった決勝戦は、昨年以上の投手戦となった。

 

 

前年の甲子園でその名を知らしめた成宮は関東ナンバー1左腕という前評判の元、当該大会でもその実力を誇示。

 

準決勝では参考記録ながらノーヒットノーランを記録するなど、その評判通りのピッチングを見せつけることになる。

 

 

対する大野もまた、当該大会でその評価をグンと上げる。

 

同年のセンバツでベスト8の実績を残した市大三高を乱打戦の末に破った薬師高校に対して、終盤までパーフェクトピッチ。

 

高い制球力を誇りながら三振を奪える直球で、フォアボールをほぼ出さないながらも非常に高い奪三振率を誇っていた。

 

 

前評判では、都内最強は成宮。

やはり球速で劣る大野では、厳しい試合展開になるだろうと言うのが、当時の評価だった。

 

しかしこれが誤った評価であったことは、試合が始まって間もなく試合を見ていた観客全員が理解したことだろう。

 

 

 

互いに立ち上がりは、上々。

ランナーこそ許すものの、失点は許さない二人のピッチングは、後に始まる激戦の予兆である。

 

 

しかし、空気が変わったのは、中盤。

互いに得点圏にランナーを置いた状態で、確かに二人の投球が変わったのを確信した。

 

 

成宮が三振を奪えば、大野も三振を奪う。

 

二人の投げ合いは互角以上。

試合が続くほどに二人のピッチングは研ぎ澄まされていき、限界を越えていく。

 

 

試合の前から、この二人の投げ合いは熾烈なものになるだろうと予想している人間は多くいた。

しかしその誰もが想定していたものよりも、遥かに上回る投手戦となった。

 

 

だが、番記者である私の目から見て。

多くの高校球児を見てきて、多くの試合をこの目で見てきた中で。

 

確かに二人がピッチングを通して、成長していくのを感じていた。

 

 

 

試合が動いたのは、延長の11回。

当時青道高校の四番であった結城(現明治大)が成宮のチェンジアップを完璧に捉え、2点を先制する。

 

これで勝負を決したと思っていたのも束の間。

その裏の守りで大野もとうとう力尽き、2点を返される暴投で同点を許してしまう。

 

 

試合は最終的に稲城実業の四番である原田(現日本ハム)がサヨナラホームランを放ち、甲子園への切符を手にした。

 

 

 

その後秋、春と様々な要因から二校がぶつかることはなかった。

 

春のセンバツで青道高校は初めて日本一を経験し、稲城実業も秋の敗戦から一回り強くなって戻ってきた。

 

 

交錯した運命。

そして一度離れたものの、再び交わった因縁。

 

全ての決着をつけるべく、二人の対決は最後の夏の大会で迎えることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

ーー熾烈な投手戦と死闘、そして生まれたドラマ

 

 

 

迎えた今夏、全国高等学校野球選手権西東京大会。

 

数多のドラマが生まれた今大会。

その締め括りを飾ったのは、やはりこの二校の激突であった。

 

 

稲城実業のエース、成宮は前年から一回り成長し、関東ナンバー1左腕から世代を代表する最強と名高い左腕にまで上り詰めた。

 

対する青道の大野も、センバツで圧倒的な実績を残して、名実共に世代最強の右腕となって東京へと凱旋した。

 

 

互いに、世代を代表する両腕。

 

それを象徴するように、今大会決勝までで記録した防御率は0.00。

一つの失点も許すことなく、最強のエースとして背番号1が並んだ。

 

 

試合は案の定、全く得点の動かない展開。

 

成宮も大野も引かずに真っ向から打線を捩じ伏せ、更に中盤からギアチェンジ。

この二人の独壇場となった試合だった。

 

 

試合が動き出したのは、7回。

内野ゴロの間に俊足の神谷がホームへと還り、稲城実業が先制点を上げることに成功する。

 

 

動かない得点板の中に煌々と「1」の数字が光る中、青道も大野の力投に応えるべく援護をする。

 

盤面としては、追い込まれた9回の表。

得点が奪えなければ敗戦が決まるこの場面で魅せたのは、二年生ながらクリーンナップを任されていた金丸だった。

 

外角のストレートを捉えて左中間スタンドに飛び込む弾丸ライナーで、試合を振り出しに戻した。

 

 

試合は再び膠着状態へ。

二人の熾烈な投手戦を決着させるには15イニングだけでは足りず、決勝戦での延長再試合まで縺れることとなった。

 

 

 

後に世紀の死闘と語られるこの投手戦の二日目は、一日目とは異なり青道高校が初回から攻撃。

 

先頭倉持と主将の白州がヒットでチャンスを作ると、小湊がしっかりと転がして先制点を上げる。

 

 

しかし、稲城実業も負けていない。

1点ビハインドで迎えた中盤戦、ランナーを一塁においた場面で打席には四番、山岡。

 

ここまで全く当たりのなかった主砲の一撃は、大野がこの試合初めて投げた失投を逃がさず捉えてレフトスタンドへ運ぶ逆転の2ランホームランで試合をひっくり返す。

 

 

2-1と再び劣勢となった終盤。

 

しかし再び、果てなきエース対決と並んで、後にこの試合の名場面と語られる好機が青道に訪れる。

 

 

1点ビハインドながら、三年生二人の連打で2アウトランナー一二塁のチャンスで、四番の御幸が打席に入る。

 

 

チャンスに強く、今大会は山岡に次いでホームランランキングは2位。

しかし熾烈なトーナメント戦でのこのホームラン数には、観客の誰もが舌を巻いていたことだろう。

 

そんな御幸が、この試合はまるで当たりがない。

 

 

幾度目かの四番とエースの対決。

 

迎えうる最後のピンチであり、青道からしたら逆転の最後のチャンスと言っても過言では無い。

 

互いにギアを上げ、真正面からのぶつかり合いとなったこの打席。

 

 

最後はインコースに決まる成宮の渾身のストレートを御幸が完璧に捉え、打球はライトスタンドへ一直線。

 

逆転に次ぐ逆転。

稲城実業同様に、四番が勝利を運ぶ値千金のホームランを放って青道が4-2と再びリードを奪う。

 

 

更に8回表には、青道片岡監督の采配が光る。

 

レフトの麻生に代打で一年生の由井を起用すると、ヒットで出塁。

さらにその代走にも一年生の瀬戸が盗塁、二年生の東条がタイムリーヒットを放って1点を追加する。

 

 

5-2とリードで迎えた8回と9回はピンチこそ背負ったものの、最後はエース対決。

 

2アウト満塁でバッターボックスには、稲城実業のエースである成宮。

 

 

稲城実業全員で繋いだ、文字通り最後のチャンス。

そして、二人の死闘と因縁の終末を意味する、決戦。

 

大野は残った力を全て振り絞り、成宮は泥臭く食らいついていく。

 

 

勝負が決したのは、9球目。

 

最後は大野渾身のストレートを、彼のコントロールの良さを象徴する外角低めに決め、空振り三振。

 

 

二日にも…いや、彼らのこれまでの野球人生にも及ぶ因縁の決着は、最後の最後で大野に軍配が上がった。

 

 

やはりこの試合で印象に残ったのは、その後の光景だろう。

 

二年時は涙を流すこともなかった大野が、試合終了が決まった瞬間に涙で顔を歪ませていた。

 

 

記者である私も何度も青道を訪れる機会があったが、彼はマウンド上同様普段から毅然とした態度というか、あまり苦しそうな表情を浮かべる印象はなかった。

 

それだけこの試合にかける想いも、成宮との投げ合いに対する姿勢というのも。

やはり、観客目線から見ても痛感するものだろう。

 

 

 

長い野球人生。

その半分は、ここで終わりを告げる。

 

稲城実業もまた、甲子園を獲れる実力があった。

 

願わくばこの二人の対決をもっと上の舞台で見てみたかったというのが、一野球ファンとしての素直な意見…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっと、キーボードを打つタイピング音が、止まる。

 

 

「私情挟みすぎ…だよなぁ…。」

 

 

そう独り言を呟きながら、パソコンの前に座った峰は頭を掻きながら自身の体重を背もたれに掛けて天井を見上げた。

 

 

二人の投げ合いは、確かに素晴らしいものがあった。

 

甲子園決勝ならばもっとドラマとして特集も組まれるだろうし、やはり背景から見てももっと注目されてもいいカードだった。

 

 

あくまで地区大会。

ここまでの詳細を、雑誌の記事として載せることは出来ないだろう。

 

しかし、いくら言葉を紡いでも足りない。

 

それは、実際に見ていた観客たちは分かっている。

 

 

もしかしたら、それだけで十分なのかもしれない。

本人たちの因縁や、この死闘の風景というのは、第三者が考察でものを語りすぎるのもまた違うのかも。

 

 

(ほぼ自慰だな、これでは。)

 

 

自嘲しながら、峰は自身の綴ったその文字列を消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 





誰の自慰かと言えば、私なんですけどね…
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