燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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書き溜め分があるので、年内恐らくもう一話出せると思います。




エピソード249

 

 

 

 

 

真夏の空が、青く染った。

 

うるさく鳴く蝉の声と、鳴り響く鳴り物の音と歓声。

その熱量が、ここが高校野球の中心だということを表現する。

 

 

球場特有の、黒土。

横には、信頼できる仲間たち。

 

この最強の青を纏めあげた主将の声と共に、俺も続くようにして声を張り上げた。

 

 

「行くぞぉぉぉ!」

 

「おおぉぉぉぉぉ!」

 

 

 

多くの拍手と歓声を背に、ホームベースへ向けて一気に走る。

 

互いに見合い。

相手もまた、春のリベンジをしようと殺気立っている。

 

 

主審の礼の合図と共に、互いに頭を下げる。

 

この後の熱戦を、繰り広げる為に。

 

 

今日の気温は、32℃。

真夏ということを考慮すれば、標準的な気温である。

 

 

まあ、暑いのに変わりはないがな。

 

 

マウンド上で、何球か御幸とやり取り。

今日の調子は、悪くは無い。

 

特段良くも、無いが。

 

 

投球練習を終えると、御幸がこちらへ近づいてくる。

 

俺も一度マウンドを外し、その小さな山から降りてグローブを口元へと置いた。

 

 

「先頭から気をつけろよ。何かしら仕掛けて来るはずだ。」

 

「分かった。」

 

 

事務的なやり取り。

そして、彼の指示に俺も頷く。

 

初球勝負、セーフティ。

 

奇襲は、様々考えられる。

 

 

「最初は様子を見るぞ。」

 

 

このチームで一番優れたバッターである美馬は、3番に座っている。

 

 

となると、どんな状況であれ初回から美馬と相対することにはなる。

 

しかし、集中力が高まると打力があがる。

そんな彼を、出来ればランナーがいる状態では置きたくはない。

 

 

様子見と、安全牌。

その2つを合致させた上で、御幸はサインを出した。

 

 

「プレイボール!」

 

 

球審のコールと、鳴り響くサイレン。

 

その音を聞きながら、大野は初球を投じる。

 

 

外角低め、ストレート。

厳しく、それでいてストライクゾーン目一杯のコースは、中々手を出せない。

 

 

サイレンが鳴り止まない中。

白龍の奇襲は、いきなり始まった。

 

 

「セーフティ!」

 

 

九条がバットを倒したと同時に、ゾノが声を張り上げる。

 

 

カツンという鈍い音は、威力を殺した金属音。

それとほぼ同時に、打球が転がる。

 

コースは、三塁線。

 

一塁から最も遠いコースに転がされた打球は、絶妙な位置へ。

御幸は無理、俺が行けば間に合わない。

 

 

上手いこと仕掛けてきた。

とはいえ流石に、初球から転がしてくるとは思わなかった。

 

 

 

ウチのサードは2年だ。

地区大会でエラーもしているし、名手と言うにはまだ足りない。

 

狙いとしては、完璧に近いだろう。

 

 

 

 

 

 

しかしな。

 

そう温い野郎じゃないぞ。

ウチでスタメンを任されてるからには、な。

 

 

 

「金丸!」

 

「っらァ!」

 

 

決勝で散々嫌な思いしただろ。

なら、結果で見せてやれ。

 

青道のサードは、穴じゃねえってな。

 

 

 

素早いチャージと、握り変え。

そこから、身体を捻って力強い送球を放つ。

 

来た送球に対し、目一杯伸びたゾノ。

 

 

グローブの音と、ベースを踏み締める音。

 

 

乾いた音が、先だった。

 

 

 

「アウト!」

 

 

塁審のコールを聞き、俺は金丸を指差す。

 

それを見て、金丸も拳をこちらへと突き立てる。

 

 

左打者だから金丸が若干前目に出ていたのもまた功を奏した。

 

否、チャージ力と鋭い送球。

肩があまり強くないからこそ、ダッシュの勢いと身体の捻りでそれをカバーする。

 

 

 

何はともあれ、一つのアウト。

しかしそのアウトだけでも、相手には大きな重圧を与えられる。

 

 

 

1アウト。

続く打者は、宮尾。

 

追い込まれてからの粘りやカット打ちなど、中々の曲者である。

 

 

 

初球、また外。

 

やはり、いきなり踏み込んでくる。

しかし俺が投げたのは、そこから更に遠く、更に低い。

 

 

ツーシームを、まずは振らせた。

 

 

2球目。

テンポよく続けて投げたのは、インコース。

 

これもファールにさせ、早くも追い込んだ。

 

 

 

さて、ここからしぶといのがこのバッター。

選択肢は色々ある中で、俺はもう1枚カードを切った。

 

インコース低めにチェンジアップ。

 

甘いボールを待っていた中で、敢えてここは遅いボールで崩した。

 

 

窮屈なスイングで完全に打たせた打球は、セカンドの正面。

名手である小湊が無難に捌き、2アウト。

 

 

 

テンポよく、2つのアウトを奪った。

 

打席には、このチームで最もいい打者である美馬が入る。

 

 

様子は見たいところだが。

 

 

(こっちの都合なんか知ったことはないよな。)

 

 

高い上背に、スっと佇む姿勢。

矢のように射抜くような視線は、何処か白州に近いものがある。

 

打率は、高い。

ホームランはそこまで多くは無いが、足を活かした長打自体はかなり多い。

 

 

(様子見は一旦止め。全力で抑えに行くぞ。)

 

(当然だ。出力を引き上げる。それを考慮して要求してくれ。)

 

(応。)

 

 

初球。

御幸が要求したのは、インコース高めの釣り球。

 

コースとしては、僅かにボール球。

 

 

これをまずは、見送られた。

 

 

続けて2球目。

今度は、外のツーシーム。

 

コースは、若干甘いコースからボールゾーンへ沈み込む球。

 

ここで、空振りを奪った。

 

 

3球目も外。

外角低め一杯、そこに威力を上げたストレート。

 

踏み込んだ美馬だが、これは僅かに振り遅れてファールとなる。

 

 

やはり、狙いは外か。

それも、恐らく速いボールだ。

 

となれば。

 

 

最後はインコース膝元のストレート。

 

 

ギリギリ一杯。

 

140km/hのこの球に美馬も振り遅れて、この試合初めて空振り三振を奪った。

 

 

 

 

「かなり踏み込んで来るな。」

 

「序盤はお前の厳しい外を狙いに来てるんだろう。地区を通して殆ど失投は投げてないんだ、頭から厳しいコースでも狙い球なら振りに来てる。」

 

 

マウンドを降り、ゆっくりとベンチへ戻っていく。

 

そこへ、駆けつけるように御幸が走って追いついてくる。

 

 

お互い、同じような体躯。

だからこそ、必然的に歩幅も合ってくる。

 

 

「序盤はインコース中心で行くぞ。決め球で外の変化球、あとは緩いのも使って崩しに行こう。」

 

「わかった。」

 

 

狙いが分かってる以上、それが変わるまではまず徹底的に攻める。

 

外を狙っているのなら、内へ。

追い込んだら、その狙いの外で裏をかく。

 

 

いくら外を狙っているにしろ、内を見せてから遠い外は難しい。

 

 

あとは狙いがバラけて来れば、こちらのもの。

左右上下を散らして、僅かな可能性も摘み取っていく。

 

付け入る隙は与えない。

 

 

その辺は、一也が上手いこと組み立ててくれるだろう。

だから俺は、あいつのミットを信じて投げればいい。

 

 

 

 

さて、回は裏返りこちらの攻撃。

 

先発はやはりと言うべきか、エースの王野。

前回登板は俺と同様、3回で降りている。

 

向こうもこちらとの試合を見越して、エースを温存していたのだ。

 

 

 

タイプとしては、真田。

クールな顔に見合わず、インコースをガンガン攻めてくる。

 

決め球はシュートと、スライダー。

右にはシュート、左にはスライダーをインコースに投げ込んで打たせる。

 

左右に対して抉るボールを、前回対戦では中心に投げていた。

 

 

加えて初戦では、スプリットだろうか。

速い落ち球を投げているのも、見受けられた。

 

左右の変化に対して、更に縦変化で打ち損じを誘う。

 

 

より完成度を高めてきたということか。

 

 

 

まあ、何にせよ。

 

 

「とりあえず風穴あけるぜ、大野よう。」

 

「あぁ。やれるだけのことはやる。」

 

 

屈伸をする倉持と共に、俺もバットを手に取って王野を見つめる。

 

相手がなんであろうと、点は取らなければいけない。

そして今の俺は、打者である大野夏輝だ。

 

チームの得点を重ねるために、俺もまた全力を尽くす。

 

 

 

先頭の倉持が左打席へ。

 

左右共に決め球がある為、角度的に見やすい左に入る。

 

 

初球はストレート入り。

外の厳しいコースに、141km/hが決まる。

 

 

 

入りは慎重か。

向こうも向こうなりに、やはり倉持の足は警戒しているのだろう。

 

春もかなり暴れていたからな。

 

 

しかし今のこいつは、足だけじゃない。

 

打撃の面でも、こいつは伊達ではない。

 

 

 

2球目、インコースのスライダー。

 

摺り足で上手くタイミングを合わせ、これを弾き返した。

 

 

打球はショート後方。

ヒットとしては、申し分ない打球だ。

 

 

白龍からしても、初回に出したくないランナー。

それを、いきなり出してしまう。

 

 

 

 

 

 

チーターというのは、速く走るために身体の形状を進化させて今の姿に至る。

直接対決のパワーはないが、屈強に育った足腰とそれを充分に蹴り出すために発達した鋭い爪。

 

そして、強くも靱やかなバネのような肉体。

 

 

何が言いたいかと言うと。

倉持も同様に、そのトップスピードを最大限に活かすために、この肉体を改造してきたのだ。

 

 

 

一塁を蹴った倉持は、更に加速。

止まると思っていたレフトもすぐさま返球の姿勢で二塁へ送球する。

 

が、一度の隙。

それを見せた瞬間に、倉持はトップスピードへと持って行った。

 

 

トップスピードから、状態を下げてスライディング。

勢いを殺すこともなく一気に飛び込み、その足を二塁ベースへと当てた。

 

 

 

「セーフ!」

 

 

二塁塁審が両手を左右に開く。

 

 

ホームランを打つパワーはない。

しかしそれを、全身のバネと打球判断で長打を生み出す。

 

 

伊達にチーターとは、呼ばれていない。

 

青道の韋駄天が、いきなり魅せた。

 

 

 

 

 

 

さて、と。

であれば、俺が出来るのはチャンス拡大。

 

信頼できる打者が後ろにいるからこそ、その後ろの選手たちがよりやりやすい状態で回すのが俺の仕事だ。

 

 

白州が2番に入った時は、起爆剤。

パンチ力を上げて、一点をもぎ取るための起用。

 

俺が2番に入った時。

その時俺が請け負う役割は、あくまで助燃剤。

 

打線という爆弾をより強く、大きな爆発にする為に。

 

 

俺は、俺が出来ることをやる。

 

 

 

(とまあ格好つけてはいるが、決め切る力がないだけ。)

 

 

そんな風に卑下してしまうも、俺は首を横に振って切り替える。

 

ホームランを打つパワーも、それだけの実力も確実性もない。

だが、出来ることはある。

 

上位で使ってもらっているんだ。

ならば、それだけの仕事はやる。

 

 

速球のベースは130km/h台後半。

初戦では、144km/hをマークしている。

 

今日はいきなり140km/h。

恐らくかなり、出力を上げて投げているはずだ。

 

 

我慢して後半勝負も勿論良いかもしれないが、超高校級と呼ばれる投手たちを打ち崩すのなら、ここで足踏みする訳にはいかない。

 

まずは、ここから。

折角のチャンス、しっかりと取らせてもらう。

 

 

変化球はスライダーとシュート、あとはスプリットか。

 

何れも大きいものではなく、膨らみが少なく速い。

 

 

俺のヒットは、外の変化球が多い。

そこに関しては向こうもお勉強済みなはずだ。

 

となれば、外に逃げるシュートを仕留めるのはあまり現実的ではない。

 

 

 

やってみるか。

あまり柄じゃないが、全部対応してみよう。

 

出来れば、スプリットも見たいところ。

 

というよりは、それを引き出すのが最優先だ。

 

 

 

初球、インコースのスライダー。

これを、まず止める。

 

判定はボール。

 

続けて、今度は内角にストレート。

これも、見送った。

 

 

 

カウントが並ぶ。

 

そして、3球目の外のストレートをファールにしたことで、俺は追い込まれた。

 

 

(ここから勝負。奴の引き出しを出来るだけ出させる。)

 

 

 

4球目。

インローのスライダーをバットに当ててファール。

 

更に5球目も同じようなボール。

これは見送れる、バットを止めてボール。

 

 

カウントは、並行。

 

 

そろそろ内の意識が向いたところ。

となると、次は外。

 

外から逃げるように変化する、シュートかな。

 

 

やっぱり。

少し高めのシュート。

 

しかし、これを仕留めたいわけじゃない。

 

 

これも引き付けてからバットに当てて、カウントは変わらず。

 

 

 

6球目は、再び外の高め。

今度は、速いボール。

 

若干ボール球だが、見逃し三振が一番ダメ。

 

だからこそ、これもファールで粘る。

 

 

今ので、全部手を出すと思ったはずだ。

 

カウントもまだあと一つ、ボール球を使う猶予もある。

 

 

そろそろ使ってきてもいい頃だろ。

 

 

7球目。

コースは、真ん中低め。

 

スピードボールか。

 

 

落ちれば対応、ストレートなら詰まらせる。

 

 

 

来た。

落ちない、まだか。

 

 

「っ!」

 

 

スイングと共に、金属音。

しかし、鈍い。

 

 

やはり、若干落ちた。

 

それも、かなりのスピードを維持したまま。

 

 

深めに守っていたセカンドが前進。

弱い打球を軽快に捌かれ、俺は内野安打のチャンスもなくセカンドゴロでアウトを宣告される。

 

その間に倉持は三塁へ。

 

最低限の進塁打で、チャンスの拡大にはなった。

 

 

 

「最後のあれって…」

 

「あぁ、あれが多分スプリットだな。」

 

 

体感速度は、ストレートとあまり変わらない。

 

それに、俺がバットに当たったのも加味すると、あまり落ちていない。

 

 

スプリット系の変化球という認識よりも、ツーシームみたいなムービング系で認識したほうがいいかもしれない。

 

 

そのことを小湊に告げると、彼は笑って答えてくれた。

 

 

「よく引き出しましたね。あとは任せて下さい。」

 

「らしくないこと言って。まぁ、頼むわ。」

 

 

小湊の宣言に俺も苦笑しつつ、ベンチへと戻る。

 

その初球だった。

 

 

インコースに抉り込む、ボール気味のシュート。

これを、いきなり弾き返した。

 

 

打球はレフト前。

 

三塁ランナーの倉持は悠々ホームを踏み締める。

 

 

早速の一点先制。

 

ベンチへ向けてガッツポーズを向けながら赤面する小湊に、俺も拳を向けて応えた。

 

 

いや、スプリット全然関係ないじゃんとか思ったけど。

 

 

因みにあとでそれを言ったら。

 

 

「スプリット見れたので、迷いを捨てて狙えました。」

 

 

って返された。

 

流石、天才である。

 

 

 

続く御幸が歩かされる。

まあ、順当に考えれば当然だ。

 

ここまで2試合でホームランは3本。

 

まともに勝負はしたくないし、この流れで一気に持っていかれたくないのもわかる。

 

 

しかし、5番に座るのは、これまたチャンスに強い白州。

彼がヒットで繋ぐと、金丸がしっかりと転がして小湊もホームイン。

 

この試合でも初回から得点を奪い、一気に主導権を奪っていった。

 

 

 

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