燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード258

 

 

 

「ーーしゃぁああ!」

 

 

 

マウンドで沢村が声を張り上げる。

そしてそれが、試合を終える合図となる。

 

センター定位置で小さくガッツポーズを作り、俺はそのまま視線をバックスクリーンへ向けた。

 

 

5-2。

 

 

中盤までは互いに得点が取れず、やはり厳しい展開となっていた。

 

梅宮に先制点を取られた次の回。

俺が高校初となるホームランで同点。

 

続けざま、御幸と白州の2者連続のホームランで2点のリードを奪う。

 

 

9回にも御幸のヒットから繋ぎ、前園の犠牲フライで追加点を奪い、試合はそのまま沢村が投げきって勝利した。

 

 

 

マウンドで揉みくちゃにされる沢村。

 

今日の立役者は、間違いなくこの男だろう。

 

 

9回を投げきっての完投勝利。

被安打は6つ、与えたフォアボールはなし。

 

失点は2つ献上しているものの、勝負を掛けに行く終盤までは主導権を渡すことなく強い気持ちで投げ続けていた。

 

 

「よくやったな、沢村。」

 

 

一息落ち着いた沢村に、俺がそう声をかける。

 

すると沢村は、笑顔を維持したままこちらへ向き直って言った。

 

 

「まだ、通過点です!」

 

「点も取られたからな。それに、御幸のリードにおんぶにだっこだったし。」

 

「バレてる!?」

 

「俺も人のことは言えんがな。」

 

 

雑談もそこまでにし、整列。

 

 

ここまで戦ってきた相手と相対し、握手を交わす。

 

 

「ありがとうございました!」

 

「強えな、お前ら。てかなんだよ最後の落ち球、ありゃあ無いぜ。」

 

 

共に最後まで投げ合った二人。

沢村と梅宮の握手を見ながら、俺は微笑む。

 

すると梅宮は今度は俺に向き合い、こちらへと近づいてきた。

 

 

「やられたぜ。お前、ホームラン打てたんだな。」

 

「あぁ、俺も驚いた。」

 

「あわよくばお前とも投げ合いたかったがな。まあ、俺たちの力が足りなかったって訳だ。」

 

 

自嘲気味に笑った梅宮に、俺は首を横に振った。

 

 

「いや、それは違う。沢村が良い投手だから、良い投球をしたから、任せられた。鵜久森は、本当に強かった。」

 

「そう、か。」

 

 

すると梅宮は空を見上げて、何度か頷く。

 

そして彼は今度は清々しいほどの笑顔で拳を差し出してきた。

 

 

「だが、お前たちの方が強かった。間違いなく、最強だ。絶対、負けんじゃねえぞ。」

 

「当然だ。」

 

 

こつんと合わせた拳。

 

 

強かった。

梅宮は最後まで、一人で投げ、闘って。

 

きっと鵜久森にとっての日本一のエースは、彼以外に考えられないだろう。

 

それほどまでに、素晴らしい投手だった。

 

 

 

何はともあれ、ベスト4だ。

あと二つ、勝てば日本一だ。

 

 

試合を終えて片付け、ベンチを後にしようとしたその時。

 

次に試合を行うべくもうひとつの刺客が、こちら側のベンチサイドに入った。

 

 

「久しぶりだな、青道。」

 

「巨摩大藤巻か。その試合ぶり、存分に見させてもらうぞ。」

 

 

白州が軽く挨拶をするのを横目に、俺は奥から歩いてきた男に声をかけた。

 

 

「今日、投げるのか。」

 

 

言葉は返ってこない。

 

まあ、別に構わん。

向こうとしては、ある種因縁とも思っているはずだからな。

 

 

鋭い目が、こちらを射抜く。

フンッと唸った男は、すれ違いざまに耳打ちしてきた。

 

 

「見ていろ。」

 

「あぁ、そうさせてもらう。」

 

 

昨年の甲子園の覇者であり、今大会も優勝候補の一つである巨摩大藤巻。

 

そのエースである本郷が、こちらを後にしてベンチの奥へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準々決勝二試合目となったのは、山守学院と巨摩大藤巻の試合。

 

息の合った双子バッテリーと、堅守で守り勝つ野球をする山守学園に対して、巨摩大藤巻は圧倒的なエースと高い攻撃力を合わせた持った総合力の高いチーム。

 

両校の特性上、やはり投手戦による接戦となることを予想されたこの試合だったが…

 

 

「やってくれたな。」

 

 

試合スコアは、6-0。

 

先攻の巨摩大藤巻が速攻。

三番のタイムリーツーベースと四番のタイムリーヒットでいきなり2点を先制。

 

2点ビハインドで何とか返したい山守だったが、そこで立ち塞がったのは巨摩大藤巻エースの本郷政宗。

 

 

序盤から最速150km/hのストレートで押していき、6回までをパーフェクトピッチで一人のランナーすら許さない投球を見せつける。

 

 

7回2アウトで神足弟がフォアボールをもぎ取るも、その後のバッターは三振。

 

 

結果的には被安打0のフォアボールが2つで、勿論無失点。

山守から奪った三振は、なんと数にして18個。

 

本郷が最後まで投げ切る形でノーヒットノーランを記録し、強豪山守学院を全く寄せ付けなかった。

 

 

 

「見ていろっていうのは、これか。」

 

 

今日のストレートは最速152km/h。

コントロールは割かし荒れ目ではあったものの、それが却って的を絞らせず、球の力で完全に押し切っていた。

 

変化球の精度は十二分。

 

SFFは勿論だが、今日は特にスライダーが良かった。

 

 

キレよく斜め下にスパッと斬るようにして走るこの軌道に面白いようにバットが回り、右バッターの殆どが空振り三振。

左バッターに対しても、入ってくるこのスライダーとSFFで対処し、手も足も出ないような形。

 

フォアボールは出しているが、それはご愛嬌。

寧ろ、しぶといバッターが並ぶ山守に二つしか出さなかったというのは、中々の物だ。

 

 

「球威に磨きが掛かったな。変化球のキレも、威力もかなり上がっている。」

 

 

横にいた白州の言葉に、御幸も頷く。

 

球速はあまり変わらない。

だが、ストレートに対する変化球の精度がより増している。

 

何より、気迫。

 

鬼気迫るような勢い。

まるで、何処か怒りにも似たような、そんな想い。

 

 

「だが、今日のあいつは本調子じゃなかった。」

 

「あれでですか?」

 

 

金丸の返答に、俺は頷く。

 

ボールの威力は、勿論だ。

しかし、気持ちが何処か別の方向に向いているような気がした。

 

 

「手を抜いていたとは思えないが、あの気迫は山守に向けたものではない。そしてそれは…」

 

「夏輝に、か。」

 

 

白州と御幸がそう言う。

 

グラウンド上、ギロリとこちらを睨む本郷。

 

 

そう、きっとこれは。

 

 

「宣戦布告ということか。」

 

 

春の選抜。

あの時、俺と本郷は準々決勝で投げ合い、それこそ全く同じような展開で試合は続いていた。

 

先制点は白州のタイムリーでもぎ取ったものの、被安打は俺も本郷も2つ。

ただ向こうは散発で、こちらは集中打という違いだけ。

 

それに、俺は最後の回にマウンドを降りた。

直接対決で完全に勝てたとは、言えない。

 

 

今度はお互い全力で。

きっと、その意思表示だろう。

 

 

「面白いじゃないか。あいつがあの時とは違うように、俺もあの時とは違う。」

 

 

準決勝か、決勝か。

どちらで当たるにしろ、全力で勝つまでだ。

 

 

「…」

 

 

本郷の目。

それを見て、俺は察してベンチを後にする。

 

 

「すまん、少し外す。」

 

「俺も行く。悶着起こされても困るからな。」

 

 

御幸も察してか、俺に付いて観客席から入口通路へと向かった。

 

 

 

選手入口へ向かう通路口。

 

やはり、奴は待ち構えていた。

 

 

「ノーヒットノーランとは流石だな、本郷政宗。」

 

 

仏頂面…というには、少し感情的すぎる表情。

 

怒りか、それとも。

 

 

「凄まじいピッチングだった。だがあれも、本気じゃないんだろう。」

 

 

俺の問いかけに、本郷が僅かに眉間を動かす。

 

 

「記録なんざ、俺には関係ねえ。なんなら、次も見せてやる。」

 

 

鋭い瞳。

俺や鳴とは違う。

 

怒りと、闘魂。

しかし、同じくエネルギーだ。

 

 

俺があの時、途中で降りたことへの怒りか。

それとも、負けた記憶からか。

 

そのエネルギーは、やはり底知れない。

 

 

「早るなよ。俺は逃げん。それに、誰が日本一かは、何れわかる。」

 

 

俺の言葉に、本郷はまたも眉間に皺を寄せる。

 

 

「日本一の投手になるのは俺じゃ。他の誰でもねえ。アンタでも、成宮鳴でも。」

 

 

燃え上がる闘魂。

やはり、さっきの試合よりも強くなっている。

 

それを感じ取り、俺も応えた。

 

 

「何れわかると言ったろ。今度こそ直接やり合って、決着をつける。」

 

 

 

俺の言葉を聞いて、本郷が少し固まる。

 

鋭い目つき。

鬼のような表情。

 

しかし初めて、彼が俺の目の前でその表情を変えた。

 

 

「面白え。最初からそのつもりじゃけえ、アンタを超えるためにここまでやって来たんじゃ。アンタを負かして、日本一の称号を手にするのは俺だ。」

 

「前はガス欠になっちまったからな。今度は正真正銘、最後まで投げて証明してやる。青道高校は日本一のチームだ。そしてそのチームのエースも、日本一の投手じゃなきゃならねえ。」

 

 

本郷が、笑う。

そして俺も。

 

 

「「日本一の投手は、俺だ。」」

 

 

通路口で響く、覚悟と誓い。

 

虚空に消えるはずのその言葉は反響し、また空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、完投宣言をしてきたと。」

 

 

試合を終え、またもホテル内の食堂。

 

普段から寮の食堂が溜まり場であるように、甲子園時の我々の溜まり場はこのホテルの食堂となっている。

 

 

小さくなる俺に、落合コーチがため息をつく。

 

 

「トーナメントで当たる相手とあんまし接触して欲しくない上に、試合直後とはなぁ…何はともあれ、何も無くて良かった。」

 

 

ご最もで。

 

トーナメントの佳境、特に相手は一番の壁となりうる巨摩大藤巻。

余計な接触は不利に働くこともある。

 

 

ぐうの音も、出ません。

 

 

 

「しかし、収穫はありました。やはり奴は、あの姿が本当の姿ではない。対策を講じねば、今度は俺たちがノーノーを喰らいかねません。それが分かっただけ、収穫かもしれません。」

 

「にしても、褒められたもんじゃねえさ。」

 

 

 

御幸の援護。

それも虚しく、糾弾。

 

大野夏輝、情けなくも無念の正座の姿勢。

 

 

 

ともあれ、とりあえず今日は準々決勝を勝ちきった。

試合の展開構想上どうしても序盤から厳しい展開になったものの、やはり沢村の好投もあってかなりいい展開に持ち込めた。

 

 

 

ここまで残ったチームは、4つ。

 

まずは我らが西東京代表、青道。

そして、南北海道代表の巨摩大藤巻。

春に決勝で戦った大阪代表、清正社。

実は練習試合で対戦経験あり、兵庫の帝王実業。

 

 

残っているチームは勿論、強豪。

 

今年の甲子園は、凡そ予想通りに展開が進んでいるらしい。

 

 

 

準決勝の組み合わせは、以下の通り。

 

 

第一試合目

青道(西東京)ー帝王実業(兵庫)

 

第二試合目

巨摩大藤巻(南北海道)ー清正社(大阪)

 

 

 

こちらの対戦相手は、兵庫県代表の帝王実業高校。

 

ゴールデンウィークに練習試合をした強豪校一角であり、甲子園常連の名門校。

 

 

主力の三年生は勿論、二年生の選手たちがまたかなり層が厚いため、来年以降も期待値が高いチームだ。

 

 

 

やはり警戒しなければいけないのは、上位打線。

 

要注意なのは、3番の友沢。

強肩強打のショートで、足の速い両打ちの非常に松井なバッターである。

 

ホームラン数は大会3位。

しかしながら、御幸同様に勝負を避けられることが多い為この数に落ち着いている。

 

因みに2位は、2回戦で敗退した徳島の志波。

1位は我らが四番、御幸である。

 

 

3番の友沢から勝負を避けても、4番がチャンスに強い猛田。

 

そして友沢の前にいる2番の蛇島が出塁率の高い打者ということもあり、蛇島出塁から盗塁、友沢が歩かされて猛田がスイープという鉄板得点パターンが今大会もよく見受けられた。

 

 

そして、投手陣。

これが、春とは大きく異なる。

 

練習試合の時にエースナンバーを背負っていた久遠は背番号11。

 

それに代わってエースを背負っているのが、三年生の山口だ。

 

 

どうやら昨年の秋から肘の怪我によるコンディション不良で、遠征には帯同していなかったらしい。

 

 

今大会は最長で5イニングながら、出場した3試合11イニングで失点は僅かに1つ。

最速147km/hのストレートと落差の大きいフォークで空振りを奪う本格派右腕である。

 

ピンチにも強く、余計なランナーは出さない。

特にフォークの制球力も申し分がなく、全体的にコントロールが良い。

 

同じフォークを投げる降谷のものはSFFに近く、それよりも落差が大きくスピードが遅い。

 

所謂、昔ながらのフォークボールである。

 

 

打者としては可もなく不可もなく。

ただ9番にいるとなると、やはり怖い。

 

 

山口の他にも前に登板した久遠や、軟投派の犬河など、投手事情にも不安は無い。

 

 

今大会でもその総合力の高さで、今大会も危なげなく勝ち抜いてきた。

 

 

 

「練習試合の時とは別チームと見ていいだろう。向こうも連戦で疲労も溜まっていたのは、プレーを見ていればわかる。」

 

 

どこからともなく現れた監督。

 

その言葉に、全員が賛同の意を込めて頷く。

 

 

大会期間中の打線のキレ。

そして、戻ってきたエース。

 

今は全員が、全快。

 

 

だがそれは、こちらとて同じだ。

 

 

 

「準決勝でもやることは変わらん。俺たちは俺たちの野球で、帝王実業を上回る。甲子園を獲るのであればこの一戦、絶対に勝ち切るぞ。」

 

 

 

監督の言葉を締めに、俺たちは声を上げた。

 

 

 

 

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