燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

266 / 283


サクッといきます。






エピソード260

 

 

『空振り三振!』

 

『空振り三振でスリーアウト!154km/hのストレートで4者連続となる7つめの三振!未だに許したヒットは0!』

 

『追い込んでからフォークで空振り三振!早くも二桁奪三振!この男は本当に二年生なのか、青道高校の降谷暁、圧巻のピッチングで5回も帝王実業高校から快音を鳴らすことはありません!』

 

 

 

大盛り上がりの甲子園球場。

 

それもそのはず。

今、マウンドから降りた降谷はここまで打たれたヒットは0。

 

彼の(悪い意味で)代名詞とも言えるフォアボールは、未だ1つだけ。

 

そして奪った三振の数は、数にして11個。

その内空振り三振による奪三振は、9個に達している。

 

 

一球ごとに揺れる会場。

そして、空振り三振を奪った時に鳴り響く拍手。

 

 

強力帝王実業打線を全く寄せ付けないピッチングに、会場のボルテージはどんどん上がっていく。

期待感は徐々に確信へと近づいてきて、確実にとある可能性すら示唆し始めている。

 

 

数多の奪三振。

そして、圧倒的な制圧力。

 

正に、怪物。

 

既に観客のその多くは、降谷暁のとある記録に期待感を高めていた。

 

 

ノーヒットノーラン。

 

ヒット記録を与えることなく、ましてや失点など与えることなく試合を終える、言わば投手が試合を支配した証。

 

 

甲子園でも数少ない記録を期待して、その声援が、拍手が、次第に大きくなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のだが。

 

 

「無理だな、こりゃあ。」

 

 

ベンチに戻って呟いた落合コーチに、俺も黙ってゆっくりと頷く。

 

 

「バテ始めてますね。球数はそこまでですが、明らかにギア、上げすぎです。」

 

「だよなぁ。まあ、次は行くにしても7回は川上だな。」

 

 

5回から準備を始めた、ノリ。

 

というのも、降谷が明らかにオーバーペースというのもあって、6回から行けるよう準備はしている。

 

 

球数は、まだ82球。

しかし、力配分があまり上手くいっていない。

確実に、オーバーペースにはなる。

 

 

汗だくで肩で息をする降谷がベンチに戻って来る。

 

 

「大丈夫か。」

 

「…まだ投げられます。」

 

 

厳しそうだ。

 

球威は若干落ちてきている。

コントロールはまあ、今日の調子的にもそこまでブレはない。

 

 

しかし、試合中にもガラリと表情を変える可能性がある降谷。

ムラっ気は上振れは勿論あるのだが、崩れた時に一気に立て直しが効かないことが多い。

 

 

「課題は明白だな。」

 

「スタミナ…」

 

「お前は全部を全力でやり過ぎだ。力を抜くところは抜く。入れるところは入れる。抜いた時にも良いボールが行くように。リミッターを解除した時に圧倒できるように。これが出来なきゃ、バッターを捩じ伏せて投げ切るってのは無茶な話だぜ。」

 

 

ツーンとする降谷。

 

まあ、まだ難しい話か。

 

力配分というのは、諸刃の剣。

力を抜きすぎれば打ち頃になってしまうし、出力の上げ下げは却って疲れを加速させかねない。

 

特に球威で押すタイプの降谷は、力を抜いたことによって弾き返される可能性が高い。

俺や沢村のようにクサイところを突いて打ち損じを狙うことが難しい分、より難易度が高いだろう。

 

以前、というか一年最初の夏の時はクイックで強引に力を抜かせるという芸当も御幸がやらせていたが、彼のワインドアップからの全身連動が弱まってしまう。

 

 

 

練習だな。

実戦でスイッチを切り替える。

 

最初は打たれるかもしれないし、上手くいかないかもしれないが、それは確実に力になる。

 

 

 

 

さて、降谷が全力で抑えた5回裏。

 

山口は続投。

ここまでの失点は、初回の小湊のタイムリーツーベースと白州のタイムリーヒットで二点。

 

更に4回に再三となる御幸のツーランホームランで二点を追加。

 

現在4-0とリードした状態で、打席には今日好投の降谷が向かう。

 

 

「まあ、ピッチングとバッティングは別だ。ピッチングは考えろ。バッティングは考えるな。いい感じにやってこい。」

 

「…はい。」

 

 

プスプスしているが、大丈夫だろう。

 

俺が降谷の背中をトンと叩いて送り出す。

打席前で素振りをして入る降谷を満足気に見送ると、後ろからため息が聞こえてきた。

 

 

ちなみにその主は、落合コーチである。

 

 

 

「いい感じってお前…」

 

「考えるタイプじゃないでしょ、あいつ。それに、調子が良い。こういうときに案外スコーンと出るもんですよ。」

 

「そう簡単に出ね…」

 

 

落合コーチがため息混じりに否定をしようとしたとき。

 

俺の後ろで、快音が鳴った。

 

 

 

カッキーンと。

それに反応して、俺たちもグラウンドへ視線を慌てて戻す。

 

打席上では、振り抜いたバットをそのまま神主のようにしてレフト方向へ向けている。

 

 

コトンとバットが落ちる音。

それより先に、鳴り響く大音声。

 

そしてゆっくりと、走り出す。

 

 

慌てて塁を回る必要はない。

何故なら、既にその打球はスタンドへと吸い込まれているから。

 

ゆっくりと彼が一塁を回ったとき。

 

 

俺とコーチは、静寂から解き放たれた。

 

 

 

「出たな…」

 

「出ましたね。」

 

「見越してたのか?」

 

「まさか。流石にそう上手く行くもんでは無いでしょう。流石にこれは、甲子園の申し子と言わざるをえません。」

 

 

困惑気味にやりとりをする俺たちを片隅に、降谷がベンチへ戻ってくる。

 

 

「これで、ベンチで休める…」

 

「疲れたのか?」

 

「疲れてません。最後までいけます。」

 

 

息切れ気味の降谷。

しかし、返答が早い。

 

無駄な力が抜けていたんだろうな。

 

 

だからこそ、鋭くいいスイングが出来ていた。

 

 

 

これで、5-0。

相手に感じさせる逆転のチャンスや望みを、かなり下げることが出来た。

 

 

4点と5点というのは、1点の差でもかなり大きい。

 

体感的なところが大きいかもしれないが、満塁ホームランを一発飛ばしたとしても追いつけないと考えれば、妥当だろう。

 

 

 

その後凡退を経て、降谷が6回のマウンドへ。

 

疲れは、目に見えて出てきた。

それはこちらの、降谷はスタミナがないという印象も含めてだから、相手からしたらここまでノーノーを食らっている相手の続投となれば、精神的な攻撃にもなる。

 

 

「降谷。この回までだ。相手に得点の糸口を掴ませない、素晴らしいピッチングだ。」

 

 

監督の言葉。

まあ、妥当だろう。

 

最初から降谷は6回までの予定。

 

そして、疲れは確実に見てわかるほど。

 

 

ここから一気に大崩の可能性もある降谷だからこそ、ある程度の見切りは付けなければいけない。

 

 

特にこの甲子園は、一発勝負。

幾ら点差が着いているとはいえ、相手は実力者。

 

ここから一気に捲られる可能性も、十分に有り得る。

 

 

無言で準備をする降谷。

しかしここで、監督も付け加えて言った。

 

 

「しかし、ノーノー最中という中でお前もマウンドを降りるのも、癪だろう。」

 

 

この言葉に、降谷の背筋がピンと伸びる。

 

 

「一本。フォアボールかヒットが出れば替える。そこまではどこまで球数が掛かろうが疲れが見えようが、替えん。それで文句無かろう。」

 

「ランナーは誰一人許しません。」

 

「チームを代表してマウンドに立つのが投手だ。ノーヒットノーランという記録が続けば、チームも誇らしいことこの上ない。できる限り、続けて見せろ。」

 

 

監督からの叱咤激励。

それに無言で応える、降谷暁という男の炎のようなオーラ。

 

やはり、乗せるのが上手い。

 

疲れているこの回。

どこまで引っ張るか、しかしこのノーノーの最中に降谷を交代させるというのも些か考えにくい話ではある。

 

 

完投に拘って無理に力を抜けば、付け入られる。

 

ノーノーが続けば、投げさせる。

その条件を達成する為には、ある程度出力を維持した状態で投げなければポコンと軽くヒットを打たれる可能性がある。

 

それを防ぎながら、予定通りに事が進むよう持っていっている。

 

 

 

「面白え。要は、ランナーを出さなければいいって事だろ?」

 

「幸い向こうはかなり高めを振ってくれてる。いつもの状態なら弾き返されるかもしれねえけど、今日はそれがねえ。」

 

「外野まで飛ばされりゃあ何とかするさ。」

 

 

選手たちが、それぞれ降谷の背中を叩く。

 

燃える闘志。

変わらない表情の中でも、確かにその瞳に炎が宿っている。

 

 

「見せてみろ、降谷。お前の…」

 

 

怪物伝説を。

 

 

 

 

 

 

そこからは、圧巻。

 

8番から始まる帝王実業の攻撃を、全く寄せ付けない。

 

 

金属の音は、鳴らない。

ただひたすら音を鳴らすのは、ミットから響く乾いた破裂音だけ。

 

 

特に1番の友沢への投球だ。

 

初球、外角低め。

155km/hのストレートに振り遅れ、ファール。

 

 

更に二球目。

今度は真ん中付近。

 

漸く来た甘いコースだったが、そこからボールは失速。

 

ストレートにタイミングを合わせていた友沢は、空振り。

あまりに綺麗な空振りに、場内は更に沸き上がる。

 

 

三球目は再び外角のストレートにファール。

甲子園最速タイ記録となる155km/hを再び繰り出すと、追い込んだ最後の一球。

 

 

内角高めで吹き上がるような豪速球。

 

そのスピードボールが、今大会大注目のスラッガーのバットを、掻い潜った。

 

 

『で、出たァァァ!甲子園最速の156km/hで空振り三振!正に甲子園の申し子、怪物降谷暁の伝説はここから始まります!前回から五者連続となる空振り三振で6回まで未だ許したヒットは0!』

 

 

ガッツポーズの降谷。

更に歓声が鳴り響き、会場は異様な空気に包まれる。

 

 

「お、おぉ。」

 

「こりゃあ凄いな。」

 

 

 

地鳴りのような音圧はこの甲子園球場を揺らし、熱を増す。

 

ストレートを投げれば沸き上がり、三振を奪えば揺れる。

 

 

会場の全てが、最早降谷だけを見ている。

それほどまでの魅力を、彼が見出しているのだ。

 

降谷にしか出来ない。

唯一無二の魅力であり、力。

 

 

 

 

「続投がチラついた中でもギアを落とさず投げたのは良い。だが、全体的に球威が落ちてきたな。」

 

「乱れちゃいないんだがな。後ろにはノリも控えてる。」

 

 

御幸の言葉に俺も頷き、ブルペンを見る。

 

先発組の状態が俺含めて良いだけに、ノリも登板タイミングがズレて調整も難しい中だろう。

 

しかしそんな中でも、登板さえすればいい結果を出してくれる。

 

 

作った試合を、職人の如く終わらせる。

 

これほど心強いことは、ない。

 

 

俺がいて、沢村がいて、降谷がいて。

そして後ろで、ノリと東条がいる。

 

全員が異なる特長を持ち、全員がその仕事を全うすることができる。

 

 

強い。

そしてこれだけ恵まれた環境で試合が出来るのも、これを含めてあと二つだけ。

 

 

寂しくなるのは、後でいい。

 

今はただ、この試合を全うする。

 

 

 

 

山口は降板。

マウンドには二年生の久遠が上がる。

 

前回の対戦では立ち上がりを叩いて4得点を奪っている。

 

 

(一度見ているからな。あとは、修正するだけ。以前との差を。)

 

 

打席に入る準備をしながら、俺はマウンドの久遠を見上げる。

 

 

 

彼も状態を上げて、今大会の失点はかなり少ない。

 

決め球のスライダーに加え、ストレートにも力が増している。

手元でカクンと曲がるスライダーに対して、手元でピュッと伸びるストレートに、前の試合でも多くのバッターがポップフライを上げていた。

 

リリース位置は、そこまで高くない。

 

角度のついたスライダーを活かすためだろう、その為落ちる系のボールは使ったのを見たことがない。

 

 

(リードはある。トドメを刺せ。)

 

 

監督からのサインに、ヘルメットの鍔に手を当てて了解の意を伝える。

 

 

 

さて、と。

狙い球は、流石にストレート。

 

投球割合の殆どを占めるストレートとスライダーだが、やはり入ってくるボールとなればそこそこ対応はできる。

 

どちらかと言うと、低い打点から伸び上がるストレートを打ち上げる方が、良くない。

 

 

スライダーを打ち損じる分には構わない。

まずはストレートに、しっかりと合わせる。

 

幸いなことに、スライダーは変化量こそ大きいが、ストレートとの軌道差はちゃんとある。

 

 

追い込まれたら、スライダーを振らされる。

カウントを整えられる前に、打ち返す。

 

 

 

初球、外から入ってくるスライダー。

やはり、カウント球としても使ってくるか。

それほど信頼の置けるボールと見た。

 

打ち返すのは、後ろに任せよう。

俺はまず、出ること。

 

二球目は膝元に外れるボール。

これを見送って、ボール1。

 

 

整えて早く追い込みたいだろ。

特に、捕手の猛田は基本的にストライク先行。

 

強気なリードがウリというが、まだ粗さが目立つ。

 

 

同じ強気なリードでも、一也とは違う。

であれば、ここは。

 

 

三球目。

インロー真っ直ぐ。

 

狙い通り。

 

強振はしない。

あくまで、センター前に落とす意識で。

 

 

「ッシュ!」

 

 

ラインドライブで、あまり飛ばないように。

打球は球足早く、二遊間の間をしっかり抜きながら外野の前に落とした。

 

 

これでいい。

一発を、今は求められていない。

 

どちらかと言うと、この打席はチャンスメイク。

後ろにいるクリーンナップへチャンスで繋ぎ、ダメ押しの追加点を奪いに行く。

 

 

 

続く小湊が、こちらの思惑通りにヒットで繋ぎ、ランナー一三塁。

 

 

ここで御幸が、魅せた。

 

 

『狙ったー!インコース膝元のスライダーを完璧に捉えました!打球は向かい風を押し退けて甲子園のスタンド上段!今大会五本目のホームランで青道高校8得点目!』

 

 

上がった打球は、甲子園のライトスタンド上段へ。

浜風が吹いて向かい風となるはずの左の打席から、文句なしの打球を放った。

 

打ったコースはインコース低め。

とはいえ、ストライクゾーンに甘く入ったボール。

 

これを、見逃さなかった。

 

 

「やってくれたな、貴様。」

 

「お膳立てしてくれたんだろ?」

 

 

 

しかし、ここまで期待通りにやってくれるとは。

 

決め球を狙って打つ。

投手にとって、これほどダメージの大きいものはない。

 

 

 

 

 

更に白州のフォアボールと盗塁、金丸のヒットで一点を追加点すると、9点リードで迎えた7回。

 

当初の予定外である降谷が、続投。

ヒットかフォアボールを許すまで投げるという約束の元、彼がマウンドへ上がる。

 

 

 

 

 

マウンドへ向かう降谷。

それを讃える、観客の拍手。

 

会場は抑えるか否かではなく、既にどこまでノーヒットノーランが続くか。

このまま最後までいくか。

 

 

多くの期待感に溢れる中、迎えた2番の蛇島に対しての初球だった。

 

 

 

『弾き返したー!詰まった当たりながら打球はセンター前へ!』

 

 

 

悲報、あっさり打たれる。

 

なんと言うか、予定調和というべきか。

片岡鉄心は既にこうなることをわかっていたのか。

 

 

ストライクゾーンに甘く入ったストレートを、詰まりながらも上手く打ち返された。

 

 

 

ここで約束通り、監督が投手交代の指示。

 

勿論、不服な降谷だったがこれは約束。

引き摺られるような形でマウンドを降り、ノリへスイッチ。

 

 

前回対戦の練習試合では打ち込まれてしまったが、今回はそれを払拭するべくマウンドへ。

 

ノーヒットから遂にランナーを出した帝王実業もなんとかここで反撃の狼煙を上げたいところだろうが、バッテリーは冷静にそれを逆手に取る。

 

 

4番の猛田にヒットを打たれてピンチこそ背負ったものの、スライダーとシンカーで打ち損じを誘って相手に的を絞らせない。

 

続く5、6番をキチンと抑えてこの回も無失点で切り抜ける。

 

 

 

 

7回裏は久遠も落ち着きを取り戻し、9番の麻生にヒットを打たれながらも無失点。

 

 

しかし、8回も続投のノリがこの回も危なげのない投球で三者凡退に切り抜ける。

 

 

 

 

9-0とかなり大きなリードで迎えた、最終回。

 

ここで、球場にアナウンスが鳴り響いた。

 

 

 

「青道高校、選手の交代をお知らせします。センターを守っていた大野くんがピッチャー。川上くんに変わって東条くんがセンター。2番ピッチャー、大野くん。7番センター東条くん。」

 

 

会場で響く音を背に、俺はブルペンからゆっくりとマウンドへ向けて歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。