燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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少し短めです




エピソード261

 

 

 

 

「最終回行くぞ。」

 

 

8回開始時点。

ベンチから出ようとする俺に対して、監督がそう言ってきた。

 

 

「幸いなことに登板間隔はかなり空いてるからな。試合は明後日。最後の調整がてら、投げて来い。」

 

 

落合コーチの言葉。

監督とコーチへ向き直って俺は小さく頷き、センターの守備へと向かう。

 

 

最後の決勝戦。

 

そこに向けて、最高のコンディションで向かう為に、実戦の感覚と緊張感を味わっておく。

 

 

「ある程度力は入れていい。丸一日休養日はあるし、その方がお前も入っていけるだろ。」

 

「はい。」

 

「決めてこい。」

 

 

 

ノリがテンポよく抑え、恐らく最後の攻撃になろう8回裏。

 

ベンチに戻るノリに追いつき、肩を叩いた。

 

 

「良いピッチングだった。特に8回は、ストレートに気持ちが乗ってた。いい攻めだったぞ。」

 

「ありがとう。多分、これが最後になるから。悔いは残したくないからね。」

 

 

笑顔でそう言うノリに、俺は笑顔で返す。

 

 

きっと決勝は、俺と本郷の投げ合いで終わる。

 

どちらかの状態が著しく悪くない限りは、どちらかが倒れるまでやり合うことになるだろう。

 

 

そして二番手。

もし俺にアクシデントがあったとしても、恐らく投げるのは沢村。

 

となると必然的に、ノリの出番が来るのは三番手となる。

 

 

今大会の状況。

そして、俺の状態。

 

恐らく、この試合がノリにとっての最後の登板になる。

 

 

「ありがとう。いつも後ろで準備をしてくれて。それがどれだけ心強かったことか。」

 

 

紛うことなき、本音。

 

降谷と沢村も勿論、頼りになる。

しかし同い年で、それもいつも後ろで何かがあった時に出てきてくれる。

 

それが先発投手として、どれだけ心強いことか。

 

 

 

静寂。

途端に、ノリの頬を光るものが走る。

 

 

「は?え、おい。どうした?」

 

「いや、なんか大野からそんなこと言われると思ってなかったから。そっか、そう思ってくれてたのか。」

 

 

当然の困惑。

 

まだ試合中である。

まさか突然泣き始めるとは思わなかった。

 

 

「俺はいつも大野がいてくれて。俺にはチームを背負うことも、なにも出来なかったから。」

 

「そんなことは無い。支えてくれる人がいてくれるからこそ、俺たちがいる。なにも出来なかった奴は、ここにはいない。」

 

 

そうしてノリの頭に右手を置き、笑顔で返した。

 

 

「じゃあ、行ってくる。」

 

「うん。任せたよ、エース。」

 

 

外野手用の長いグローブから、朱色のグローブへ。

 

投げることに特化した、少し小さめなグローブに嵌め替える。

 

 

 

ブルペンで軽く肩を作り、準備。

やはり、大会を通して調子が良い。

 

行っている球も、投げている感覚も。

 

 

攻撃が終わったタイミングで、俺は小野に最後の一球を投げ込んだ。

 

 

 

「ナイスボール!」

 

「ありがとう、小野。」

 

「暴れて来いよ。全部掻っ攫って来い。」

 

 

そう背中を押してくれた小野に笑顔で返し、俺は深呼吸をしてブルペンを後にする。

 

 

 

支えてくれた仲間がいる。

影に隠れるような働きでも、彼らがいなければ勝って来れなかった。

 

 

行こう。

 

みんなが勝ちを求めているから。

 

 

 

「青道高校、選手の交代をお知らせします…」

 

 

 

場内のアナウンス。

それに伴い、歓声が鳴り響くのが、わかる。

 

そうだ。

もっと盛り上がってくれ。

 

今この場の主役は、俺だ。

 

俺たちだ。

 

 

このチームを見ろ。

この輝きは、この瞬間だけなのだから。

 

 

マウンド手前。

軽く跳ねて、呼吸を整える。

 

上がりすぎている。

 

だが、それで良い。

 

 

昂れ。

高まれ。

 

そして、燃え上がれ。

 

 

 

「三人だけだ。全力で行くぞ。」

 

「応。」

 

 

御幸との、確認。

それだけでいい。

 

 

バッターボックスには、代打の三年生。

彼も、この二年半を血の滲むような努力をしてきたはずだ。

 

ならば全力で応えねば、失礼か。

 

 

 

(まずは、ここ。)

 

 

御幸のサインに頷き、投げ込む。

 

 

初球はアウトローのストレート。

少し、外め。

 

 

球審の手が上がる。

やはり。

 

降谷のピッチングを見てて思っていた。

今日は、外に広めで内は狭い。

 

こっちの方が、俺には有利だ。

 

 

 

二球目。

続けざま、インハイ。

 

これには、空振り。

 

 

(まあまあ走ってるな。悪くないくらい。)

 

(十分だ。)

 

 

続けて出されたサイン。

迷わず頷き、構える。

 

遊び球はいらない。

 

ただ、仕留める。

 

 

左バッターに対して、狙ったコースはインコース高め。

 

先程のストレートよりも、甘く。

 

 

全身の縦回転を、ボールに僅かに”ズラして”乗せる。

 

 

「シュ!」

 

 

スピードボール。

俺は空振りを確信して、体を半回転。

 

そして間もなくして、御幸のミットが音を鳴らした。

 

 

『空振り三振!エースの大野、代打で出てきた峰島をインコース抉るカットボールで三振を奪います!』

 

 

バッターは困惑気味の表情。

 

やはり、狙いはストレートか。

だからこそ、軌道はストレートと同じように走る分こんな表情にもなる。

 

 

(良いね、いい顔してくれるわ。)

 

(降谷のストレートを見てる分、合わせられる可能性は十分に考えられる。特に次の相手は、アレだからな。)

 

 

マスク越しにもケラケラ笑っている御幸の表情が見て取れる。

 

が、喜ぶのもここまで。

次のバッターは、今大会でも有数の、天才だ。

 

 

降谷のキレまくったストレートを初打席で外野まで持って行ったスラッガー。

普段はクリーンナップを打つ彼が、今は1番にいる。

 

 

(友沢…。)

 

 

美馬同様、バットコントロールに優れつつ、走力分をパワーに振った強打者。

もし日本代表で招集されればそれでもクリーンナップは確実。

場合によっては4番を任される選手だ。

 

 

対応力に優れ、ホームランを打つ技術もパワーもある。

 

今大会は御幸に次いで3本。

しかし、敬遠が多い中でその数を放っている。

 

 

 

(初球から振ってくるぞ。まずはここから。)

 

 

御幸のサインに頷き、モーションへ。

 

まずは、出方を見る。

ストライクゾーンギリギリのコースから沈むツーシーム。

 

 

空振りを誘いながら、弾かれてもミスショットになりやすいコース。

 

コントロールは間違えない。

だからこそ、ここで出方を伺う。

 

 

これは…見逃すか。

 

1ボール。

続けざま。

 

今度は同じコースにストレート。

 

意図的にスピードを落としながら、回転数は上げる。

 

これにより、球速に対してのホップ成分を上げて、浮き上がるような軌道を描かせる。

 

手元で沈むツーシームとは、真逆に変化させるカウント取りのストレート。

 

これが友沢のバットに当たるも、ボールの下を擦りファールとなる。

 

 

(ファール…だけど。)

 

(まあ、一発だけのカウント取りじゃなきゃ使えねえな。もう多分、アジャストしてくる。)

 

 

三球目。

今度はインハイにストレート。

 

吹き上がる軌道よりも、スピードで力押し。

 

ギアを上げて、振り遅れさせる。

 

 

これを、見送った。

 

 

友沢は、何度か頷く仕草。

そして、バットを一閃。

 

追い込んだが、恐らく今のでストレートのスピードと軌道を確かめた。

 

 

全部振ってくれたら助かるんだが。

 

なるほど、そう簡単には抑えさせてくれないか。

 

 

四球目。

これ以上ストレートに合わせられたくないからこそ、一度カーブ。

 

外真ん中付近からボールゾーンまで落ちる緩いボールだが、これで一度軌道を誤らせる。

 

 

 

さて。

決め球をどうするか。

 

左バッターだから、インハイのカットでもいいが、内に入るボールだからこそ反応が早い友沢であれば反応される可能性もある。

 

 

出来れば外に落ちるツーシームを振ってくれたらいいんだが。

 

 

(その為には、もう一球見せてえな。)

 

(わかった。)

 

 

次は、ボール球。

高さとスピード感で空振りを取るというよりは、ファール。

 

目線を内に持っていく。

 

 

思惑通り。

ボール球だが、手を出してくれた。

 

多分ボールなのはわかっているはずだが、ヒットにする技術があるという自信と、見逃し三振の影が見えたのだろう。

 

 

審判も人の子だ。

コントロールが良い印象のある投手で、見えづらい環境下にあれば、多少はストライクゾーンを狂わせることはある。

 

優れたバッターだからこそ、周囲の環境による凡退を嫌ったのだ。

 

 

 

(どうする。カット使ってもいいぞ。ストレートで攻めきってもいい。)

 

(いや、明後日の試合もあるし、あんまし使いたくねえな。余計に巨摩大に見せるこたぁねえし、何より肘に来る。それに、ストレートだけで抑えられるようなバッターじゃ、ねーだろ。)

 

(心外だな。それに心配するな。俺の武器のひとつ、たったの数球じゃあ影響なんて出ん。)

 

(万全で行きてえだろ。それに、押し切れるよ。お前と、俺なら。)

 

 

そうして悪い笑みを浮かべる御幸。

 

面をしてても、わかる。

こいつは、そういう男だから。

 

 

ムカつくが、そうだな。

ここで押し切ってこそ、か。

 

 

御幸が構えたのは、インコース。

 

 

コースはボール球。

先程よりも、遠く。

 

それを察知した友沢は、バットを止める。

 

 

スピードボール。

しかしそれは、急激に失速しストライクゾーンへと向けて加速し始める。

 

 

感じ取った頃にはもう遅い。

 

踏み込めなかった友沢は、ミットの音が鳴ると同時に天を仰いだ。

 

 

インコースボールゾーンから抉り込むようにストライクゾーンを掠めるツーシーム。

 

所謂、フロントドア。

相手にストレートと誤認させるカットやタイミングを外すチェンジアップとは違い、最早反応すらさせない。

 

反応が早いバッターだからこそ、それをさせない。

 

 

右拳を握り締める。

そして御幸の返球が届く。

 

 

2アウト。

帝王実業を追い込んだ状態で迎えた最後のバッターは、このチームで随一のバットコントロールを誇る蛇島。

 

 

(さあ、最後だ。ここで一気に上げるぞ。)

 

(応。で、思惑は?)

 

(勿論、巨摩大藤巻に…本郷に圧力をかけるピッチングを頼む。)

 

 

頷く。

 

 

(誇示しろ、大野夏輝の力を。青道高校史上、最強のエースの力を。)

 

 

 

トルネード。

初球は、外角低めのストレート。

 

いつものイメージより、半個分外。

それでも、取ってくれるはず。

 

 

ドンピシャ。

ピタリと止まったミット。

 

それに合わせて、球審の声が響く。

 

 

蛇島の眉間に僅かにシワ。

 

いい表情。

崩したくないが、そのポーカーフェイスが僅かに崩れている。

 

 

遠いだろ。

だが、そこが今日の一杯だ。

 

 

テンポよく二球目。

今度は、少しだけ外へ。

 

どう出る?

 

手を出すも良し。

ヒットゾーンには落ちない。

手を出さなくても良し。

それならそれまでのバッターだ。

 

出してきた、ファール。

 

英断。

ここまでストライクゾーンを広げられたら、溜まったもんじゃないはずだ。

 

いい判断をするバッターだからこそ、ここはバットに当てると思ってた。

 

 

追い込んだ。

 

遊び球は、3つ使える。

 

 

投げるボールは決まっている。

そうだろ、一也。

 

 

出されたサイン。

そう、それ。

 

頷き、モーションに入る。

 

 

本郷よ。

俺はここにいる。

 

お前はどこまで来ている。

これを見て、何を思う。

 

 

(来てるんだろ、既に。ならばこれを見て、燃やしてみせろ。)

 

 

同じモーション。

しかし、過去の俺ではない。

 

これが俺の現在地(いま)だ。

 

 

 

「っらァ!」

 

 

真ん中高め。

敢えて、甘いコース。

 

ここまでトントン拍子に厳しいコースで追い込んだからこそ、蛇島の狙いとは全く異なるコース。

 

 

しかしそれが分かるのは、試合の中にいる選手だけ。

周囲から見れば、甘いコースですらバットに当てられないと思うだけだ。

 

 

チームには、覇気を。

相対する敵には、絶望を。

 

それが、俺という男だ。

 

青道高校のエース、大野夏輝だ。

 

 

『空振り三振ー!最後は144km/hのストレートで試合を締め括りました!抑えとしてエースがしっかりと試合の幕を閉じ、圧倒的な強さで青道高校、決勝進出ー!』

 

 

 

ガッツポーズと共に、声を張り上げる。

 

強かった相手に、敬意を。

そして、俺たちは強いと、誇示する為に。

 

 

最強の名を冠して、俺たちは決戦の舞台へと駒をすすめた。

 

 

 

 

 






投稿頻度が終わっているのですが、ご勘弁ください。
私事ではあるのですが、転勤と昇格が重なってかなり時間が取れないのです…。

空いている時間にこまめに書いておりますので、ゆるりとお待ちいただければと思います…
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