燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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書きたいから書いた。
好みじゃない方もいるかもしれません。





エピソード262

 

 

 

 

準決勝の帝王実業との試合を快勝で終え、次の日。

 

決勝前の休養日として与えられた最後の日である。

 

 

「いやー疲れた。」

 

 

宿舎の広い和室に寝転ぶようにして天井を見上げる。

 

たった10日ほどの宿泊だが、地元を離れての遠征。

秋大を勝ち抜いたが故に行けなかった修学旅行を、今味わっている気分である。

 

 

疲れたとは言ったが、普段の練習と比べてしまえば決して身体の疲労は無いに等しい。

 

大事に使ってもらっているからなのか、それとも甲子園という舞台で高揚しているからなのか。

疲れはあまり、感じていない。

 

 

 

「にしても、早いもんだな。」

 

 

呟かれた言葉に、俺は視線を移す。

 

後頭部あたりで手を組み、座った座椅子の背もたれに大きくもたれかかった御幸。

それを見て、俺は小さく笑う。

 

 

甲子園。

たった2週間弱の決闘だが、その短期間のトーナメントで日本一を決める。

 

故に濃密で、時間が経つのも早い。

 

 

相手は強いし、みなかける思いはある。

 

 

 

(思えば、あの敗戦からだったか。)

 

 

昨年の、稲城実業との決勝。

 

俺は鳴との投げ合いに呼応し、限界以上の力を引き出せたあの試合。

 

 

最強だと思っていた先輩たちが、敗れたあの試合。

確かに、力は五分だったはずだ。

 

 

だが、負けた。

 

相手はそれ以上に勝負強かった。

そして、五分では時の運で勝ち負けが決まってしまうという、怖さ。

 

 

最後の夏。

勝つか負けるかでは、ダメだった。

 

確実に勝てるように、強くならなければと。

 

 

 

「早かったものだ。この一年も。」

 

「夏輝の怪我から始まったようなもんだからな、俺たちの代は。」

 

 

御幸からの言葉に、顔を顰める。

 

まあ、確かに。

 

 

秋の大会直前、夏休み最後の練習試合。

夏大で緊迫した試合を展開させた薬師との練習試合で、俺は肘を故障した。

 

実際は勤続疲労によるものだが、この際どちらでもいいものとする。

 

 

「意地悪いことを言うな。」

 

「でも、大野が投手として出れないってなってから、沢村も降谷も一気に成長したからな。」

 

 

負担は掛けてしまったが、二人はそれを跳ね除けて大きな成長を遂げた。

 

降谷は足りなかった制球力と安定感、そして元々持ち合わせていたストレートと爆発力が。

 

沢村は卓越した集中力とコントロール、そしてオリジナリティの変化球とチームを鼓舞する明るさが。

 

 

確実に、この青道高校というチームの底力を上げてくれた。

 

 

今は他のチームでもエースを担えるほどの、好投手へと成長してくれた。

 

俺が今こうしてベストコンディションでこの甲子園の決勝まで迎えるのも、二人の成長は必要不可欠だった。

 

 

頼ることを教えてくれたのは、確かに二人だったのかもな。

 

 

 

「新チームになったときは、流石に前ほど打撃に期待してなかったからな、正直。」

 

「おい。」

 

 

白州の強めの肩パンチ。

 

しかししっかりと、左肩。

 

 

だってそうだろ。

少なくとも2番から5番、特に哲さんの替えは絶対に効かない。

 

あれほど打席を任せて頼もしいと思った人は、いなかった。

 

 

無論、今はそんなことは無い。

 

哲さんとはまた違う進化の仕方をしたが、御幸は4番として成長した。

 

チャンスは勿論、安定した打撃と流れを変える一発、打席にいるだけで沸き立つ安心感は哲さんと稲実の原田さんを併せたようなそんな打者になった。

 

 

「なんかお前もスラッガー化したし。」

 

「パワーヒッターになったつもりは無いが、何とかクリーンナップを打てる選手になれて良かったよ。」

 

 

白州を見ながら、そう言う。

 

基本的にはアベレージを残しつつ器用なバッターというのは変わっていないのだが、前年に比べてもバントの数が圧倒的に減った。

 

 

というのも、出塁率と長打率が格段に上がっているからこそバントでアウトを献上するより打たせた方が得点に繋がると判断されているから。

 

 

 

やはり、上二人に関しては絶対的な信頼をおける打者。

 

それが二人いるということが、どれだけ頼もしいことか。

 

 

これに加えて、小湊や金丸といった後輩。

そして倉持やゾノたちも。

 

打線にいて、それぞれがそれぞれの良さを持っている。

 

 

 

本当に、強いチームだ。

 

守ってもらえば鉄壁。

攻撃を任せれば、絶対に点を取ってくれる。

 

 

間違いなく、去年より強い。

だからこそ、今ここまで来ている。

 

 

鳴は、越えた。

まだ俺だけの実力ではないが、それでも勝つことが出来た。

 

あとは結果を見せて、日本一の投手としての名乗りを上げるだけだ。

 

 

 

最強の青道として。

日本一の、チームとして。

 

最後の砦はやはり、このチームになるか。

 

 

 

「巨摩大藤巻。やはり、上がってきたな。」

 

 

俺がそう呟いた時、先程まで和やかだった空気がピリつく。

 

それもそのはず。

俺たちが試合を終えたその後。

 

 

直ぐに行われた、もう一つの準決勝が脳裏に焼き付いているからだ。

 

 

 

巨摩大 3 0 1 1 0 0 4 0 0

清正社 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 

 

 

試合は序盤から動き出し、先発のマウンドに上がった清正社の川端をいきなり叩いた巨摩大藤巻打線。

 

3番円城のタイムリーと4番青柳の犠牲フライで3点を先制すると、その後もコンスタントに得点を奪っていき、優位な状態で試合を展開していく。

 

 

7回には、疲れを見せた川端を一気に攻め立て、9得点目。

 

 

9-0と大量リードで迎えた最終回。

ここで巨摩大藤巻は、エースの本郷を投入する。

 

 

 

一番から順番に三振で切ってとり、最後のバッターとなった三番の山田。

 

俺がセンバツで唯一ホームランを許した相手に対して、ストレート2球で追い込む。

 

 

最後は外低めから縦に大きく落ちるSFFを振らせて、空振りの三振。

 

 

9回の裏、清正社が全身全霊を掛けてきたのに対して、本郷もまた全開。

選抜準優勝校である清正社の上位打線を、三者連続の三振で完全に制圧して見せた。

 

 

 

強い。

ただ、それだけ。

 

 

攻撃力は全員が長打を放つ力を持ち、守備力は鉄壁。

個々の守備範囲も勿論だが、甲子園特有の黒土の中でもエラーのない安定感と思い切ったシフト配置。

 

そして、磐石な投手陣に、纏めあげる絶対的なエース。

 

 

どこかが秀でている訳ではなく、全体的なバランスが良い。

 

故に弱点がなく、付け入る隙がない。

 

 

勝つためには、とにかく上回るしかない。

本郷を打ち、巨摩大打線を抑える。

 

至ってシンプルだが、だからこそ厳しい戦いになるだろう。

 

 

 

 

「そういえば、特集そろそろじゃない?」

 

 

ノリの言葉に、俺は寝転んでいた身体を起こしあげる。

 

 

「特集?」

 

「甲子園決勝に向けて、ニュースに組み込まれているんだそうだ。確かにそろそろだな。」

 

 

そう言いながら、白州がテレビをつける。

 

日々見慣れたニュース番組。

今日の事柄、先週の事件が進展したという話題。

 

 

そんないつものように流れる番組を見進めながら、俺は起こした身体を壁に預ける。

 

 

 

すると、画面はスタジオへ。

アナウンサーの言葉と共に、熱闘甲子園という文言が表示される。

 

 

「おっ、始まったぞ。」

 

「凄いな。センバツの時とは扱いがまるで違うな。」

 

 

我々からすればセンバツも春の甲子園として立派な意味を持つ大会なのだが、世間はそうではない。

 

 

というのも、最早夏の風物詩にも数えられる夏の甲子園は、野球ファンだけではなく他のスポーツ好きやそうでない人達も目にすることが多い。

 

夏休み、そしてお盆休み。

 

親戚一同が集まるこの時期には、割と多くの家庭でこの甲子園が流れている。

 

 

無論、俺は小さい頃から野球に触れてきた為か当たり前のように甲子園が流れていた。

 

 

 

 

『打って、打って、打ちまくる!西東京代表、青道高校!』

 

 

最初に映ったのは、打撃。

 

初戦の御幸と降谷のホームランに、準々決勝の俺と御幸と白州のホームランが歓声と共に画面に映し出される。

 

 

「よくもまあ、俺のホームランを使う。まるで俺がホームランバッターみたいな見せ方だ。」

 

「ヒャハ、あのパフォーマンスしちゃあな。てっきり意識してるのかと思ったぜ。」

 

 

倉持が俺の背中を叩きながら、そう言う。

 

パフォーマンスというのは、俺がバットを掲げてゆっくりと一塁へ歩き出したもの。

 

無論俺は切り抜かれるのを全く意識していなかったし、これに関しては漸くチームの勝利に直接結びつく働きが出来て嬉しかったことと、高揚した気持ちが勝手に形になったものだ。

 

 

『チームとしては打率本塁打打点共に今大会ナンバー1。高い得点力と攻撃力で相手投手に絶大な重圧を与えてきました。』

 

『そんな中でも特に注目なのが、4番の御幸くん。』

 

 

「そんな中でも特に注目、らしいぞ。」

 

「るせ。」

 

 

『特徴的なサングラスから狙いを澄まし、鋭いスイングでスタンドへ運ぶ青道高校の主砲は、今大会打率はなんと5割6分2厘と絶好調。ホームラン数は今大会トップの5本を既に放っています。』

 

 

うむ。

こうして実際に数字を並べられると、異次元さがよく伝わる。

 

だって、打席に立ったら半分はヒットを打ってるってこと。

そしてそれがアヘ単やヒットメーカーではなく、ホームランを狙いながらやっているから、バッテリーからしてもこれほど怖いバッターは中々いない。

 

心底味方でよかった。

 

本人には、言わんが。

 

 

 

『打線では4番。守りでは扇の要であるキャッチャーのポジションに座り、この強力打線を率いる打者の主力として存在感を見せつけています。』

 

 

「というか、なんでこんな打ててんのよ。予選の時でもこんな暴れてなかったでしょ。」

 

「確変に入ってるからな。」

 

 

ノリの質問に、俺が適当にそう答える。

 

 

実情で言えば、以前と待ち方を変えた。

 

以前は、完全に読み打ち。

相手の配球を読んで、自分の狙い球を確実に弾き返す打ち方というキャッチャーらしいアプローチをしていた。

 

 

それが、鳴との対戦を経て反応打ちがとにかく良くなった。

 

あの打席から集中力の上げ方、研ぎ澄まし方。

来た球に対する対応力が上がったからこそ、今の結果に結びついている。

 

 

まあ、本人には言わないが。

変に意識されても困るし。

 

 

「見えなかったものが見えるようになった。それに、打たなきゃ無茶する奴がいるし。」

 

 

そう言って、こちらを見る御幸。

無論、何も返さない。

 

 

『甲子園新記録となる156km/hを計測した降谷くんに加えて、準々決勝で完投を見せた沢村くんと、とても素晴らしいピッチャーが揃っています!』

 

『そんなピッチャー陣の中で一際輝きを放っているのが…』

 

 

 

二人のピッチング動画が流れた後。

ここでマウンドにピントが合い、置かれた白球をグローブで拾い上げる姿が映し出される。

 

朱色のグローブ。

その後に、背中に描かれた背番号がゆっくりと鮮明になった。

 

 

『背番号1番、大野夏輝!』

 

 

「おぉ、随分派手な登場だな。」

 

「良かったな、降谷の記録更新に隠れなくて。」

 

「大野はいいよ、俺なんてカメラにすらワイプされてない。」

 

「お前ら少しはエースに優しくしてくれんものか。それとノリ、悲しいことを言うな。」

 

 

『最速146km/hのストレートに、ストンと落ちるツーシームファストに真横に高速で曲がるカットボール、更にはカーブにチェンジアップと豊富な球種でバッターを手玉に取ります。』

 

『何より特筆すべきは…』

 

 

その解説とスタジオの声が消え、スタジアムの音声と実況の音だけが響く。

 

アウトロー、アウトロー、インハイ、アウトロー。

 

 

子気味のいい編集で、俺の投球の中で決めに行ったコースのボールが連続で流れる。

 

 

『この、正確無比のコントロール。この甲子園では大会を通して許した四死球は未だに0。ヒットすら殆ど許さず、現在の防御率はなんと0.00と、まだ誰1人としてホームベースを踏ませていません。』

 

『厳しいコースに鋭い変化球を投げ込む様は正に、獲物を狩る狩人(ハンター)!』

 

 

「は、ハンターぁ?」

 

「ハンターってお前…くっ。」

 

「笑うな。」

 

 

困惑しながらも、ケラケラと笑う御幸に軽めの腹パンを入れる。

 

 

「ごめんって、ハンターさん。」

 

「分かってて言ってるだろ。恥ずかしいの。」

 

 

続けられる特集映像。

 

監督のインタビューに、主将の白州の全国制覇という目標。

練習風景と共に、流れていく。

 

 

『目指すは春夏連覇。初の快挙に向けて、明日の決勝戦に挑みます。』

 

 

 

自身らの特集を終え、続けて巨摩大藤巻。

 

その映像が流れる中で、俺は再び仰向けに寝転んで天井を見上げた。

 

 

そうか。

決勝戦だから、もう最後なのか。

 

泣いても笑っても、勝っても負けても。

 

 

どんな試合になろうと、これで俺たちの。

 

青道高校のチームは、ひとつの終わりを迎える。

 

 

 

「あと一試合、か。」

 

 

負けるつもりなない。

勝つこと。

 

これまではそれ以外要らないと思っていたが、最後だから。

 

 

最後くらいは、欲張りたい。

 

 

せめて、皆が誇れるようなエースとして。

 

一緒に闘ってくれる仲間にも。

声を上げてくれる、みんなにも。

お世話になった、監督やコーチにも。

 

皆が自慢だと思えるような、そんな投手だったと。

 

 

「日本一だ。このチームは。あとは俺が、日本一になるだけだ。」

 

 

小声で呟いたその誓い。

幾度となく唱えてきたその誓いを口に出し、俺はそっと目を瞑った。

 

 

 

 

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