今回短めです。
決戦前夜。
甲子園春夏連覇を掛けた最後の砦として立ちはだかるのは、やはりと言った感じで巨摩大藤巻が待っていた。
「良い試合運びだな。清正社との試合も、本郷を殆ど温存した状態でここまでの点差が付くとは。」
宿舎のテレビに映っているのは、昨日の巨摩大藤巻と清正社との準決勝。
俺たちが帝王実業との試合で決勝進出を争った後に、その後の甲子園球場で試合を行った。
結果は、巨摩大藤巻の圧勝。
初回から先制点を奪い、序盤からリードで運んだ試合展開となる。
「俺たちは川端を攻略するために二巡掛かったからな。攻撃力は前回の比じゃないと考えた方が得策だな。」
「本郷は言わずもがな、守備が安定してるぜ。あの甲子園のバウンドで殆どエラーもないし、場数踏んでるだけあるわ。」
白州と倉持の会話を聞き、俺も頷く。
清正社の川端は、球種こそ少ないものの、重いストレートと鋭く速く落ちるパワーカーブを軸にして素晴らしいピッチングを見せていた。
俺たちがセンバツで対戦した時も一巡目は全く当たらず、二巡目から当たり始めた。
カーブの落差が大きいからこそ、一巡での対応は相当難しい。
のだが、それを一巡目の、それも上位から打ち込んでいるのだから。
相当、攻撃側も仕上がっていることだろう。
「ホームラン数はそこまで多くはないが、得点数は多い。犠打や盗塁、足はもちろんの事戦略的に効率的に得点を奪っている証拠だ。打者の特徴はもちろんの事、シチュエーションに応じた攻める守りが必要になってくる。」
今大会での得点数は、ウチに次いで2位。
最後まで試合をしているから当然ではあるのだが、それにしても多い。
しかし、ホームランは特筆して多い訳ではない。
クリーンナップで出ているのは、谷中のみ。
あとは6番起用の多い羽生が一本、代打で出てきた山崎が一本と合計三本である。
しかしながら、チャンスでの一本をしっかりと取り切る勝負強さ。
そしてそもそものチャンスを作り出す為の戦略。
甲子園という地を理解しているからこその、鋭く低い打球を狙って打っている。
打順は流動的に変化しており、相手投手や選手の調子次第で大きく替わっている。
が、そんな中でも今大会で固定されているのは、2番から4番までの三人だ。
2番に座るのは、前回対戦時と同様に主将の西。
極端に打力が高い訳ではないが、出塁率から走塁技術も高いと非常にバランスの取れたバッターだ。
守備も範囲が広くガッツ溢れるプレーをする為、この選手を起点として流れを掴むことも多い。
正に走攻守三拍子揃った、万能型の2番である。
3番は、二年生の円城。
前回対戦時は5番だったが、地区からの好調もあり今大会では3番に固定。
ホームランは未だに出ていないものの、ランナーを置いた状態では勝負強さを発揮し、結果を残してきている。
打てる捕手で且つ一年から試合に出始め、メガネでイケメンとスペックで言えばジェネリック御幸。
高いコンタクト力に加え鋭い打球で外野の間を抜いていくラインドライブ。
どちらかと言うと、打球の質は御幸より白州に近い。
4番は、これまた前回対戦時と同様青柳。
長打率が高いが、ホームランは通算12本と甲子園常連の名門校としては控えめ。
ウチの御幸があれだけムラがあって40本越えなのを考えれば、物足りないと思うのも頷ける。
が、バチンと一発で仕留めるというよりは、シチュエーションに応じて最も適した打撃を選択できる非常に器用な打撃をするバッターである。
繋ぐ時はヒットで繋ぎ、1点が欲しい時は確実に犠牲フライや叩きつけるなど打点をしっかり取る。
必要とあらばバントもするし、ホームランも勿論狙う。
御幸や哲さんとは別ベクトルで、素晴らしい4番である。
ここ三人に関しては、他の打順が流動的に変わる中でもずっと固定で来ている。
「代打も積極的に使うから、ベンチメンバーの特徴もそこそこに頭入れとかねーとな。」
「あぁ。その辺は任せる。」
「はいはい。」
だが恐らく、状態の良い準決勝のスタメンで行くだろう。
俺が左右どちらも苦にしないというのもあるし。
となれば、調子のいい選手で固めるのが一番だ。
「攻撃に関しては、確実に厳しい展開になるだろう。春の時点でこちらも一点しか取れなかったエースの本郷をぶつけてくるのは確実。準々決勝を見るに、終盤での投げミスなどもかなり減っている。」
準々決勝では、山守相手にノーヒットノーラン。
相手が守備型のチームとはいえ、甲子園出場常連校を全く寄せ付けずに片付けた。
ここで念の為、本郷政宗という投手の特徴を整理しよう。
ストレートは最速で154km/h。
常時150km/h近い威力のある直球は、多少粗さがありながらもそこそこ纏まった制球力を誇る。
好調時は、このストレートに全員が振り遅れている。
そして、伝家の宝刀SFF。
球速は138km/hから145km/hほど。
ストレートとの球速差は約10km/hで、このスピードを持ちながら大きく沈む。
スピン量が通常のSFFに比べて多いのだが、縦回転の要素が大きい分スピードを維持した状態で落ちる。
そして何より、打者により近いところでストンと落ちる為、ストレートとの判別はまず不可能だ。
ストレートに近い速度で、限りなく近い軌道。
これを両方対処しようとするのは、無理難題である。
このSFFも、制球力が良い。
挟む都合上、やはり抜けることはあれど殆どが低めに制球されている。
これに加えてスライダー。
縦よりも横の要素が強い。
スビードもそこそこあるし、これとストレートの組み合わせだけでも抑えられるくらいには質が高い。
あとは、たまに投げるカーブ。
上3つに比べると見劣りするものの、野放しにすると緩急差で普通に打ち損じる。
狙うには投球割合は少ないし、中盤あたりの様子見で使っているイメージがある。
全球種がそこそこ制御でき、スタミナはもちろん十二分。
悪い日もあるが、そこそこに纏められるところは降谷と違うところ。
調子のムラっ気はあれど、大事な試合…特に、投手戦になったときや大一番では確実に好調を合わせてくる。
まあ…調子は絶好調を想定した方が良いな。
次世代のナンバーワン投手。
そして、今年も最強と、名高い。
「連打が難しいとはいえ、一発が見込めるような投手ではない。いくら本郷も成長したとはいえ、炎天下の甲子園では確実に疲れは出てくる。序盤からしぶとく食らいつき、楽なイニングを作らずに負担を掛けていく。勝負は中盤から終盤にかけて。ジワジワと削って、一気に攻め立てるぞ。」
球数を稼ぎにいくつもりはないが、出来るだけ早打ちはせずに。
それぞれ狙いを絞りつつ、基本的には高めのストレートを打ちに行く。
低めはSFFとの見分けがつかない上に、球威もある分厳しい。
コントロールは良いが、低め徹底というよりかは高めでも勝負に来てくれる為、そのボールに狙いを絞っていきたい。
「追い込まれてからではストレートとSFF両方の対応は難しい。基本的にはストレートに狙いをつけつつ、早いカウントでも甘いボールを来たら確実に仕留めに行く。」
うん、その方が良い。
投手はタイプによって、調子の上げ方が違う。
例えば、降谷はストライク勝負で空振り三振を取っていくとエンジンが温まり、どんどんリズムが良くなっていくタイプ。
沢村は自分のテンポでどんどんアウトを重ねていくと、ボールも勢いを増していくタイプ。
俺は、空振り三振だろうが見逃し三振だろうが、相手が手も足もでなければ気分が上がっていく。
そして本郷は、空振り三振を取って調子を上げていくタイプ。
アウトになってしまったとしても、相手が気持ちよく終わらないような打撃をしていくのが、まずは重要にはなってくる。
「当てに行く必要はない。積極的で強いスイングを掛けて、徐々にプレッシャーをかけて行く。」
バッター面々が、頷く。
「厳しい試合展開になるのは間違いない。だからこそ、主導権は絶対に渡せない。」
監督が、俺の目を見る。
言わんとすることは分かっている。
そして、任せてくれることも。
「頼むぞ、大野。お前に任せる。」
幾度となく言われ、幾度となく託された思い。
明日でこれも最後。
だからこそ、俺はいつも通りに答えた。
「勿論。」
「期待している。」
多くはいらない。
沢山、教えられてきたから。
「青道高校エース大野夏輝として、お前にこの試合を託す。何がなんでも、勝ちきってこい。」
「…はい。」
投手は、その闘志と投球で。
打者は、強いスイングと圧力で。
今大会最強の牙城を、崩していく。
打順は、以下の通り。
1番 遊 倉持洋一
2番 投 大野夏輝
3番 二 小湊春市
4番 捕 御幸一也
5番 右 白州健二郎
6番 三 金丸信二
7番 一 前園健太
8番 左 麻生尊
9番 中 東条秀明
レフトに麻生を入れ、守備を固めたオーダー。
1点が命取りになる試合だからこそ、最も無難な選手起用である。
降谷は休養。
しかしいざとなれば、投げる用意をしておく。
二番手の予定はないが、準々決勝で完投した沢村も準備をしてもらう形。
基本的には俺の完投が前提となるが、万が一延長になった時には二人にシフトする可能性も十分に有り得る。
相手は本郷正宗。
次世代に最強と謳われるであろう、右腕。
前回対戦時は、俺は途中でマウンドを降りた。
だから、完全に奴に勝ちきったとは、言えない。
これは俺が本当の意味で日本一の投手になる為に。
そしてチームが、日本一のチームとなる為に。
「グラウンドで闘う者、ベンチで準備する者、スタンドで声を上げてくれる者。全員が、この青道にとって必要な仲間たちだ。日本一のチームになる為に努力してきた、仲間たちだ。全ての力を合わせ、全員で勝つ。それが俺たちの野球だ。」
「これまでの経験と努力、全てを総動員して勝ちに行くぞ。」
監督から告げられた、最後の指示。
それを聞き、全員が声をあげる。
俺はそんな声を聞き、ゆっくりとその部屋を後にした。
余談ですが、WBC非常に悔しかったでございますな。
そして素人ながら、ファンとしてNPBという組織にも課題が大いにあると感じました。
次回WBC、期待したいですな。
シーズンもまた楽しみましょう、私も贔屓だけではなくNPB全体を応援したいと思います。