7月某日。
また今日も、それぞれの高校が甲子園をかけてぶつかり合う。
俺たち青道高校の今日の対戦相手は、明川学園。
精密機械と呼ばれるほどの2年生エース、楊舜臣率いるチームだ。
先攻は、俺たち青道高校。
今日も普段と何ら変わらず、先頭打者である倉持が打席に。
右ピッチャーである楊に対して、左の打席に入った。
(楊の引き出しを引き出せれば完璧だけど)
無理に追い込まれて、打ち損じるのも良くない。
まずは、塁に出るのが最優先だろう。
倉持もそれをわかっているだろう。
(セーフティーでいいぞ、まずは出塁することが最優先だ。)
ノーワインドアップから、楊がモーションに入る。
マウンド上の彼が全身を捻転した瞬間、倉持がバットをホームベースと並行になるように寝かせた。
セーフティーバント。
内野守備の前にあえて打球を転がし、処理をしている間に一塁ベースまで辿り着くと言うもの。
しかし。
「セーフティくるぞ!」
内野手の誰かが、そう声を上げる。
流石に予測されていたか。
すぐに倉持がコースを変える。
三塁方向ではなく、一塁のラインギリギリへ。
こう言う時でも冷静に決められるのは流石だな。
完璧なコースに転がった打球、誰もが内野安打を確信していた。
が、転がっていった先には楊舜臣。
既に一塁側に転がる打球のフォローに入っていた。
「上手い。」
敵のファインプレーながら、ボソリとそう呟いてしまう。
それほどまでに、美しいフィールディングであった。
「守備上手いな。本当にお手本みたいなピッチャーだな」
隣にいる一也も、同じ意見のようだ。
「「お手本…」」
そして、その横にいる2人もつぶやく。
一年生の彼らはまだ守備にも荒さが目立つため、こうしてスムーズに動ける楊に対して何か感じるところがあるのだろう。
おっと、感心している場合じゃない。
先頭打者である倉持が早速ワンナウトを献上しているわけだから、亮さんには何とか出塁してもらいたい。
「なんか言いた気だな。」
「いや、何も。」
倉持にそう言われ、俺は口を閉ざす。
とりあえず、亮さんの打席を見守ろう。
初球、アウトローのストレート。
まずはこれを見て、1ストライク。
2球目、全く同じコースに再びストレート。
これも見逃し、2ストライク。
3球目、殆ど同じコース。
だが、恐らくボール一個分外れていたのだろう。
1ボール2ストライクと、尚もピッチャー有利のカウントである。
4球目、カーブ。
インコースの低め、ストライクからボールになる変化球。
これもバットが全く動かず、2-2と並行カウントとなる。
5球目、再びカーブ。
全く同じコースに投げ込まれ、フルカウントとなる。
(やっぱり、亮さんのこと警戒してる。)
6球目、アウトローにストレート。
なんとそのボールに全く手が出ずに、亮さんが見逃し三振に倒れた。
珍しいな、選球眼がある亮さんが見逃し三振なんて。
大体追い込まれたらカットするか決めるかのどっちかなのに。
笑みは浮かべているものの、少し不機嫌そうな表情。
「らしくないっすね。」
「上手くやられたよ。審判を完全に味方にしてる。」
あーそういうことか。
審判と言えど、人間。
2球目と3球目に投げられたボール一個分の配球。
最後のボールも、少しボール気味だったものの、3球目のボール球よりも少し内に入っていた。
その為、楊は最後の最後でゾーンに入れたのだと、審判は判断したのだろう。
コントロールがいいことをアピールすることで審判のジャッジを狂わせた。
というよりは、ストライクゾーンを一気に広げて見せた。
「これじゃ、クサいコースも振りに行かなきゃいけなくなっちまったな。」
純さん、あなたはいつもボール球も振ってます。
それにヒットにしてます。
敢えて口にはしないが、そんなことを思っていた。
「純、積極的にいけよ。 」
「わーってら!」
早くもツーアウト。
ここまで相手の理想通りのシチュエーションで、やられている。
点を取りたいのはそうだが、せめて相手が思った通りに試合が運ばれるのは避けたい。
「んだらっしゃい!」
狙ったのは、3球目。
1-1から投げ込まれた、外角のストレートを思い切り引っ張った。
高く上がった打球、少しボール球だったが振り切っているため、内外野の間に落ちるヒットとなるだろう。
しかし、相手のレフトがこれを好捕。
ダイビングキャッチを見事に成功させ、3つ目のアウトを取った。
「ナイスプレー…というよりは、ほぼラッキーっぽいな。」
溜め息をつく一也。
とはいえ、ファインプレーに変わりはない。
アウトを1つ計上したことよりも、一番ダメージが大きいのは流れを完全に手放したこと。
1つ目のアウトは、内野(というより楊)の軽快な守備によるバント封じ。
2つ目のアウトは、エースの持ち味を遺憾無く発揮して審判をも味方につけた三振。
3つ目のアウトは、外野手の超ビックプレーによる守備の堅牢さを表すレフトフライ。
まさに、理想。
明川学園が望んでいた試合展開そのまま体現しているような初回である。
「いやな幕開け。」
ボソリと、口にしてしまう。
何となくだが、流れが悪い。
「あぁ。丹波さんが流れを断ち切ってくれれば、完璧なんだけどな。」
やはり、一也もわかってる。
「丹波さん。」
「ああ、わかっている。」
とにかく、勢いを断ち切る。
それが、丹波さんの最優先事項。
これができるかできないかで、試合の展開は大きく変わる。
マジで。
マウンドに上がる、丹波さん。
185cmという高い上背を揺らしながら、帽子の鍔に手をかける。
先頭打者が、打席へ。
まずは、ストレートから入る。
丹波さんの調子を測る、大事な一球。
ワインドアップ、高い打点から腕を目一杯振るう。
高身長から放たれる、角度のあるストレートが投げ込まれた。
まずはアウトコース。
少し浮いていたが、十分いいコース。
そう思ったのと同時に、快音が鳴り響いた。
「え?」
打球はライト方向へ。
少し詰まっていたが、ライトの前に落ちるシングルヒットとなる。
(初球からストレートを狙っていた?にしてもよく当てたな。)
少しの疑念を浮かべながら、俺はランナーに目を向ける。
まあ、まぐれってのも考えにくい。
丹波さんも驚いてるけど、まだ落ち着いてるから大丈夫だ。
2人目の打者が打席へ。
今度もストレートから入る。
高めに外れたボールだったが、これも弾き返される。
今度も、内野の頭を越えるテキサスヒットとなる。
(嫌なヒットだな。)
腕を組みながら、そう思う。
ジャストミートはされていないものの、絶妙なコースにおちている。
半ばラッキーなヒットである。
ここからクリーンナップ。
初回からランナーを2人背負った状態でのピンチである。
まずは、3番。
ここから丹波さんも一気にギアを上げる。
と言うより、カーブを織り交ぜて三振を奪いにいく。
初球、2球目とカーブを続けて追い込むと、最後は高めのストレートで空振り三振に切って取った。
続く4番に対しても、カーブを軸に組み立てるバッテリー。
このバッターに対しては、5球目のカーブで三振を奪った。
しかし、5番。
ここで、痛恨のフォアボールを出してしまう。
理由は簡単。
低めのカーブが、見極められている。
空振りを奪いに行ったカーブが、ことごとく見逃される。
そして、ストレートは完全に振りに来ている。
気づけば、低めに外れるカーブでフォアボールとなってしまう。
ツーアウト、満塁。
ここで打席に立つのは、ピッチャーの楊。
このチームで、最もスイングの鋭い打者である。
ここは2人も慎重に組み立てる。
初球、まずは外角のストレート。
これは少し外に外れてボールとなる。
しかし、まあ。
(亮さんが三振した時と全く同じコースだけどね。)
恐らく、印象の問題。
ボール一個分の出し入れや変化球でもピンポイントでコースに決める、精密機械ばりのコントロールを誇る楊。
暴れているとは言わないが楊に比べてアバウトな制球と変化球が続けて外れる丹波さん。
同じコースだったとしても、審判からみた印象は変わってくる。
狙ってギリギリのコースに決めたか、たまたまギリギリのコースに決まらなかったか。
割と、審判というのも心理状態で範囲が決まることがある。
2球目、同じく外角のストレート。
今度はギリギリ決まってストライク。
楊が、ボソリと何かを呟いた。
3球目、今度はカーブ。
これがゾーンから少し外れてボール。
また、楊が何か呟いた。
そして、4球目。
金属音とともに、鋭い打球が左中間を突き破っていった。
ちょっとバタバタしてまして、投稿頻度落ちます。
犯罪というと大事ですが、被害を受けておりましてね…
試合中なので何とか間隔は狭められるように頑張りますが、長い目でお待ちいただけると幸いです。