燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード264

 

 

 

青道高校が決起をする別地。

 

彼らとの決戦を控えるもう一つの最強もまた、その地でこの夏最後のミーティングを始めていた。

 

 

テレビに点る、試合映像。

そこには、3回戦目の白龍高校との試合が映し出された。

 

 

白龍と青道というカードは、選抜高校野球選手権でも対戦がある。

それこそ自分たちが青道に敗れた準々決勝の次に、準決勝として行われた試合こそがこの二校の対戦であった。

 

 

 

春に開催された選抜高校野球選手権では、ベスト4という素晴らしい結果を残しているのは白龍。

 

走攻守総合的に優れたチームであり、特に走のスキルツリーが尖った特化型のチームである。

 

 

方や青道高校は、センバツ優勝校。

 

高い攻撃力と優れた守備力、癖のない戦略と今大会有数の万能型のチームであり、打者全員が特徴的な打撃型のチームである。

 

 

と言っても、決して荒いチームではなく、全体ベースが高水準に纏まっている上で打撃力が秀でている為、その他の分野に関しても他の高校を凌駕する実力を持つ。

 

唯一、走の部分に関しては選手の能力任せな所がある為、全員が高い技術を持っている訳ではない。

しかしそれを補うだけの打撃を誇る選手が、多い。

 

 

センバツで対戦した際の結果は、4-2で青道の勝利。

先制を許した後に中盤で逆転、そのまま磐石な投手リレーで勝ちきった。

 

共に力をつけた夏の大会。

リベンジに燃える白龍と、甲子園連覇に向けた青道との試合は、結果以上に圧倒的な実力差が露呈した。

 

 

結果は6-0。

 

終始青道高校がリードし、流れ自体も渡すことなく最後まで試合を終えた。

 

初回から小湊、金丸と二年生がしっかりと役割を果たして先制点。

 

その後もコンスタントに点を追加していき、守ってはエースの大野が6回を投げて無失点のピッチングと付け入る隙を与えない。

 

 

自身のノートを広げてその視線をテレビに向けながら、円城は口元に手を置いた。

 

 

強い。

試合運びもそうだが、選手個人がそれぞれの役割を理解した上でそれを真っ当する。

 

個々が特徴的なステータスであるが、それが上手く噛み合っている。

 

 

「強いチームだ。今まで見てきた中で最もな。」

 

 

低く濁った声が、ぽつりと零れる。

テレビ横の椅子に腰掛けていた新田幸三から漏れた初めての言葉に、円城は表情を崩さなくとも驚愕していた。

 

基本的にはどんなチームでもフラットに評価し、どんなに強いと思ったチームですらもこんなことを言ったことはなかった。

 

そんな彼が、ただただ一言。

強いと、評価していた。

 

 

「穴がない。しかし器用貧乏などではなく、全てが高水準。特に上位打線は、誰が投げようと抑え込むのは困難だろうな。」

 

 

試合映像で響く歓声と、時折挟まれる新田の言葉。

それ以外に音が鳴ることはなく、ただ淡々と選手たちは次なる対戦相手の姿を目に焼き付ける。

 

 

 

試合が一段落したところで円城は、自身の手によって各打者の特徴の書かれたノートに視線を落とした。

 

 

 

先頭の倉持は、その走力に目が行きがちだが、出塁率自体もかなり高い。

 

特に対右となる左での打席はヒットが多く、出塁すればほぼ自動的に二塁まで到達されてしまうと、かなり厄介な選手である。

 

 

2番に入るのは、どちらになるか分からないが大野か白州。

 

大野は長打こそほとんど無いが、優れたバットコントロールと高いセンス、そして配球読みによる粘り強さが売りの巧打者。

 

そしてこのチームの主将である白州は、高いミート力と選球眼、そして鋭い打球で放つ長打力の高さが売りの万能型の選手である。

 

 

そして以降のクリーンナップ。

ここが兎に角、怖い。

 

 

3番の小湊は、通算打率4割6分と圧倒的なミート力と間を抜いていく打撃技術を持つアベレージヒッター。

今大会でも、そのヒットメーカー振りを発揮している。

 

 

5番は先述の白州が入ることが殆どだが、白州が2番に入った際は6番の金丸が入る。

 

チャンスに強いクラッチヒッターであり、特に終盤ビハインドの場面では無類の勝負強さを誇っている。

 

このチームの中では秀でた成績ではないものの、数字では語れない怖さがこの選手にはある。

 

それを象徴するのが、地区決勝での稲城実業との試合。

エラー絡みで失点を許し、1点ビハインドで迎えた最終回に放った同点ソロホームラン。

 

それを、今年の世代ナンバーワン左腕の成宮から放っている。

 

 

 

そして、このチームの野手の顔である男。

4番キャッチャーの、御幸一也。

 

今大会の打率、本塁打、打点の三冠王であり、ドラフトでも注目のバッター。

守備力もその強肩と高いキャッチング技術、限りなく少ないエラーと打撃特化ではないことを表している。

 

 

内外共に特に苦にしておらず、白州や小湊とは違って長打力の高いホームランバッターである。

 

基本的にはプルヒッターだが、センターから逆方向にもホームランを打てる技術もある。

 

このチーム…いや、今大会を通して見ても抑えるのが最も難しい打者と言っても過言では無いだろう。

 

 

そしてこの選手をそう簡単に歩かせることが出来ないほど打者の層が厚いことが、このチームの強さのひとつとも言える。

 

 

このチームに対して序盤を0点に抑え先制点を上げた鵜久森高校とエースである梅宮が隠れた大エースだということは、あまり知られていない。

 

 

 

 

そしてこれだけの攻撃力を誇りながらも、守備力もかなり高い。

 

捕手の御幸を中心に、鉄壁の二遊間である小湊と倉持。

そして外野陣も白州を中心とした高い守備力を誇る選手が並んでいる。

 

唯一ファーストの前園とサードの金丸は多少のミスが出るものの、それでも守備範囲も安定感も申し分なく、この夏を経て更に守備力が増している。

 

 

投手は、言わずもがな。

二年生の降谷と沢村は、他校ではエース確実と言われるほどの実力者であり、それぞれが高い性能を誇る。

 

降谷は、剛腕。

右の本格派で最速は156km/h、手元でストンと落ちるフォークとタイミングを外すスローカーブを織り交ぜて三振の山を築く。

 

沢村は、技巧派。

とはいえ、最速は140km/hと速く、コーナーを突く正確なコマンド力とカットボールや大きなツーシームと手元で変化する特徴的な変化球を投げ分ける。

 

そして影に隠れがちだが、リリーバーの川上も良い。

タメの長い変則サイドハンドで130km/hのストレートと、特徴的な横曲がりのスライダーと縦落ちのシンカーと、中々初見では捉えにくいボールを低めに集めて丁寧に打ち取る。

 

 

 

だが、この三人を凌駕する実力を誇るは、エース。

 

背番号1の、大野夏輝だ。

 

ノーワインドアップから身体をゆっくりと捻転させる独特なトルネード投法と、如何にもノーコンっぽい投球フォームから精密機械ばりのコントロールでストライクゾーンを目一杯広く使う。

 

 

最速146km/hのストレートはキレが凄まじく、球速以上に速く感じさせる。

前回対戦時も、ギアを上げた彼のストレートは殆ど捉えられなかった。

 

そして、前回対戦時にはなかったこと。

恐らくだが、直近の試合ではストレートを使い分けていると、円城は推察していた。

 

 

カウント取りに使う130km/h前後のストレートと、決めに行く140km/h越えのストレート。

 

前者はバッターが振り遅れると言うよりは、ボールの下を振ってファールを稼いでいる。

打者目線から見れば、ホップしているように感じるのだろう。

 

そして後者は、勿論反応すらも送らせているほど速い。

 

 

球速でみればそこそこ。

しかし恐ろしいのは、前回対戦時の最速が140km/hで、今大会…というか、夏の地区決勝では146km/hを計測している。

 

この短期間で6km/hもの球速を上げているのも勿論そうなのだが、前回対戦時ですら捉えることが出来なかったボールがさらに速くなっているのだ。

 

速いだけならまだしも、これをストライクゾーンとボールゾーンのどの位置にも完璧に制球ができる。

 

 

実情で言えばそれは相手が好投手でありかつ成宮というライバルとの投げ合いだったからこそ、大野の調子が絶好調も絶好調だったから出た球速なのだが。

 

それを、円城含め巨摩大藤巻のナインは知らない。

 

 

加えて、ストレートと近い球速で変化をする二球種。

ストレートと同軌道から伸びずにストンと大きく落ちるツーシームファスト。

そして、加速しながら手元で伸びながら大きく曲がる高速スライダー(本人曰くカットボールらしい)。

 

この二つが、また本当に厄介なのだ。

 

 

ツーシームはストレート同様、何処にでも制球できつつ何処からでも落とすことが出来る為、空振り三振は勿論のことボールゾーンから入れて見逃し三振を取ることも多い。

 

カットボール、これは異常なボールだ。

ストレートのように伸びながら、手元で加速するように高めだとホップして曲がる。

 

変化球というより、真っ直ぐがスライダー方向に曲がる。

矛盾しているような表現だが、これが一番しっくりくるのだ。

 

 

あとは縦のカーブと、タイミングを外すチェンジアップ。

然程特筆するべきボールではないのだが、この二つも大野の球種に加わるだけで大きな武器となっている。

 

 

一試合を容易に投げ切るスタミナはあり、地区決勝では成宮と延長15回、そして次の日に行われた再試合9回を投げきっている。

 

ピンチに強くフィールディングも上手いと、マウンド捌きも超一流である。

 

欠点といえば、クイックが遅いことくらいか。

しかしこれも、牽制が上手いのと御幸の強肩があってそこまで極端には走られていない。

 

 

この大野という投手だけでも厄介なのにも関わらず、これを制御する御幸がまたいい配球をする。

ただでさえ完全無欠のエースを、抜け目のない最強の投手へと仕立て上げているのだ。

 

 

因みにこの大野が、他の沢村と降谷が他の試合でもそこそこ長いイニングを投げてくれている為、疲労すらほとんど無い全開の状態で立ち塞がる。

 

 

 

「はっきり言って、付け入る隙はない。が、その牙城を打ち崩さねばこちらに勝ち目はない。」

 

 

相手は、今大会殆どの試合で二桁安打を放っている超攻撃型のチーム。

しかし勝つには、一点ゲームとなる展開に持っていかなければならない。

 

何とも、厳しい。

そう思いながら、円城は唯一の希望とも言える相棒に視線を向けた。

 

 

 

この試合、大量得点は見込めない。

 

ただでさえ得点が難しい世代最強右腕と名高い大野が、疲労が全くない状態、それも前回登板を見るに絶好調の状態で向かってくる。

 

稲城実業との決勝戦では、一試合目となった15回をエラー絡みの一失点のみで、自責点はひとつとしてない。

 

 

幸いなことに、本郷も今大会は絶好調と言って良い。

コントロールが多少荒れてもストレートで空振りが取れるし、SFFが抜けることも試合を通して見て殆どない。

 

スライダーもよくキレているし、余っ程の波が来ない限りは打たれることがないだろう。

 

 

勝つには、何とか一点をもぎ取って、本郷が抑え切る。

 

それだけが、この青道高校に勝つための唯一の希望であった。

 

 

 

「明日のスタメンは初戦と同じ。先発は正宗で行く。打ち込まれたら直ぐに替える、後ろのピッチャーは序盤から準備しておけ。」

 

 

新田の言葉に、本郷が眉間に皺を寄せる。

 

 

「なんだその眼は。まさか自分ならあの相手を完封できると言い切れるのか?自惚れるのも大概にしろ。奴らはこれまでの相手とは違う。」

 

 

そう言い切られた本郷は、立ち上がる。

 

挑みかかるような眼。

何も言うことはないが、確かにその闘志は怒りという着火剤で既に燃え始めていた。

 

 

「言っておくが、貴様が大野に勝っているところなんぞ一つもないからな。制球もスタミナも立ち振る舞いも、全てにおいて貴様を凌駕するしている。球速なぞという数字だけは、唯一勝っているかもな。だがそのストレートの空振り率も被打率も、あちらさんの方が上。精々勉強させて貰うんだな。」

 

 

歯を食いしばる本郷。

しかし、それで良い。

 

この男は、負けん気も心の強さも一級品だ。

 

何より、反骨精神はこれまで見てきたどの選手よりも強い。

 

 

青道高校との決勝戦。

どうにかして勝ち筋を見出す為には、本郷というエースが最大限の力を発揮して抑え込むことが最低限の条件となる。

 

逆に言えば、大野よりも一年早く彼と並べているのは、この本郷以外に誰もいない。

 

そして今年の全投手を見ても、彼と張り合うことができるのは、稲城実業の成宮くらいしかいない。

唯一とも言える勝ち筋が、まだこのチームには残っているのだ。

 

 

 

修羅のような表情と、感情をぶつける闘志というのは、大野にも負けていない。

そして、怒りや闘志をそのまま力みではなく力として変換できる、唯一無二の特長がある。

 

 

嫌われたって構わない。

何よりこの高校野球、勝つことこそが正義なのだから。

 

学生スポーツとはいえ、それはメディアによって放映され、多くの資金の動きが発生する。

 

そして、世間に知られるということは、必然的に将来性も変わってくる。

 

 

勝つこと。

そしてこの甲子園という舞台を制覇することこそが、何よりも大きな財産となる。

 

鬼と言われても構わない。

ナインたちからの反感があったって構わない。

 

最後にメンバーが、より良い成長が見込めるのであれば。

 

 

それは新田がこの巨摩大藤巻の指揮を執るようになってから、決して変えたことのないひとつの信念であった。

 

 

 

「相手は間違いなく、日本一強いチームだ。打線は噛み合い、それぞれの打者能力も高く。そして何より、エースが良い。俺が見てきた中でも特に強いチームだ。」

 

「風穴開けるにゃ少々手間取るってもんだ。何とかしてぶち抜くぞ。」

 

 

低く濁った声。

しかし確かに、覇気のこもった声。

 

確かな熱量にナインたちも呼応し、その声を張り上げた。

 

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