燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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お待たせしました。
投下していきます。




エピソード266

 

 

 

『さあ始まります、第00回全国高等学校野球選手権大会決勝戦。本日もこの阪神甲子園球場には、多くの観客と両校を応援する方々が詰めかけています。時刻は9:30を回りました、試合開始予定まではまだ一時間ほどありますが、会場の熱気は既に最高潮です。』

 

『手元の温度計は32℃を計測しています。会場は既に満員です。初の夏の甲子園、そして春夏連覇を狙う青道高校。対するは、昨年の甲子園優勝の北の雄、巨摩大藤巻高校。両校準決勝ではエースを温存、恐らくこの試合で両者の直接対決となるでしょう。』

 

 

忙しないスタンドに、実況席ではテレビ中継用の実況が事細かにその状況を伝える。

 

鳴り響く歓声は、その期待感によるもの。

 

 

一塁側には、今年の甲子園優勝候補筆頭の青道高校。

 

高い攻撃力とバランスの良い守備、そして絶対的エースと磐石の投手陣と高い総合力を誇る春の甲子園覇者がその試合に向けて準備を初めている。

 

ライト側アルプススタンドは、その校名にもある通りのブルー一色で染まっている。

 

 

三塁側には、昨年の甲子園優勝の巨摩大藤巻高校。

 

青道同様にバランスの良いチームで、二年生の絶対的エースと積極的に動くベンチと青道とは似て非なるもの。

 

春の甲子園でこそベスト8だが、敗れたのは準々決勝での甲子園との試合。

それも青道がエースを投入した上で最も苦戦を強いられたチームである。

 

 

悲願の初優勝で春夏連覇となるか。

それとも、悔しさを糧にリベンジとなるか。

 

今年の夏の最強を決める決戦が今、幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ、具合は。」

 

 

各選手たちがノックの準備をする中。

 

今日の主役となるであろうエースは、グラウンド脇に用意されたブルペンで着々と準備を始めていた。

 

 

既に気温は高く、体温も上がっている。

ストレッチも済み、あとは投げ込んでいくだけ。

 

立ち投げで軽く肩を温め終わった辺りで声をかけてきた落合に、大野は視線を向けた。

 

 

「良い感じです。相当休ませてもらいましたし、身体もキレてる感じがします。」

 

「なら良い。早めに肩を作って、ベンチに戻ってこい。今日も暑くなるぞ。」

 

 

落合の言葉に無言で頷き、キャッチボールを再開させる。

 

気温は既に、32℃。

今日の最高気温は、予報が言うに33℃となっている。

 

 

日が登り切った11時頃に最高気温を迎え、その後は継続的に高い気温で夕方まで30℃越えが続く予定である。

 

気温が高いのもそうだが、晴天。

雲が少なく、その分日射の時間が長い。

特にスポーツをするに於いては、この紫外線がまた気温以上に厄介だったりする。

 

紫外線が肌に当たった際に起こるごく弱い火傷を修復する為に相当なエネルギーを使い、それが結果的に体力を削ることになる。

 

勿論単純に日射で体温が上がってしまい体力を奪われるのも。

 

 

だからこそ、多少暑い思いをしても大野は徹底して登板時は長袖のアンダーシャツを身につけている。

 

 

「あっついわ。」

 

「だろうな。」

 

 

額から流れてきた汗を前腕で拭い、御幸から投げ返された白球を朱色のグローブで受け止める。

 

徐々に力が入り始める、投球練習。

ある程度の回数をこなし、ペースが上がっていく。

 

 

 

「座ってくれ。」

 

「おう。」

 

 

 

大野のジェスチャーに頷き、御幸が捕手特有の捕球姿勢に入った。

 

プレートに足をかけ、セットポジション。

ふぅっと息を吐くと共に、地面から足へ、足から体幹を通って肩、そして腕から指先、そしてボールまで感覚が通う。

 

 

大野の準備が整ったのを感じ取ってか、御幸が何を言うでもなくすっとミットを構えた。

 

 

全身の捻転を確かめるように、初球。

ストライクゾーンの真ん中に構えられたミットに向けて、投げ込まれた。

 

 

「シッ!」

 

 

コースは、真ん中高め。

キレのある直球が、パチンという乾いた音と共に御幸のミットに収まった。

 

 

「すまん、少しズレた。」

 

「ナイスボール、コントロールは気にすんな。」

 

 

投げ返されたボールを再び受け取り、右手で転がすようにして馴染ませる。

 

 

続けざま。

今度はアウトコースに構えた御幸。

 

やはり、想定より高くボールは進行した。

 

 

「んー。」

 

「気にするな。続けろ。」

 

 

少し制御力に欠けると、大野は感じた。

 

普段であればここまで温まっている状態であればそこまでコントロールが荒れることはない。

 

特に今大会に関しては、自分が狙ったコースに関してはほぼ完璧に制御しきることができている。

 

 

しかし今日は、どうにも高めに浮いてしまう。

 

 

ストレートを幾分か投げるも、やはり同様な状態。

途中から変化球を混じえるもツーシームは若干引っ掛かり気味、カットボールも少し高めに行っている。

 

唯一いつも通りの抜く系は、このレベルになってくれば基本的に見せ球として使うことがメインのボールになってくる。

 

 

「ラスト、ストレートで締めろ。」

 

「もう少しだけ。まだ、感覚が。」

 

 

落合の言葉に、大野が少し目を見開いて反論する。

 

しかし落合は首を横に振り、顎髭に触れながら返した。

 

 

「余計に疲れるわけにゃいかんだろ。お前のことだ、試合になればコントロールはどうにかなる。そう心配するな。」

 

「は、はぁ。」

 

 

頭を掻き、腑に落ちないという表情をしながらも大野はセットポジションに入って最後の一球を投げ込んだ。

 

 

コースは、右打者の外角低め。

いつもほどのピンコースではないものの、悪くないコース。

 

御幸のミットからの快音を聞き、大野は一度帽子を取って汗を拭った。

 

 

「球はいいぜ。それにお前が気にするほどコントロールも荒れちゃいねえ。大丈夫、気にすんなよ。」

 

「そういうことだ。一旦ベンチ戻ってゆっくりして来い。今日は長えぞ。出来るとこで体力温存しとけ。」

 

「わかりました。」

 

 

グローブを外してベンチの方へ引き上げる大野。

 

それを見送りながら、落合は立ち上がる御幸へ近づいて小声で問いかけた。

 

 

「受けてみてどうだ。」

 

「制御が効いてないようには見えます。ただ、ボール自体はかなり良いです。多分、ココ最近で一番良いかと。」

 

 

御幸の言葉に落合は唸る。

 

はっきり言って、どちらとも取れない。

球威はあるのだが、如何せんコースが少し甘い。

 

 

これまでの投球を見るに、大野の絶好調時は球威も去ることながらコントロールがずば抜けて良くなる。

 

ストライク際のボールの出し入れ。

それを、どの球種でも行うことが出来る。

 

実際は多少の変化のズレとかもあったり、カーブに関してはサイドの指定、チェンジアップは低め限定と多少の制約はある。

 

 

が、それでも高校生としては類を見ないほどの制御力は、ある。

 

 

 

今日は球がキレている。

それこそ、成宮との決戦以来の大絶好調。

 

しかしどうだか、コントロールが少しズレている。

 

 

「判断つかねえなぁ。今まで無かった傾向だ。」

 

「いや、一度だけあるんです。」

 

「何?」

 

 

御幸が俯きながら言う。

 

つまり、良い傾向ではない、ということか。

そう落合は判断し、片目を閉じた。

 

 

(夏輝がこれだけコントロールを乱しているのは、一年前。薬師との練習試合で球がそれこそキレまくってた日だ。そしてその日は…)

 

 

大野夏輝が、肘の不調で緊急降板した同日である。

 

 

嫌な予感。

ミットを外した御幸に、冷たい汗が流れる。

 

 

「お前が受けてダメだと思えば、直ぐに替える。地区決勝で散々わがまま聞いたんだ、多少はこっちの言うことも聞くだろ。」

 

「はい。」

 

 

御幸の反応。

やはり、読めないということか。

 

実際、大野の怪我の現場に落合も立ち会っている。

 

だからこそ、御幸同様のシーンが頭には浮かんでいる。

 

 

無論、前回の怪我に関しては勤続疲労と慣れないカットボール、それに改善前のフォームによる肘への急激な負担が原因。

今回とは、条件が大きく異なる。

 

しかし、やはり嫌な予感が過ぎってしまうのは事実だ。

 

 

ここまで維持された好調。

高すぎる出力が、ここまでここぞとばかりにずっと維持されている。

 

休ませている分疲労は少ないが、侮れない。

 

 

「何かが起こるのは、間違いねえな。」

 

 

それが吉か凶か。

どんな形であれ、最後に笑ってくれればそれでいい。

 

そんなことを思いながら、落合は御幸の後を追ってベンチへと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

幾分か時間が経ち、ざわめく観客席。

 

試合開始が目前まで近づいてきた、合図だ。

 

 

 

投球練習を既に終え、ベンチの端で腰を掛ける大野はジッとグラウンドを見つめる。

 

 

(始まる、俺の…俺たちの夏の終わりが。)

 

 

鼓動が既に早まり、体温は上がる。

 

緊張感。

圧迫感。

 

張り詰めた空気と早まる心臓の音。

筋肉が張る、視界が狭まっている。

 

 

だが、それでいい。

 

それが大野夏輝という選手の加速装置であり、エンジンが温まっている証拠でもある。

 

 

 

瞳を閉じる。

思い出されるのは、数々の記憶。

 

数多の敗戦。

そして、負けたくないと誓った新チーム。

 

全員で潜り抜け、泥臭く戦って。

 

今、高校生最強を決める決戦の舞台にいる。

 

 

悔しくて、涙が出たこともあった。

嬉しくて、涙が出たのは初めてだった。

 

 

成宮との因縁に終止符をうち、ここまで来た。

あとは、結果を見せるだけ。

 

 

(どちらにせよ最後なんだ。二年間待たせた分、最高の結果を見せたい。)

 

 

夢の甲子園は、二度敗れた。

先輩たちの夏も、監督の期待も。

 

今更失ったものは、取り戻せない。

 

だが、せめて。

 

集大成を見せるのであれば、最高の結果を。

 

 

深呼吸の後、ゆっくりと瞳が開かれる。

その覚悟が、大野の瞳に輝きが灯らせた。

 

 

 

「いくぞ、夏輝。」

 

 

聞き慣れた、相棒の声。

視線を上げると、既に仲間たちがベンチの前で円陣を組み準備を始めていた。

 

 

「おう。」

 

 

ベンチから出て、その輪に入る。

 

 

 

「また遅刻ですね夏輝さん!」

 

「流石エース様。」

 

「るせ。」

 

 

いつものように茶化される。

そんな光景に、仲間も笑う。

 

これも、大野が当番前に集中力を高める為に必要なことだと理解してくれているからこその愛のあるいじり。

 

 

「よし、揃ったな。」

 

 

白州の言葉に、ナインが頷く。

 

このチームを纏めた長。

そして、このチームを日本一にするべく引っ張ってきた主将。

 

本人は支えただけだと言うかもしれないが、このチームの大黒柱として活躍してきた実績は事実だ。

 

 

 

集った、青き精鋭たち。

 

高い攻撃力を誇りながらも、その献身性と協調性を持ち合わせた、正に打線。

打てば獰猛、守れば鉄壁の野手たち。

 

 

一人は、切り込み隊長。

類い稀なる脚と洞察力を持ち合わせ、その脚力で敵の牙城を崩しに掛かる足のスペシャリスト。

 

一人は、起爆剤。

バッターとしては非力ながら、バットコントロールと配球読みで相手投手の特徴を引き出す献身。

 

一人は、ヒットメーカー。

天才的な才能と木製を操る技術力で、敵陣に風穴をあける打線の加速装置(ブースター)

 

一人は、不動の四番。

その一打で形勢を変え、ここぞの場面で部類の強さを発揮する絶対的な主砲であり四番。

 

一人は、職人。

洗練されたバッティング技術と柔軟なスキルを持ち合わせ、四番との連携に最も長けた達人。

 

一人は、お祭り男。

逆境になればなるほど結果を残す強い精神力を持った、次世代の四番候補筆頭。

 

一人は、引っ張り屋。

チームを鼓舞する声掛けと、弱点こそあれど自身の長所をとことん伸ばした、努力の結晶。

 

一人は、守備職人。

緻密なその守りで一点分の価値を生み出す、守備特化の花形。

 

一人は、便利屋。

外野手から投手と幅広い起用法と、輝かしい実績の裏でもがいてきた内なる闘志。

 

 

 

グラウンドに立つ全員が。

そして、準備をする全員が。

 

応援する、仲間達が。

 

全員が、このチームに勝ちをもたらす。

 

 

白州が全員を見渡したところで、監督である片岡もその輪に入ってきた。

 

 

「最初に一言、いいか。」

 

 

低い声。

30代だからこそのまだハリのある声だが、しかし監督として多くの経験をしてきた、貫禄のある声。

 

聞き慣れてきた声に、ナインも耳を傾けた。

 

 

「薬師高校、市大三高、そして稲城実業。他の高校もそうだが、地区から本当に厳しい試合が続いた。どこと戦っても強敵揃い。決して楽な試合は、なかった。」

 

「この甲子園でも、実感しただろう。俺もそうだ。どのチームも精神実力共に強く逞しかった。だが、それに勝ち続けてきたのは、お前たちだ。」

 

「誰がなんと言おうが、相手がどれだけ強かろうが。そして、不安になろうが。これだけは覚えておけ。」

 

 

一呼吸。

そして片岡が、自身の胸に手を置いた。

 

 

「お前たちが一番強い。日本で一番強いのは、俺たち青道高校だ。」

 

 

鳴り響くブラスバンドの音。

しかしベンチ前では、静寂が包み込む。

 

静かなる熱気。

 

その口火を切るかのように、片岡は最後に言った。

 

 

「勝つぞ。勝って俺たちが日本一のチームだということを、証明してこい!」

 

「「「はい!!」」」

 

「よし。白州、頼むぞ。」

 

 

バトンを受け取った白州が頷き、彼も続くようにして自分の手を胸に置いた。

 

 

「このチームが発足したとき、そして俺がキャプテンに任命されたとき。はっきり言って、不安が先走った。あの大きな先輩たちの跡を継げるのか。そして、先輩たちでも叶わなかった夢を実現することが出来るのか。不安と重圧で一杯だった。」

 

 

前年主将の結城は、その努力と背中でチームを引っ張ってきた。

 

打席に立てば何かを起こしてくれる、結果を出してくれる。

勿論、チームから全幅の信頼を置かれていた。

 

立ち振る舞い。

そして、実力。

 

共に偉大すぎる主将の跡を継ぐには、白州自身も大きな重圧を感じていたのだ。

 

 

昨年はチームとして、実力も努力もチーム力としても高い完成度。

 

だが、負けた。

日本一だと思ったチームは敗れ、エースは力尽きた。

 

 

前年とのギャップ。

そして、多くの挫折。

 

だが、だからこそ。

乗り越えてきたから、今がある。

 

 

「今なら自信を持って言える。このチームは、間違いなく日本一のチームだ。」

 

「まだ俺がキャプテンとして十分な人間だとは思えない。それでも、これだけは言える。」

 

 

そして、白州から笑みが零れた。

 

 

「俺はこのチームが。青道高校が、大好きだ。このチームのキャプテンだったことを、誇りに思う。」

 

「行こう。勝って日本一だ。」

 

「「応!」」

 

 

白州に倣うようにして、全員が自分の胸に手を当てた。

 

 

「俺たちは誰だ!」

 

「王者青道!」

 

 

センバツ優勝。

そして、甲子園二冠まであとひとつ。

 

圧倒的な攻撃力に、絶対的エースによる守備力。

 

佇む姿は正に王者の貫禄。

しかし、順風満帆ではなかった。

 

 

「誰より汗を流したのは!」

 

「青道!」

 

「誰より涙を流したのは!」

 

「青道!」

 

 

二度、同じ相手への敗戦。

 

どちらも、拮抗した投手戦の末に、敗北している。

 

 

投手は己の失点で負けたと自責し、打者たちは打てなかった不甲斐なさに後悔した。

 

 

絶対に負けないピッチングを。

投手を安心させる攻撃力と守備力を。

 

ただ我武者羅にではない。

 

理論に基づき、長所を伸ばしつつ殻を突き破る。

 

 

文字通り日本一の称号にも手をかけ、今。

 

 

 

「闘う準備は出来ているか!」

 

「我が校の誇りを胸に、目指すは全国制覇のみ!」

 

「行くぞおおーー!」

 

「オォォォォォ!」

 

 

最強と謳われた世代が、立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 






気が付けばアニメダイヤのA続編が始まっておりました…
また、大好きなダイヤのAという作品が盛り上がってくれるのが嬉しい限りです。
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