燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

276 / 282
エピソード270

 

 

 

 

6回裏 2アウトランナーなし

カウント1ボール1ストライク

 

 

『打ったー!鋭い当たりは二遊か…あぁっ!』

 

 

バッター本郷が捉えた打球はセンター方向。

鋭く低い弾道で二遊間に抜けようかという当たりだった。

 

二塁ベース手前で、セカンドの小湊が逆シングルでなんとか追いつくと、すかさず倉持がバックアップ。

 

 

小湊のグラブからバックトス。

それを受け取った倉持がファーストへ転送する。

 

目一杯身体を伸ばした前園の捕球で、一塁塁審はアウトコール。

 

それを合図に、観客席からは大きな歓声と拍手が送られた。

 

 

 

『流れるような連携プレー!セカンド小湊の送球が厳しいと判断するや否や、倉持のバックアップで見事アウト!何とか前に飛ばしてもこの堅い守備が待ち構えています!』

 

 

マウンドでエースが二人を指差し、声を上げる。

 

 

あわやセンター前かという打球だったが、ここは好守にも助けられてランナーは出さず。

 

先の奪三振二つに加えて、ここまで許したランナーは未だない。

 

 

「助けられた、サンキュー。」

 

「ヒャッハー、これぐらい当たり前だよな春市!」

 

「あそこまでならアウトに出来ます。もう少し仕事増やして欲しいくらいです。」

 

 

冗談交じりの二人の言葉に、大野もグローブを出して二人を励ます。

 

 

ここまでの投球内容は、前述の通りランナーは初回のフォアボール以降なし。

勿論ヒットは一本も許しておらず、初回の帳尻合わせもあり全ての打者をアウトで取っている。

 

奪三振の数は、12個。

その内7個が、見逃し三振で奪っている。

 

 

アウト18個の内12個を三振で取っている。

故にバックの野手は、そこそこ暇を持て余している。

 

 

「ヒット性だったけど、助けられたな。」

 

「あぁ。頼もしい限りだ。」

 

 

実際状態はこれ以上にないほど良い。

 

ボールは走っているし、特にストレートが良い。

空振りも取れれば、ギアを上げれば手すら出させていない。

 

ツーシームもよく動いているし、カットも吹いている。

 

 

カーブはまだ2球しか使っていないものの、ストレートの状態が良いからこそチェンジアップによくバットが回っている。

 

 

「球数は?」

 

「74球。三振の割に少ないぜ。疲れは?」

 

「ない。今日は出し惜しむつもりはないから、最後までこのペースで行く。」

 

 

三振は多く奪っているが、球数自体はストライク先行で来ている分そこそこに少ない。

同様のペースでいけば、それこそ100球前後で終わるくらいには。

 

 

そもそもヒットを打たれていないから、イニングに対して対戦しているバッターが最低限の数なのだ。

 

必然的に球数自体も減っていく。

 

 

「OK。こっからツーシームとカット増やしていくからそのつもりで。流石にこの調子でも事故は起こりうるからな。」

 

「わかった。」

 

 

ここで言う事故というのは、ヒットのこと。

 

失点は既に想定していない。

何故なら、今日の状態であればまず取られることがないから。

 

 

「本郷も、いい投球をしている。」

 

「まあな。」

 

「よく打ったと思う。そのお陰で、俺は気兼ねなく投げられるからな。」

 

「おっ、今日はお褒めが多いな。」

 

「お前はいつも余計な一言が多いな。」

 

 

全て本心である。

 

 

 

 

 

7回の表。

 

全く以て膠着状態となった終盤戦の幕開け。

 

 

本郷は2回に許した御幸のソロホームランと白州に与えたフォアボール以外、ランナーを許していない。

 

もう片割れが異常なピッチングをしているだけで、本郷サイドも素晴らしいピッチングをしているのも間違いではない。

 

 

だが、試合展開を決め切るのには何とかその本郷を打開したいところ。

 

 

 

ベンチ前では、青道が円陣を組んで片岡を囲んでいた。

 

 

「どうだ、本郷は。」

 

「ストレートがとにかく強いです。スプリットも速くて、この二つの見極めはまず不可能です。」

 

 

白州の言葉に、片岡が頷く。

 

ストレートの球速は、150km/h。

対してSFFも、140km/hまで出ている。

 

球速差は、10km/h弱。

 

このスピード差を視認できるほど、人間の目は優れていない。

 

 

「両方を狙ってしまえば、スプリットもストレートもどっちつかずになってしまう。各々狙い球を絞って、甘く入れば確実に狙っていけ。」

 

 

球速差も軌道差も少ないからこそ、バッテリーはこの二つを軸に投球を展開している。

 

そして右バッターには、鋭く逃げるスライダー。

これも駆使して、三振を量産している。

 

 

「コントロールは荒れていないが、大野や沢村ほどの制球力じゃない。甘いボールは、必ず来る。甘く入れば、確実に強く打ち返す。スタミナもあるとはいえ、本郷も確実に消耗しているぞ。」

 

 

気温は現在29℃。

夏にしては低いとはいえ、炎天下ではやはり体力消耗が激しい。

 

 

「基本狙いはベルトより上。追い込まれても鋭いスイングを貫き、打席からプレッシャーを与えていけ。」

 

 

打順は、2番の大野から。

 

ここまでの打撃成績は、三振ひとつとショートゴロ。

何れも、完全に打ち取られた形で凡退している。

 

 

「大野。」

 

 

打席に向かおうとする最中、片岡から呼び止められて引き返す。

 

 

「疲れは大丈夫か。」

 

「はい。少なくとも、打撃にも投球にもそれぞれ支障をきたす程ではありません。どちらも問題なく。」

 

「そうか。」

 

 

その言葉に偽りがないことは、片岡は分かっている。

 

かれこれ二年半。

無理をすることもあったが、三年になってからの彼は問題がある時はちゃんと言う。

 

それがチームの為になるから。

そして、彼がチームの仲間を信用することが出来るようになったから。

 

 

「全体的にストレートにタイミングが差し込まれているように見える。どうだ。」

 

「はい。正直、着いていけてはいないですね。」

 

 

狙いは、ベルト上の甘いボール。

しかし、ストレートに差し込まれている分変化球を狙わざるを得ない。

 

が、今の大野の打撃成績や様子を見るに、恐らくバッテリーはストレートで押してくるだろう。

 

 

高めのストレート。

一般的には甘いと言われるコースかもしれないが、大野にとってはこれが厄介なことこの上なかった。

 

 

「無理に高めを狙う必要はない。お前の場合、ポイントが近いからこそ力押しのピッチングに対しては気圧される可能性がある。思い切って、低めのストレートに差し込まれてこい。」

 

「はい。」

 

「綺麗に打つ必要はない。右肘を抜いて狙いは三遊間、差し込まれた上でヒットゾーンに飛ばせばいい。」

 

 

片岡の助言に頷き、打席へと向かう。

 

 

左手でバットを支えながら、左の打席へ入る。

見据えた先には、本郷正宗。

 

まだその闘志は、衰えていない。

 

 

(みんなが支えてくれている。だからこそ、俺が今ここにいる。)

 

 

バットを掲げ、ゆっくりと揺する。

 

意識は、外。

高めはある程度捨て、低めに狙いを定める。

 

 

長打を打つのであれば、高めのボールを叩く方が全身の回転力を使いやすい分飛ばしやすい。

 

が、ヒットを打ちに行くのであれば、バットでの距離が取れる分低めの方が捉えやすい。

 

特に投手であるが故に、利き腕に影響は与えたくない。

内角高めは距離が近く詰まりやすい為、差し込まれた時に痺れをきたす可能性もある。

 

 

(全部やるのは無理。それは、一也と白州の仕事。俺は投球で全部やる。だから打撃は、出来ることをやる。)

 

 

ピッチングで研ぎ澄まされていた大野は、この打席でもその集中力が保たれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(打ちそうな雰囲気あるよな、この人は。)

 

 

打席でバットを揺すり投球を待つ大野を横目に、円城はそんなことを考える。

 

ここまで打率は4割台。

四番やら主将やらの影に隠れてこそいるものの、この男も打ちまくっている。

 

単打しかないと思っていたが、その印象も準々決勝の鵜久森戦での逆転ホームランを見て、消え失せた。

 

 

あの打席だけはホームランばっかり意識してポイントもド前にしたからという理由は、この青道ナインにしかわからないのだから。

 

 

 

(何かしてくるぞ。厳しく来い。)

 

(狙いは甘い球だろ。厳しく行く。)

 

 

ここまでの打席を見るに、やはりストレートに振り遅れているイメージがある。

 

元々ピッチャー特有の身体能力で長打を打つタイプとは異なり、柔らかい肩肘手首を活かして変化球に対応するのが上手いタイプ。

下手に低めの変化球を拾われても、良い気はしない。

 

初球から、バッテリーは高めのストレートを選択した。

 

 

ミットの轟音。

高めボール気味の、釣り球。

 

これには手を出して来ず、ボールとなる。

 

 

続けざま。

今度は低め。

 

目線が上がったところから、下。

そして更に、落としにいく。

 

 

真ん中のSFF、これに大野もバットが出て、空振り。

 

 

 

(甘いが、良い。次は厳しく来い。)

 

(さっさと追い込んで斬る。それで良いんだろ。)

 

(あぁ、それで良い。)

 

 

ワインドアップでモーションに入る本郷。

それに合わせて、円城もミットを構える。

 

コースは外角の低め。

多少浮いても、大野のバッターの性質を考えるに見送ってくれる。

 

 

 

速球。

コースは低め、外より。

 

比較的厳しいコースでありつつ、先程のSFFの残像がある分手は出せない。

 

 

追い込んで低めのSFF、もしくは高めのストレートで打ち取る。

 

 

そう想定していた矢先。

大野のバットは、動き始めた。

 

 

(来た、低め。しかも外とかいうボーナスつき…!)

 

 

このボールを、待っていた。

そう言わんばかりにスイング。

 

 

「っり!」

 

 

打球は三遊間深いところ。

ショートの谷中が何とか追いつくも、一塁へは投げられず。

 

ノーアウトから、いきなり先頭ランナーとして大野が出た。

 

 

 

ベース上で手を叩き、ベンチに向けてガッツポーズ。

その姿を見ながら、片岡と落合も笑って見届ける。

 

 

 

しかし本郷、ここは追加点をやるまいとギアを一気に上げる。

 

ストレート2球、それぞれ154km/hの直球で追い込むと、最後は低めのストライクゾーンからボールゾーンまで落ちる完璧なコースのSFF。

 

 

このボールには思わず手が出てしまい、空振り三振。

 

大野は勿論走るはずもなく、一塁そのまま。

アウトをひとつ取ったところで、打席には四番の御幸を迎える。

 

 

 

(打てよ一也。俺が出てんのに見殺しにする気か。)

 

(るせ、ちゃんと返してやる。任しとけ。)

 

 

 

その言葉通り、御幸は外角のストレートを叩いてライト後方へ。

 

鋭い打球は甲子園球場のフェンスに直撃。

ライトがクッションボールを処理している間に、そこそこ足の速い大野が三塁を蹴ってホームへ。

 

 

クロスプレー気味になるも大野はセーフ。

 

ガッツポーズをしながら立ち上がる大野に、ネクストバッターの白州が両手を上げて待ち構える。

 

 

「大丈夫かそんなに走って。」

 

「余裕!まだまだ終わんねーからな!」

 

 

珍しくテンションの高い大野に、白州は少し驚く。

 

いつも試合では、毅然として無口な姿が多かった。

淡々と投げ、抑えて吼える。

 

 

そんな彼が、こんなにも騒がしい。

どこかはしゃいでいるような、そんな情緒。

 

しかし白州は、分かっていた。

 

 

「あぁ。終わりたくないからな。お前とやってきたこの三年間の成果を、俺も見せる。」

 

 

約二年半。

共に戦い、彼のエースとしての生き様を見届けてきた。

 

 

孤独に、そして気高く。

誰よりも勝利に真っ直ぐで、誰よりもチームの為に身を削ってきた。

 

紛うことなきエース。

 

チームの主将は自分だが、今のこの青道を創ったのは間違いなく大野だった。

 

 

(俺はお前のようには出来なかったからな。最後くらいは、お前の為に…。)

 

 

グッと握ったバットに力が入る。

 

立てたバット。

本郷を見据えながら、ふぅっと息を吐く。

 

 

(彩るさ。お前との…青道高校との花道を…!)

 

 

 

 

その、初球だった。

本郷が投げ込んだ、SFF。

 

真ん中低め、僅かに浮いてストライクゾーン内での変化のこのボールを、白州は捉えた。

 

 

金属音と共に鋭い打球がライトへ。

その打球を見送ることなく、拳を握りしめて声を上げた。

 

 

「っしゃあ!」

 

 

ゆっくりと一塁ベースへ向けて走り出す。

 

 

普段から寡黙な主将の、咆哮。

確信した打球は、弾丸ライナーでライトスタンドへと突き刺さった。

 

 

 

『鋭い当たりはライトスタンドへー!エースを援護する主将の一撃でこの回3点目!未だノーヒットピッチを続ける大野を盛り立てるツーランホームランで点差を4点まで広げます!』

 

 

 

狙い打ったのは、若干高めに浮いたSFF。

 

御幸からのツーベースヒットの直後、カウントを取りに来たボールを迷わずに狙いに行った。

 

 

大野のチャンスメイクから御幸の打点、さらには主将の鋭い当たり。

 

ここまで多くの盤面でチームを救い、この今年の青道高校を象徴としてきた三人の得点で、さらに点差を広げる。

 

 

「ナイスホームラン。よくあの角度で入るな。」

 

「せめての贈り物には丁度良かったか?」

 

「これ以上ないプレゼントだ。ありがとう。」

 

 

これで、4点目。

ソロホームランでも同点となる1点とは大きく異なり、追いつく為には連打が前提となるほどの大きな点差となる。

 

 

 

 

4-0。

迎える7回の裏。

 

 

試合は7回の表に動きを見せ、追加点となる3点を奪った青道高校の守りとなる。

 

 

「疲れは大丈夫か?」

 

 

グローブを持ち、ベンチから片足を出したところで、御幸から声をかけられる。

 

それに対して無言で頷く。

 

 

「ヤバそうだったらすぐ言えよ。点差は多少あるとはいえ…」

 

 

幾度となく問われた、質問。

 

あまりの心配を鬱陶しくも思いながら、いつもこうして気にかけてくれることを、本音で言えば大野も感謝していた。

 

 

「心配しすぎだ。俺なら大丈夫。」

 

 

少し呆れたように笑う大野。

御幸も、その笑顔を見て大丈夫だと確信し、冗談交じりに返した。

 

 

「センバツん時ホームランかっ飛ばされたのこの辺りだろ。気張ってくんねーと困るからな。」

 

 

カカカッと悪い笑顔を向ける御幸を、大野が軽く臀を蹴る。

 

 

「言われなくてもちゃんとやる。この先もヒットすら許すつもりはない。」

 

「あー、そう言うこと言うと案外ポコンとやられんぞ。」

 

「その時はその時だ。俺にはその力が無かったと割り切る。」

 

「へいへい。」

 

 

雑談気味にマウンドへゆっくり向かう二人。

 

場内からは拍手の嵐。

そして、歓声。

 

 

マウンドまで到達したところで、二人は向かい合って話し始める。

 

 

「大丈夫だろ。後ろにはみんながいる。目の前にはお前がいる。これだけ条件が揃えば、何でも出来る。」

 

 

今度は屈託のない笑顔で言う大野に、御幸が首を横に振ってから付け加えた。

 

 

「条件がひとつ足んねえな。」

 

「何?」

 

「マウンドには、お前がいるだろ。日本一の投手、日本一のエースがよ。全部揃って、この青道高校だ。」

 

 

したり顔で言った御幸。

 

一瞬の静寂の後、今度は大野が大笑いした。

 

 

「なんかおかしいこと言ったか。」

 

「いーや、何もおかしいことはないさ。そうだな、そうだよな。」

 

 

否定はしない。

だって、そうだから。

 

 

「日本一のキャッチャーがリードして、日本一のピッチャーが投げる。バックで守るのは、日本一のチームか。いい響きじゃねえか。」

 

 

大野は、目を瞑らない。

 

何故なら既に、極限状態の集中に陥っているから。

そして何より、この大切な時間に一瞬たりとも視線を切りたくなかったから。

 

 

「やってやろうぜ、ノーヒットノーラン。俺とお前が作る芸術を、最高の作品にしよう。」

 

「あぁ。こっから先はお前が主役だ。全部掻っ攫って、持って帰ってやろうぜ。」

 

 

互いの左手を同時に出し、当てる。

 

 

振るう右腕。

放たれた直球は、誰の手を持ってしても当たらない。

 

 

巨摩大藤巻は、1番から始まる好打順。

 

しかしその三人を。

完膚なきまでに叩き斬り、21個目のアウトを奪う。

 

 

 

 

全国高等学校野球選手権大会決勝。

 

奪った三振は、15個。

大野夏輝、この舞台に於いて許したヒットは、未だ無い。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。