もう少しで終わります。
そして今回かなり短めです。
夏の甲子園を優勝で飾り、同時に最後の夏を全うした俺たち。
結果としては、秋季大会で優勝し、センバツ出場権を得るとその大会で全国制覇。
更に夏の甲子園でも、強豪を薙ぎ倒して優勝。
青道高校として初となる春夏連覇を達成し、二つの優勝旗を手に片岡監督の胴上げを行った。
試合後、時間が遅かった為一度ホテルに止まった後、次の日に東京まで戻ってきた。
兵庫県の甲子園球場からは、かなりの距離。
お盆の帰宅ラッシュと相まって時間が掛かってしまったものの、漸く帰ってきた。
「おわ、すご。」
「流石にセンバツの時より多いな。」
待ち構えていたのは、生徒や先生方。
お盆時期で、例年で言えば殆どの人が出入りをしていないこの時期なのだが。
全国制覇、それも甲子園春夏連覇ということもあり、祝福してくれている。
「窓開けてやるよ。」
「やめろ、目立つのはそんなに好かん。」
「散々暴れ回った癖によく言うよ。」
そんな押し問答をしながら、開く窓。
窓際の御幸が笑顔を向けるのに倣い、俺も笑顔で手を振る。
「御幸くーん!」
「大野くーん!!」
これではタレント気取りだな。
そしてちゃっかり俺への声が増えていて、嬉しい。
「モテモテだな。」
「貴様には負ける。素のイケメンの癖に実績まで付けやがって。」
「人の事言えんのか。」
比べられても困る。
御幸は天性の男前。
対して俺は、どちらかというと女顔。
御幸のような切れ長の…そうだな、悪そうな顔というのはモテて羨ましい。
俺は、髪色や元々日に焼けにくい体質というのもあり、全体的に白い。
「元来俺は女子とは無縁だ。」
「出たよ、無意識系主人公。相当アプローチかけられてただろ。お前に向けてのキャーキャー多いぞ。」
「知らん。それに、言われているのは貴様の方だ。セットで声をあげられているだけ。」
一年時から雑誌で取り上げられたり、そもそもの顔面の強さがあるからこそ、追っかけが多い。
基本的に俺はついで。
戻り次第俺たちは荷物を置き、ミーティング。
と言っても、俺たちの世代は終わった。
最後となる夏の大会は、最高の結果という形で終えたものの、また世代は次へと移り変わる。
だから、最後のミーティング。
試合に勝つ為のものではない。
俺たちを送り出すための。
「まずは、ありがとう。お前たちとの二年半、俺にとって一生忘れないかけがえの無い宝物になった。多くの苦難、挫折。負ける悔しさも、今までの代の中でも特に味わってきたのがお前たちだ。」
入学して、三ヶ月。
夏の大会の決勝で、稲城実業に敗れた。
俺や御幸、それに倉持はベンチに入っていた。
まだ入って間もない俺たちでも、先輩たちの夏が終わるのを目の当たりにして、夏の怖さを感じた。
そして、二年。
力を付けたと実感しつつ、最強だと思っていた哲さんと代。
負ける気がしないと、このまま終わらないと思っていた夏は、また稲城実業の前に敗れた。
見えたところで夢敗れ、悔しい思いは沢山した。
だからこそ、二度と負けたくないという意思は特に強かったと思う。
「きっとこの先も壁にぶつかることも、挫折を味わうこともあるだろう。だが、それを乗り越えるだけの力を、お前たちは持っている。自分を信じろ、お前たちは強い。」
甲子園前の激励。
それと同じような思いを伝えられる。
「沢山の記憶と思い出をありがとう。これからも、俺の誇りであってくれ。」
頭を下げた監督に、俺たちも拍手を送る。
誇りであって欲しい、か。
ここまではみんな、同じ道筋だった。
小学校から中学、そしてこの高校野球とある程度の決まった路線を歩いてきた。
しかしこの先は、まるっきり変わってくる。
野球を続けるにしても、プロや実業団、大学etc。
そして、野球から離れる選手も勿論いる。
だが、どうであれ。
この青道のメンバーであったことを。
片岡監督に教えてもらったことを。
俺たち自身も誇りに思いながら、それでいて監督や今いるメンバーにとっても誇りに思える人間で無ければならない。
監督の言葉を胸に、俺達も頷く。
序でに監督をもう一度胴上げしておき、今日のミーティングは終わり。
ここから先は、新チームとして新たに動き出す形になる。
基本的に三年を主体としていたメンバーから、一、二年だけでメンバー構成をすることになる。
主将は、白州から引き継いで誰になるか。
ある程度俺たちの中でも決まっているのは、2人。
人当たりの良さと、シニアでも実績を積んでいた経験のある東条と金丸だ。
ただし東条はセンターの定位置に加えて、俺とノリが抜けることによって投手としても本格的に回していくことになる分、負担がかなり大きくなる。
それもあり、今の最有力は金丸。
一年秋から試合に出始め、チームでクリーンナップを打つこともあり実力としては十分。
そして、逆境に強いのはそうなのだが、チームを引っ張っていくという器のところでも望める選手になった。
難しいのは、投手か。
エースナンバーは俺がまる二年背負っていた為、空いたこの番号を誰が付けることになるのか。
東条は基本的にセンター起用も多い為、8番。
それを考慮すると、やはり降谷と沢村の二択になってくる。
今のところ、甲子園での安定感や立ち振る舞いなど含めて沢村。
しかし降谷も安定感を増している為、背中で引っ張るその姿にエースナンバーが見える。
実際に公式戦間近になってからきまるのだろうが、恐らくこの2人のどちらかが背負うことになるだろう。
現状数えられる投手は、4人。
前述の沢村と降谷、そして東条。
あとは、春先から一軍帯同も多くあった金田。
今のところは、この4人で回すことになるだろう。
とりあえず、今後の動向次第。
そして俺たちで予想しても、仕方がないかな。
俺たちも勿論、進学にしろ就職にしろ野球選手としての現役を続ける奴らはこれからも練習には参加する予定だ。
まだまだ成長しなきゃいけないからな。
そして日は過ぎ、夏休み明け。
俺と御幸、白州の三人はプロ志望届を出すことを確定させ、今に至る。
御幸は4球団から既に上位指名を約束され、白州も指名するという話も来ている。
そんな中、俺も校長室に来客が来ているとのことで、監督立ち会いの元相対することになった。
「単刀直入に言いましょう。我々横浜ベイスターズは、青道高校の大野くんを一巡目での指名を本格的に検討しています。」
来てくれたのは、名乗ってくれた通り。
NPB所属球団…所謂、日本プロ野球に属している、神奈川を拠点としているベイスターズ。
その、スカウト。
顔見知り程度には、見知った顔である。
「ウチのチームは、ご存知の通りリーグ優勝から遠ざかっている段階。しかし、こんな所で諦める訳にはいかないのです。」
そして、もう一人。
日に焼け少し色黒の初老の男性。
歳相応に老けたものの、維持されている体型。
しかし目には、確かに闘志が宿っていた。
「今、チームは再建期。これからもっと強くなるし、近い将来日本一を争うチームになるだろう。だからこそ、その一員として手を貸して欲しい。」
現監督の、熱い言葉。
こういうのに、俺は弱い。
「ありがとうございます。実際にプロの球団からそういった評価を頂けて、嬉しい限りです。しかし…」
「勿論、今の我々にも君を指名する権限はないし、検討段階であることは確かだ。だが、その覚悟で準備をして欲しい。甲子園のスターではなく、青道高校のエース、大野夏輝くんとして、力を貸して欲しい。」
片岡監督と、球団監督とのやり取り。
俺はそれを聞きながら、少し訪れた静寂の後に聞いた。
「中畑監督。俺は、日本一の投手を目指しています。それはこの高校野球の時から…いや、俺が投手としての自我が目覚めた時からずっとです。プロに入ったとしても、それは曲げるつもりはありません。目指すは日本一だけです。」
横浜ベイスターズは、ココ最近低迷が続いている。
Bクラス常連。
球団としても、あまり評価は良くない。
しかし今の…この中畑監督が就任してから、チームは変わろうとしている。
再建期と呼ばれてはいるが、少なくとも良いイメージはあまりない。
ただの一高校生。
若造の戯言かもしれない。
しかし、気持ちはそうだ。
俺の生意気な言葉にも、相手方の監督は嫌な顔ひとつせず。
寧ろ心底嬉しそうに、笑顔で答えてくれた。
「君のような子が、やはりチームには必要だ。勿論目指すは日本一、強さだけじゃない。日本一応援されるチーム。そしてその一員として、大野夏輝選手を一位で指名することを、考えている。これはリップサービスでもない、俺の本音だ。」
チームカラーは、奇しくも慣れ親しんだブルー。
これからの再建の時。
新たに蒼き旋風を巻き起こす為に。
「分かりました。ではこれ以上、今は話すことはないでしょう。」
そう言って立ち上がった俺に、スカウトの方が訝しげに見つめる。
しかし両監督は、表情を変えないまま。
俺は続けて、言った。
「万全の準備をして待っています。お二人の…皆さんの期待に応えられるように。」
いつだって、そうだったから。
期待をしてもらえるのなら、それに見合った働きを。
背負わせてもらえるなら、その想いに応えるだけの努力はする。
俺の言葉を最後に、この場はお開き。
帰っていく二人を見送りながら、俺は覚悟を決める。
プロ野球の世界へ。
今よりもっと、高いステージへ。
今はまだ、ただの高校生の頂点。
ここから先は、そんな選手たちがゴロゴロいる世界。
そこへ飛び込むべく、俺は今日も練習へと向かった。
次と次の次くらいで終わる予定です。
余談ですが、お察しの通り大野くんはイケメンです、クソが。
本人は憧れた相手がアレだったり相棒が別路線の男前ということで本人の自覚はありませんが。