少々無理があるかもしれませんが、悪しからず。
10月某日。
各選手たちのプロへの入口となるドラフト会議を終え、それぞれ進路が決まっていく頃。
青道高校のグラウンドでは、軽くお祭り騒ぎのような賑わいを見せていた。
「そのユニフォーム姿も、久しぶりに感じますね。」
「かもな。俺たちは既に青道ナインではないから、なるべく着ないようにはしていた。」
現青道高校主将の金丸の言葉に、同部屋の三年…三ヶ月前までこのチームのエースとして君臨していた大野が、小さく笑う。
既に現役を退いた三年生は、現役選手たちとは全く異なる生活リズムを送る。
だからこそ引退後の三年生は、彼ら用に用意された別の寮に入っていた。
それはこの大野も例外ではなく、練習にこそ参加しているが今となっては三年生用の棟に移動している為、顔を合わせる機会は滅法減っている。
「惜しかったな、秋大。」
昨年はこの大野の怪我の影響で、エース不在のまま闘い優勝。
そして春に行われる春のセンバツにコマをすすめた大きな大会。
今大会の結果は、準優勝。
昨年頭角を表し、同じく春のセンバツで躍動していた薬師高校との決勝戦で熱線を演じたものの、最後はエースの沢村が轟に痛恨の一発を浴びてしまう。
打線も最後の最後に奮起したものの追いつくことが出来ず、延長11回の死闘の末に、4-3で敗れた。
先発した降谷が6回を投げたものの、轟のホームランと秋葉のタイムリーツーベースを含む3失点。
終盤に新キャプテンの金丸の同点となる2ランホームランで何とか追いつき、試合は延長戦へ。
前日8回を投げきり、連投となった沢村が10回まで力投を見せたものの、最後の最後は轟との勝負。
最後は僅かに浮いたスプリームを逆方向に完璧運ばれ、勝ち越しを許してしまう。
最終回も2アウトランナー一三塁までチャンスを作ったものの、8番の奥村が空振り三振で試合終了。
二年連続となる春夏連覇を目標に闘っていた彼らだが、惜しくもその道は閉ざされた。
「いえ、完全に力負けです。野手も投手もまだまだ課題だらけですし。序盤に点取ってもっと楽させることが出来れば、あそこで喜んでいたのは俺たちでした。」
惜敗とはいえ、負けは負け。
その一敗で、運命が変わる。
それが一番分かっているから、大野は敢えて何も言わない。
「そう言えば、直接言えてなかったですよね。おめでとうございます。」
金丸からの言葉に、大野は笑顔で返す。
おめでとうというのは、先日のドラフト会議のこと。
事前に中畑やスカウトの人間が宣言した通り、横浜が一位指名。
単独の一位指名により、大野は横浜入団が確定している。
最速146km/hのストレートに、近い速度で変化するツーシームとカットボール。
緩急も更に操ることができ、カーブとチェンジアップなど球種も多彩。
何よりプロの目を引いたのは、ボールの質とコントロールの良さ。
球速だけで見れば上もいるが、純粋な縦回転による高い質のストレートはプロ顔負け、更にコントロールがとにかく良い。
球速はトレーニングで後々上がるとしても、コントロールは本人の繊細な感覚も影響してくる為、あとで鍛えることが難しい。
その部分を評価されて、チーム再建期であり投手も層が薄い横浜の一位指名である。
他球団からも評価は高かったものの、怪我の部分。
一年秋と二年秋にそれぞれ怪我をしていることもあり、そこへの懸念と身体の小ささ。
176cmと、プロの投手としては決して大きくない。
実のところ、他球団も狙っていなかったと言えば嘘になる。
例を上げれば、現状投手事情が芳しくないソフトバンクや選手放出の激しい西武。
だが、上記2チームは左腕の成宮が一番手。
150km/hオーバーの左腕という希少性から、そっちに行くことを判断していた。
しかし、実際のところ二球団とも一番手は元々大野の予定であった。
最速こそ成宮に劣るものの、高校生としては速い平均球速と三振の取れる特異な変化球。
何より、鍛えることの難しいコントロールの良さという点。
いずれ球速は伸びる見込みはあった為、プロに入った時の成長性も加味して、途中までは大野を一位で指名する方針であった。
その方針が変わったのは、夏。
地区予選から甲子園とあまりにインパクトのあるピッチングをしてしまった。
世間的にも有名になり、他球団との競合も激しくなる。
となれば、地区敗退の成宮の方がまだ取れる可能性が高いと判断し、同スペックの成宮に舵を切った形になる。
まあ結果的には、成宮も前年で甲子園準優勝、関東大会でも結果を残していることもあり3球団競合。
そして一途に大野を狙っていた横浜が一人勝ちするという、何とも言えない結果となっている。
因みに、御幸と白州も同様にドラフト指名を受けてプロ入り。
御幸は、ソフトバンクとヤクルト、巨人と中日が競合となる一位指名。
結果的には秋山監督がクジを引き当て、ソフトバンクが一位指名の権利を得たことになる。
白州は、埼玉西武が4位指名。
チームの顔である選手とタイプが近い走攻守揃ったパンチ力のある打者の後釜として、である。
そして主な高卒の指名選手として、西武と広島、日本ハムの3球団競合。
埼玉西武が指名権を獲得したのは、世代最強左腕として名を馳せた稲城実業の成宮鳴。
関東圏内の強豪球団、それも歴史も長く優勝常連ということもあり成宮は笑顔でガッツポーズ。
しかし、長い野球人生でその環境にある程度苦しみ、「さっさとこの球団出て行ってやる!」という捨て文句が絶えずロッカーで響いていたというのは、また別の話である。
余談だが
「なんで一也が4球団強豪?」
と、大野邸に怒鳴り込みにきている。
まあ、成宮の評価はプロ内でも非常に高い。
最速154km/hの真っ直ぐに加え、必殺とも言えるチェンジアップと高い奪三振率を誇るカーブとスライダー、更にはムービングボールであるツーシームも持ち合わせていると高校生離れしたスペックの持ち主であるのは事実。
しかし現実問題。
打てるキャッチャーというのは、希少性が異常に高い。
そもそもキャッチャーという守備力を重視されがちなポジションでありながら、ホームランも打てるというのは育成でもどうにもならないことが多い。
何より、息が長い。
体力的にキャッチャーがキツくなったとしても、打てるのであればコンバートという選択肢もある。
甘いマスクで今後の人気の上がり幅を考えると、球団としてはいい利益になる。
様々な要素があるのだが、それを成宮は知らない。
そして怒鳴り込まれた大野は、一途な指名とは言え一球団のみの指名。
それを顧みずに大野に言ったことを成宮も徐々に理解をしたのか、最終的にはすごすごと帰っていった。
楽天が一位として指名したのは何故かここまで指名が無かった帝王実業の友沢亮。
というのも、何処かの噂で友沢は大学進学するとの噂があった。
友沢の家庭は元々両親がおらず、親戚からの援助はありながらも一人でアルバイトをしながら、家計を支えていた。
となれば欲しいのは、家族を支える収入源。
大学となれば、関西の強豪である帝王大学はその事情を理解している為、学費の免除とアルバイトの許可、寮生活も兄弟を招くことを許可と異例の好待遇を既に約束していた。
それもそのはず、友沢は少なくとも高校ナンバー2のバッターでありつつ、ナンバー1の御幸はプロ入りを公言している為、大学に招く上で最も選手として素晴らしい選手でもある。
兄弟もいる為、大学を出てセカンドキャリアも安泰とするのか、将又プロ入りをしてすぐの収入源を得るか。
高い契約金となるであろう上位指名であれば、友沢はプロ入り。
下位指名であれば、帝王大学への進学。
それが記者たちの情報戦により曲解して広まり、大学進学の可能性が高いと、各球団が判断していた。
その為、いくらいい選手とはいえ、リスクを追ってまで勝負にいくくらいなら他の高卒選手を取りに行く方が懸命だと。
何故なら今年は高校生が豊作だから。
しかしながら、二遊間の補強と育成が急務であった楽天は、そのスター性も看板にできると思い、一位指名。
勿論、上位指名ならばと友沢は入団を決めることとする。
白龍の美馬総一郎は、オリックスが二位指名。
卓越した走塁技術と打撃能力、そして走力を活かした高い守備範囲と、オリックスとしては脳を焼かれそうな選手である為、当然のように指名。
高校通算86本、好永の志波は日本ハムへ。
稀代の重量級ホームランバッターとしての指名。
尚、三振率が高いことから、育成が前提とは言われている。
以下、甲子園でも活躍していた選手、ないしは実績を積んだ選手も多数いるものの、キリがない為割愛とする。
「オフの前の貴重なこの時期に、ありがとうございます。」
話は戻り、珍しく防具を身に纏う片岡に、ユニフォーム姿の白州が頭を下げる。
「寧ろお前たちもここから大事な時期だろう。冬は何かと忙しいだろうし、ここ以外では中々機会が無いからな。お前らはとにかく、怪我が無いようにしてくれ。」
球審片岡という、年に2回のイベント。
その2回の内のひとつ、三年生の送別試合である。
甲子園春夏連覇という輝かしい成果を叩き出し、直近…否、歴代最強と名高い代としての最後のチーム戦。
実際、立役者としては大野と共に先発投手を支え、それこそ大野が基本どの登板でも最大出力で投球出来ていたというのは二年生2人の紛れもない功績であり、これまでの青道には無かった層の厚さも要因である。
またこの投手陣に加え、御幸や白州といったプロ入りの選手、社会人野球の中でも強豪となるENEOSに入団が決まっている倉持、二年生としても金丸や小湊といったクリーンナップを打てるバッターが揃っていたこと。
何よりこの打者たちが打線に入った上でキチンと機能していたこと。
優れた選手が揃っていたのも去ることながら、それを立派に育て上げ、多くの困難がありながらも力を合わせて乗り越えてきたという、近年稀に見る好条件が重なっていたのだ。
「準備はいいか!」
片岡の号令に、全員が声を張り上げる。
時刻は、13:30。
日が登り切り、暖かな今日は晴天。
一、二年生の現役ベンチサイドには、コーチである落合が。
そして三年生側には、副部長である高島が入る。
スターティングメンバーは、以下の通り。
先攻
現役
1番 遊 瀬戸
2番 中 東条
3番 二 小湊
4番 三 金丸
5番 左 降谷
6番 一 高津
7番 捕 奥村
8番 右 結城
9番 投 沢村
後攻
三年
1番 遊 倉持
2番 投 大野
3番 右 白州
4番 捕 御幸
5番 一 前園
6番 三 樋笠
7番 左 麻生
8番 二 木島
9番 中 関
因みに、大野は5回まで。
以降は6、7回を川島。
それ以降は川上が投げる。
と言っても、大野は現状でも練習を一生している為、現役さながら。
寧ろ投球数が減って力を増している為、現状考えうる最大出力の状態である。
プロ入り確定、それも一位指名を受けている彼だが、片岡は
「今世間の中でも特に評価の高い投手との対戦。きっとアイツらにとっても大きな刺激になるし経験にもなる。無理のない程度に最大限もてなしてやれ。」
との事であった。
プレイボールの合図と共に、打席準備をする現役。
それを横目に見ながら、元エースとその女房役は数ヶ月前と同様にマウンド近くでグローブを口元に置いたまま話し始めた。
「久しぶりの試合だけど、感覚は大丈夫だよな?」
「ブルペンも入っているし、ウエイト中心だが練習は前よりしている。前と同じように要求してくれ。それには必ず応える。」
これまでは、チームの試合に合わせて調整を行っていた為、冬の長いオフシーズン以外でここまで身体を鍛えるということをしたことが無かった。
が、今はプロの合同キャンプまで時間があく。
それもあり、今は肉体改造。
主に怪我を予防するために、弱い肩周りと疲労で肘に負担が行かないように広背筋、あとは勤続疲労で上体先行にならないように下半身の筋持久力を高めている。
それが相対的にパワーアップにも繋がっており、現状は番記者によるスピードガンとあまりアテにはならないものだが、146km/h。
尚且つ肘や肩周りの投球による疲労がほとんど無いというバフも加わって、甲子園決勝や稲城実業との決戦を除けば最大出力と言っても過言では無いのだ。
現役としては、前エースでありつつプロ入りの選手と本気で試合ができるという経験が出来る。
そして大野からしても、バッティングピッチャーとしてではなく投手として本気で打者を相手にできるという、数少ない機会を楽しむことが出来る。
「負けてどん底のはずだ。叩き潰されて這い上がってくる奴らはもっと強くなる。折角だ、アイツらが強くなれる糧になるさ。」
ボールを右手で転がしながら言う大野に、御幸は意地悪な表情を浮かべながら聞いた。
「ふーん。で、本音は?」
三ヶ月前、多くの野球ファンが見た姿。
帽子を深く被り、その紺碧の瞳がチラリと見える。
そして大野も、ニヤリと笑った。
「どんな試合であれ、負けるのはムカつくし嫌いだ。勝って花道を飾る。」
「そ。それが聞きたかったのよ。」
「じゃあ分かっているだろ。遠慮はいらんと監督に言われている。捩じ伏せるぞ。」
「おう。しょうもない球投げて干されないようにな。」
「しょうもないリードして二軍に幽閉されないようにな。」
二人のプロレスが終え、共に笑う。
そして、かつて幾度となく繰り返してきたその仕草。
互いのミットとグローブを合わせ、二人はその持ち場へと戻った。
「じゃあ、打たせる気ないからな。飛んだらいい打球だから、頼むよ。」
大野の言葉に、後ろで守るナインたちがまた声を張り上げる。
1回の表。
先攻めとなる、現役青道高校の選手。
今年の青道のリードオフマンであり、一年生ながら秋大予選から試合に出始めた瀬戸。
予選ではまだ代走守備固めでの出場が主だったものの、最終試合では9番ショートとして出場。
2安打とフォアボールひとつ、そして盗塁を2つと結果を残したことで本戦では全試合出場。
トーナメント途中、三回戦目からは1番ショートとして完全に固定され、倉持の後釜としてその地位を確立させた。
打率は倉持に劣るものの、フォアボールが多く出塁率が高い。
そして走力が劣る分守備力は倉持に劣るものの、盗塁や揺さぶりという技術の部分は引けを取らない。
(さーて、実際初めてだもんな、こういう試合で当たるのは。)
ふうっと息を吐きながら、ロージンバックに手を当てる大野を見上げる。
こうして打席から見ると、大きい。
身長は176cmと大して大きくは無いのだが、広背筋からなる背中の大きさや下半身の大きさもあり、体躯としては大きく感じる。
そして、圧力。
胸元から口元までをグローブで隠しつつ、深く被られた帽子から青い瞳が覗かれる。
ベビーフェイスながら、鋭い眼光。
キラリと煌めく紺碧の宝石のような瞳には、何処か吸い込まれるような感情を抱く。
(来た、プレッシャー…!)
ジワジワと背中に走る違和感。
そして熱くなってきたと思ったら急激に寒気に襲われる、背筋。
瞬間、大野がゆっくりと動き出した。
初球は、様子見。
そう思いながら構えた瀬戸だったが、大野から白球がリリースされた瞬間に思わずバットを出してしまった。
「ストライク。」
初球、いきなりインハイ。
投球割合としても最も多い外角低めで様子を見ようとしたところで来た、想定外の近いコース。
(うお、速すぎ。)
スピードで言えば、140km/h行くか行かないか。
しかし、少なくとも156km/hの最速である降谷のストレートと同等のスピードに感じた。
2球目。
またも、インハイ。
これは球筋を目に焼きつける為に、見送る。
(今の、浮いた?)
今度は、130km/h中盤。
しかしこれは、先程の加速する真っ直ぐとは異なり、圧力よりどちらかというとホップするような軌道を描く。
球速を敢えて落とし、それでいて回転数を高めることでスピード感以上に吹き上がるようなストレートとなる。
(ストレートだけで、どんな引き出しだよこの人。んでもって、落ち球も曲がり球もあんだよな…。)
落ち球は、ツーシーム。
これも甲子園決勝後に更に磨きが掛かり、速く小さく落ちるものと前者よりも意図的にスピードを落とした、所謂従来通りのものに近いツーシームの二種類に分かれる。
前者のツーシームは、殆どストレートと同速の142km/hから145km/h。
後者は、135km/hから140km/hの間くらい。
そして、カットボール。
弾丸のような回転ながら、僅かにストレート軸に回転が傾くことで吹きあがりながら曲がるという独特なライズカットの軌道を描く。
(迷っちゃ何もできねーし。来た球に何とか反応しねーと。)
頭を整理して、再びバットを構える。
迷わず、とにかく来たボールに反応する。
近い球速だからこそ、軌道が近いからこそ。
曲がり鼻を叩けば、案外何とかなるかもしれない。
しかし、それこそが。
大野夏輝攻略の完全な穴なのである。
勿論、悪い意味で。
「ストライク、アウト!」
最後はチェンジアップで空振り三振。
速いボールに合わせていた瀬戸は見事にタイミングを狂わされ、中途半端なスイングでバットを出されてしまう。
「すいやせん、何も出来なかったです。」
「嫌なバッテリーだよね。多分、ストレート系に狙いを絞ってたの完全にバレてたんじゃないかな。」
「かもしれないっす。てか、めっちゃストレート走ってます、この時期なのに。」
「OK、それだけわかればまず十分。」
続けて打席に入るのは、東条。
秋大ではセンターとピッチャーとしてフル回転、そして殆どの試合2番打者として出場し続けた鉄人。
片岡が定期的に打順を入れ替えたタイミングで6番や1番など色々替えられたものの、この2番に定着している。
(ポスト夏輝かね。無論、ピッチングではまだまだだけど。)
(打撃のセンスは確実に俺よりあるさ。まあ、打たれる気はないがな。)
秋大の大会打率は.412
チーム内での打率2位で、出塁率は4位。
バントや右打ちが多い為、出塁率はそこまで高くは無い。
(ランナーいないし、自由に振ってくるぜ。どうする?)
(任せる。が、三振は奪りたいかな。)
(OK。んじゃ、そうしよか。)
初球の要求は、インハイ。
散々瀬戸に見せたこのボールを東条も初球から腕を畳んでスイングするも、差し込まれてファール。
2球目。
外角低めの、ストレート。
ノビのある快速球が外一杯に決まり、これも片岡の腕が上がる。
ベース板ギリギリ。
思わず東条も首を傾げるが、ヘルメットを叩いて再びバットを構える。
(多少遠く見えてもストライクなのは仕方がない。厳しければファールに。強振せずに、何とか内野の頭を超える。)
しかし東条の心構えも虚しく。
最後は内角高めのカットボール。
ボール球の見せ球と擬態させた、フロントドアのボールに見逃し三振である。
遠いと思えば近い。
正にバッテリーで、打者を手玉にとっている。
続けて打席に立つのは、小湊。
秋大の打率はまた5割近く。
更にホームランが2本と、元々のバットコントロールから順当にパワーがついて行き、今年の青道高校で最も抑えるのが困難な打者となっている。
「よろしくお願いします。」
「夏輝から伝言。一番手のバット持ってくんなよ、折っちゃうから。ってさ。」
「舐めてますね。」
「心配してんだよ。バカ正直に言っちゃうから、ナチュラル畜生なだけ。」
お互い笑顔ながら、目は笑っていない。
小湊もそう簡単にバットを折られるつもりはないし、ここ最近は一本も折っていない。
しかし木製バットの特徴上、芯を外されたとき。
具体的には弱い根元や、先端で叩くと木目からバキバキっと行くことがある。
初球、バッテリーが選択したボール。
インコースで鋭く切り込む、ツーシームファスト。
以前から使っているものではなく、ストレートと同速で僅かに沈む…といっても、一般的に大きいと言われるツーシームほどは曲がる…ボールで差し込む。
小湊は捉えるも、僅かにボール球。
詰まった当たりがショート正面へと転がっていき、大野はグローブも出すことなくに倉持を指さし、委ねることとする。
「さあ、どうするかい現役諸君。貴様らに花を持たせるつもりはないぜ?」
一塁を駆け抜けた小湊に、大野は小さく笑みを浮かべながら、そう言った。