燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード28

「お、おい。ブルペンにいるのって。」

 

試合の後半戦。

6回の表開始時点で2点リードしていた明川ナインが守備につこうとベンチを出た時、彼らの反対側のベンチがざわついていた。

 

と言うより、動き始めていた。

 

 

「あれ、エースの大野だろ?」

 

「今日投げるのかよ。」

 

今大会、いまだに許したヒットは0。

もちろん、許した出塁すら0。

 

投げたイニングはたったの3回。

しかし、その時点で奪った三振は、なんと8つ。

 

打者9人に対して奪三振8つという圧倒的な投球で都内では話題になっていた。

 

 

もちろん明川の面々も既知であり、元々攻撃力が低い明川打線が彼から得点を奪うことが不可能に近いこともわかっていた。

 

そのため、彼らに走る少しばかりの焦り。

それを抑え込んだは、明川学園を統率する監督自身であった。

 

「てゆっか、リードしているのはこちらです。落ち着いて、1つ1つアウトを奪っていくのです」

 

そう言って両手をパンパンとたたく。

選手たちに切り替えろと、そう言わんばかりに。

 

監督の言葉に、彼らもまた気持ちを入れ直す。

 

「そうだ、俺たちがリードしてるんだ。」

 

「日和る必要はない。ここもしっかり抑え込んでやろうぜ舜臣!」

 

そうして、エースである楊に目を向ける。

が、その当の本人は、ただ1人の投手にだけ目を向けていた。

 

「どうしたんだ、舜臣?」

 

「いや、何でもない。さあ、この回も後ろは頼むぞ。」

 

平静を装うように、楊が息を吐く。

まずは、この回を無失点に抑えることだけを考える。

 

 

マウンドに上がる楊。

そして、相対する打者である8番バッターの白洲が打席に入る。

 

青道高校の中でも珍しい、クセの少ないバッターだけに抑えるのも難しい。

その証拠に、青道高校が放ったうちの1安打はこの白洲から放たれている。

 

しかしながら、楊にとってそんなことはどうでもよかった。

 

(遂に出てきたか、大野。あの時の雪辱は晴らさせてもらうぞ。)

 

楊に、闘気が宿る。

先ほどまでよりも数段、強い闘気が。

 

 

初球、アウトコース低めいっぱい。

132km/hのストレートが決まった。

 

(さっきより速くなった?)

 

キャッチャーの返球を横目に見ながら、白洲がバットを構え直す。

 

球速自体もそうだが、勢いが違う。

それが打者目線でもわかるほどに、楊は昂っていた。

 

 

2球目もストレート。

しかし、今度は外角低めいっぱいから少し外れているコース。

 

再びストライクのコールが鳴り響いた。

 

(また。)

 

やはり、審判のストライクゾーンが広くなっている。

そう思いながら、白洲はバットを構え直した。

 

3球目、カーブ。

外角のストライクゾーンからボールゾーンに落ちる変化球を見逃し、1ボール。

 

(これを見逃すか。)

 

(3球勝負はないと踏んでいたからな。)

 

ここまで、警戒している打者に対しては必ず球数を使って丁寧に抑える。

それが、ここまでの楊の傾向であった。

 

 

4球目、ストレート。

インコースの低めに決まる直球をバットに当て、ファール。

 

そして、勝負の5球目。

 

「空振り三振!決め球フォークでまずは1アウトを奪います、マウンドの楊!」

 

ここまであまり投げてこなかった変化球フォークで三振を奪って見せた。

歯を食いしばり、ベンチに駆け戻る白洲。

 

 

「アウトコースの球は遠く見える。多少ボール球でも振りに行けよ。」

 

すれ違い様、次の打者に耳打ちする。

その打者が小さく頷くと、彼は小さな体を動かしながら打席へと向かった。

 

「丹波くんに変わりまして、代打、小湊春市くん。」

 

一年生ながら代打の切り札として起用された少年。

ここに試合ともに代打で起用されており、成績は2打数の2安打。

脅威の、打率10割である。

 

(木製バットか。わざわざミートポイントの狭いバットを使うとは何か狙いがあるのか、はたまたただの話題作りか。)

 

おそらくは、前者だろう。

警戒しながら、楊はワインドアップモーションに入った。

 

(ここまでの傾向で言えば、初球は外角からが極端に多い。特に巧打者に対してはほとんどそうだ。)

 

そこを、狙う。

そうして、小湊はバットを振り抜いた。

 

コースは外角。

しかしながらそのボールは、小湊が想定していた軌道とはまた違った動きをした。

 

ストレートではない。

しかし、バットは既にストレートを狙って出されている。

 

小湊は、完璧に反応した。

 

「っ!」

 

木製特有の、快音。

少し詰まった当たりながら、打球はライトの前に落ちた。

 

(低めのボール球、しかもフォークを打つなんてな。確実にストレート狙いのスイングだっただけに驚いたな。)

 

また、面白い選手と出会ってしまった。

そうして、楊は笑った。

 

「すまん、打たれた。」

 

その割には笑っている。

そんなことを思いながら、内野も答えた。

 

「1アウトな、舜臣!」

 

そして、次の打者である倉持に目を向けた。

 

 

ここまでの打撃成績は、3打数の0安打。

内野ゴロ3つである。

 

この打席でも、楊は倉持をショートゴロに抑えてみせた。

あらかじめゲッツーシフトを敷いていた明川内野陣、華麗に捌いてダブルプレーに打ち取って見せた。

 

 

 

ここで、攻守交代。

6回の裏、明川学園の攻撃となる。

 

「流石のゲッツーロボ具合だな。」

 

「っるせ、てめえだってチャンスじゃなきゃおんなじだろ。」

 

いじる御幸と、蹴り返す倉持。

グラウンドに向かう2人に続き、他の選手たちが守備位置に向かう。

 

 

最後に、1人。

背番号1の青年が、踏み荒らされた小さな丘にゆっくりと登って行った。

 

会場に、歓声が鳴り響く。

 

無名の進学校が、青道のエースを引き摺り下ろした。

強豪である青道を追い詰めているのだと、会場にいる一部の観客が盛り上がっていたのだ。

 

所謂、下克上を期待している。

 

 

「なんだ、盛り上がってるな。」

 

「みんな、明川が頑張って勝つのを見たいんだよ。」

 

へえっと、帽子を被り直しながら大野は何の気なしに返事をした。

別に、自分には関係ないと言わんばかりに。

 

「お前が期待されてる投球…わかってるよな?」

 

「勿論だ。」

 

そうして、御幸から大野へ白球が手渡される。

その白球を手の平で捏ねるように転がし、グローブの中へ投げつけるようにして収めた。

 

守備位置につく御幸。

それを見つめながら、大野はゆっくりと深呼吸をして天を仰いだ。

 

「まずは観客(あいつら)を黙らせるとこから、ね。」

 

目を瞑り、胸に手を当てる。

気持ちを整理するように、集中を高めるように。

 

 

ゆっくりと、大野の目が開いた。

 

打席に立つのは、巧打者の2番。

初回から得点に絡んでいる、今日ノリノリの打者だ。

 

(まずは変わりっ鼻、甘いコースを狙ってやる。)

 

丹波に比べれば、ストレートも速くない。

コントロールを持ち味としている楊よりも、遅い。

 

変わってすぐのこのイニングであれば、何とかなる。

そう、明川の打者たちは思っていた。

 

 

 

 

 

 

幻想は、すぐに打ち砕かれた。

 

 

 

 

「三球三振!最後は127Km/hの真っ直ぐで空振り三振です!」

 

乾いた音とともに鳴り響く、ストライクコール。

マウンド上の「エース」は、無言で打者に背を向けた。

 

その大きな背中を、見せつけるように。

 

 

 

「空振り三振!このバッターに対しても直球勝負で空振り三振!」

 

 

ただ悠然と、立ち塞がった。

 

 

 

 

「最後は4番も空振り三振!追加点を奪いたい明川学園の希望を打ち砕く、圧巻のピッチングです、マウンド上の大野夏輝!」

 

 

打者3人に対し、連続三振。

大野は、敢えて吼えて見せた。

 

ここから反撃が始まるのだと。

狼煙を上げるように、大野は咆哮した。

 

 

 

その瞬間、会場の空気が変わった。

傾いていた雰囲気が、変わった。

 

己の右腕で、チームを鼓舞するエースの姿に。

会場の人間は、強豪の逆転劇を期待した。

 

 

 

「どうでしょう?」

 

「完璧。」

 

誘うように突き出された御幸の拳。

そこに、大野も右手をコツンと当てる。

 

エースのピッチングに、チームが奮起する。

収まっていた青い炎は、大きく大きく燃え上がった。

 

 

先頭打者である小湊亮介。

ここまでは、見逃しの三振と内野ゴロ二つ。

 

しかし、触発された打者は、遂にヒットを放った。

 

 

外角のストレートを逆らわずに流し打ち。

内野の頭を越える、シングルヒットを放って見せた。

 

続く、3番の伊佐敷。

この男もまた、低めのボール球をうまく掬い上げてヒット。

チャンスを広げて、恐怖の4番に打席が回る。

 

 

 

しかし。

大野夏輝のピッチングに触発されたのは、青道の打者だけではなかった。

 

(それでこそ、倒し甲斐がある)

 

今大会打率. 750の怪物を、楊はねじ伏せた。

 

2球ストレートで追い込むと、最後はフォークで空振り三振。

ゾーン勝負で、世代最強と名高いバッターを真っ向から倒した。

 

 

続く増子に対しても、外角で追い込み高めのストレートで空振り三振を奪う強気なピッチング。

2人の強打者に対して、連続で空振り三振にとって見せた。

 

 

 

2アウト、一、二塁。

打席には、キャッチャーの御幸が入る。

 

ここまでの成績は、3タコ。

しかし、どの打席にもランナーが溜まっていなかった。

 

 

この御幸という男、ランナーが貯まれば貯まるほど集中力が上がるという不思議なバッターである。

ランナーは、2人。

最高ではないが、御幸の集中力はかなり高まっていた。

 

 

(さーて、ここまでの配球で言えば初球は外角低めだろうけど。)

 

そんなことを考えながら御幸はバットを構えた。

クイックモーションで投げ込む、楊。

 

内角胸元に、ストレートが決まった。

 

(インコース。強気にきたな。)

 

先ほどまでであれば、外角で追い込んでからインコースや高めをうまく使って空振り、もしくは緩急を織り交ぜてゴロを撃たせてきていた。

それが、いきなりのインコースである。

 

しかし御幸は落ち着いていた。

 

(多分、次もインコース。)

 

そうして、見逃す。

また、インコースに決まった。

 

(んで、次は。)

 

外角、低めに外れるフォーク。

これを、御幸は見逃した。

 

 

(振らんか。)

 

キャッチャーから投げ返されるボールを受け取り、楊は帽子の鍔に手を当てた。

 

先ほどまでなら手を出していたボールだけに少し戸惑いがあった。

が、すぐに切り替えて、また投げ込む。

 

5球目、カーブ。

これをバットに当てるも、わずかに右に切れてファール。

 

(ちょっとタイミングずれた。)

 

(これも完璧に合わせた?)

 

続く6球目、高めの釣り球を見逃す。

 

7球目も、インコース厳しいコース。

これも見逃し、並行カウントとなる。

 

 

 

勝負の8球目。

両者が息を吐き、構える。

 

(ここまで内が多いとなると、普通なら外で決めにくるだろうけど。)

 

(ここは攻め切って、流れを掌握する。)

 

 

 

楊が、投げ込む。

その瞬間、御幸はバットを振り始めた。

 

「似たもの同士だからな、お前は。」

 

だから、わかる。

この大事な局面で、自分のリードするエースならどこに投げるか。

 

 

2人の意思がリンクし。

高々と上がった打球は、悠々とスタンドすらも超えていった。

 

 






ガバ理論とガバ構文申し訳ない。
明川戦予定よりも長くなっちゃった。
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