燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード30

明川学園との試合をなんとか勝利に収め、ベスト8に駒を進めた俺たち青道高校。

しかしながら、喜んでもいられない。

 

準々決勝で当たると予想していた市大三校がまさかの敗退。

強打のチームである市大三校を乱打戦の末に打ち勝った、薬師高校が次の対戦相手となる。

 

 

 

にしても…

 

「轟…雷市ぃぃぃ!!」

 

「…」

 

何故か轟の名前を叫びながらダッシュする沢村。

そして、無言ながらオーラでアピールし走る降谷。

 

凄まじい気合いである。

 

いつもうるさい沢村は勿論だが、降谷まで気合いが入りまくっている。

それはもう、異常なほどに。

 

「すっげえ気合入ってんな。いいのか、大会期間中にあんな走らせて。」

 

「沢村も昨日は1イニングだけだし、降谷も投げてないからな。あれくらいなら放っておいていいだろ。」

 

あっ、そうですか。

ストレッチをしながら、一也と話す。

 

呑気に見ている俺たちに対して、純さんと哲さんが心配そうに見つめる。

 

「にしても入りすぎだろ。」

 

「ああ。元気がいいのは構わんが、少し異常だな。」

 

チームを統括する主将と副主将だからこそ、こういうことに神経質にもなるのだろう。

確かに、いつもより気合いが入りすぎている。

 

すると、弟くん…基、小湊春市が重い口をゆっくりと開いた。

 

「実は、帰りの直前に轟くんの自主練現場に居合わせたんです。」

 

ふーん。

試合終わりにすぐ練習とは、精が出るな。

 

そんな姿を、それも同じ1年生が見せてきたわけだ。

確かに、感化されるのもわかるわな。

 

「いえ、そういうことではなくて…」

 

そうして、弟くんはまた話し始める。

 

 

曰く、真中さんは面白い投手だったと。

変化球も、勢いも、全てが期待以上だったと。

 

そこまではいい。

問題は、その後であった。

 

 

 

「ここいらでお前の相手になるのは、あいつだけだろ?」

 

そこで挙げられた名前は、成宮鳴。

稲実の2年生エースであり、最速148km/hを誇る本格派左腕だ。

 

キレのある速球とスライダーフォーク、そして緩急をつけるチェンジアップ。

制球も纏まっており、1試合を投げきるスタミナもあるという高水準の投手だ。

 

 

彼、轟雷市の相手になる投手は、成宮鳴だけらしい。

その発言の意味は、考えなくてもわかるだろう。

 

「つまりは、眼中にねえってことかよ。」

 

純さんが、そのまま零す。

まあ、その捉え方で間違っていないだろう。

 

「勿論ぶん殴ってきたよね?そんな舐めた発言した奴。」

 

亮さんが、黒い何かを纏いながらそう言う。

表面上は笑顔だけど、笑っているように見えない。

 

 

 

 

自軍の投手たちをバカにされて、怒りを露わにする先輩方。

そんな中、当の本人である俺は。

 

「へぇ…」

 

くそイライラしていた。

顔にも態度にも出すつもりはないが、あそこまでコケにされれば嫌でも腹が立つ。

 

眼中にないだと?

ならてめえの脳裏に刻み込んでやる。

 

俺を。

大野夏輝という、投手の名を。

 

「一也、ブルペンいくぞ。」

 

「おま、今日は投げないんじゃねーのかよ。」

 

「気が変わった。あそこまで言われて黙ってちゃ、ここまで負かしてきた相手に申し訳が立たない。」

 

何より。

 

「鳴が相手になって、俺が相手にならないってのが1番ムカつく。」

 

「それが本音だな。」

 

シニアの時から、少なからずライバル意識は持っている。

投げ合えば投手戦になるし、その度にどちらが勝つかわからないくらい拮抗していた。

 

そんな2人が、片や評価されて片や評価されないというのは如何なものか。

 

「首洗って待ってろよ、轟雷市。」

 

そう呟き、俺は一也と共にブルペンへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー薬師高校

 

「なんだお前ら、まだここにいたのか。」

 

少し立て付けの悪い扉を開け、真田がテレビの置かれた小さな一室へと足を踏み入れる。

 

そこには、3人。

前の市大三高との試合にて、クリーンナップを張っていた3人の1年生がテレビの液晶をじっと見つめていた。

 

「ああ、真田先輩。監督がよく見とけって言ってたもんですから。」

 

「青道の投手か。野手はすげえイメージあるけど、投手も結構いるよな。」

 

青道高校といえば、やはり特徴はその攻撃力。

 

破壊力の高いクリーンナップと、高い出塁率を誇る上位打線。

そして、不動の4番。

 

強打のチームに必要なものを全て兼ね備えた、打の強豪である。

 

 

しかし近年…というより今年は、タイプの違う4人の投手を代わる代わる使っていくような、投手層の厚さも垣間見えている。

 

まずは、3年生の丹波。

高いリリースポイントを生かした角度のあるストレートと落差の大きい縦カーブで三振を奪っていく本格派右腕だ。

 

そして、2年生の川上。

ゆったりとしたフォームから鋭く曲がるスライダーを低めにあつめる、制球を武器とした変則サイドスローである。

 

 

そして。

 

「この2人…面白い!降谷と、沢村!」

 

彼、轟雷市が挙げた名前は、1年生2人。

この大会でまだあまり投げていない2人だが、雷市はその2人の投球を見て笑った。

 

「降谷ってのはわかるぜ。この間の試合で150km/h出したっていう噂のピッチャーだろ?けど沢村ってのはどうなんだ?」

 

降谷といえば、武器はやはりその豪速球。

最速150km/hを超える威力のある直球でガンガン押してくる剛腕投手だ。

 

正直、野球初心者でもわかるであろう凄い球を投げている。

 

 

対して、沢村のボールは決して速くない。

強いストレートも無ければ、鋭い変化球も無い。

 

正直、三島と秋葉、そして真田の目から見ても彼が特段凄い投手には見えなかった。

 

そんなことは露知らず、雷市はまた口を開いた。

 

「こいつ、画面じゃ分からない凄さがある。対面したバッターがみんな打ちにくそうにしてる。」

 

「確かに。若干だけど、変則っぽいよな。」

 

「球の出処が見づらいのかも。結構みんな詰まってるように見える」

 

1年生3人がそう話す中、真田はなるほどなと感心していた。

1年生ながら、そこまで見ているか、と。

 

テレビに映された投手が、また変わる。

そこに映されたのは、今まで出てこなかった1人の投手だ。

 

 

小柄な体格に、お世辞にも大きいとは言えない上半身。

そして、少しアンバランスに見えるほど筋肉質な下半身。

 

背中に描かれた数字は、1。

チームで最も小さな数字を背負った、チームのエース。

 

「オオノナツキ…」

 

「こいつが、青道のエースか。」

 

小柄な身体を目いっぱい捻り、全身の反動を生かしたトルネード投法。

そして豪快なフォームからは想像できない、緻密なコントロール。

 

球速は遅いものの、キレのある速球。

そして直球と同じスピードで大きく沈む、ツーシームファスト。

 

この投げ分けで、打者を圧倒する投手だ。

 

 

「どうだ雷市、こいつは打てそうか?」

 

液晶内で打者をきりきり舞いに三振に切ってとる投手を指指し、三島が雷市に問う。

すると雷市は、バナナを頬張りながらボソリと呟いた。

 

「こいつは、あんまり面白くない。」

 

雷市が放ったその言葉に、思わず目を見開く。

 

入学してから約3ヶ月。

初めて実際の試合で投手と対面してきた雷市は、基本的にどの投手に対しても「面白い」と言っていた。

 

特に真中などの好投手に関しては、尚更。

 

そんな彼が、初めて「面白くない」と言ったのだ。

それも、成宮鳴と肩を並べるほどの好投手に対して。

 

「珍しいな、お前がそんなこと言うなんて。」

 

「…なんか、面白くない。真田先輩とか真中とは、なんかちょっと違う。」

 

極めて曖昧な表現だが、真田は頷く。

確かに、自分や真中と比べると少しばかり見劣りする。

 

投球時の気迫や気概、そして意志が。

 

「チームを勝たせたいって意志は伝わる。だけど、それだけしか感じない。」

 

「それが投手としては当たり前の考えだけどな。」

 

「俺もよくわかんねーけど、でもなんか真田先輩とかとはちょっと違う。」

 

「ふーん。」

 

正直よくわからないが、とりあえず自分はそこそこ評価されているのだろうと思いながら、真田はテレビ画面に目を戻す。

そして、単純に気になることだけを、ストレートに聞いた。

 

「で、打てそうか?」

 

「沢村も降谷も丹波も、全員ぶっ飛ばす。」

 

期待していた返答と少し異なる答えだったが、真田は溜め息をつきながらも笑った。

 

こいつらしいなと思いつつも、何だかんだで頼りになると。

そしてきっと、雷市なら打ってくれると。

 

そう信じて、彼は小部屋を後にした。


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