燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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少し短めです。


エピソード31

「このように、市大三高と薬師高校の試合は12-13で薬師のサヨナラ勝ちとなりました。」

 

一通りビデオを流し終え、研究班の渡辺が話し始める。

そして要所要所の解説も踏まえ、ビデオを巻き戻した。

 

「やはり警戒すべきは、その攻撃力。18安打13得点という強力打線ですね。ここまでバントは一度も使っていませんが、代わりに盗塁やエンドランなど足を絡めてきています。」

 

その分ゲッツーや盗塁失敗でアウトを献上している。

が、それ以上に投手や内野へのプレッシャーはだいぶかかるだろう。

 

そして、やはり特筆すべきはパンチ力。

9人の野手の内、昨日の試合で本塁打を放ったのは5人。

 

3年生の山内と、同じく渡辺。

そして。

 

「やはり注意しなくてはいけないのは、この1年生3人ですね。」

 

昨日の市大三高との試合でクリーンナップを張っていた3人。

轟雷市に秋葉一真、そして三島優太。

 

3人合わせて5本塁打に、8打点。

得点の大半を占めている、怪物3人である。

 

 

まずは、3番レフトの秋葉一真。

高いミート力とバットコントロール、高い出塁率を誇る左の好打者である。

 

そして、パンチ力もある。

出塁率もありながら長打を放つパワーも技術もある為、薬師高校の中でも一二を争う好打者だ。

 

 

続いて、5番ファーストの三島。

高い弾道でガンガン長打を放っていく、強打者。

 

元々投手もやっていた為か、柔らかい手首を生かしたシュアなバッティングや逆方向に強い打球を放つなど技術的な一面も見せている。

 

 

そして、やはり。

 

「最も気をつけなければいけないのは、この4番。」

 

4番サードの轟雷市。

 

サードというスラッガーポジションに、1年生ながら4番で本塁打を量産するロマンたっぷりのバッター。

前の市大三高戦でも三島とともに2本の本塁打を放っている。

 

都内でもトップクラスのスイングスピードと、ミートしたボールを確実に遠くに飛ばすパワー。

そして、どんな球にも対応できる対応力にミート力を誇る。

 

という、まあ簡単に言えば化け物である。

 

 

「真中との対決を見てもわかる通り、変化球への対応はかなりのものです。」

 

真中さんの高速スライダーも詰まらずに飛ばしていたからな。

 

スイングスピードが速いから、速球にも詰まらない。

速球にも詰まらないから、変化球を我慢して打てる。

 

だからこそ、ストレートと高速スライダーの投げ分けで三振を奪ってきた真中さんにとっては、とても相性の悪い投手だったんだろうな。

 

 

そしてそれは、俺にも。

 

基本的にはストレート(4シーム)とツーシームファストの投げ分けで三振を奪っていくスタイルだから、ツーシームに対応されると少し厳しいものがある。

 

 

相性としては、降谷が一番だろうな。

強い速球に落ちる変化球、コントロールもバラけている(というか荒れている)為、的も絞りづらい。

 

純粋に力と力と勝負で真価を発揮する降谷が、一番効果的なのではないだろうか。

 

 

 

「その3人以外も、やはり強打者揃いですね。下位打線を打っているのも前までクリーンナップを張っていた3年生ですし、最後まで抜け目のない打線となっています。」

 

抜くところがないってとこも、また面倒な話だな。

それに、打順もまた変わる可能性あるだろうし。

ここばっかりは、正直読めないよな。

 

 

 

 

「前の試合でも5回から登板してロングリリーフをした真田ですね。彼が登板してから市大三高の得点も一気に失速しました。」

 

こいつか。

背番号18の実質エース、真田俊平。

 

最速140km/hを超えるストレートに、切れ味鋭いシュートボール。

この2球種をインコースにガンガン攻めていく、強気な投手だ。

 

四死球や甘いボールもそこそこある為、コントロールは決してよくない。

が、インコースへ攻めるときの制球は高い。

 

まるで、どこかの誰かさんみたいである。

 

 

 

「今大会、未だに先発登板はありませんが、恐らく実質エースは彼でしょう。」

 

故障があるのか知らないが、ここまで先発登板はなし。

しかしながら、実力やマウンド捌き、それに立ち振る舞いはエースのそれそのものであった。

 

 

恐らく次も先発は3年の三野だろう。

しかしながら、こいつが出てくることは間違いない。

 

まずは、真田が出る前に叩く。

それが、次の試合の第1目標になるだろう。

 

そう渡辺が言い終え、手元のノートをスっと閉じる。

それを確認すると、監督は1つ頷いて口を開いた。

 

「ご苦労、これからもその鋭い観察眼をぜひチームの為に使ってくれ。」

 

そう労い、監督が前に出てくる。

そして、彼の研究結果を総括して話し始めた。

 

「ただでさえ強力な打線に、市大三高を倒した勢いも相まって今の薬師はとてつもなく強大な壁となっているだろう。しかし裏を返せば、勝てばその勢いを根こそぎ奪い取れるということだ。迷わず自分たちの野球を貫き、その上で勝つ。俺たちにできるのはそれだけだ、いいな?」

 

「「はい!」」

 

大きな声で、チーム全員が返事をする。

あとは、先発とオーダーだけか。

 

ローテとか起用法で考えれば俺だろうか。

まあ丹波さんはないだろうな。

 

相性で言えば降谷だけど、正直崩れるのが怖い。

 

一番いいのは打者一巡で的を絞らせない継投策。

けどまあ、これも博打に近い。

 

 

 

「明日の先発だが、大野で行こうと思う。」

 

監督が、迷わずそう言う。

何の不思議があろうかと言わんばかりに、迷わず。

 

「あ、俺なのね。」

 

小声で呟くと、横にいた一也が溜め息をつきながらも返してくる。

 

「お前以外誰がいんだよ、エース。」

 

あ、さいですか。

まあ、任されたからにはやれるだけやろう。

 

「行けるな?」

 

「喜んで。」

 

今度は、間髪を容れずに答える。

すると、監督も無言で頷いた。

 

「薬師との試合、厳しい戦いになることに違いない。こちらも総力を掛けて迎え撃つぞ。」

 

監督の檄に、ナインが大声で返事をする。

 

相手は、ダークホース。

観客は大番狂わせを望んでいるだろう。

 

 

が、それを振り切ってこそ王だ。

玉座に手をかけるのならば。

 

 

力で奴らを、捩じ伏せる。

 

 

 


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