燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード37

点を取った直後に、颯爽と失点するという青道ムーブをカマしてくれた丹波さん。

まあ、2失点なら上々だろう。

 

 

回は、6回の表。

何とか逆転しておきたい。

 

打順はクリーンナップから。

理想的な順番というのもあり、できればここで得点を入れておきたい。

 

 

しかし、自援護で得点の入った真木。

ここで一気にギアを上げて仕留めに来た。

 

先頭打者の純さんをカーブでレフトフライに抑えると、続く打者は4番の哲さん。

 

 

 

初球はまず、カーブ。

低めだが、外角低め一杯に決まってストライク。

 

2球目は、ストレートが高めに外れてボール。

 

3球目も続けてストレート。

今度はインコースの低め、哲さんもバットに当てるも前に飛ばずファール。

 

4球目、低めのカーブで空振りを奪おうとするも、見逃されて並行カウントとなる。

 

5球目の外角ストレートもバットに当ててファール。

 

 

「押されてるな。」

 

球の勢いか、或いはコースの良さか。

制球のアバウトな真木にしては珍しく、ほぼ完璧なコースに続けて決まっている。

 

哲さんが、翻弄されている。

それほどに、この打席の真木は冴えている。

 

 

 

6球目。

 

「空振り三振!最後は低めのカーブでした!」

 

この日1番のキレを誇るカーブ。

それが低めのボールゾーンまで沈み込み、勝負をかけた哲さんのバットを掻い潜った。

 

哲さんを抑えたことで勢いに乗った真木。

最後の打者である増子さんもサードフライに抑えて三者凡退で抑え切った。

 

 

 

そろそろまずいな。

試合展開的にも、向こうに流れがある。

 

なんとか流れを、こちらにもっていきたい。

 

というか、継投に入る前には逆転しておきたい。

気持ち的にも、中継ぎが安心して投げられるように。

 

 

 

6回の裏。

丹波さんの予定されていた、最後のマウンド。

 

瞬時に逆転されたものの、実際投球内容は悪くない。

 

被安打自体は多いが、三振を奪いつつフォアボールは1つだけ。

失点も2失点にまとめていると、意外と内容は良い。

 

 

そんな丹波さんも、この回は最後のピッチング。

 

先頭打者をカーブで三振に切ってとると、次の打者に対してもフォークで空振り三振。

最後もフォークでレフトフライで締め、2三振の三者凡退に抑える。

 

次の攻撃につなげる三者凡退で、攻撃に望みをかけた。

 

 

さて、ということで丹波さんの思いを引き継ぎ、攻撃。

なのだが、攻撃は下位打線から。

 

しかし、そんなことも言っていられない。

まずは俺と白洲で、チャンスメイク。

 

なんとかして上位打線につなげていきたい。

 

 

まず、先頭打者である俺が打席へ。

息を吐いて、バットを緩く構えた。

 

 

さーて、やりますか。

俺にできるのは、繋ぎのバッティング。

 

軽打でいい。

まずは出塁することだけを考える。

 

 

俺にできるのは、チャンスメイクだけだ。

本塁打を打つパワーなんてないし、そもそもうちの打線は繋がってこそ真価を発揮する。

 

一発よりも、繋ぎ。

始まったら終わらない、マシンガンのような打線。

 

まずは、俺から。

そう思い、真木に目を向けた。

 

 

初球。ストレート。

威力のあるストレートが高めに決まり、ストライク。

 

速いというよりは、重い。

差し込まれるような、そんな力強さを感じる。

 

2球目、再びストレート。

インサイドの高め、少し外れてボール。

 

(こいつ…。)

 

完全に、押してきている。

真っ直ぐで、ねじ伏せにきている。

 

 

なら、こちらもやりようはある。

ストレートに力負けするなら。

 

食らいついて、落としてやる。

 

 

3球目、ストレートを振りにいく。

力負けすることはわかっている。

 

なら、あえてそれを利用する。

 

 

少し詰まりながらも、見流し方向に思い切りバットを振り抜く。

 

「っしゃあ!」

 

差し込まれているため打球は遠くまで飛びにくい。

しかし、振り抜かれた打球は内野の頭を越え、外野の前に落ちる。

 

 

「ナイスポテンヒット、なっさん!」

 

レフト前と言え。

とはいえ、まあ綺麗なヒットとは言い難い。

 

しかし、塁に出ることが最優先だ。

 

次のバッターは、白洲。

バットコントロールのいい彼なら、なんとか繋いでくれるはずだ。

 

 

俺の予想通り、甘く入ったカーブを弾き返し、ライト前にヒットで繋ぐ白洲。

さらっと、出塁していく。

 

 

さあ、ここだ。

終盤にようやく作ったチャンス、ここで必ず点を取りたい。

 

 

ということで、我らが青道高校ベンチが動く。

任された最後の回を投げ切った丹波さんに変わり、バッティングのスペシャリストを送る。

 

代打、小湊春市。

ここまで代打として出場した全打席で安打を放っている。

 

出れば、必ず結果を残す。

だからこそ、監督はこの大事な局面で一年生である彼を起用した。

 

 

練習で見ていても薄々感じていたが、割と天才肌である。

読み打ちとかっていうよりは、ほぼ反応打ち。

 

それでいて、ミートポイントの狭い木製バット使い。

よく高打率を残せるもんだ。

 

 

見せてくれよ、『ラッキーボーイ』。

 

オープンスタンス気味に、バットを頭と同じ高さで構える。

本当に、自然体なんだろうな。

 

 

 

真木の顔が、明らかに強張る。

 

代打で出てきた一年生を見て、甘く見られたと思ったのか。

はたまた、打率10割のバッターを前にして流石に力が入ったか。

 

どちらにせよ、真木からしたらピンチ。

そして俺たちからしたら、千載一遇のチャンスである。

 

 

(難しく考えるなよ、小湊。)

 

要らん心配か。

チャンスだからと言って、日和る奴でもあるまい。

 

 

初球、カーブ。

高い打点から放られ、低めに外に逃げながら落ちる緩いボール。

 

これを、初球から弾き返した。

 

下から掬い上げるようにカーブを持ち上げ、打球はセンター前へ。

難しいボールを上手くセンター前に運ぶ、正に理想的なバッティングだ。

 

 

お世辞にも足が速いとは言えない俺は、三塁でストップ。

ノーアウト満塁で、ファーストバッターである倉持に打席が回る。

 

今大会の打率は.177

正直、心許ない。

 

ゲッツーは最悪。

ヒットでつなげてくれれば最高。

 

 

左打席に入る倉持。

まあ、右投手に対してなら普通だろう。

 

念のため、一度ベンチに目を向ける。

サインは…っと。

 

(ほう。)

 

監督のサインを見て、俺は帽子の鍔に手をかける。

仕掛けるのね。

 

走る準備。

仕掛けるのがバレたら、そこまで。

 

だからこそ、できるだけ悟られないように。

 

クイックモーションから、真木が投げ込む。

瞬間、打席の倉持がバットを寝かせた。

 

 

ここで、スクイズ。

まずは確実に、一点を取りにいく。

 

それに。

 

 

(もう遅いよ。)

 

打球が転がり、ピッチャーの真木が自ら打球をとる。

あらかじめスタートを切っていた俺は、難なくホームへと突入する。

 

ホームアウトが無理と察した真木。

すぐに一塁に送ろうとするが、相手は何しろ倉持。

 

(今から投げても間に合わない。)

 

案の定、倉持は内野安打。

俺はホームに帰ったため、早くも同点に追いついてみせた。

 

 

天を仰ぐ、エース。

それほど追いつかれたのが悔しかったか?

 

残念だが、まだ消沈するには早いぞ。

なんてったって、俺たちの攻撃は。

 

 

 

まだ、続いているのだから。


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