燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード39

 

 

仙泉との試合を8-2と快勝した俺たち青道高校。

遂に、甲子園まであと1つという所まで漕ぎ着けた。

 

決勝戦の相手は、2つに1つ。

別ブロックに位置する、2つのチームのどちらかだ。

 

 

 

まあ、順当に行けば稲実だろうな。

去年の夏大会では俺たち青道高校を下して西東京地区を制し、甲子園ベスト8まで上り詰めた今大会の優勝候補筆頭だ。

 

堅実な守備と手堅い攻撃、そして投手力。

全てにおいて高水準に纏まっている、万能タイプのチームだ。

 

 

かといって得点力が劣るかというと、そうでもない。

 

4番の原田を中心にパンチ力のあるクリーンナップに、多種多様な打者たち。

強い個性をそれぞれが存分に出し、混ざり合う。

 

ある意味では、個の集団である。

しかしその個性が調和しているからこそ、強いのだろう。

 

 

 

対する相手は、桜沢高校という都立高校。

初のベスト4進出の、言ってしまえば無名校だ。

 

突出している攻撃力があるでもなく、恐ろしく硬い守備が自慢でもない。

ここまでの試合を全て接戦で、それもロースコアゲームで勝ち抜いてきた。

 

はっきり言って、ここまで勝ち抜いて来れるようなチームではない。

それこそ、去年までは10年連続で地区予選一回戦敗退という不名誉な記録まで持っていたほどだ。

 

 

 

 

 

しかしながら、ここまで勝ち抜いてこれたことには、確かな理由がある。

それは。

 

「ナックルボーラーか。」

 

「へえ、面白いね。あんまり見ないからさ。」

 

哲さんと亮さんが話す。

確かに珍しい。

 

ナックルといえば、簡単に言えば無回転のボール。

空気抵抗をもろに受けるから、風の向きによって不規則に変化をする緩いボール。

 

その不規則な変化から、漫画とかでも良く魔球と形容されることが多い。

それほど、軌道が読み難く対応の難しい変化球なのだ。

 

 

しかし、それだけのボールでも使い手が極端に少ないことには理由がある。

それは、投球難易度の高さだ。

 

腕の振りに対して反発する回転を、指の甲で弾くようにかけることで無回転のボールを放らなければいけない。

 

 

言葉にすれば簡単だが、これがとにかく難しい。

何が難しいって、まず普通に投げれば届かない。

 

 

ただでさえ投げにくい握りで、指に引っ掛けることもできない。

そして、基本は手投げになることが多いから、体の勢いも他のボールに比べて使いにくい。

 

さらに力が入ったら、大体回転がかかる。

つまりは、浮いた緩いボールになる。

 

リスクも隣り合わせという。

まあ、諸刃の剣というやつだ。

 

 

しかし、その繊細なボールだからこそ。

真に手懐けた時、輝きを放つ。

 

 

 

初回から稲実の強力打線を三者凡退に抑えると、2回は得点圏にランナーを置きながらも落ち着いて投げきり無失点。

上々の立ち上がりを見せた桜沢のエース、長尾。

 

 

ここまでエースの力投と、粘り強い攻撃で接戦を制してきた桜沢。

 

 

しかし。

彼らの目の前に立ち塞がるのは。

 

 

 

 

 

まごう事なき、最強だった。

 

先頭打者から、数えること7人。

全てのアウトを三振で奪う、まさに圧倒的な投球で他の追随を許さない。

 

 

最速148km/hの直球に切れ味のあるフォークとスライダーで三振に斬ってとる。

そして、緩急を生かす決め球、伝家の宝刀チェンジアップ。

 

 

それが、稲実のエース。

成宮鳴という、男だ。

 

全てにおいて、高水準。

高いレベルでまとまっている、関東ナンバーワン左腕と呼び声高い。

 

2年生ながら、プロのスカウトが注目するほどだ。

 

 

 

そして。

去年の夏。

 

俺を負かした、一年生投手。

そして、中学の頃何度も俺に黒星をつけた、因縁の相手でもある。

 

 

 

 

向こうはどう思っているか分からないけど、俺は勝手にライバルと思ってる。

他の投手とは違う感情を抱いているのは、間違いない。

 

俺よりも、質の高い投手。

俺よりも、良いエース。

 

 

まあ、それでも。

 

「俺が、勝つ。」

 

 

 

鳴が、また三振を奪う。

打者9人に対して、8個の奪三振で完全に抑えこむ。

 

その投球は間接的に長尾にプレッシャーを与えていく。

 

そして、4回。

ここまで落ち着いて投球していた長尾の集中が、途切れ始めた。

 

逆転できる糸口が、ない。

そんな思いが焦りを生み、焦りは長尾の感覚すらも乱していく。

 

 

そして、その感覚は直接、繊細なナックルを狂わせた。

 

 

 

 

 

 

 

たった一つの失投。

そこから、桜沢のエースは崩れた。

 

一度乱れた心は簡単には治らない。

その一瞬を責め立てた稲実が、ここぞとばかりに点を稼ぎ。

 

 

5回が終わる頃には、10点を回っていた。

 

 

 

 

 

 

5回コールド。

ただ、稲実の強さを再確認した試合だった。

 

 

何より、成宮という投手の質の高さを再認識した。

 

 

そして。

その投手に、勝たなければいけないということ。

 

俺が。

俺が投げ、勝つ。

 

 

それ以外、何もないのだ。

 

 

 


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