燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード41

 

 

 

「以上が、稲実と桜沢の準決勝になります。」

 

そう言って、渡辺がノートを開く。

クリス先輩から直伝の、研究ノートだ。

 

彼もクリス先輩と同等の観察力を持ち、その真面目な性格と鋭い観察眼で対戦相手の癖を見つけていた。

 

 

 

 

明日、俺たちは稲実と闘う。

去年と同じ、最後の最後で壁となり立ち塞がる。

 

「まずは打線から。」

 

そうして、渡辺が口を開く。

 

 

先頭打者は、2年のカルロス。

走攻守三拍子揃った瞬足の中堅手だ。

 

とにかく足が速く、塁に出たら厄介なのは言うまでもない。

 

同じタイプの倉持よりも、パワーや打撃能力で言えばカルロスの方が上だったりする。

 

 

俊足のカルロスの次は、巧打者の白河。

バントからバスターなど、小技に長けた2番打者。

 

ちなみに、亮さんの下位互換である。

 

 

3番は、3年の吉沢さん。

厳つい、強打のサードでありながらチャンスメイクもできる。

 

クリーンナップなだけあり、やはり打撃能力で言えばかなり高いものがある。

 

 

そして、4番。

この稲城実業の中で最も注意しなくてはならない打者であり、強肩強打のキャッチャー原田。

 

高いミート力と抜群のパワーを誇り、チャンスにも強いという打の中心人物だ。

 

何より、チャンスで強い。

と言うよりは、ここぞと言う場面で打つ…と言うべきか。

 

試合終盤、一点が欲しい時や投手に疲れが見えた時など。

ここで打ってくれと言う時に、とにかく強い。

 

去年もヒット自体は打たれていないが、この打者にかなり神経を使った。

 

 

5番は、ピッチャーの成宮鳴。

投手能力は後述するため割愛するが、打者としての能力もかなり高い。

 

三振こそ多いものの、投手特有の柔らかいリストを生かしたシャープな打撃が最大の長所。

強い打球をどんどん飛ばすから、気をつけなくてはならない。

 

俺にとっては、因縁の相手。

去年の夏大では、こいつに一発を浴びて、負けた。

 

 

 

6番は、山岡。

一塁手の二年生で、所謂一発屋である。

 

ブンブン丸、扇風機、愛称はいろいろあるが、それに比例して当たった時の怖さは半端じゃない。

 

 

あとは割愛。

ここから下は、基本的に守備の人がメインになるから。

 

 

 

打線の怖さで言えば、市大三校や薬師の方が上だろう。

だがそれ以上に、神経を使わなくてはならない。

 

それぞれが特長を持っており、得意とするボールもスタイルも変わっていく。

 

何より全員が、自分がどのように動くのが最適かを理解してる。

 

 

「大野なら心配はいらないと思うけど、先頭打者のフォアボールは厳禁。特にカルロスみたいな足のあるバッターには特にね。」

 

「おう」

 

間違いなく、走られる。

そもそも球速ないし、トルネード投法という変則フォームの都合上、クイックはかなり遅くなる。

 

だからまず大切なのは、不要なランナーは出さないこと。

そんなのは当たり前だが、今回はかなり注意しなくてはならない。

 

あとは、ランナーをあまり気にしすぎないことか。

ある程度走られることは割り切って、バッターに集中すること。

 

 

先頭打者のカルロスと2番の白河は、ミート自体は特段高い訳ではない。

ストライク先行でガンガン攻めていくことが鍵になる。

 

クリーンナップに対しては、厳しく攻めていく他ない。

特に原田さんと成宮に関しては。

 

 

「続いて、攻撃です。」

 

まず抑えておかなくてはいけないのは、エース。

背番号はもちろん「1」、成宮鳴。

 

最速150キロに迫る直球と、切れ味のあるスライダーと落ちる変化球。

ともにカウント球として使えるほど精度が高く、勝負球に使えるほどの完成度を誇る。

 

ストレートもキレがあり、途中で加速するようなノビのある4シーム。

バランスよく高い精度を誇る縦横の変化球。

 

何より、決め球であるチェンジアップ。

昨冬に習得したであろうこの変化球は、ストレートと同じ腕の振りで利き腕側に緩く沈む。

 

軌道もストレートに近いため、ストレートのタイミングで合わせにいくと、確実に空振る。

 

 

「狙うなら、高めに浮いた変化球でしょう。成宮はそれほど制球も良くないため、試合終盤になれば必ず甘いボールも増えてくるはずです。」

 

確かにな。

制球自体は悪くないし、スタミナだって常人離れしている。

 

しかし、試合は炎天下。

汗もでるし、体力が無くなれば集中力だって削れていく。

 

どんなにスタミナがあっても、夏の大会で終盤まで体力が有り余っていることは、まずない。

 

 

勝負は、後半戦か。

わかってはいたが、そうなると先制点も取られることは許されない。

 

野手が焦らないためにも。

彼らがバッターとして最大の力を発揮できるように。

 

 

 

 

「明日の先発は大野。他の投手もいつでも行けるように準備しておけ。」

 

改めて、明日…決勝戦の先発として指名される。

こうやって言われると、一気に実感が湧く。

 

「エースとしての投球、期待している。」

 

「必ず。」

 

 

求められているのは、勝てるピッチング。

どんな投球だろうと、どんな内容だろうと。

 

任されたからには、期待に応えなくてはならない。

 

「一也。」

 

「ああ。」

 

俺は、少し息を吐いた。

 

「明日はよろしく頼む。」

 

彼は少しキョトンとして、笑った。

 

「ああ、よろしくな。」

 

そう言って、お互いに笑った。

 

明日になれば、全てが決まる。

終わりか、始まりか。

 

夢の舞台に立てるのか、夢で終わるか。

全ては。

 

 

 

 

明日、決まるのだ。

 

 


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