燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード44

 

 

 

 

「「行くぞおおおお」」

 

「「「おおおおおおおお!」」」

 

蝉が鳴き、騒々しい人々の音声が会場に渦巻いていた。

が、球児たちの元気な声と共に、それは一つに歓声となって纏まる。

 

今日の主役たちが大きな声をあげ、広い広いグラウンドの真ん中に集った。

 

 

「甲子園をかけた最後の戦いが始まります、西東京地区大会決勝戦です。」

 

空は、青空。

雲一つない、快晴。

 

照りつける太陽は大地に反射し、また青い芝を輝かせた。

 

 

「まずは稲城実業の先発、マウンドにはエースの成宮が上がります。」

 

同時に、観客席から声が響きわたる。

歓声の中心で、青年はぐるりと左肩を回した。

 

 

 

(あっつー。)

 

一年前と同じように心の中でそう呟きながら、捕手である原田から受け取った白球を左手で握った。

 

調子は、悪くない。

寧ろ、ここ最近の中で一番いいかもしれない。

 

そんなことを思いながら、成宮はボールを投げ込んだ。

 

「っし!」

 

声とともに、投げ込む。

刹那、原田のミットに直球が突き刺さった。

 

やはり、悪くない。

 

そして、淡々と成宮は投球練習を続けた。

全てを、なぎ倒すために。

 

チームに勝利を。もたらすために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

成宮に、会場の全ての人の視線が集まる。

その端で、もう1人のエースは同じく投球練習に励んでいた。

 

「ナイスボール!」

 

ミットの快音が鳴り響くと同時に、女房役である御幸がそう声をかける。

受けたボールを投げ返し、再び同じように座り込む。

 

そして、ふっと小さく息を吐いた。

 

(珍しく緊張してる?)

 

少し、硬い。

そう感じながら、御幸はまた右打者の膝下に構えた。

 

ボールは、構えられたコースよりも高くなったが、力のある真っ直ぐが御幸のミットに収まった。

 

 

(やっぱり、明らかに力んでる。)

 

力が抜ききれていない。

球速云々より、いつもよりもストレートにキレがない。

 

これは少しばかり危険だなと、そう感じながら御幸はまたボールを返した。

 

 

できれば、援護が欲しい。

それも、初回からあると一番助かる。

 

大野にリラックスして投げてもらうためにも。

 

 

 

しかし。

それを許すほど、「エース」は生易しい存在ではない。

 

寧ろ重圧を上乗せするように。

己の力を誇示してみせた。

 

 

 

 

「いきなりエンジン全開!成宮、青道の上位打線を全く寄せ付けないピッチングで初回を三者凡退で切って取りました!」

 

 

 

思わず、顔を顰めた。

こうも、期待に応えてくれるかと。

 

できれば少しくらい隙を見せて欲しかった。

きっと、大野もまだ楽に投げられただろうに。

 

その時、御幸は背中から伝ってくる「熱」に気がついた。

 

降谷や結城とはまた違う、じわーっと静かに伝う熱を。

 

 

 

「夏輝…」

 

「行くぞ、一也。」

 

いつもより少し深く被られた帽子に、大野が手をかける。

その鍔から覗かれる紺碧の瞳は、いつもよりも深みを増しているように感じた。

 

 

仲間たちが、己の持ち場で待つ。

その中心に、悠然と歩みを進める。

 

青き炎のエースが、小さな玉座に昇ると同時に。

 

 

 

会場の視線は、移り変わった。

マウンド上にいる、小さな大エースに。

 

全ての人間が、大野の紺碧の水晶に魅了された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一年越し、だな。)

 

少し掘られた、小さな丘。

いつもと同じだが、その景色というか、空気感は全く別のものだから。

 

自然と流れてくる汗を上腕で拭うと、そのまま右手で鍔に触れ帽子を被り直した。

 

 

(あっつー。)

 

意外にも、大野はリラックスしていた。

試合直前というか、マウンドに上がるこの瞬間までが一番緊張するというのはよくある。

 

動いてみれば、意外と緊張はほぐれるというものだ。

 

 

 

それもそうだが後は成宮。

ライバルである彼が最高のパフォーマンスを見せた。

 

普通なら緊張してしまうのだが、大野は違った。

何故なら、試合前に極限まで緊張していたから。

 

行くとこまで行ったら、あとは落ちついていくだけだ。

 

 

 

大野が目を瞑り、右手を胸の真ん中に当てる。

そして、ゆっくりと息を吐き出した。

 

雑念、緊張、弱気。

全てを、吐き出すように。

 

 

(行ける。)

 

そう確信し。

ゆっくりと、目を開いた。

 

 

 

 

 

打席に入るは、先頭打者のカルロス。

足も速く、パンチ力もある。

 

本塁打もそこそこ打つため、正直怖い。

それが、御幸の抱いていた思いであった。

 

 

 

(まずは、ここ。)

 

 

御幸のサインに無言で頷き、ゆったりと腰を捻り始める。

 

彼だけの、独特の投球フォーム…トルネード投法から、真っ直ぐを放った。

 

 

糸を引くようなストレート、低めから伸び上がってくるような真っ直ぐが、外角低めに決まる。

と同時に、審判のストライクコールが鳴り響いた。

 

 

126km/h。

球速表示で言えば、遅い。

しかし、打者であるカルロスの目から見れば全国レベルのストレートにも感じていた。

 

 

(やっぱ速く感じるな。)

 

一つ息を吐き、バットを少し揺らす。

そして、またバットを掲げた。

 

2球目、同じコースにストレート。

これも見逃し、2ストライクと追い込んだ。

 

 

ミットが動かない、全て構えたコースに来る。

思っていた以上にいい状態の相棒に、御幸の口角が上がっていた。

 

 

(ストレートで3球勝負も気持ちいいけど。)

 

(お前の思う最善なら、それを投げる。)

 

すると、御幸は先のサインとまた違うサインを大野に見せる。

 

そして、大野が同じようにゆったりとしたモーションからストレートを放った。

 

 

 

軌道は、外角低め。

先ほどとほぼ同じ、しかしながら少しばかり内に入ったボール。

 

追い込まれているということもあり、その真っ直ぐを狙っていたカルロス。

先の2球で焼き付けた軌道に、バットを合わせる。

 

 

タイミングは、完璧。

 

 

だが、カルロスのバットは空を切る。

 

御幸のミットは、遥か下。

ストレートを狙っていたカルロスのバットを掻い潜り、御幸のミットに収まった。

 

 

 

「空振り三振!好投の成宮に負けじとこちらもエンジン全開です、マウンドの大野!」

 

 

 

 

歓声が、大野の耳に突き刺さった。

 

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