燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード48

 

 

 

 

燦々と照りつける太陽。

その下、ゆらゆらと揺れる陽炎の元で、投手は帽子を深く被った。

 

(犠牲フライも、ゴロもできれば防ぎたい。内野フライか三振で頼むぞ。)

 

(簡単に言うね。)

 

御幸のサインで、意思疎通。

まるでテレパシーかと言わんばかりである。

 

 

 

(まあ、やってこそだよな。)

 

まずは、目の前のバッター。

それだけを考えて、大野はセットポジションに入った。

 

 

 

 

 

一つ、息を吐く。

 

心は、十分落ち着いている。

身体も、固まっていない。

 

 

求められているのは、いつもの投球。

しかし、それでは足りない。

 

 

 

 

 

限界を越えろ。

常に100%…120%で闘え。

 

今都内で最も強い成宮鳴という投手を、越えろ。

 

 

そう言い聞かせ、大野はプレートに足をかける。

そして、打席のカルロスと視線が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(おいおい、冗談だろ?)

 

対するカルロスは、目の前の投手の姿に戦慄した。

 

きらりとガラスのように煌めく瞳。

太陽の光に反射するように輝きを増す。

 

帽子の影で薄らとしか見えないその表情。

それがまた、数分前に圧倒的な投球を見せた投手と重なってしまった。

 

 

 

ただ、あくまでそれだけだ。

 

表情と瞳が、酷似しているだけ。

まだ、「今の」成宮と同じとは言いきれない。

 

 

頭に過った弱気を振り払うように、カルロスは軽口を叩いた。

 

「随分余裕だな、お宅のエースさんはよ。」

 

それに対し、一番近くにいる御幸は何も返答を返さなかった。

カルロスも敢えて追及せず、バットを構える。

 

 

 

(さあ来い。甘く入ったら弾き返してやる。)

 

狙うは、高めのストレートと抜けた変化球。

厳しいボールを、態々狙う必要はない。

 

 

とにかく、1点。

あとは、自軍のエースがなんとかしてくれる。

 

カルロスも息を吐き、狙いを定めた。

 

 

 

 

大野の足が、ゆっくり動き始める。

クイックモーションだが、ランナーはほぼ無警戒。

 

盗塁を防ぐよりも、目の前の打者を打ち取ることを最優先とした。

 

 

 

 

(低く来いとは言わねえ。飛び切り「強い」ボール、投げ込んでこいよ。)

 

(高く来たら、弾き返してやる。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大野から白球が放たれたと同時に。

 

風を斬り裂く音が、走った。

 

 

その音は、薬師高校との試合で轟の耳に入ったものとは比べ物にならない大きさで、御幸のミットへと突き進む。

 

 

 

 

そして、乾いた破裂音が、鳴り響いた。

 

 

 

 

「うお、まじかよ。」

 

思わず、カルロスがそう漏らす。

 

 

御幸がミットを置いた場所は、外角低め一杯。

 

そこに、寸分違わず決める。

というのは、いつもと同じなのだが。

 

驚愕したのは、そのボール。

 

普通なら失速するはずのボールが、加速した。

 

 

ノビのある直球とはよく言うが、それにしても限度がある。

 

常人離れしたボールの回転数と、彼特有の極端なオーバースローによる縦回転がもたらしているのだろう。

 

 

近年流行りのムービングボールのような、芯を外すストレートではない。

ある意味では、時代を逆行するような。

 

混じりっけのない、純粋なストレート。

 

 

原理は、単純明快。

しかし、打者にとっては脅威そのものであった。

 

 

 

事実、カルロスはこのストレートを見たことがない。

ここまでノビのある、純粋なストレート。

 

昨年の大野のストレートよりも、数段進化したボール。

カルロスは、155km/hと言われても頷けるほどのスピードに感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

(まじかよ、この野郎。)

 

己の悪い予感が見事に的中してしまったことに、カルロスは薄桃色の唇を噛んだ。

 

 

球の速さも然ることながら、球の軌道もまた独特なもの。

 

他の投手の…それこそ先程までの大野のストレートでも、ある地点になると重力に負けて若干沈む。

 

 

が、このストレートはどうか。

沈むどころか、発生した揚力が常人とかけ離れているためか「伸び上がる」のだ。

 

 

故に、見た事のないストレート。

それが、完璧なコースに決まるからまた厄介なのだ。

 

 

「さっきお前、夏輝に余裕があるって言ってたな。」

 

御幸の言葉に、少し反応する。

顔こそ向けないものの、耳だけ傾けた。

 

 

「実のところ、俺もあいつがなんであんな表情になったか分かんなかったよ、さっきまでな。」

 

 

大野が、再びボールを投げ込む。

そのストレートは、またも外角低めに。

 

「すげえよな、あいつこんな球投げられるんだぜ。」

 

 

この132km/hのボールにも手が出ず、カルロスは追い込まれた。

 

 

「そりゃ、あんな表情にもなるよ。こんなに気持ちよく相手を捩じ伏せることができんだから。」

 

さっきよりも近くで聞こえる、御幸の声。

カルロスが、舌打ちと共に、歯を噛み締めた。

 

 

 

 

同じようにリリースされたボールは、先の2球とはまた違う。

 

丁寧にピンポイントに投げ込んでいた快速球ではない。

紛うことなき、大野の全身全霊を掛けた、最高の真っ直ぐ。

 

 

 

この試合。

いや、この高校野球の世界に入ってから初めてコースを気にせず投げたストレートは。

 

 

 

 

 

カルロスのバットの遥か上をすり抜け、高めに構えられた御幸のミットを、大きく鳴らした。

 

 

「お前たちに…成宮鳴に感化されたウチのエースは、お前たちのエースにも負けない投手になってくれたよ。」

 

 

空振り三振。

 

無様にバットを地面に突いたカルロスに、御幸はそっと耳打ちした。

 

 

「この後の2人に伝えとけよ。この回はストレートしか投げねえから、精々頑張って当てられるように、ってな。」

 

 

そうして、御幸は左手に収められた白球を大野に投げ返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だってよ、白河。」

 

御幸に言われた通りに、律儀に伝えたカルロス。

勿論、白河は舌打ち一つだけで返答した。

 

(ウザいウザいウザいウザい。舐めているにも程がある。)

 

 

 

白河は、あの2人が嫌いだ。

何故なら、いつも自分の前に立ち塞がるから。

 

それほど強くない癖に、ライバル面して。

 

 

いつも負ける癖に。

いつも悔しい思いをしてるはずなのに。

 

 

 

高校野球くらい勝たせてやろうと稲実に誘った。

それも、断った。

 

 

曰く「最強のメンバーが揃っている最強のチームに勝ちたい。その最強のチームはお前たちだから、同じチームにはなれない」と。

 

曰く「一也がそう言うなら」と。

 

 

 

 

(今回も、打ち砕いてやる。俺たちの元に来なかったこと、後悔させてやる。)

 

 

そうして、白河はバットを掲げた。

 

「カルロスからちゃんと聞いたか?」

 

白河は、何も返さない。

そんな姿を見て、御幸は何も言わずにミットを構えた。

 

 

 

コースは、内角高め。

 

普段はあまり高めに要求しないが、さっきのカルロスの打席、その前の成宮のファールで確信した。

 

 

今日の大野のストレートは、高めでも空振りを奪える。

それだけ、勢いがある。

 

 

 

 

初球。

御幸の予想通り、高めのストレートに白河は空振りした。

 

 

(くそ、速い。)

 

球速にして、133km/h。

高校野球ではよく見るその球速帯のはずなのに。

 

 

バットが当たらない。

全く着いていけない。

 

 

大野の吸い込まれるような、紺碧の瞳がまた煌めく。

そして、次は外角低めにストレートが決まった。

 

 

 

ツーストライク。

方法は違えど、ほとんどカルロスの時と同じ。

 

ストレート2球で追い込まれ、最後は自信のあるボールで仕留めにくる。

 

 

 

しかし白河も、大体ボールの軌道や速度感は掴んだ。

次は必ず打ち返すと、バットを構える。

 

 

「あんまり、調子に乗るな。」

 

歯を食いしばり、白河はストレートに狙いを定めた。

 

 

「何言ってんだ。」

 

呟いた白河に、御幸も返す。

そして、外角の低めに構えた。

 

 

 

大野が腰を捻り、全身の回転運動でボールを放つ。

鎌鼬のようなその快速球は、周囲の圧縮された空気を切り裂くように。

 

白河の前を、通過していった。

 

 

「調子になんか乗ってないさ。ただ、うちのエースがこれからやってのけることを、予め伝えてやってるだけだよ。」

 

 

 

そう、跪く白河に言い放った。

 

 

 

 

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