文字数は本当にガバガバなので…読みづらければ申し訳ありません。
春。
新入生が入ったのも束の間、東京都大会が開幕。
初戦の相手は、春日第一高校。
東東京地区の中堅校である。
しかし、こちらはシードのため初戦。
対する相手は既に試合を行なっており、勝利を収めている。
勢いは、向こうのほうが確実に上。
だからこそ、その勢いごと捩じ伏せる。
それが、
「いくぞ、夏輝。」
「おう。」
それが、エースとしての俺の役目だから。
目の前に立ち塞がるのは、先頭打者。
相手はこちらの出鼻を挫こうと、チームで一番の好打者を先頭に持ってくる。
「っらあ!」
高校生らしい、元気な掛け声。
その姿をしっかりと目に刻み込み俺は目を瞑った。
深呼吸をして、目を開ける。
そして、横目でベンチの方を見た。
丹波さん、一つ上の先輩投手。
秋大ではエースながら、4回を7失点でマウンドを降りた。
俺は、視線を打者に戻す。
今は自分のことに集中だ。
グローブを胸元に置き、打者と正面で相対する。
打者と、真っ向から立ち向かうために。
投球モーション。
他の選手よりも大きく腰を捻る、変則フォーム。
決して大きいとはいえない体を目一杯使い、余すことなくボールに伝える。
中学生時代、俺と一也で考えて編み出した、俺だけのフォーム。
細かくいえば、とある選手を参考にしたフォームなのだが。
踏み込み、極端に捻転された身体は反動も相まって他の投手とは比にならない力を生み出す。
初球のストレートが、外角低めに決まった。
「ストライーク!」
球審のストライクコールに少し安堵しながらも、俺は女房役から投げ返されたボールを掴み取った。
今日は、外もしっかり見てくれる人らしい。
2球目、全く同じコースにストレート。
球速は、122キロ。
これも見逃し、2球でツーストライクと追い込んだ。
(どうする。)
(今日のお前はキレてる、真っ直ぐで押し切るぞ。)
一也のサインに頷き、先頭打者にラストボールを投げ込んだ。
球速は、僅か127キロ。
しかし、打者のバットはボールの遥か下を振って空を切った。
まずは、三振。
打たせて取るのもいいが、やはり三振をとってこそだ。
続く2番も、三振。
3番に対しても三振。
つまり、三者連続三振である。
湧き上がる歓声を聞きながら、俺はそっと胸を撫で下ろした。
よかった、久しぶりの大会だけどちゃんと投げられた。
グローブを脇に抱えながらベンチに戻る。
その先で立ち塞がる(と言ってもベンチの席が隣だからやむを得ない)丹波さんが、コップを手渡してきた。
「調子いいみたいだな。」
「ええ、もうエース対決は負けませんよ。」
そうして、俺は丹波さんにサムズアップをする。
なぜか丹波さんは、驚いた表情で俺の顔を見てきた。
「なんですか?」
「いや、俺も負けないからな。」
笑う丹波さんに、俺も笑顔で返す。
前までは切羽詰まった表情をしていたのに、今は違う。
俺がいいピッチングをしてもこうやって声をかけてくれる。
これが、3年生の余裕か。
丹波さんから手渡されたドリンクを一口で飲み干し、一息ついたところで一也が隣に座った。
「球は来てるけど、飛ばし過ぎじゃねえか?」
「いいんだよ、次の試合は丹波さんが投げるだろうし。」
俺がそういうと、一也がわかりやすく溜め息をつく。
今日はこいつが溜め息をつく側らしい。
それに。
「今日も、5回で終わりでしょ?」
そうして前を見る。
目の前には、バッティンググローブをつける4番。
そして、頼れる主将がいた。
「ああ、任せろ。」
「お願いします、哲さん。」
何せうちは、「打の青道」なのだから。
(まあ、投手の俺たちがバカにされてる気分になるんだけど。)
そんなことは胸の中にしまっておく。
そしてそのキャッチフレーズの通り、俺たち青道高校は初回から4得点と先制する。
「どうだ、夏輝。」
「最高です。5回までに10点お願いします。」
「10点どころか20点とってやらぁ!」
哲さんが、純さんが声をかけてくれる。
そして、文字通り俺を援護してくれる。
「いえ、10点で構いません。」
俺がそう返すと、哲さんは何かを察して笑う。
近くにいた亮さんも、純さんも。
そして増子先輩も倉持も、ニコリと笑う。
10点以上はいらない。
点は取られないから。
言葉通り、俺は2回以降ランナーも出すことなく三振を奪う。
その三振の数は、5回開始時点で7個。
毎回三振を奪って見せた。
「あと、3人だな。」
「どうやって決めたい?」
一也が、そう聞く。
愚問だな、俺がエースなら…
「三者連続三振だ。必ず決めるぞ。」
「へいへい、エース様よ。」
その宣言通り、先頭打者をカーブで空振り三振。
2人目の打者は、高めのストレートで空振り三振。
最後の打者に対しては、決め球であるツーシームで空振り三振を奪って見せた。
「ストライーク、バッターアウト!ゲームセット!」
反動のまま右脚を振り抜き、項垂れる打者を見下ろす。
叫ぶわけでも、大きくガッツポーズをする訳でもない。
別に、それに値するほどのことはしていないから。
だけど。
久しぶりの勝利と、祝福してくれる仲間を見て。
俺は、小さく右手を握りしめた。
目の前にいる女房役にしか見えないほど小さなものだが。
「んな控えめにやん無くてもいいのによ」
「別に、見せつけるもんじゃないだろ。それに…」
チラリと、相手の方を見る。
甲子園につながるような大会ではないといえ、惨敗したのだ。
敗北を噛み締め、ただ呆然とすることしかできない。
そんな相手に、見せつけることなんてできない。
まあ、あえてそんなことは言わない。
「大一番まで、取っておく。」
俺がそういうと、一也は笑って俺の胸にミットを当てた。
「そんときは、ちゃんと見せつけてやれよ?」
「勿論。」
そうして、2人で握手を交わす。
大一番、それは言わなくてもわかる。
だが、きっとそのときは。
自然と、出るんだろうな。
そして、ストックがなくなりました。
おそらくこの後は投稿頻度も3日に一本ほどになるかと思います。まあ早く出せる分はすぐに出しますが。
ですので、是非気長にお待ちください。