燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード49

 

 

 

 

 

「さあ、甲子園をかけたこの試合も終盤戦になりましたが、お互い得点は奪えておりません。両者0点のまま、回は8回表が終了しました。」

 

 

時刻は、12:00手前。

両投手の投球テンポが早いからか、回の割に試合時間は短い。

 

 

しかし、気温は36℃と猛暑。

選手たちの疲れは目に見えて出てきていた。

 

 

 

「試合展開としては、大方予想通りというところでしょうか。」

 

「そうですね。しかしまあ、やはり両投手ともにとんでもないですね。」

 

 

とんでもない両投手というのは無論、大野夏輝と成宮鳴である。

 

 

 

青道のエースである大野は、7回を投げて無失点。

被安打4ながら、四死球0の13奪三振。

 

 

稲実のエースである成宮も、8回を無失点ピッチング。

被安打5の四死球2、しかし奪三振は大野を上回る16奪三振。

 

 

出したランナーの数は、成宮の方が多い。

しかし、彼の圧倒的なピッチングは何となく試合を掌握しているような空気を出すため、どちらが劣っているというように見えない。

 

 

 

いや、比較すること自体が愚行か。

それほどまでに、2人のエースは完璧という他ない投球をしていた。

 

 

 

 

 

 

「っらァ!」

 

大野がそう叫ぶと同時に、打者のバットが空を斬る。

 

勢い余って帽子が脱げ落ち、それに隠されていた白銀色の髪が、ふわりと舞った。

 

 

 

ベンチ内、渡辺がノートに15個目のKを書き記す。

それを横目で覗き、片岡は小さく頷いた。

 

 

三振は多い。

しかし、それと相まって球数も増えていることが、少しばかり気がかりであったからだ。

 

 

 

大野は元々スタミナがある方ではない。

寧ろ去年までは、7回が精一杯の投手であった。

 

 

無論今は、冬のトレーニングの成果もあり、完投もできる。

 

それこそ薬師高校相手にも完投出来たし、他の試合でも最後まで投げきるケースは多々あった。

 

 

 

が、今回は状況が違う。

 

例年以上に高い気温と、決勝戦という大舞台。

スタミナを削る要素はいつも以上に多い。

 

 

尚且つ、成宮の投球に感化されてか、少しばかりオーバーペースである。

 

 

 

「球数は?」

 

「89球です。」

 

 

数は少ない。

 

が、力の入れ混み具合が違う分、やはり疲れは出てきているだろう。

 

 

大野の額から滝のように流れる汗が、それを物語っていた。

 

 

「どうだ。」

 

「まだ平気です。」

 

そう一言で返すと、大野はゆっくりとベンチに腰掛け、横に置かれた紙コップに口をつけた。

 

 

 

暑さで、汗が多い。

水分を取らなければいけないが、飲み過ぎればまた逆効果である。

 

煩わしいその汗をタオルで拭い、更に深く腰掛ける。

 

 

 

 

投げている時はあまり感じないが、やはりこうしてベンチに戻ると疲れがドッと出てくる。

 

というより、アドレナリンで隠れていた疲労感が顔を出した、というべきか。

 

 

念の為か、確認するように右手を握り込む。

 

 

(握力…大丈夫。まだ力も入るし、特段やばい箇所はない。)

 

 

そうして息を吐き、背もたれに身体を預けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だいぶ疲れが出てきたな。」

 

少し遅れて戻ってきた御幸に、片岡はそう言った。

 

 

「球数も増えてきたし、暑くなりましたからね。」

 

「お前の目から見て、どうだ。」

 

 

片岡の問に、御幸が少し考える素振りをする。

そうして間もなく、御幸が顔を上げた。

 

「球は要求通りに来ていますし、球威も球速も落ちてません。何より…」

 

「今の大野は、降ろせんな。」

 

 

調子も然ることながら、あの表情を見てしまってはな。

 

 

「交代のタイミングはお前に任せるぞ、御幸。降谷と沢村も準備は出来ているからな。」

 

 

正直、判断しにくい。

ここまで来るといつ「その時」が来るか分からない。

 

前の回まで好投していた投手が急に乱れるというのは、割とよくある話だ。

 

それこそ、疲れが溜まってきた終盤以降は。

 

 

 

特にベンチ側からは、調子が確認しずらい。

だからこそ、実際に受けている御幸に委ねた。

 

 

(援護さえやれりゃあ、こんなこと考えなくても良いんだけどな。)

 

 

そんなことはわかっている。

しかし、今の成宮は正直言って異常なのだ。

 

そもそも、大野の好投もこの成宮のピッチングありきなのだ。

 

 

 

 

 

「0-0のまま最終回を迎えます。なんとか先制点を取りたい青道高校は、クリーンナップからの攻撃です。」

 

 

 

声を上げながら打席に入る伊佐敷に、成宮はマウンド上で悠然と見下ろしていた。

 

 

別に、伊佐敷を下に見ている訳では無い。

 

ただ、投手として。

マウンドという玉座に座った以上、打者を見下ろして戦わなければならない。

 

 

 

チラリと青道のベンチを見て、すぐにキャッチャーに戻す。

 

そして、小さく笑った。

 

 

「あんにゃろう、この間までとはまるでちげえじゃん。」

 

 

呟き、左手に握られたボールを右手のグローブに投げつける。

 

そのボールを再び掴み、軽くストレッチをした後に深呼吸をした。

 

 

 

(っし。)

 

 

(準備はいいな?)

 

成宮が深呼吸を終えたのと同時に、原田が目線を合わせる。

また、さっきと同じ宝石のような瞳が、突き刺さった。

 

 

(伊佐敷さん、からね。結城さんの前にランナー出したくないし、抑えに行くよ。)

 

(ここも…だろうが。)

 

小さく笑い、ボールの握られた左手を隠すように、胸の前で両手を合わせる。

そしてその腕を、ゆっくり振り上げた。

 

 

 

 

初球、スライダー。

内角に切り込んできたこのボールを伊佐敷は見逃し、1ボール。

 

 

続く2球目。

ストレート、低め。

 

少し甘いが、力のあるボールに伊佐敷も前に飛ばせない。

 

 

 

3球目も、続けてストレート。

今度は高めに浮いているが、伊佐敷はこれを空振り。

 

 

高いが、それ以上にキレがある。

 

 

 

(っくそ。球がどんどん良くなってやがる。)

 

 

球速表示は、146km/h。

先程までと大して変わらないが、それ以上に力がある。

 

 

 

ワインドアップから足を高く上げ、全身の縦回転とともに振るわれる左腕。

 

正に、エースの風格である。

 

 

 

最後はワンバウンドのフォークで空振り三振。

ストレートの威力が上がれば上がるほど、変化球も生きてくる。

 

真っ直ぐと軌道の近い落ちる変化球に、伊佐敷も対応しきれなかった。

 

 

「さっきよりも球強くなってんぞ。気をつけろよ。」

 

「わかった。」

 

 

 

 

ここで、4番。

ドラフト指名確実と言われている怪物スラッガーが、打席に入った。

 

 

とはいえ、ここまで結城は4打数の3三振。

成宮が特に力を入れているとはいえ、不甲斐ない結果である。

 

 

ここは4番として打っておきたいところだが。

 

 

 

初球、ストレート。

これがインコース高め一杯に決まり、1ストライク。

 

 

 

2球目、先と同じボール。

145km/hのノビのある直球に、結城もバットに当ててファール。

 

 

 

 

 

高めの直球が2つ。

続く球は、見せ球か。

 

それとも、勝負にくるか。

 

 

外か、内か。

低めの変化球、チェンジアップか。

 

 

 

 

 

 

 

4番としての重圧か。

それとも。

 

 

主将としてエースが孤軍奮闘している姿に、気負ったか。

 

 

 

 

 

 

 

いずれにしても。

 

「不要な感情」が、再び結城に迷いを生ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「3球勝負!最後は自己最速の150km/h!最高ギアの成宮に結城、屈辱の三振です!」

 

 

 

跪く結城、再び雄叫びを上げる成宮。

 

これが本当に、4番とエースの対決か。

それほどまでに、圧倒的であった。

 

 

 

 

この後の増子もショートライナーに抑えられ、成宮は9回の表も無失点に抑える。

 

 

 

 

 

 

0-0のまま迎えた、9回の裏。

1点でも取られれば、その時点で試合は終わる。

 

 

しかし、大野は。

 

 

「さ、行くぞ。」

 

「おう。」

 

 

御幸を引き連れ、ベンチから出ていくエース。

普段なら最後の回だが、今日は違う。

 

ここから、点を取られたら負けのサバイバルが、始まる。

 

 

「らしくねえよな、哲さん。」

 

「気にしなくても次は打つ。それまで抑える。」

 

食い気味に、大野が言う。

投球に集中しているのだろう、そう思って御幸はうなずいた。

 

 

「あぁ。先頭は鳴からな、今のあいつは何しでかすか分かんねえから、気合い入れて投げろよ。」

 

「言われなくても。」

 

 

そんなの、自分が1番よく分かっている。

 

 

去年、嫌というほど味わっているのだから。

 

 

 

 

(まずは、ここ。)

 

御幸が要求したコースは、内角高め。

普段なら要求しない、はっきり言って危険なコース。

 

 

(随分思い切るな。)

 

(今のお前なら投げられるだろ。やり返してやれ。)

 

 

また、大野が笑う。

そして、ゆっくり腰を捻り始めた。

 

 

 

初球。

要求通り、内角高めにストレート。

 

成宮も振りに行くが、勢いのあるストレートについていけず空振り。

 

 

 

 

2球目。

同じくストレート。

 

今度は、さっきのボールと真逆。

成宮のストライクゾーンの中でも最も遠いコースにピンポイントで決める。

 

 

外角低め一杯。

大野夏輝が最も得意とするコースであり、最も頼れるコースである。

 

 

 

早くも、追い込んだ。

しかし、バッターは一発を警戒しなければいけない成宮。

 

 

(遊び球は?)

 

(いらないだろ。お前もあいつを捩じ伏せろ)

 

 

頷き、また大野が笑う。

先程よりも、瞳が煌めきを増していた。

 

 

 

要求されたコースは、高めのストレート。

今日はとにかく、このコースが冴えている。

 

 

(コースはいい。目一杯、一番良いボールを投げてこい。)

 

 

「っらァ!」

 

思い切り振るわれた右腕。

コースは、真ん中高め。

 

ストレートに狙いを向けていた成宮も、このボールに反応。

 

 

速球に強く、今大会に放った長打はほとんどストレートを弾き返したもの。

特に高めに強く、失投は逃さない。

 

 

成宮の反応か。

大野のストレートか。

 

 

 

 

 

少しばかり、大野のストレートが。

 

 

 

 

 

成宮の想定を、超えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空振り三振!まさかまさか、大野も自己最速を計測します138km/h!これまでの最速を2km/h更新する渾身のストレートに成宮のバットが空を切りました!」

 

 

投げ終えた反動で、半回転。

そのままぽとりと落ちた帽子を拾いに、打席に背を向けた。

 

その背に描かれた「1」が、やけに大きく見えた。

 

 

 

(まず、1つ。)

 

息を吐き、ロージンバックに手を当てる。

そして、額に浮かんだ汗を前腕のアンダーシャツで拭った。

 

 

(アンダーあと何枚あったっけ。確か1枚は確実…あ、もう1枚あるか。)

 

そんなことを考えながら、大野は再びプレート前に戻った。

 

 

 

 

この後のカルロスをセンターフライに抑え、打者は2番の白河に移る。

 

初球、縦のカーブ。

低めに決まるこのボールを見逃し、1ストライク。

 

 

2球目は、キレのある134km/hのストレートを外角低めに決め、2ストライク。

 

 

 

 

 

 

(こいつ、また3球で来る気か?)

 

あまりにも、安直すぎる。

そう思いながらも、それでも打てていない自分たちに舌打ちをした。

 

 

ストレートか、それともカーブか。

ツーシームなら、なんとかバットに当ててやる。

 

どのボールにも対応できるよう、タイミングを測る。

 

 

 

しかし。

 

 

「残念、どのボールでもねえよ。」

 

 

最後は低めに外れるスライダーを引っ掛けさせ、セカンドゴロ。

 

 

 

 

 

両投手の好投。

 

試合は、延長戦へと突入していった。

 

 

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