燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード50

 

 

 

 

 

10回の表。

 

本来野球というスポーツは、9回で終わる。

しかしこのように、9回を終えても勝敗が決しない場合。

 

 

2人のエースが躍動。

誰もを置き去りにした最高峰の投手戦は、遂に延長戦へ。

 

 

 

 

お互い、公式戦で9回以上投げるのは初めて。

まだスタミナにも余裕がある。

 

しかしながら、この炎天下。

 

 

 

未知の領域に、成宮は立った。

 

 

 

 

 

が。

 

今の成宮は、それすらも超越していた。

 

 

 

その暑さは、成宮の熱をさらに高め。

疲労感は、成宮の負けん気で力に変えた。

 

 

この回も御幸から始まる下位打線。

白州にスライダーを捉えられて出塁を許すも、失点まではさせない。

 

続く門田と大野を抑え込み、再びマウンドで吠えた。

 

 

 

 

汗を拭い、ベンチに戻る成宮。

それを遠目に見ながら、大野は息を吐いた。

 

「すまん、大野。」

 

「いえ。打てなかったのは、俺も同じですから。」

 

 

門田がそう謝ると、大野は一言だけ返してマウンドへ向かった。

 

 

 

好投し、ベンチに戻る成宮と入れ替わるように。

大野はまた、マウンドへと帰っていった。

 

 

 

(また、か。)

 

 

門田からの謝罪に、思い出してしまう。

 

去年のことを。

そして、急に大野に重圧がのしかかった。

 

 

ここから先は、一点も取られては行けない。

勝つには、あの絶好調の成宮から味方打線が打たなければいけない。

 

 

 

いつになったら、点を取れる?

いつまで投げれば、勝てる?

 

 

 

 

 

終わりの見えないこの投手戦にドッと疲労感が溢れ。

 

ため息が出そうになり、すぐに飲み込んだ。

 

心配をかけてはいけない。

エースなのだから。

 

淡々と、味方の援護を待つのだ。

 

 

 

 

 

灼熱の太陽は身を焦がし。

 

 

確実に、大野の体力を。

精神を、蝕んでいた。

 

 

 

 

 

「大丈夫か、夏輝。」

 

無言で頷き、白球を受け取る。

そして、息を吐いた。

 

 

(今は、目の前のバッターだけを抑えるんだ。それだけだろ。)

 

 

雑念を振り払うように首を横に大きく振る。

 

 

目を瞑り、大きく息を吸い込み、また吐き出した。

 

また、その瞳は煌めき出す。

もう1人の「エース」と、呼応するように。

 

 

 

 

打順はクリーンナップから。

 

先頭は打率も高い、3番の吉沢。

次にくる打者が打者なだけに、ここはランナーを出したくない。

 

 

 

初球、インコース高めのストレート。

これをゾーンに決め、まずは1ストライク。

 

続く2球目はカーブを放るも、低めに少し外れてボール。

 

 

3球目、ここもカーブ。

吉沢も2球連続は頭に無かったのか、このボールを空振り。

 

 

1ボール2ストライクと、追い込んだ。

 

 

(どうする。)

 

(ストレートは4、5巡目とだいぶ見せてきた。決めに行くぞ。)

 

大野が頷き、グローブを胸の前に置く。

そして、打者の外角低めに構えられた御幸のミットに視線を送った。

 

 

外角ボールゾーンからストライクゾーンに切れ込んでくる、ツーシーム。

 

 

それを確認して、投げ込んだ。

 

 

 

「っ!」

 

ど真ん中から、低めに決まる高速変化球。

これに思わず手が出てしまい、空振り三振を喫した。

 

 

 

 

 

 

まずは、1アウト。

テンポよく打者を抑えた反面、御幸は大野にしては珍しい姿に若干の不安を覚えていた。

 

 

要求されたコースは、ボールゾーンからストライクゾーンに切れ込む変化球。

言ってしまえば、見逃し三振を取りに行ったボールだった。

 

 

しかし、投げられたコースは外の中段。

それも、少し真ん中寄りのボールであった。

 

 

(コントロールミス…とまでは言わないけど。)

 

 

この炎天下で、しかも初めての10イニング目。

 

不安要素は、はっきり言って多すぎる。

 

 

 

 

御幸の不安を察したのか、大野が視線を送る。

ロージンバックを右手の上で遊ばせつつ、真っ直ぐ御幸を見た。

 

 

(心配するな。先制するまでは、堪える。)

 

 

右手に纏わり付いた白い粉塵に、ふっと息を吹きかける。

 

 

(わーったよ。次4番だからな、球数使うぞ。)

 

(OK。)

 

 

迎えるは、4番。

尚且つ主将で、エースを支える女房役。

 

接戦の場面。

特に終盤になればなるほど、打点に絡む。

 

 

(単打はまだ構わない。長打は勿論、四球もナシだ。疲労が出てきたのは悟られたくねえからな。)

 

 

 

 

できるだけ、隙は見せたくない。

相手に余裕ができれば、それだけいいプレーをさせる要因になってしまうから。

 

 

 

 

 

 

(やっぱり、デカい。)

 

身長182cm、体重90kg。

体格面での圧迫感もそうだが、精神面が大きい。

 

 

終盤での風格は、プロ顔負け。

特に投手が好投している、ロースコアの投手戦の時は。

 

 

(日和るなよ。ここまで全く当たってないからな。)

 

(わかってる。)

 

 

とはいえ、やはり意識してしまう。

こういうバッターほど、終盤まで打てていない時。

 

 

試合を決める一発を放ったりする。

 

 

 

 

一度視線を原田に向け、すぐに戻した。

 

まず出されたサインは、ツーシーム。

打者のインコースからボールゾーンに外れるボール。

 

 

昨年の決勝戦もかなり有効であったコース。

やはりまだ苦手意識があるのか、このボールに空振り。

 

 

次は、ストレート。

インコース高めに外れるボール。

 

 

これにも手が出てしまい、空振り。

 

 

 

 

 

明らかに力んでいる。

御幸の目からも大野の目からもそれは明白であった。

 

(決めに行くか。)

 

(いたずらに球数増やしても意味ないからな。決めるぞ。)

 

出されたサインは、バックドアのツーシーム。

 

 

ここまで原田に対しては、特にインコースを攻めている。

そのため、体が確実に反応しないとわかっていた。

 

頭でわかっていたとしても。

 

 

 

ゆったりとしたフォームから、全身を縦回転。

ストレートと全く同じ軌道から途中で失速する斜め横の変化球。

 

低めに決まるこのツーシームで空振りを奪う。

そう確信し、御幸はミットの快音を待った。

 

 

 

 

 

 

しかし。

 

 

「ファール!」

 

 

鳴り響いたのは、甲高い金属音。

白球と金属バットが擦れた音であった。

 

 

反応した。

ここまで一球も見せてこなかった完璧なボール。

 

まさかこのボールに対応できるとは。

 

 

(これが延長の原田さんか。)

 

(どうする。)

 

(行くしかないだろ。)

 

今更、逃げられない。

そもそも、追い込んでいるのはこちらなのだ。

 

 

もう一球、ツーシームを続ける。

今度は、真ん中高めからインコース一杯に決まるボール。

 

 

しかしこれも。

原田は、反応した。

 

 

 

右打席から聞こえる、深呼吸の音。

明らかに、集中力が上がっている。

 

ここで一度、打ち気を逸らすボール

そのため、低めに外れるスライダーを放る。

 

が、やはりこのボールも見逃した。

 

 

(生半可なボールは見られるか。)

 

6球目に選んだボールは、ストレート。

低めボール一個分外れる直球が要求通りに届き、外れて平行カウントになる。

 

 

 

 

(決めるぞ。)

 

(おう。)

 

 

決め球は、やはりツーシームか。

インコースのストライクゾーンからボールゾーンに逃げる高速変化球。

 

この打席の初球もそうだが、原田はこのコースに全くあっていない。

 

 

 

打てないコースであれば、しつこく攻める。

弱点を攻めるのは、勝負事の鉄則だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(来るか。)

 

原田も、身構える。

恐らく、決め球はあのツーシーム。

 

インコースのあのボールか。

だとすれば、ここまで全く対応できていない。

 

 

しかし、ここまで何度も見てきたボール。

変化も、大体想定がつく。

 

 

必ずバットに当てる。

甘く入れば、確実に決める。

 

 

そうして、原田は息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

一度、首を振る大野。

そんな姿に原田は若干の違和感を覚えながら、身構えた。

 

 

 

ゆったりとした、出処の見えにくいフォーム。

そこから放たれるのは、130km/h前後のボール。

 

反応で対応し切れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那。

 

 

全身の縦回転と共に。

鎌鼬が、原田の胸元を抉り込んだ。

 

 

 

「空振り三振!最後はインコース高めいっぱい、延長戦になっても4番に攻め込んでいきます、マウンド上の大野夏輝。その名の通り、真夏のマウンドで輝きを増します!」

 

 

はらりと舞い上がる白銀髪。

それを覆っていた帽子が落ちると同時に、大野は声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原田から奪った三振から勢いに乗った大野は、最後のバッターである山岡を三振に打ち取る。

そして、ゆっくりとベンチへと戻っていった。

 

 

(さすがにきつ。)

 

息を吐き、帽子の鍔を抑える。

 

 

当たっていないとはいえ、やはりクリーンナップ相手は神経を使う。

ただでさえすり減っているというのに、終わりの見えない投手戦というのが、大野にとってさらに負担になっていた。

 

 

 

 

汗を拭いながらベンチに深く座り込む大野。

表情にもやはり、疲れが現れていた。

 

 

 

 

 

しかし。

 

「流石に疲れてきたかな?」

 

「ええ、まあ。」

 

 

 

その姿は逆に。

 

 

「ヒャッハー!ここで絶対点とってやるからゆっくり休んでろよ!」

 

「ったりめえだオラア!」

 

 

味方打線を奮起させる材料としては十分すぎたのだ。

 

 

 

「必ず決めてくる。それまで、待っていてくれ。」

 

結城がそう言うと、大野は笑って返した。

 

 

 

「お願いします。」

 

 

 

 

 

 

青道打線の猛攻が、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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