燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード51

 

 

 

 

 

 

11回目の表。

青道高校は、上位からという好打順。

 

先頭には、リードオフマンの倉持が向かった。

 

 

 

打席に入る直前、軽く屈伸。

そして、先程と変わらず左の打席に入った。

 

 

 

ヘルメットの横を右手の平で触れ、体をほぐすようにぐるりと両肩を回す。

 

それを見て、原田は成宮に視線を送った。

 

 

(チェンジアップは捨て…真っ直ぐ1本狙いだろうな。)

 

(だろうね。詰まってたとは言え、さっきの打席もストレートを弾き返してる。)

 

 

ここまでは、1安打のみ。

それも、どん詰まりのポテンヒット。

 

別段気をつける相手ではない。

 

が、この終盤。

と言うより、延長のこの場面。

 

出塁させて、勢いに乗られるわけには行かない。

 

まずは先頭を切り、4番の前に断ち切る。

 

 

「っしゃあ!」

 

声を張り上げ、バットを構える。

 

(甘く入れんなよ。内野安打もあるからな。)

 

(バットにすら当てさせないよ。)

 

 

そうして投じた初球。

まずはスライダーが外に外れ、1ボール。

 

 

続くボールはストレートのサイン。

外角のストレートを要求した。

 

振りかぶる成宮。

成宮が投じたボールに対し、倉持は。

 

 

 

バットを寝かせ、速球にコツンと当てた。

 

「んな。」

 

セーフティーバント。

倉持の俊足を生かしたバントによる内野安打を狙う方法。

 

 

転がったのは、サードライン側。

まさに絶妙なバントである。

 

 

しかし、原田もこれには警戒していた。

何せ、倉持が手っ取り早く出塁するにはバントヒットが最も効率的だからだ。

 

 

 

 

(打球が死んでいる。)

 

そうして成宮に視線を送る。

 

 

普段のフィールディングのいい成宮であれば、十分に間に合う。

 

 

が。

延長まで伸びた疲労感か。

少しバントの警戒が疎かになっていた成宮の動きは、明らかに鈍っていた。

 

 

 

「サード!」

 

チャージしてきた吉沢。

強肩の彼がなんとか一塁に投げたものの。

 

一塁塁審は、両手を横に広げた。

 

 

 

 

 

ノーアウト、ランナー一塁。

最も出したくないランナーを、出してしまった。

 

(ごめん、無警戒すぎた。)

 

 

確かに、普段の成宮はフィールディングもかなりいい。

しかしながら、彼とてかなりの疲労が溜まっているのだ。

 

 

何度も言うが、気温はすでに35℃を超えている。

それはあくまで外気温であり、高い壁に囲まれたこの神宮球場内はその人口密度も相まって灼熱と化していた。

 

 

球数は、すでに113球。

この炎天下の中と考えれば、疲労感は相当なものであった。

 

 

それくらい、原田も承知していた。

寧ろ成宮の疲労を考慮していなかった自分に腹が立った。

 

 

 

(仕方ねえ。ここまでほぼバントの素振りもなかったからな。次は恐らく送ってくるぞ。)

 

 

 

予想通り、ここは手堅くバント。

小湊が上手く転がし、ランナーを二塁に進めた。

 

 

 

 

ここから先は、クリーンナップ。

1アウト二塁と言うチャンスで、3番の伊佐敷を迎える。

 

 

 

ここまでは、全く機能していないクリーンナップ。

しかし、そんなことは自分たちが一番よくわかっていた。

 

「っしゃあ来いやオラア!」

 

 

 

初球、ストレート。

内角に抉り込んでくるボールに振り遅れてファール。

 

 

 

(くそ、もう少し早くか。)

 

続くボールは、チェンジアップ。

文字通り「止まる」ボールにスイングを崩されて空振り。

 

 

完全にタイミングは、ずらされた。

しかし、3球目のストレートにはなんとか食らいつき、ファール。

 

 

4球目はやや引っ掛け気味のスライダー。

これを見送り、1ボール2ストライク。

 

 

(落ち着けよ、伊佐敷純。できることを、やれ。)

 

 

最後の大会。

やはり、できることなら自分の手で決めたい。

 

 

しかし、わかっている。

ここで長打を打つよりも、繋ぐことが確率が高いと言うことを。

 

 

 

何より。

 

ここまで全く当たっていなくても信頼をおけるバッターが後ろにいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

5球目のフォークボール。

前の打席で空振り三振に喫したボール。

 

低めに決まるこのボールを、上手く拾った。

 

 

「拾ったー!打球はショート頭上を超えてセンター前へ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

1アウト、ランナー1、3塁。

塁上で拳を突き上げる伊佐敷は、1人の男に視線を向けた。

 

 

 

(お膳立てはしたからな。決めちまえよ。)

 

 

 

延長11回。

チャンスはなかったわけではないが、やはり数が少なかった。

 

 

エースは、ここまでよく投げてくれた。

昨年を大きく上回る投球で、稲実の攻めを抑えてきた。

 

 

ここ数年間甲子園から遠のいていた青道高校。

いつも課題だと言われてきた投手陣は充実し、世代を代表するような絶対的なエースも台頭した。

 

 

今年こそは、確実に行ける。

そういう周りからの声もまた、主将である結城にはかなりのプレッシャーになっていたのも事実。

 

 

だからこそ、ここまでの6打席は完全に力が入っていた。

 

エースを援護するために。

周囲の期待に、応えるために。

 

 

 

「結城。」

 

打席に向かう直前、低い声に反応して振り返る。

そして、その声の主の元へと向かった。

 

 

「肩に力が入ってるぞ。それじゃあ、いいスイングはできんな。」

 

監督である片岡にそう言われ、一度頷く。

 

「ここまで歯痒い思いをしているのもわかっているし、お前が背負っていることも十二分にわかっている。」

 

一拍おいて、片岡は結城の肩に手を置いた。

 

 

「今は、背負うな、代わりに俺たちが背負う。だから今は、主将としてではなく。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一打者として。バッターとして、成宮鳴という投手に勝ってみせろ。」

 

 

背中を叩かれ、結城は元気よく、ベンチから離れた。

それはまるで、キャプテンになる前の結城。

 

 

去年の夏に、成宮から長打を放った時の姿に重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

延長11回。

ランナーは、1、3塁。

 

打席に向かうのは、4番の結城。

 

 

バットを右手で携えながら打席に入るこの打者に、原田は視線を向けた…

 

 

明らかに、集中力が違う。

目つきが、呼吸が、オーラが。

 

全てが、ここまでの打席とはまるで違うものであった。

 

 

 

危険すぎる。

できることなら勝負すらしたくないと感じるほど。

 

しかしながら、そうもいかない。

 

 

 

(明らかに空気感が違う。気をつけ…)

 

そう思って成宮に視線を動かしたところで、その心配がいらないことがわかった。

 

 

 

目つきが、変わった。

それこそ、覚醒を見せた6回の表に引けを取らないほどに。

 

 

彼もまた、結城の中から発せられる何かに感化されたのか、極限まで集中力を高めていた。

 

 

(ここで流れを断ち切るぞ。)

 

原田の思いを感じ取り、成宮はこくりと小さく頷いた。

 

 

 

初球のストレート。

外角の低めに決まるこのボールを見逃し、1ストライクと取られた。

 

 

「決めろや哲ー!」

 

 

塁上から、伊佐敷の声が響く。

 

球速表示は、147km/h。

終盤だが、やはりスピードは衰え知らずであった。

 

 

(集中。ストレートに狙いを合わせ、変化球には合わせにいく。)

 

 

ふうっと、息を吐く。

 

 

 

大野夏輝というエースの、圧倒的な投球。

周囲からの、期待。

 

ここまで、自分でもわかるほど緊張していたのだろう。

 

(俺は無頓着な方だと思っていたんだがな。)

 

 

無意識に、意識してしまっていたのだろう。

 

明らかにここまでの打席で一番の集中力だということは、当の本人が一番理解していた。

 

 

 

 

2球目。

インコース低めに逃げるスライダーを見逃し、カウントが並ぶ。

 

 

3球目、同じくスライダーを見逃して、2ボール1ストライクとバッター有利のカウントとなる。

 

 

 

(スライダーは見切ってるな。)

 

やはり、ストレートで押していくのが一番か。

 

しかしカウントが悪くなってのストレート。

甘く入れば確実に狙われる。

 

 

 

原田は、高めを要求。

敢えて、力で勝負することを選んだ。

 

 

「っ!」

 

少し真ん中高め、キレのある直球。

威力のあるこのボールにバットを合わせるが、若干振り遅れてファールとなる。

 

 

やはり、速い。

終盤になっても衰えないその勢いに、結城も尊敬の念すら抱いていた。

 

 

 

しかし、タイミングは完全に掴んだ。

次はアジャストできる。

 

 

 

並行カウントとなった5球目。

バッテリーは、勝負を決めに行く。

 

 

ストレートにタイミングの合っている結城に対して決めるのは、やはりウイニングボールのチェンジアップ。

 

 

外角のストライクゾーンから引き目に外れる変化球でスイングアウトを狙う。

 

 

 

 

「行けるぞ哲ー!」

 

「哲さーん!」

 

「決めろ結城ー!」

 

各所から聞こえる、結城への声援。

 

 

当の本人は、その声が届かない程に「深い場所」に入りこんでいた。

 

 

 

 

 

クイックモーションからリリースされるボール。

ストレートと同じフォームから放たれたボールは、緩く利き腕側に沈んでいった。

 

 

(チェンジアップ…!)

 

(もらった…。)

 

 

完全にスイングは崩した。

タイミングも外し、あとはボールが届くのを待つだけ。

 

 

 

そう思っていた。

が、鳴り響いたのは、甲高い金属音であった。

 

 

「ファール!」

 

スイングに崩されながらも食らいついた結城。

少し甘く入ったとはいえタイミングを完全に外したボールだけに、成宮も目を見開く。

 

が、すぐに切り替えてボールを受け取った。

 

 

(焦んなよ。あれに当てられたってことはストレートには合わないからな。)

 

(焦ってない。まあ、まさか当てられるとは思わなかったけどね。)

 

 

今度は、ここまで一番自信を持って投げこめているストレート。

低めのストライクゾーンに決まるボール。

 

速いボールだが、結城はこれにも反応してファールとなった。

 

 

 

 

 

息が、上がる。

少しばかり増えた汗を前腕で拭った。

 

 

(ここで打たれるわけにはいかねえ。確実に抑え込む。)

 

 

意識的にゆっくりと呼吸し、落ち着く。

そして、女房役である原田に目を向けた。

 

インコースのストレート。

コースというより、やはり威力を重視したボール。

 

 

 

7球目。

 

 

打者の内角を抉る、クロスファイア。

対角線に決まる速いボールに、結城はまた食らいついた。

 

 

というより、捉えていた。

 

少しばかり差し込まれていたもののミートしている。

が、この打球は一塁線切れてファールとなった。

 

 

 

 

カウントは、3球前と変わらず並行カウントのまま。

一応、もう1球余分に使えるバッテリーが有利なカウント。

 

 

(どうする、もう一球使えるが。)

 

(決めにいこう。今度こそ決めてみせる。)

 

決め球は、チェンジアップ。

 

 

内角の速球は、十分見せた。

あとは、コースに決めるのみ。

 

 

己の決め球に、全てを賭けた。

 

 

 

 

 

 

 

(これで、終わりだよ!)

 

クイックモーションから、左腕を思い切り振るう。

それはまるで、速球が放たれる時と同様の振りで。

 

 

球速差も去ることながら、落差も大きいため被打率は非常に低い。

特に右打者にとっては、逃げながら沈むため、高い奪三振率を誇る。

 

 

ストレート2球。

威力のある直球を見せ、タイミングは外した。

あとは、コースに決めるのみ。

 

 

 

 

 

「ッシ!」

 

 

勝負の、127球目。

 

成宮の左腕から、白球が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…来るか。)

 

 

白黒に染まった、視界の中…

 

 

集中力を限界まで高めた結城は、最後のボールに狙いを澄ました。

チェンジアップか、それとも速いボールか。

 

どちらにせよ、反応してみせる。

 

 

結城は、迷いを完全に捨てた。

 

 

 

 

 

放たれた白球。

結城の視界で、白球は「止まった」。

 

 

体は、速球に合わせて動き始めている。

 

 

(…!)

 

 

堪えろ。

できるだけ我慢しろ。

 

崩されずに、自分のスイングを。

 

 

 

 

 

 

信じろ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カキィイン!

 

 

快音。

 

 

高々と上がった打球は富士川の頭を超え。

 

同時に、結城が右腕を突きあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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