燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード53

 

 

 

 

 

 

 

 

 

延長11回の裏。

先制を決めた青道高校、最後の守り。

 

 

 

これを守り切れば、甲子園。

待ち望んだ、夢の舞台に脚を踏み入れることができる。

 

 

 

 

 

 

 

普段は投げても最大9回。

それも、球数を抑えて投げているため、100球にも満たないケースがかなり多い。

 

 

特にこの夏は、リリーフで沢村や川上が後半を投げているため、7回で降板するケースが多かった。

 

 

 

 

そもそも、大野はもともと体力がある方ではない。

スタミナ面では心配ないのだが、身体に溜め込んでいるエネルギー量が他の選手に比べて少ないのだ。

 

 

初めての、延長戦。

それもこの炎天下である。

 

 

 

 

故に、不安要素が多すぎた。

 

 

 

 

 

 

 

(あと、アウト3つ。)

 

息を吐き、セットポジションに入る。

クイックモーション、打席に入った富士川に対してストレートを投げ込んだ。

 

 

まずは、アウトロー。

打者から最も遠いコースを突きにいくも、これが微妙に外れてボール。

 

 

 

少し、感覚が狂い始めている。

疲労か、はたまた別の要素か。

 

 

どちらにせよ、コントロールが効きにくくなっている。

 

 

それに加え、球速もやはり落ちてきていた。

初速もそうだが、回転数が減ってキレが落ちてきている。

 

 

そのため、打者の体感速度からすればかなり打ちやすい速度帯になっていた。

 

 

(言い張ったなら、最後までやりきる。)

 

 

 

大丈夫かと聞かれれば、大丈夫と応えざるを得ない。

しかしそれでも、行けると言ったのだから。

 

 

任せてくれたベンチに。

チームに、監督たちに。

 

 

応えなければいけない。

 

 

 

 

もう一度、息を吐きだす。

 

 

覚悟を決めろ。

そして、向かい合え。

 

 

今自分が戦っているのは、成宮ではなく、稲実なのだから。

 

 

 

「っしっ!」

 

 

高めのツーシーム。

富士川もこの変化についてこれず、空振り。

 

 

 

カウント1−1。

続く3球目。

 

 

 

 

ここで、一塁ランナーと二塁ランナーは同時にスタートをきる。

 

「スチール!」

 

 

結城の声が、マウンドへ向かう。

 

 

 

スタートタイミングは、悪くない。

キャッチャーは強肩の御幸とはいえ、ほぼ無警戒の、それも変化球要求。

 

 

何より、ピッチャーはクイックが遅い大野。

トルネード投法による弊害が、ここにきて出てしまった。

 

 

(間に合うか?)

 

要求したボールは、低めのカーブ。

御幸も、ここまで動いてこなかったランナーだけに警戒心が薄れていた。

 

 

 

打者富士川は空振りで盗塁をアシスト。

 

最短のモーションから、御幸の武器であるバズーカで三塁に送球。

 

 

しかし。

二遊間に比べてタッチ技術の低い三塁手の増子。

それに際どいタイミング。

 

 

この勝負は、二塁ランナーの平井の足が、勝った。

 

 

「セーフ!」

 

 

三塁に送球したため、二塁はもちろんセーフ。

 

 

0アウトで、ランナーは二、三塁。

ここにきて、大野も最大のピンチを背負うことになる。

 

 

 

富士川に対しては最後にカーブで空振りの三振。

ランナーこそ進められなかったが、未だ1アウト。

 

 

ランナー二、三塁。

ついに、この試合最大のピンチを迎えることになる。

 

 

 

 

 

 

(ここにきて仕掛けてきたか。)

 

 

小さく、御幸が舌打ちをしてしまう。

が、大野に悟られないように直ぐに切り替える。

 

 

捕手が取り乱せば、それは投手にも伝染する。

 

 

 

 

息を吐き、御幸も考える。

 

 

 

今の大野は、さっきの回のようなボールの勢いも、普段の針の穴を通すような制球力もない。

 

あるのは、とはいえある程度コースに投げ分けられる制球力と、球威の落ちた120km/h台のストレート。

そして、細かく制球出来るのはカーブだけ。

 

 

 

タイムを要求し、マウンドへ向かう御幸。

このピンチの場面、内野はシフトの確認で集合する。

 

 

「一点覚悟でせめて行きましょう。まずはアウト一つ、確実に取ります。」

 

「わかった。」

 

 

バッターは、代打の矢部。

お世辞にもミート力のあるバッターとはいえないが、長打を打つ技術とパワーは持ち合わせている。

 

 

 

しかし、点差は2点。

最悪犠牲フライを打たれても、2アウトとなればだいぶ守りやすくなる。

 

打ち合わせを済ませ、内野手が散らばろうとした時。

結城が彼らを引き止め、一言だけ言った。

 

 

「ここを守り切って、みんなで行こう。」

 

 

そうして、右拳を前に突き出した。

 

小湊が拳を出し、増子が拳を出す。

 

倉持が拳を突き出し、遠く外野から伊佐敷と門田が、白洲が右拳を突き上げる。

 

 

 

御幸が拳を突き出し、大野に視線を向け。

最後に大野が笑って、拳を前に突き出した。

 

 

「行くぞ、甲子園!」

 

「「「応!」」」

 

そうして、彼らがそれぞれの守備位置に戻っていく。

最後に残った2人。

 

 

キャッチャーと、ピッチャー。

 

 

「一也。」

 

「なんだよ、夏輝。」

 

 

ミットで口元を隠しながら、御幸が応える。

すると大野は、少し言い淀んで、また笑った。

 

「なんでもねえよ。勝とうな、この試合。」

 

 

不思議そうに御幸が首を傾げ、少し笑ってミットを胸に当てた。

 

「ったりめえだ。」

 

 

 

笑顔と笑顔の18.44m。

二つの「異なる」笑顔が、交錯した。

 

 

 

煩わしい額の汗は乾き、感覚の鈍った右手に息を吹きかける。

そして、先ほど同様にセットポジションに入った。

 

 

 

打席には、代打として登場した矢部。

一発のあるバッターだけに、警戒していかなければいけない。

 

 

気をつけるのは、長打。

犠牲フライはまだ良し、できれば三振。

 

最悪なのは、一発。

逆転サヨナラだけは、避けたい。

 

 

 

(振り絞れ、最後の力を。)

 

腕に力が入らない。

身体が重い。

 

 

だが、抑えなければいけない。

 

 

チームを勝たせてこそ、エースなのだから。

 

 

 

 

息を吐き、白球のにぎられている右手を、グローブに収めた。

その瞳は、少しだけ光り輝いているように感じた。

 

 

 

 

初球、カーブ。

低めのボールゾーンに逃げる変化球だが、これを空振り。

 

 

続くストレートにも、タイミングが合わずにファール。

これも低めのコースに決まる。

 

 

0−2ストライク。

カウントは、大野らしいストライク先行のカウント。

 

 

 

 

3球目、ストレートが高めに外れボール。

少し抜けたボールを見逃し、カウントは1−2。

 

 

 

4球目。

低めのカーブを要求。

 

外れてもOK、空振りを奪えれば最高。

 

 

 

縦に大きく割れるカーブ。

これを低めに決めるも、矢部も執念を見せて食らいつく。

 

 

 

1ボール2ストライク。

もう一球、カーブを要求。

 

同じようなボールを見逃され、平行カウントとなる。

 

 

 

 

6球目。

この試合でいえば、127球目。

 

 

勝負の一球は、やはりストレート。

外角の低めに構えられた御幸のミットに目を向けた。

 

 

(外角低め。)

 

原点投球、自分が最も得意とするコース。

一番、信頼をおけるコース。

 

 

ここで、このバッターを決める。

 

 

 

 

セットポジション。

息を小さく吐き、足を上げる。

 

 

残っているエネルギーを全部絞り出すように。

 

 

 

思い切り腕を振り切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノビのある真っ直ぐ。

外角低めに要求された4シームは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇しくも、もう1人のエースがマウンドを降りた、127球目。

限界を迎えていた大野のストレートは高めに大きく抜けて行き。

 

 

 

広い神宮球場のバックネットにぶつかった。

 

 

 

 

 

日差しに照らされ、光り輝く広い広い芝生の上を、転々とする白球。

 

 

慌てて取りに行く御幸の最中、大野は崩れ落ちるように両膝を付けた。

 

 

 

 

 

2-2、同点。

両者のエースは崩れ落ち、マウンドから降りていく。

 

 

 

試合はまだ、終わらない。

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