燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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大野視点の作品になりますので。降板後は、割とサクサクいきます。


エピソード54

 

 

 

 

 

 

 

延長11回の裏。

マウンド上、左膝と左肘を地面につけ、右手を支えに突っ伏す大野。

 

 

涙を流すこともできず、ただただマウンド上の黒い土を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

御幸が、慌ててマウンドへ駆け寄る。

 

 

膝を折り、全く動けない炎のエース。

泥と汗で汚れたユニフォームは、その死闘を物語っていた。

 

 

「夏輝…。」

 

 

声をかけても、全く動けない。

 

限界は、とうにこえていたのだろう。

それでもここまで投げてきたこの投手に、御幸は素直に敬意を表した。

 

 

「立てるか、夏輝。」

 

 

大野の脇の下に肩を通そうとし、御幸は戦慄した。

 

この炎天下で投げているはずなのに、全く汗をかいていない。

中度の脱水症状か、それともそれ以外か。

 

 

なんにせよ、彼の限界はとっくに超えていた。

汗が出なくなるほどの脱水症状では、立っていることすらきつい。

 

 

 

そんな状況で投げ続け、味方たちを援護していたのだから。

彼に最大限の尊敬を感じると同時に、その姿に気づくことができなかった自分が不甲斐なくて仕方なかった。

 

 

いいや、本当は薄々気がついていたのかもしれない。

が、彼のその力投と、成宮と対等に投げ合いを演じるその姿に、投げさせざるを得なかった。

 

 

 

か細く息を吐く大野。

そんな痛々しい姿に、御幸はポツリと呟いた。

 

 

「お前、ほんとすげえよ。こんなボロボロになりながら、チームのために投げたんだな。」

 

 

そして、唇を噛み締めながら、吐いた。

 

「気がつけなくて、ごめん。ほんと、捕手失格だよな。」

 

 

そう言う御幸に一度視線を向け、すぐに戻す。

乾き切った頬に、一滴の滴だけが伝っていった。

 

 

 

 

 

大野は状態が状態だけに、そのまま病院に直行。

 

代わりにマウンドへ上がるのは、降谷。

セットアッパーとしてこの試合準備していた剛腕投手に、マウンドを託す。

 

 

 

バッターは、矢部。

カウントは大野のものから引き継がれ、1ボール2ストライク。

 

 

たった一球。

いきなり148km/hのストレートで、矢部を空振り三振に奪って見せた。

 

 

これで、2アウト。

ランナーはなしで迎えるバッターは、リードオフマンのカルロスが打席にはいる。

 

 

 

カルロスは真っ直ぐに強い。

反応が早く力負けしないパワーも併せ持つ彼は、降谷のようなノーコン速球派投手にはめっぽう強かった。

 

 

 

ワインドアップから、豪快に投げ込むその姿。

まさに、剛腕である。

 

高めのストレートでまずは、空振り。

先ほどの大野のストレートとの球速差も相まり、甘いコースながらもカルロスから空振りを奪うことができた。

 

 

球速表示は、146km/h。

大野のそれと比べると、差は歴然である。

 

 

 

 

続く2球目。

今度は落差のあるフォーク。

 

当然、ストレートに狙いを定めていたカルロスは、またも空振りを奪われた。

 

 

 

(この変化、こりゃ厄介だぜ。)

 

 

ようやくエースを引き摺り下ろしたと思えば、超高校級のストレート。

そしてストレートに合わせれば、落差のあるフォーク。

 

 

これが控えにいると言うんだから、驚きである。

 

 

 

変化球か、真っ直ぐか。

最後は、降谷が最も自信を持つ高めのストレートで、空振り三振に切ってとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

延長の12回。

ここまで力投したエースのためにも、なんとか得点を入れたい青道。

 

 

先頭は、7番の門田。

ここで青道ベンチは、代打の切り札を出す。

 

 

今大会打率10割のラッキーボーイが、打席へと向かった。

 

 

 

 

木製バットを携え、小湊春市。

抜群のバットコントロールで、この回から登板した平野からセカンドの頭を越えるヒットを放つ。

 

 

0アウトでランナーは一塁。

この場面で、白洲はバントでランナーを確実に進める。

 

 

1アウトランナー二塁。

打席には、投手の降谷がそのまま入る。

 

 

 

まずは外のスライダーに空振り。

 

続く2球目も同じようなボールで空振りをすると、最後は同じようなコースから変化しないストレートでファーストゴロに打ち取った。

 

 

 

しかしその間にランナーは三塁へ。

一打勝ち越しのチャンスで、打席には倉持が回る。

 

 

 

まずは速いボール。

131km/hのストレートを見逃して1ストライク。

 

 

成宮と井口のせいで隠れているが、この平野も普通に好投手である。

 

 

 

2球目のスライダーを引っ掛け、ここはセカンドゴロ。

この終盤、最後であり最大の勝ち越しのチャンスを、逃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青道のベンチに、不穏な流れが立ち上る。

このチャンスで点を入れられなかったのは、大きすぎる。

 

 

対する稲実は、ここから上位打線。

2番の白河からスタートと、好打順である。

 

 

 

マウンドには、先の回と同じように降谷。

 

 

まずは、ストレート。

低めに決まった145km/hのボールを見逃し1ストライクとなる。

 

 

続く2球目は、高めに抜けるストレート。

これは余裕を持って見逃し、カウント1−1。

 

 

 

3球目、低めに1バウンドするフォーク。

これも見逃し、2ボール1ストライクとバッター有利のカウントとなる。

 

 

 

 

4球目のストレートはバットに当て、平行カウント。

その次のボールもファールで粘り、カウントは変わらず。

 

 

(こいつ…)

 

(当てるだけなら、無限にできる…。)

 

 

この後3球連続でストレートをファールで粘られる。

8球目のフォークを見逃されると、9球目のストレート。

 

 

高めに外れたこのボールを見逃され、フォアボール

先頭に出したくない打者を、出塁させてしまった。

 

 

 

ここからクリーンナップ。

まず最初に迎えるバッターは、3番の吉沢。

 

ここは手堅くバントを決め、ランナーを進めた。

 

 

 

 

1アウトランナー二塁。

ここで打席に迎えるのは、4番の原田。

 

 

ここで青道ナインは、マウンドへ集まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(打つ、必ず。)

 

 

ゆっくりと息を吐き出しながら、原田はゆっくり肩を回した。

 

 

身体が強張っている。

明らかに、緊張で硬くなっているのは当の本人ですらわかっていた。

 

 

スイングを、一閃。

少し硬いが、今更逃げる選択肢はない。

 

 

覚悟を決めて打席に向かう。

そんな時、彼は監督である国友に呼び止められた。

 

 

「この打席、お前は4番の肩書きも、キャプテンという肩書きも一旦忘れろ。」

 

 

そんな国友から掛けられた言葉に、原田は思わず目を見開いた。

 

「ここまでの成宮を見て、お前はどう思った。」

 

「…敬意を払うと同時に、不甲斐なさを感じました。」

 

 

原田がそういうと、国友は首を横に振る。

そして再度、口を開いた。

 

 

「成宮のあの投球を見てそれしか思わないほど、お前は薄情なキャッチャーではなかろう。」

 

そう言われると、原田は一旦俯き、すぐに顔を上げた。

 

 

「あいつを、勝たせてやりたいです。」

 

「なら、行ってこい。4番としてでなく、キャプテンとしてでなく。あいつを支えた相棒として、試合を決めてこい!」

 

 

国友から背中を叩かれ、打席に向かう原田。

 

 

その目は、まるで。

 

極限まで集中力を高めた、あの打席の結城と重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンド上は、変わらず降谷。

いくら原田であっても、初見で降谷の豪速球に対応は出来ないだろうと踏んでの采配である。

 

 

 

 

まずは、降谷の軸となる、ストレート。

真ん中低めに決まったこのボールを、原田は見逃した。

 

 

「おぉ」

 

スコアボードに出た球速表示に、場内がどよめく。

 

 

刻まれた数字は、150km/h。

1年生ながら大台を越えたマウンド上の降谷。

 

それを感じ取っても、原田は至って冷静であった。

 

 

 

(今のが、一杯か。)

 

 

球速ではなく、コース。

低めから伸び上がってくるように、決まっている。

 

 

このコースに続けられては、打ちようがない。

しかし、そこに続けられるほど、緻密ではない。

 

 

 

2球目は高めに外れてボール。

これは余裕を持って見逃し、カウントは並んだ。

 

 

 

 

3球目、またも低め。

しかし、甘い。

 

 

思い切って振りに行くも、ボールは原田のバットの下を潜るようにして落ちた。

 

 

低めのフォーク。

中々これが、キレている。

 

変化量も去ることながら、とにかく落差が大きい。

 

 

 

4球目のストレートは何とかバットに当て、ファール。

これも低めに決まっているため、中々長打が出にくい。

 

 

 

 

5球目。

フォークが高めに抜け、ボール。

 

再び、カウントが並んだ。

 

 

 

並行カウント、降谷は再びストレートを投げ込む。

高めの釣り球、ボール球だがその勢いに押されて手が出てしまう。

 

 

また甲高い金属音が鳴り、打球はバックネットへ突き刺さった。

 

 

 

 

(まだだ、もっと喰らい付け。)

 

息を吐き、バットを掲げる。

鬼気迫る表情とは、正にこの事を言うのであろう。

 

 

迫り来る原田の圧力に、降谷は無意識ながら若干のプレッシャーを感じていた。

 

 

 

6球目、ストレート。

高めのこのボールが抜け、またもボールになってしまう。

 

 

 

 

 

バックスクリーンに灯る、5つのランプ。

黄色のランプが2つ灯り、緑色のランプは3つ灯っている。

 

それを確認し、原田はまた息を吐いた。

 

 

(これで、決める。)

 

 

長かった。

エースは今までで最高のピッチングを魅せながらも、結局勝利を手にすることは出来なかった。

 

 

 

だから、せめて。

彼の力投に応えるのならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もう一度、お前の球を…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7球目に選ばれたボールは、ストレート。

外角低めから伸び上がってくるこのボールを、原田は逆方向に弾き返した。

 

 

 

真芯で捉えた白球は、高々と上がり。

 

 

 

 

美しい放物線を描く。

 

 

 

 

 

 

 

 

長い長い、夏の予選。

その決勝大会は、両エースの独壇場。

 

見るもの全てを魅了するような圧倒的な投球のすえ、互いに延長戦で降板。

 

 

最後はエースの力投に応えた、無安打の原田が一発を放ち、試合は終焉を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

長い投手戦の末、1つの夏が。

 

 

呆気なく終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 








第一部完!
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