燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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第二部、スタートです。
例の如く投稿は不定期です、申し訳ない。


エピソード55

 

 

 

 

 

 

 

(堪えろ。あと少しだろうが。)

 

 

バックスクリーンに映るランプが、それぞれ灯る。

 

黄色が2つに、緑も2つ。

赤いランプは、1つだけ灯っていた。

 

 

 

 

相棒役であり女房役の、御幸一也。

彼が構えたコースは、外角の低め。

 

 

相手は、お世辞にもミート力がある打者とは言い難い。

低めに強いボールを投げ切ることができれば、抑えきれる。

 

 

 

 

ここまで126球投げ込んできた右腕は、重い。

指先には上手く力が入らず、球威も落ちてきていることは自覚していた。

 

 

 

 

最後。

外角低めに向けて投げられた、渾身のストレート。

 

それは指にかかることなく、一也の構えたコースを大きく外れて後逸した。

 

 

 

蓄積されてきた疲労か、それ以外か。

それとも、緊張の糸が切れたのか。

 

 

色褪せた世界の中で、俺は崩れ落ちるようにして、倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ」

 

視界は一転、鮮やかに戻る。

 

 

視界の先には、染みのひとつも無い真っ白な天井。

夏場なのに涼し気な風が吹き抜けているのは、ここがクーラーの効いた室内だからなのだろう。

 

 

 

「見知らぬ天井。」

 

 

ボソリと、呟いてしまう。

まあ大体は、把握出来る。

 

 

 

 

「負けたんだな、俺たちは。」

 

 

わかっている。

俺のワイルドピッチで負けた。

 

最後の最後に、俺は粘ることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

目に溜まった大粒の水滴を拭い、ゆっくりと起き上がる。

恐らくここは、近所の病院か。

 

 

辺りを見回す。

 

そこには、俺の母親と、真っ白の白衣を身にまとったハゲ…基、髪の薄い中年の男性が話していた。

 

 

「目が覚めたか?」

 

恐らく医者であろう男性が話を切り上げ、俺に声をかける。

 

 

「どこか痛むところはあるか?」

 

「肘が少し張ってる感覚が。あとは筋肉痛で全身が痛いです。」

 

 

現状を至って正直に話すと、医者は少し笑った。

 

 

「そうか。あともう少し安静にして、明後日以降だな、戻るのは。」

 

「わかりました。」

 

 

先生が言うには、俺は2日間まるまる寝込んでいたらしい。

 

 

熱中症と脱水症状のダブルパンチ。

水はこまめに飲んでいたつもりだが、それ以上に汗が出てたみたいだ。

 

 

特に脱水症状が深刻で、俺が降板したときは汗すら出ていなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼーっとしていると、少ししてドアが開く音が聞こえた。

 

「失礼します。」

 

 

声色からして、男性が入ってきたのだろう。

低い声とともに、近くに大きな影が写った。

 

 

褐色肌に筋肉質な腕。

スーツを身に纏い、室内なのに何故かサングラスをかけた強面の男。

 

 

 

紛うことなき、我らが監督。

片岡鉄心である。

 

 

 

「あっ、お疲れ様です監督。」

 

「体調はどうだ?」

 

少しばかり口角をあげ、朗らかな表情。

 

普段というか、練習とか寮生活のときじゃあまず見られないその姿に、俺は若干新鮮味を感じていた。

 

 

 

「まだ少し疲労が残ってますね。先生曰く、明日休んだらもう練習にも出れるそうなので。」

 

「そうか。今日と明日はゆっくり休め。」

 

 

 

その後、静寂。

というより、話すことが中々ない。

 

 

俺は敗戦投手で、監督は敗軍の将。

傷はまだ、互いに癒えていない。

 

 

 

均衡を破ったのは、監督から出た謝罪の言葉であった。

 

 

「すまなかった。お前が限界だと気づいていながら、最後まで甘えてしまった。」

 

 

椅子に座りながら、深く頭を下げる監督。

それを見て、俺は慌てて頭を上げるように頼んだ。

 

幾らなんでも、監督に頭を下げられてまともでいられる奴はいないだろう。

 

 

 

それに。

 

「…それも背負うのが、エースなんでしょう?」

 

俺がそう呟くと、監督は目を見開きながら顔を上げた。

 

 

良いタイミングだ、俺もここで吐き出させてもらう。

 

 

「最後の暴投は、俺の力の無さ故です。行けると俺が言いました。それで打たれたのは、紛れもないエースとして任せられていた俺の責任です。」

 

 

一つ息を吐いて、続けた。

 

 

「リードを守りきれず、すみませんでした。また、精進していきますので、これからもご指導お願い致します。」

 

 

そうして、俺も深深と頭を下げた。

 

 

 

 

俺にはまだ、足りないものが多すぎる。

 

球威はどうにもならないし、球速も多分爆発的に伸びることは無い。

 

最後までしっかり投げきれるスタミナと、筋持久力。

あとは強い球を投げる筋力。

 

コントロールは十分。

変化球の手札はそこそこあるが、もう1つ決め球が欲しい。

 

 

延長11回まで投げてわかったのは、俺の欠点。

汗や筋疲労でツーシームが抜けること、後半になると制球が上手くいかなくなること。

 

 

 

無い物ねだりは、しない。

しかし、得られるものならば。

 

 

 

 

己が力に変える。

 

 

 

 

 

 

 

勝てなかったのは、悔しい。

甲子園を目指して戦ってきて、その道が途絶えてしまったから。

 

 

だがしかし。

引退していった先輩達のためにも立ち止まるわけにはいかない。

 

 

ここから先は、俺たちの世代だ。

 

 

 

もう負けない為にも。

 

 

 

「強くならなきゃ、ですね。俺も、皆も。」

 

 

二度と負けないように。

あと一歩のところまで掴みかけた、夢の舞台へ。

 

 

「ああ。また、やり直しだ。」

 

 

そうして監督が立ち上がる。

頷き、俺も身体を起こす。

 

 

 

「お前は明後日まで休んでろ。」

 

「ですよねー。」

 

 

とりあえず休養か。

今はゆっくり休んで、次の練習に備えよう。

 

 

 

 

夏は終わった。

しかしそれは、全ての終わりではない。

 

 

新たなる世代の、始まり。

 

 

 

 

 

ひとつの夏が終わり。

 

 

もうひとつの夏が、始まる。

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