新チームとして練習を再開した2日目。
俺は晴れて退院し、チームへ合流した。
「戻ったぞ。またよろしく。」
とりあえず、一也に挨拶。
去年もそうだが、こいつにも心配をかけた。
「意外と早かったな、エース。」
「元、な。それに、寝てても野球は上手くならん。」
「ご最も。」
互いに変わりない。
いつも通り冗談を交え、アップをする。
体をほぐすようにストレッチをしていると、一也がずっとこちらをみてきていた。
「何だよ。久しぶりで俺の顔忘れちまったのか。それとも恋心か?」
「ねーよ。意外と引きずってねえなって思ってな。」
一也が、そう言って笑う。
まあ、確かにそうだな。
「まあ、な。」
いつまでもくよくよしたって始まらないことは、去年の時点でわかっている。
だったら、もう二度と同じ思いをしないために、練習するしかない。
それに、これからは俺たちの世代なのだ。
いわば、俺たちのチームなのだ。
自分がチームの中心というのは、わかっている。
そんな俺がいつまでも部屋にこもっているわけにはいかない。
「待っていても、勝ちはやってこないからな。」
「お前らしいな。とにかく、よかったよ。」
それに。
成宮と投げあっている時の充実感みたいもの。
俺は何となく、決勝戦という舞台よりもそこに意識がいっていたのかもしれない。
「そういえば、キャプテン降りたんだな。」
新チームとして動き始めた青道高校。
何よりまず決めなければならないのは、チームを引っ張る大将。
つまり、主将である。
前年は満場一致で哲さん。
今年はその哲さんの推薦で一也の予定だったのだが。
「そういえば降りたんだな、キャプテン。」
「あぁ。お前の異変にも、降谷の緊張にも気がつけなかったからな。投手の変化にも気がつけないのに、チームは背負えねえよ。」
一也は投手ともう一度向き合いたいと監督に直訴。
主将ではなく一捕手となることを熱望した。
監督自身もそれを咎めることはとくにせず、御幸の意志を尊重することにしたらしい。
まあうちには、癖の強い投手しかいないからな。
それを纏めて尚且つチーム全体も見ろというのは、中々苦労する。
ということで、キャプテンとして上がったのが、外野手の白州健二郎である。
寡黙ながらも熱い心の持ち主で、チームのことも広く見えている。
1年時から試合に出ているため実力も伴っており、外野手としての野球IQも高い。
「白洲か。意外と適任なんじゃないか。」
「俺もそう思う。副キャプにゾノと倉持もいるし、チームの統合的には悪くないと思う。」
「そうだな。」
軽くキャッチボールしながら、話す。
流石に今日は投げ込まないが、少しずつ感覚を戻していかなければ。
それこそ、まる3日間寝ていたからな。
そもそも身体自体鈍ってる。
「投げるのか?」
「いや、今日はいい。肘の調子もあまり良くないし、もっと先にやらなきゃいけないこともある。」
走り込み、トレーニング。
あとはバッティングか。
肘がまだ張っている感覚があるし、ピッチング以外の練習をしよう。
「ありがとう。そろそろ時間か。」
「そうだな。」
日が昇り、だいぶ明るくなった。
蝉が鳴き、その音が夏の暑さをさらに感じさせる。
足早に整列し、監督がやってくる。
今日からまた、練習がはじまる。
次の大会は、秋大か。
春の甲子園に繋がる大会であり、東西東京すべてがトーナメント形式で試合をする。
そのブロック予選が、8月末から始まるのだ。
まずはそこに向けて、チーム作りを始める。
「昨日も話したが…」
チーム練習自体は昨日から再開しているため、新キャプテンの抱負とかはもう昨日のうちに済ませてある。
白洲が前で何か話すとか、中々想像できない。
それでも御幸がいうには、やはり決勝での敗戦を糧に優勝すること。
彼なりにそれを伝えたのだろう。
まあ白洲はしっかり者だし、大丈夫だろう。
そもそも心配はしていないし。
まあ副キャプテンは熱い男、ゾノこと前園健太。
もう1人は、意外と人の観察力がある人、倉持洋一である。
副キャプテンも2人体制でついているため、チーム管理はかなり円滑にいくのではないだろうか。
ブルペンの管理は、御幸一也。
元々キャプテンを推薦されていただけに、やはりここのまとめ役は彼しかいない。
投手は去年同様、俺が中心になってメニューは考えていく。
チーム方針としては、やはり昨年同様。
攻撃は積極的に仕掛けていく。
守りは、堅実に確実に相手にチャンスを作らせない。
打線は、御幸を四番に。
後は試行錯誤しつつ、大会まで見定めていくらしい。
「悔しさを忘れるな。それが明日への勝ちにつながる。今日もそれぞれ目標を持って取り組んでいけ!」
「ハイ!」
「じゃあランニングから、元気よく声出していくぞ!」
監督が手を叩くと、白洲が声を張り上げて先頭に。
「ランニング、いくぞおぉぉ!」
おっ、意外と様になってんじゃん。
しゃあ、俺も声出していきますか。
「いっ…」
「いっちにい!」
俺の声を掻き消すほどの声が、横から。
こいつは…。
「はっはー!なっさん、もうエース争いは始まってるんですよ!」
沢村である。
こいつはもう、休み明けだというのに変わらずやかましい。
ったく。
「俺がエースになる。」
「なっさん、俺だって負けませんよ!」
「俺も忘れんなよ。」
「いたのか、ノリ。」
明らかにシュンとするノリに謝りながら、ふと違和感に気がつく。
降谷…?
白洲推し、歓喜なのでは。