やあみんな、俺だ。
青道高校2年、元エースの大野夏輝だ。
今日は新チーム結成後初めての練習試合。
久しぶりの試合だし、俺も張り切っていくぞ。
ちなみに今日のオーダーは、こんな感じ。
一番 遊 倉持
二番 中 大野
三番 二 小湊
四番 捕 御幸
五番 右 白洲
六番 一 前園
七番 投 川上
八番 三 樋笠
九番 左 麻生
俺はセンターでスタメン出場。
まあ、今日はダブルヘッダー(1日で2試合行うこと)だからな。
俺はその二試合目に登板する予定だ。
一試合目の先発投手は、同い年のノリ。
リリーフで沢村の予定。
俺は午後の試合で先発予定。
そのリリーフで、降谷が入る予定。
さて、相手は言っちゃ悪いが確実に勝てる相手。
あとはそれぞれがどうアピールしていくか、だな。
相手先発は、一年の左腕。
スライダーが決め球の、最速136km/hの有望株である。
「コントロールは、普通かな。」
「スライダー、結構いい角度で曲がるな。打ちにくそ。」
ベンチ前でタイミングを合わせながら、倉持と軽く話す。
「先頭打者さん、まずはチャンスメイクお願いします。」
「っるせ。」
ちなみに、倉持セカンドゴロである。
完全にストレートに詰まってのゴロである。
「頼みますよリードオフマンさん。」
「るせ!」
さっきよりも、強めの怒気が帰ってくる。
仕方ない、実戦は約3週間ぶり。
最初の打席は、感じるだけでいい。
そもそも倉持は、元々率がいい方じゃない。
内野安打や足でもぎ取る安打が多い為、ヒット自体は少ない。
塁に出れば、ほぼ二塁打確定なんだけどな。
さて、と。
言っていても仕方ない。
「2番、センター、大野くん。」
ここは俺が、チャンスメイクをしていかねば。
「よろしくお願いします。」
「おや、今日は先発じゃないんですね。」
キャッチャーから、そう言われる。
向こうとしては、こちらの集中力を削ぐのが半分、単純に疑問を感じたのが半分だろう。
別に隠すも何も無いし、普通に答えるけど。
「そうですね。次の試合では先発しますんで、その時はよろしく。」
相手は、平均球速130キロほど。
俺よりも少し速く、決め球のスライダーもキレている。
情報はこれくらいか。
1年生なだけに、やはり情報があまり多くない。
特に夏の大会でもあまり投げていなかったからな。
できれば、隠れている「それ」を引き出したい。
まず初球。
インコース高め一杯にストレート。
あくまで見せ球だろうが、これが決まってストライク。
2球目、インコース低めにストレート。
これも見逃し、早くも追い込まれる。
スピードはそれぞれ120後半くらいか。
まあ、体感速度も大体違和感がないかな。
フォームも癖がないし、タイミングも取りやすい。
3球目、アウトコースのストレート。
これは外れてボール。
4球目のスライダーもカット、カウントとしては未だに1ボール2ストライクとまだ投手有利のカウントである。
(スライダーは、横気味だな。真っ直ぐも威力がある訳でもない。)
あとは、もう一つ変化球があるか。
そこだけ、知りたいな。
一つ息を吐き、構え直す。
もう少し辛抱させてもらうよ。
5球目、再びスライダー。
これが低めに外れてボール。
もう1球スライダー。
ゾーンにきたこのボールをカットして、並行カウント。
うーん、この感じはスライダーだけかな。
なら、そろそろ狙わせてもらう。
6球目、ストレート。
外角の甘く入ってきたボールを、弾き返した。
狙い通りライトのライン際。
逆らわずに打ち返した打球は切れることなく、ライトの前に落ちた。
とりあえず、ヒットだな。
球もだいぶ見せたし、2番の活躍はできたんじゃないか。
まあ、亮さんほどじゃないけど。
この後、続くのは春市。
彼も持ち前のシャープな打撃でチャンスを広げ、ランナーを一二塁と増やす。
2番、3番と仕事はした。
あとは、4番。
ここが機能するかどうかで、今年の打線が決まる。
さあ頼むぞ、4番。
「4番、キャッチャー、御幸くん。」
チャンスでしか打てない男。
得点圏にランナーが近づけば近づくほど、ランナーが貯まれば貯まるほど打力が向上する、不思議なバッターである。
その条件下であれば、このバッターはチーム1のパンチ力を誇る。
現在のランナーは、2人。
一、二塁とはいえ、得点圏である。
(悔しかったんだろ。打てなかった自分が不甲斐なかったんだろ。)
夜中、普段他の人の前で自主練をしないこいつが、バットを振っている時につぶやいていたのを知っている。
一番近いところで、あの怪物投手を見てきたのだ。
あの怪物投手に、完膚なきまでやられたのだ。
その悔しさは、必ず力になる。
相手投手が速球を放った初球。
甲高い金属音とともに、白球は右中間を抜けていく。
これがうちの4番。
チャンスでしか打てないが、チャンスなら確実に仕留めてくれる。
ムラっ気のなさは、今後練習をしていくしかない。
しかし今。
最も打線の主軸における男は、この選手なのだ。
この回一気に3得点。
やはり打の青道の名前は今年も健在であり、上位打線から得点を奪っていける。
さらに、先発の川上。
サイドハンドからテンポよく放り、5回までを1失点に抑える好投を見せる。
夏の大会では影が薄かったが、低めへの制球とキレのあるスライダーで打たせて取る投球は、やはり安定抜群である。
続く沢村は、序盤こそ制球に苦労したものの、御幸の巧みなリードと二つの速いボールの組み合わせで残りの回を無失点に抑えた。
俺も野手として3安打1打点と上出来。
打線もコンスタントに得点を重ねていき、7得点。
俺たちの練習試合初陣は7−1で大勝することができた。
反省点もあったが、とにかく勝った。
ノリも流れを作る投球に、沢村も立ち上がり以外はほぼ完璧な投球。
打線も二桁安打に7得点。
完成度としては、かなりの水準なのではないだろうか。
今のところは不安要素も特になし。
次の試合は、少しメンバーを入れ替えて。
あとは、俺と降谷か。
同じ対戦相手であり、先発も前大会でエースとして躍動した塩崎。
最速140km/hの直球と緩く沈むシンカーで試合を掌握する本格派サイドスローである。
入れ替えたのは、先発投手。
あとはサードの金丸とセンターに麻生、レフトに降谷が入る。
よし。
バックを守る仲間は変わっても、俺がやること自体は変わってこない。
チームを背負って、腕を振る。
新青道のエースとして。
俺は、マウンドへと向かった。