燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード60

 

 

 

 

時刻は、13:00。

気温は31℃とかなり高いが、あの時よりマシだ。

 

 

約、3週間ぶりか。

こうしてマウンドに上がるのは。

 

 

ブルペンで投げるのも、バッティングピッチャーとして投げるのも、やはり試合の時の緊張感には敵わないからな。

 

こうして空気感を確かめると、感じるものがある。

 

 

 

 

目を瞑り、ゆっくりと息を吸う。

大きく大きく、そして吸い込んだものを吐き出す。

 

不安、緊張、雑念。

吐き出す息とともに、身体から抜けていく。

 

 

 

己の中にある不純物が取り除かれたとき。

 

俺はゆっくりと、目を開けた。

 

 

 

「調子は?」

 

「大丈夫だ。」

 

捕手である一也との、端的なやり取り。

別に今更、詳しく打ち合わせをする必要もない。

 

 

「一巡目は結構見てくるからな。少ない球数で、攻めていくぞ。」

 

「了解。」

 

 

グローブを合わせ、頷く。

定位置に戻る女房役を横目で見ながら、俺はロージンバックに手を触れた。

 

 

 

あの時以来、ストレートの感覚は前と変わらない。

稲実戦で投げていたようなボールの感覚は、今はもうない。

 

けれど、それで抑えられる。

 

 

 

打者が、打席へ。

それを正面から見下ろし、俺は一つ息を吐いた。

 

 

(最初のバッター、大事に行くぞ。)

 

(OK。アウトローからな。)

 

 

胸の前でグローブに隠した両手を置き、左足を一歩後ろに引く。

 

ゆっくりと腰を捻り始め、相手打者に背中が見えるある地点まで到達すると、そこで一瞬静止。

その後、全身の回転運動と反動をフル活用し、捻転。

 

込められた力を、指先へ。

人差し指と中指で最後押し込むように、引っ掻く。

 

 

引っ掛けて暴投する一歩手前。

最も力が入る位置で、ボールを離す。

 

 

 

(…ここ。)

 

 

感じたタイミング。

ここで離すと、球は縦回転を強く受け、揚力を受けやすくなる。

 

 

放って仕舞えば、引っ掛ける一歩手前。

力が一番入っている、絶妙なタイミング。

 

リリースされた白球は、ベース手前になっても減速することなく。

打者の最も遠い位置に、すっぽりと収まった。

 

 

「ストライク!」

 

ストライクコール。

打者は目を見開くが、俺は一也から受け取った白球を右手で転がしながら投球準備に入った。

 

 

それはそうだ。

だって、ゾーンいっぱいに決まってるんだもん。

 

 

 

2球目も同じく、外角低めの真っ直ぐでストライク。

これまた見逃すが、こちらとしては好都合。

 

 

 

あっという間に2ストライクと追い込んだ。

 

 

普通なら様子見でもいいんだが。

元々そういうバッテリーじゃ、ない。

 

 

 

(さて、と。さっきの試合で見たし、様子見はいらねえな?)

 

(勿論。捩じ伏せるぞ。)

 

 

一也が構えたのは、打者のインコース低め。

狙いとしては、左打者の真ん中から外角低めに決まるボールか。

 

 

縫い目を若干動かし、白球を握る。

 

 

(来いよ。)

 

頷き、またモーションにはいる。

そして、要求通りのコースに向けて、投げ込んだ。

 

 

軌道としては、ストレートとほとんど同じ。

真ん中付近の甘いコースに、打者もバットを振る。

 

 

 

ほとんど完璧なバット軌道。

ストレートのタイミングで振り始められたバットは完璧なタイミングで走り。

 

 

 

最後に、空を切った。

 

 

「ストライク、バッターアウト!」

 

 

左打者から逃げていくように変化するツーシームで、空振り三振。

まずは、問題なく行けたな。

 

 

 

 

大丈夫、俺は投げられる。

今もこうやって、相棒が構えてくれている。

 

 

「ストライク、バッターアウト!」

 

 

みんなはまだ、俺を信じてくれる。

だから、もう期待は裏切らない。

 

 

「ストライク、バッターアウト!3アウトチェンジ!」

 

 

チームの勝ち頭として。

ただ、勝つために。

 

 

腕を振るう。

ただ、勝つために。

 

 

 

「ナイスピッチ。全開だな。」

 

「俺に与えられたチャンスは5イニングなんだ。悠長な投球なんてできるか。2人があんなにアピールしたんだから、俺も負けられない」

 

帽子をとって汗を拭いながら、近づいてきた一也にそう返す。

 

 

今日も暑いな。

だが、あの時はもっと暑かった。

 

 

「今日は全力で捩じ伏せにいく。相手には気の毒だが、俺もエースになりたいからな。」

 

俺がそういうと、一也は少し笑って答えた。

 

 

「わーったよ。次の回からはカーブも使うからな。できるだけ三振とりにいくか。」

 

「そうだな、球数は嵩んでも構わん。」

 

 

頷き、ベンチに入ろうとすると、倉持から蹴りが飛んできた。

 

 

「ヒャッハー、たまにはこっちにも飛ばしてこい!」

 

 

「その前にお前は塁に出ろよ、倉持。」

 

「るせ!おめえもチャンスでしか打てねーだろ!」

 

 

一也と倉持でやり合ってるが、気にしない。

ベンチに腰掛け、俺もドリンクに口をつけた。

 

「後ろに飛んだら、よろしく頼むよ。」

 

「任しとけ!」

 

 

こう見えて、やはり守備にいるとかなり頼もしいのだ。

倉持もそうだが、セカンドの春市なんかも。

 

 

 

 

 

とか言って、結局俺は5回を投げてパーフェクトピッチ。

打者15人に対して12個の三振を奪う投球で降谷へと残りのマウンドを任せた。

 

 

 

少し力を入れ過ぎたか。

久しぶりの試合というのもあって若干肘に張りを感じるな。

 

とりあえずケアを丁寧にやって、だな。

監督にもこの試合は野手出場なしって言われたし。

 

俺の代わりにレフトには関が入り、マウンドには降谷。

 

 

 

こいつもまあ、コントロールが最低限決まればな。

この程度の相手なら、まず撃たれないだろう。

 

 

案の定、降谷も残りの4回を被安打2の無失点。

アウト12個のうち8奪三振を奪い、課題の与四球は3つ。

 

 

失点には繋がらなかったが、やはり多いな。

 

 

ここに関しては、本当に投げていって直していくしかない。

あとは足腰鍛えて、フォーム固めて。

 

方法は色々あるから、一緒に練習していこう。

それこそ沢村も、コントロールがいいとは言えないからな。

 

比較的いいっていうだけで。

 

 

 

 

試合は相手先発の好投もあり、一試合目ほど点は取れなかった。

が4−0と快勝。

 

 

俺たち新青道の初陣は、二連勝で飾ることができた。

 

 

 

試合後。

カエルのような男性と、目があった気がした。

 

 

 

 

 

 

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