燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード61

 

 

 

 

 

坂田丘高校との練習試合から、2日が過ぎた頃。

俺たちは次の試合に備えて、ブルペンに入っていた。

 

体力トレーニングを終え、時刻は14:00過ぎ。

気温は、今日も30℃を超えている。

 

 

「あっちー。」

 

「だな。」

 

 

右手でユニフォームの胸元を扇ぎながら、そう零した。

 

 

 

「っし。座ってくれ。」

 

「あいよ。」

 

 

一也が、防具をつけて座り込む。

そして、ミットを前に出した。

 

構えられたコースは、右バッターの外角低め。

そこに視線を送り、クイックモーションで投げ込んだ。

 

 

 

力としては、6割ほど。

快速球が、構えられたコースにピシャリと決まった。

 

 

「OK、ナイスボール。キレは十分だが。」

 

「…あの時には、及ばねえな。」

 

 

こればかりは、仕方ない。

自分で言うのもあれだが、あの時の集中力は異常だった。

 

感覚も、集中力も。

今までにないほど、研ぎ澄まされていたような感じがしていた。

 

 

 

しかし、それこそ無い物ねだりだ。

必要であれそれを引き出す方法がないのに、悔いても仕方ない。

 

今あるもので、今の俺で何処まで力を伸ばせるか。

 

 

 

 

さてと。

ということで今日やりたいのは、変化球。

 

夏の大会中から少し気になっていたのだが、少し投げてみたい変化球があったりする。

 

 

「少し、試したい。」

 

俺がそういうと、一也はわかっていると言わんばかりに肩を竦めた。

 

 

「カットボールか?」

 

 

「まあな。」

 

 

 

カットボール。

打者の手元で利き腕と反対側に曲がる、言わばスライダー方向の変化球。

 

スライダーよりも速く、打者の近くで高速変化する。

 

 

 

俺の決め球は、ツーシーム。

利き腕と同じ方向に、曲がりながら沈む高速変化球。

 

 

つまりは、同じような球速で曲がる、対の変化球なのだ。

 

 

きっかけは、夏の大会の準々決勝。

薬師高校の投手であった真田が投じた、打者の胸元を抉るカットボールに思いっきり詰まったから。

 

 

大会期間中は感覚が狂うからやめておいたのだが、昨日思い出して一也に話した。

 

意外とツーシームと身体の使い方と似ている上に、人差し指できること自体は同じだ。

 

 

 

まあ、机上論だけど。

実際投げてみないとわからないし、そもそも俺の身体で投げてどうなるかはわからない。

 

 

結局人の筋肉の就き方や身体のバランス、腕の長さから柔軟性、さらには細かい指先の感覚まで色々な要素で個性が出る。

 

 

 

「別に今のままでも抑えられるけどな。」

 

「もっと上手くなりたいのよ。悪いか?」

 

 

一也の言葉に、思わず意地悪な返答する。

すると、彼は先ほどよりも大袈裟に肩を竦ませ、笑った。

 

 

「まさか。相棒の成長が嬉しくないキャッチャーはいねえよ。」

 

 

思わず、俺も笑ってしまう。

 

 

「御宅並べてねえで投げんぞ。時間は有限だからな。」

 

 

これは、照れ隠し。

向こうもわかっているから、軽く返答して座る。

 

 

2球、3球と若干抜ける。

しかしまあ、感覚は大体わかってきた。

 

もっと強く切ったほうがいいのか。

 

 

 

お、少し曲がったな。

しかし、カットボールにしては遅いな。

 

なんとなく握りを見返し、投げる。

 

 

何球か、試しながら投げ込んでいく。

しかしまあ、上手くいかない。

 

 

ちなみにツーシームの時は、割とあっさり投げれるようになった。

 

 

 

もう一球、投げてみる。

速さは少し上がったが、今度は曲がり始めがかなり早くなってしまった。

これじゃどちらかというと、スライダーと変わらん。

 

 

「お前、どうやって握ってんの。」

 

 

一也から言われ、俺は右手を差し出して見せた。

 

縫い目を2本かけ、若干ストレートよりも深く。スライダーよりも浅く握っている。

簡単にいうと、フォーシームから少し縫い目をずらして深く握っている感じ。

 

 

「もっとストレートと同じように投げてみろ。握りはほぼ真っ直ぐと同じで構わない。全身を使って、小手先で曲げようとするな。お前はツーシームでも同じことしてんだから、なんとなく感覚はわかるだろ。」

 

 

「なるほど…え。」

 

思わず感嘆してしまうが、その声の主は一也ではない。

マジで、知らん人の声である。

 

 

「あなたは?」

 

割と常識あるほう(抜けている幼馴染とか他の投手たちに比べて)な俺でも、流石に聞いてしまう。

 

だって、知らん人だもん。

だって、学校の敷地内だもん。

 

 

「いいから、やってみろ。」

 

 

はあ。

顔を見てみると、この間目があったカエルのおっさんである。

 

 

まあ、やる価値はあるか。

少し苦戦していたしな。

 

 

えーっと。

手元じゃなく、全身で曲げる感じね。

 

 

ノーワインドから、思い切って腰を捻る。

試合とできるだけ近い状態で投げれば、感覚もなんとなくわかるかもしれない。

 

 

そんなことを思い立ち、俺は投げ込んだ。

 

 

球速で言えば、ストレートとほとんど同じ。

軌道も大して変わらず、一也のミットの手前で少しだけ沈んだ。

 

 

 

お、おお。

今のは、かなりカットボールしてたぞ。

 

 

もう一球、投げてみる。

感覚としては確かに、ツーシームに近いかもしれない。

 

小手先で曲げずに、全身の微細な感覚で曲げる。

 

 

「おお、ありがとうございます。えーっと。」

 

結局誰だ、この人。

 

「まあ、なんだ。時期にわかる。」

 

「は、はあ。」

 

 

知らんけど、ここに入って咎められていないということは、ここのOBなのだろう。

知らんけど。

 

まあ、危害加えられてるわけじゃないし、俺は構わない。

 

 

なんとなく、感覚は掴めてきたな。

今度は、少し強く切ってみるか。

 

 

人差し指で、少し強めに。

ギリギリで離したら、もっと変わるかも。

 

 

「お、今の結構横に曲がったな。」

 

「だな。これなら試合でも使えるかも。ありがとうございます、おじ…」

 

 

俺がそう言いかけた時、ブルペンにやってきた高島先生に遮られる。

 

 

「ここにいらっしゃいましたか。落合コーチ。」

 

「ええ、まあ。この子が少し難儀していたようですからね。」

 

 

 

ん、コーチ?

 

「紹介するわ。この夏から投手コーチとしてきていただいた」

 

「落合だ、よろしく。」

 

 

 

「あ、はい。よろしくお願いします。」

 

呆気に取られたが、コーチならそりゃブルペンにいてもおかしくないな。

うんでも、紹介くらいしてくれないと、心配になるよ高島先生。

 

 

 

 

 

何はともあれ、これが俺と落合コーチの。

俺の今後の野球人生を大きく変える出会いになる。

 

 

が、それはまた別のお話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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