8月も終わりに近づいてきた。
日中こそまだ夏日が続くものの、若干暑さは和らいできたように思える。
夏休みも終盤。
新チームになっての総括と決め込みたいところに、絶好の相手が今日やって来る。
「おぉーっ!でけえ!!」
試合の準備の為Bグラウンドでストレッチをしていると、そんな声が耳に突き刺さる。
来たか。
噂をすればなんとやら、だな。
薬師高校。
今夏に大ブレイクした高校であり、甲子園出場校の市大三高を破ったとして話題になったチームである。
4番の轟を中心にパワーヒッター揃いであり、超攻撃的なチームとして人気を博していた。
「いきなりでけえ声出すな、雷市」
「よう、久しぶり。」
右手を上げて挨拶をしてくる真田に、俺も頷いて答えた。
まあ、投げ合った仲だしな。
あまり会話はしていないが。
「今日は宜しくな。もう結構試合してんの?」
「まあな。今んとこ10連勝中だから、今日勝って11連勝に伸ばさせてもらうぜ。」
おお、流石。
元々薬師の中心選手は、轟を含めた1年生3人と、エース格の真田くらいだからな。
3年生たちも怖いバッターではあったが、彼らが残っている分チームとしてはすぐに再建できたのだろう。
「今日の先発は?」
「俺だよ。どこまで投げるかはわからないが。」
別に、隠す必要もない。
俺が先発して、途中から沢村か降谷、もしくはノリにシフトするとのことだ。
向こうの先発は三島。
夏の大会では投げていなかったと思うが、中学では元々ピッチャーをやっていたらしい。
恐らく、途中から真田も投げるだろう。
「前回はやられちまったけど、今日は勝つからな。雷市も状態あげてるし、今日こそ打ってやるよ。」
「望むところだ。宜しくな。」
そう言って、真田も自分たちのチームへ戻っていく。
流石、コミュ力高いなと感心しながら、俺も自分のアップを終えて野手に合流した。
さあ始まります。
先攻は俺たち青道高校。
オーダーに関しては、以下の通りだ。
1番 遊 倉持
2番 投 大野
3番 二 小湊
4番 捕 御幸
5番 右 白洲
6番 一 前園
7番 三 金丸
8番 左 降谷
9番 中 麻生
先発は、真田に言った通り俺。
成績も踏まえ、今のところは暫定エースとして試合をしている。
サードは最近かなり当たっている金丸。
まだまだムラっ気はあるものの、当たる日はとにかく当たる。
これも自主練の際に指導してくれたクリス先輩のおかげだろう。
守備もかなり安定してきており、今の所のレギュラー筆頭になっている。
外野手は、安定感の麻生と打撃の降谷。
これが今は定着しつつある。
開脚しながら少し股関節を伸ばし、深呼吸。
やることを整理するために、頭の中で一つずつ確認していく。
先頭の秋葉は一発もあるし、何よりヒットメイカーである。
チームで1番出塁率が高く、こいつが出塁した際の得点率は本当に高い。
まあ十中八九、4番の轟に打席が回るからなのだが。
あとは、今名前の出た轟。
彼に打たれると、このチームは本当に強い。
細心の注意を払って投げる必要がある。
三島も危険だな、あとはチャンスに怖い真田。
何より全員が一発を狙ってくるもんだから、怖い。
まあその方が、こちらとしては抑えやすい。
それに真っ向勝負の方が、楽しい。
「今日の調子は?」
一也からの問いかけに、俺は若干首を傾げて答える。
「感覚自体は悪くないな。」
筋肉痛で体のキレはあまり良くないが。
そこまで言わなくても、彼は多分理解してくれている。
「あくまで練習試合だからな。打たれてもあんま凹むなよ。」
「わかってる。でも今の俺の最善は尽くす。」
俺がそう言って白球を手渡すと、一也も笑って定位置に戻った。
右の肩を2回3回と回し、首をぐるりと大きく回す。
そしてそのまま、右手で胸元を握りしめた。
目を瞑り、ゆっくり息を吐く。
練習試合とはいえ、集中しなきゃやられる。
1番いい状態でやらなきゃ、意味ないしな。
息を吸い直し、また吐き出す。
今の最大限をぶつけ、俺の現在地を、チームの現在地を確認する。
いつもよりもう一つ大きく深呼吸。
中途半端にやるくらいなら時間をかけて感覚を研ぎ澄ます。
「…っし。」
行ける。
俺はゆっくりと目を開けた。
視界が少しばかりぼやけ、打者の姿だけが鮮明に映る。
俺が視線を少しずらすと、今度は打者もぼやけて一也とそのミットが鮮明に映し出された。
狙うのは、その一点のみ。
そこに決める能力が、俺にはある。
他の3人にはなくて、俺にあるもの。
降谷のような豪速球はない。
沢村のような癖玉も柔軟な関節もない。
ノリのような角度のあるサイドスローでもない。
ただ、真っ直ぐに。
俺は、一也を信じて投げ込むだけだ。
息を吐き、腰を捻り始める。
ゆっくり力を溜め、溜め。
限界まで溜め込んだ力。
それを身体の捻転とともに。
解放。
収縮された力を全て指先へ。
最後に、押し込む。
(ここ。)
慣れ親しんだ感覚。
しかし、今日のそれは。
いつもの「それ」よりも、遥かに鋭い感覚で抜けていった。
いつもよりも、少し鈍い音が一也のミットから鳴った。
コースは、外角少し甘め。
しかし、秋葉はこのボールを見逃した。
この感覚は…