燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード64

 

 

 

 

 

 

 

(また速くなった?)

 

 

打席に立っていた秋葉は、2ヶ月に見た同じような快速球に、思わずため息をつきそうになった。

 

 

純粋且つ美しい縦回転。

さらに力強く弾かれた、フォーシーム。

 

全身のバネを最大限生かしたこのボールは、明らかに2ヶ月よりも速くなっているように感じた。

 

 

 

 

コースは、前よりも甘い。

寧ろ外角を上手く流す技術を持つ秋葉からすれば、打ち頃のボール。

 

しかし球の力も相まって、全く手が出なかった。

 

 

 

(次はどうくる。)

 

 

おそらく真っ直ぐだろう。

このバッテリーは、初回は球数少なく、なおかつストレートでガンガン攻めてくる。

 

 

そう思い身構えた秋葉に投じられた2球目は、緩く変化するカーブであった。

 

落差と球速差ともにあるこの変化球に、空振り。

 

 

これで完全に崩された秋葉。

最後はインコースの真っ直ぐで空振り三振に喫した。

 

 

 

 

「なんでえ秋葉。おめえらしくねえな。150キロくらいだったか?」

 

 

ベンチにふんぞりかえる。

本当にその言葉が似合う姿勢で深く座り込んでいる雷蔵は、冗談まじりにそう吐いた。

 

この夏休み、さらにバットコントロールを磨いて三振数の減った秋葉が、こうも簡単に三振するとは。

 

 

「本当にそれぐらいに見えますよ。コントロールはビタビタって訳じゃないですけど、球威は前回より上がってます。」

 

 

気がつけば、2番の増田すらもアウトを献上していた。

低めのストライクゾーンからボールゾーンに逃げていくスライダーを引っ掛けてのセカンドゴロ。

 

安定感抜群の小湊が上手く捌き、2アウトである。

 

 

続いて、3番の三島。

轟同様、一発のある危険なバッターである。

 

しかしながら、バッテリーはと言うと。

 

 

 

(ここは?)

 

(当てさせなけりゃ、だろ?ガンガン攻めていくぞ。)

 

 

サイン交換。

後に頷き、投手はグローブに白球を収めた。

 

 

要求されたコースは、外角低め。

しかし大野が投げ込んだのは、それとは相反して真ん中付近のボールであった。

 

 

三島からしたら、絶好球。

初球だが、三島は思い切ってフルスイングしにいった。

 

 

(もらっ…)

 

 

バットは、空を切った。

 

 

理由は単純明快。

三島の振ったバットは、投げられた白球の遥か上を通過していたのだから。

 

 

 

ツーシームファストボール。

大野夏輝のウイニングボールであり、彼の象徴である速球。

 

 

 

2球目、同じボールで空振りを奪う。

全く同じコース、同じ変化、同じ球種。

 

しかし三島は、全く反応出来なかった。

 

 

単体で見れば、大したことはない。

キレも球速も一級品だが、実際の球速で言えば130キロに満たないケースが多いのだから。

 

 

しかしどうしても、ストレートの残像が残ってしまう。

同じ球速で加速し伸びるフォーシームか、伸びずに沈むツーシーム。

 

相反するこの二つの球種に、前回も手玉に取られたことを、覚えている。

 

 

 

(もう一球見られれば。)

 

 

そう思った三島に投げ込まれたボール。

それもまた、ふわりと一度軌道を描く、カーブであった。

 

 

完全に崩された三島はこれまたセカンドゴロ。

再び小湊が危なげなく処理して、テンポ良く3つのアウトを奪っていった。

 

 

 

 

肩を一回転、ゆっくりとベンチに引き上げていく大野に、御幸は駆け寄った。

 

 

「ナイスピッチ。今日はカーブがキレてるな。」

 

「コントロールが少しずれてんな。やっぱりバランスが少し悪くなってる自覚もある。」

 

「言うほど悪くねーよ。」

 

 

そう言って、ミットで軽く頭を叩く。

どちらかというと、ツッコミのような。

 

 

 

確かに御幸の目から見ても、いつもよりコントロールが定まっていないように見えるのは事実。

 

しかしながら、別にそこまで深刻に見る必要はないように感じるほど球に力が篭っていた。

 

 

 

元々自己分析ができる、寧ろ少し自分の力を低く見積る傾向があるこの男に心配は要らない。

 

寧ろ彼には、少し楽観的なくらいの声掛けが丁度いい。

 

 

(実際、今の状態でも他の「制球自慢の投手」よりもコントロール良いしな。)

 

 

あながち、間違いではない。

 

それに、今の彼のボールに力があるのも確か。

この状態で打たれることは、まあ中々ないだろう。

 

 

 

 

 

対する青道の攻撃。

先頭打者には、いつも通り倉持洋一。

 

 

(確かストレートとフォークがメインだよな。あとは、カーブくらい?とにかく、球を炙り出すのは後ろに任せる。)

 

 

見るのも大事なのだが、まずは出塁すること。

 

塁上に出てから輝く男なだけに、先頭打者の役割を全うすることが、今の彼には求められているのだ。

 

 

 

「下手に色々やろうとすると、あーなる。だからこそ、集中すれば出られるだろ。」

 

「打撃自体元からアレだしな。」

 

 

ベンチの外でバットを振りながら、同じくベンチ近くで用意する御幸に大野はボヤいた。

 

 

あーなるというのは、ここまでの練習試合の打率のこと。

実に現在の打率は、.195と2割を切っている。

 

普通なら1番を剥奪されるところだが、それを余ってある足の能力。

倉持が出塁した際はほぼ二塁打確定の為、やはり得点に絡む確率がとにかく高い。

 

 

また、彼本来の打撃ではないということを、片岡自身も分かっていたのだろう。

 

 

丁度少し前の試合まで、粘ることと相手投手の球種を引き出すことをとにかく重点的に行っていた。

 

その為か普段から後手に回ってしまい、追い込まれてから難しいボールに手を出さざるを得ないという悪い流れがあったのだ。

 

 

しかしここ数試合では、完全に出塁することだけに集中している為か、固め打ちを始めている。

これも我慢して使い続けた片岡監督の賜物だろう。

 

 

「あ、出た。」

 

「ほらな。」

 

 

倉持は、ショートへの内野安打で出塁。

それを確認した大野は、バットを右肩に携えて打席へと向かった。

 

 

 

塁に出た倉持は、正に水を得た魚。

あれよあれよという間に塁を盗み、二塁へと到達。

 

大野はしっかりと繋ぐ打撃でヒット。

ランナーを進めると、ここからクリーンナップ。

 

 

0アウトランナー一、三塁で、ミート力のある小湊。

低めのフォークを上手く拾い、センター前に運ぶ。

 

この間に倉持は悠々ホームイン。

打った小湊とファーストランナーの大野は無理せず、それぞれ一二塁でストップした。

 

 

何故なら、次に繋がる男は。

チャンスに強い男、四番の御幸一也なのだから。

 

 

 

 

(ここで…正直怖いな。)

 

(チャンスの時のこの人は本当に計り知れねえからな。)

 

 

目線を合わせ、小学校からの幼なじみは目の前の打者に最大限の警戒を置いた。

 

 

夏の大会でもそうだったが、御幸の得点圏の打率は実に7割越え。

はっきり言って、まともに勝負する方がおかしい。

 

 

(厳しく行くぞ。まずはインコースのストレート。これは外せよ。)

 

秋葉のサインに頷き、クイックモーションでボールを投げ込む三島。

 

 

比較的コントロールはアバウトながら、力で押していくタイプのピッチャーである三島なのだが、この初球はナイスコースのボールであった。

 

インコース少しボール球。

低いとは言いきれないが、普通ならファールにしかならないボールである。

 

 

要求通りに来たボールに秋葉もホッとしつつ、左手に来るべき衝撃に備えた。

 

 

 

 

 

しかし。

鳴り響いたのは、乾いた音ではなく。

 

 

(性格上、そりゃインコースのストレートだよな。)

 

 

響き渡るのは、金属音。

肘を上手く畳んで、インコースのボール球を捉えた。

 

 

打球はライト線フェア。

フェンスダイレクトで届く長打で、あっという間にランナーを返して見せた。

 

 

 

 

これが、今年の四番。

チャンスで真価を発揮する、青道の四番。

 

上位打線の活躍で、初回からあっという間に3点を先制して見せた。

 

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