燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード65

 

 

 

 

 

 

初回から3得点を重ねた青道。

更にチャンスで回った白州にもタイムリーが生まれ、4-0といきなり得点差を作った。

 

しかしながら、2回以降三島も調子を取り戻し失点を許さない。

4回までランナーを出しながらも何とか無失点に抑え、堪えている。

 

 

 

対する青道の先発、エース大野。

いつもより制球は細かく決まっていないものの、球威がある為、中々打たれていない。

 

 

三振も多いし、四死球もない。

成績で言えばいつも通りなのだが、御幸は少しばかり不穏な空気を感じていた。

 

 

(今の状態だと、4分割か。)

 

回を追うごとに、少しずつ制球が乱れている感覚がある。

最初こそ本当に誤差の範囲内だったが、2回以降少しずつ「ズレ」が大きくなってきている。

 

しかし、それでもヒットを打たれない。

球威はむしろ上がっており、奪三振数に関しては4回終了時点で8個と圧倒的なものであった。

 

 

 

「どっか感覚悪いところあるか?痛むところとか。」

 

ベンチ内でコップに口をつけようとした時、御幸から声をかけられた大野。

コトンと横にそのコップを置き、首を若干傾げた。

 

「うーん、痛みはないんだがな。何となく、ズレてる感じはする。」

 

 

投手というのは、繊細なのだ。

少し指に違和感があったり、怪我があったりすると本来の力を発揮できなくなる。

 

特にコントロールのいい投手は、身体のバランスをとても大事にする。

 

その為下半身と上半身、ましてや身体の末端までの感覚が上手く連動することを大事にしている。

 

 

「悪くは無いんだけどな、感覚としては。」

 

そう言って、改めてドリンクの入ったコップに口をつける。

少し甘酸っぱい、塩味のあるドリンクを舌の上で転がして、飲み込んだ。

 

夏だから、汗がよく出る。

だからこそ、この手の水分補給はこまめにやらなければいけない。

 

 

「疲労はどうだ。」

 

「相手が相手だし、ある程度ギアを上げている。」

 

だから程々に疲労は溜まってきている。

そこまで言わなかったが、御幸も何となく察した。

 

 

練習試合とはいえ、相手は強打の薬師高校。

暫定とは言えエースである以上、失点する訳にはいかない。

 

 

 

球が来ているのは、それだけ力を入れているからか。

それにしても、今日の大野のボールは速い。

 

 

(でも、感覚がいいのは確かだな。)

 

ストレートの指のかかり、ツーシームの捻り。

どちらを見てみても、今日の大野は絶好調であった。

 

 

 

 

 

5回の表。

青道の攻撃に対して、薬師ベンチが動く。

 

「言っちゃあれだが、悪ぃ流れだな。」

 

「今年も怖い打線ですね、ホントに。」

 

 

ベンチ奥で悪態をつくようにして、雷蔵が溜息を吐く。

 

真田も態度で大体察したのだろう。

その姿を見て、彼も肩を回して準備を始めた。

 

 

「悪ぃ流れ断ち切ってくれんだろ、真田?」

 

「そんな大層なもんじゃないっすよ。」

 

笑って、真田はベンチから出ていった。

 

 

先程まで使っていたグローブとは別のものを嵌める。

受けるためのグローブから、投げるためのグローブへ。

 

 

薬師もエースがマウンドへ。

テンポの良い打たせてとる投球はリズムを生み出し、チームの攻撃へと弾みをつける。

 

 

「っらぁ!」

 

この回もカットボールやシュートを巧みに扱い、三者凡退に押さえ込んで見せる。

 

球が強く、お世辞にも制球力があるとは言えない。

 

 

荒々しく、豪快。

薬師高校のエースとしてこれほど適任な男は、いない。

 

 

 

 

「ほんと、いい投手だよな。」

 

ベンチ前でキャッチボールをしながら、投手と捕手は呟いた。

 

「心が強いよな。お前とは違う意味で、攻めてる。」

 

 

方や、制球力に絶対的な自信を持っているからこそ。

コントロールを間違えない実力があるから、リスクのあるコースを攻めることができる。

 

方や、球の力と絶対に間違えない心の強さがあるからこそ。

制球力には難があっても、力強いボールと強い心で続けて厳しいコースを攻めることが出来る。

 

 

 

どちらもエースであり、チームを象徴する選手。

形は違えど、その背中は同じ。

 

 

「負けられねえよ、本当。」

 

そう言って大野が息を吐く。

俯き気味で肩を1回、2回と回し、顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

「っし。行くぞ、一也。」

 

帽子の鍔に手をかけ、笑った。

 

 

御幸もその瞳を見て、確信する。

今日はもう、打たれない。

 

 

紺碧に輝く水晶のような虹彩は次第に深みを増していき、彼の投球への没頭を表すように煌めいた。

 

 

 

 

 

マウンドで再び深呼吸をする大野。

それを見て、雷蔵は薄らと嫌な予感を感じ取っていた。

 

(クソッタレ、なんで練習試合であんな目になんだよ。)

 

あれは、極度の集中状態に陥っている表情。

もしかしたら、彼の奥にある”それ”を引き出してしまったかもしれない。

 

 

真田という好投手に呼応したのか。

 

 

 

遠目からではあったものの、見た。

稲実との決勝で、あの強力打線を完膚無きまで押さえ込んでいた、あの時の表情。

 

自分たちが抑えられた試合よりもギアを上げていた、圧倒的な投手。

その姿と重なっているように見えたのだ。

 

 

 

 

 

 

「疑念」が「確信」に変わったのは、四番の轟に対する初球。

大野の投げ込んだボールを見た轟は、全く手を出さなかった。

 

 

 

内角高め。

驚異的なスイングスピードと反射神経を持つ轟にとっては最も打球を飛ばすことができるコース。

 

初球からガンガン振っていく轟が、得意なコースを見逃したのだ。

 

 

 

 

「おぉ、すげえ。」

 

思わず、轟もそう漏らしてしまう。

それも、前の試合の時よりも速い。

 

 

一度バットを振り、再度打席へ。

次に放られた高めのストレートに、轟はバットを当てた。

 

 

 

鈍く当たった白球は前に飛ばず、バックネットへ。

その打球を見て、御幸は大野へと視線を送った。

 

 

(アジャストしてきたか。)

 

(危険なコースに2球続けたからな。今の状態じゃなきゃ、投げさせねーコースだよ。)

 

 

投げ返された新しいボールをグローブに収め、白球を右手の上で捏ねるように転がす。

 

何となく手とボールを馴染ませて、御幸のサインを前屈みに覗き込んだ。

 

 

(一球外すぞ。3球勝負で抑えられるほど、楽な打者じゃない。)

 

(分かった。)

 

 

構えられたコースは、内角。

必ずボール球であくまで見せ球という条件。

 

ストレートが少し大袈裟に外れ、一応要求通りのカウントとなった。

 

 

 

カウント1ボール2ストライク。

 

(決めるぞ。)

 

御幸が両足の間で、指を2本立てる。

大野の決め球である、ツーシームのサインである。

 

その後、彼は轟よりも少し遠い位置に構えた。

 

 

三振が取れるのが理想だが、高速変化に滅法強い轟。

サードゴロかショートゴロがいい所か。

 

御幸がそのコースに構えると、大野も頷いてモーションに入った。

 

 

 

 

コースは、低め。

外角甘めから外一杯かギリギリ外れるコースに構えられたミットに向けて進んでいく白球。

 

 

(少し甘いか。)

 

 

要求したコースよりも、少し内寄り。

そんな予感がして、ミットを動かそうとした時。

 

 

 

普段よりも大きく動いたツーシームは、御幸が構えたミットに吸い込まれるように変化して、収まった。

 

 

「ストライク、バッターアウト!」

 

 

ポトリと落ちる、青い帽子。

勢い余って蹴り出すように、右足を振り上げた。

 

 

空振り三振。

いつもより大きく変化したツーシームで、今世代生粋のスラッガーからまたも三振を奪った大野は小さくガッツポーズを浮かべた。

 

 

 

続く真田もカーブで空振り三振。

平畠に対してもツーシームで空振り三振を奪ってみせる。

 

 

真田の登板と同時に調子を上げた大野。

その姿に、投手コーチの落合は鋭い視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

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