燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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今回ガチでガバです。
特にガバです。








エピソード66

 

 

 

 

 

(しー。)

 

ヘルメットを外し、御幸は軽く頭を振って髪崩す。

夏は過ぎたが、キャッチャーはユニフォームに加えて分厚い防具を付けているため、この時期でもかなり暑い。

 

 

暑さで蒸れた防具を外し、一息つく。

今日は相棒であるエースの調子が、とにかく良い。

 

その為か、御幸自身も気持ちよく配球できる。

 

 

やはり好投手を自分のリードで生かすことは、本当にやり甲斐もあって楽しい。

そんなことを思いながら、大野に目を向けた。

 

 

 

 

しかし、そんな状態でも心配がない訳ではない。

寧ろ、なんとなく嫌な予感すらしている自分に少し驚いた。

 

 

稲実との決勝戦。

彼は投げ続けた末に、最後は力尽きて倒れた。

 

あの時は、自分の気遣いが足りなかった。

しかし、それを抜いたとしても。

 

 

あの時と姿が重なると言うこともあり、何か代償があるのではないか。

 

 

そんな不安を胸の片隅に置き、御幸はベンチに身体を預けた。

 

 

 

「良い調子だな、大野。」

 

ふと後ろから声をかけられ、振り向く。

そこには、投手コーチである落合が座っていた。

 

「ええ。寧ろ良すぎるくらいです。」

 

 

御幸がそう呟くと、落合は少し顔を歪ませた。

 

 

「お前もそう思うか。」

 

「少し。オーバーペースなのも気になります。」

 

すると落合は、顎に蓄えられた髭に軽く触れながら、右目を瞑った。

 

 

「この回、あいつのボールを受けてて何か違和感を感じたか?」

 

そう問われると、御幸は轟に対しての最後のボールを思い出した。

 

 

いつもよりも変化の始まりが遅く、変化が大きい。

所謂、キレが良いという。

 

普通ならばいい傾向なのだが。

 

 

「制球が乱れているのも、何か関係があるかもしれないですね。」

 

「そうだな。少し様子を見た方がいいな。」

 

 

 

もしかしたら、何かの前兆かもしれない。

 

今年の夏も、去年の夏も。

自分が大野の異変に気がつくことができれば、もしかしたら負けていなかったかもしれない。

 

 

何も無ければ、一番。

何かあってからでは、遅いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く6回の表。

薬師高校エースの真田は、青道の7番の金丸から始まる下位打線を完璧に抑え込む。

 

先頭の金丸は、インコースのシュートでサードゴロ。

続く降谷はストレートに詰まってセカンドフライ。

9番の麻生もカットボールを上手く打ったものの、レフトフライに落ち込んだ。

 

 

 

 

味方の反撃に勢いをつける、エースの投球。

その強気なピッチングは、強打で攻撃的な薬師高校を、正に象徴する選手。

 

その姿をベンチ前で見ながら、大野は手元に置かれていたグローブに手をかけた。

 

 

(フォームかっこいいなぁ。)

 

 

例の如く、全く緊張感のない男は、マウンド近くに置かれたロージンバックに手を触れた。

 

 

白粉が宙を巻い、消える。

指先に付いた余分な粉を吹きかけて飛ばすと、白球を握り締めた。

 

 

 

(正にエースって感じだよな。)

 

強いボールに、気迫。

強気なインコース攻めに、雄叫び。

 

これが、薬師のエースだ。

 

 

だからこそ、負けられない。

同じ、チームを象徴するエースとして。

 

 

息を吐いて、大野は力のある球を投げ込んで行った。

 

先頭の阿部を、内角高めのストレートで空振り三振。

続く米原は、外角の低めに落ちるツーシームで空振り三振。

最後の森山も、インコースのカットボールでライトフライ。

 

 

 

この回投げた球数は、たったの10球。

 

テンポよく、尚且つ三振を2つ奪うナイスピッチングで薬師高校に反撃の糸口を掴ませない。

 

 

 

紛うことなき完璧な投球。

傍から見ればこれといって問題は無い、寧ろいい作用なのだが…。

 

 

いつもと違うことが、違和感に繋がる。

御幸と落合、そして内容を聞いた片岡もまた注意を強めた。

 

 

「どうだ夏輝。」

 

「どうだと言われてもな。」

 

問うにしては、情報が少なすぎるだろう。

 

いつもならそうやって突っ込みを入れるが、監督である片岡やコーチである落合の耳にも入る距離感では流石に口を慎んだ。

 

 

「特に問題はないが。何かあるのか?球が走ってないとか。」

 

「いや、寧ろ球は良いぜ。夏も佳境だし、確認しただけだよ。」

 

 

 

まだ何かあったと決まった訳では無い。

だからこそ、今注意を向けていることを悟られては、きっとこちらに気を使うだろう。

 

大野は恐らく、怪我を隠す。

 

 

一時的にそれはチームの戦力を削らない為プラスに作用する事もあるだろう。

しかしそれは、大野の選手生命を短くすることに直結するだけでなく、今後の投手の成長にも影響が出てくるだろう。

 

 

 

変化量が大きくキレも増している。

しかしそれは、普段の大野よりもどこかで別の捻りが加わっている可能性を示唆している。

 

 

 

あくまで可能性の話だが。

しかし大野とて、関節等の可動域は広い。

 

 

特に肩甲骨の可動域で言えば、沢村を凌ぐ。

肘や肩を踏まえての総合では、沢村の方に軍配が上がるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その兆しが確信に変わったのは、すぐ次の回であった。

ここまで好投をしていた大野が、急に制球を乱し始めた。

 

それも、抜け球が非常に多いという。

 

 

ここまで多少のコントロールミスはあったものの、それでも並以上の制球と尋常ではないキレを誇っていた。

 

しかし急に、暴投のオンパレード。

更に首を傾げながら肘を曲げたり伸ばしたりする動きをする大野

 

極めつけに、掌に息を吹きかける大野を見て、御幸は確信を持った。

 

 

 

 

持ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

原因は、はっきり言って特定できない。

しかしこれは、とても何の気なしにする行動ではないから。

 

 

恐らく、肘に関する何らかの問題か。

そうなると、話はきっと稲実戦まで遡らなければならない。

 

 

 

 

稲実戦。

あの日も少し、肘の痛みを感じていた。

 

それはきっと、絶好調が故に可動域も少し上向きになっていたからか。

 

肩甲骨を支える広背筋は身体の中でも有数の大きな筋肉の為、負荷がかかってもそれほど影響は受けにくい。

 

 

しかし肘の場合は。

元々筋肉が付きにくい箇所であり、何より支えているのはゴムのような腱だけ。

 

絶好調時の大野の投球に、彼の肘は付いていけなかったのだ。

 

 

 

 

「夏輝。」

 

「すまん。少し力が入らない。」

 

大野が利き手である右手を開く。

そしてまた、閉じる。

 

そんな素振りを見せるエースに、御幸はその手首をガシッと掴んだ。

 

 

「それだけじゃないだろ。」

 

「なんだ、急に。そんなに痛かねーぞ。」

 

 

少し大袈裟に…否、急に手首を掴まれれば驚くのは当然か。

しかし今の御幸には、そんな配慮をしている余裕はなかったのだった。

 

 

「どこだ。」

 

「少し、肘が張っている。普段は大丈夫なんだが、試合終盤になると少し感じる。それにしても、今日はいつもより激しい。」

 

 

大野が少し溜息を着くと、御幸はゴクリと息を飲んで片岡に視線を向けた。

 

「どっちにしろ交代だな。今の状態でマウンドは任せられないし、残りは沢村と降谷にまかせておけ。」

 

 

真剣な眼差しで御幸がそう言うと、大野は少し固まる。

その後、彼もまたゆっくりと頷いてベンチへと、そして近くの病院に、向かっていった。

 

 

 

 

 

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