先に書いておきますが、クリス先輩と沢村のイベントは裏で早めに起こっています。
主人公の介入によって、クリス先輩の人格が原作ほど死んでいないというのと、沢村が説教を受けなかったのが、一応の要因になります。
無理やりです本当にry
「ストライーク、バッターアウト!ゲームセット!」
審判の大きなコールと共に、俺は大きな溜め息をついた。
なんともまあ、緊迫した試合であった。
青道 4 1 0 0 2 1 0 0 1 9
市大 0 0 0 0 1 0 3 4 0 8
このスコアを見ればわかるだろうが、今日は完投させてもらえなかった。
一応補足しておくと、俺は6回でマウンドを降りている。
打撃の調子が良かったからそのままレフトにいたけど。
んで、圧勝ムードの状態でマウンドに上がったのは川上。
監督は昨日の汚名を返上させる場面を作ろうとしたのだろうが、またも裏目に出てしまう。
気持ちを切り替えきれなかったためか、今日も3失点とそこそこの燃え上がり。
続く川島も、川上に続くように1イニング4失点である。
結局最終回も俺が投げて、なんとか無失点に抑えることができた。
(完投するより疲れた。)
主に、気疲れ的な方向で。
見ているだけの観客なんかは楽しいかもしれないが、やっている当人たちからしたら怖いことこの上ない。
だって、気づいたら逆転されてんだもん。
「とにかく、勝てて良かった。」
思わず、溜め息が出てしまう。
それを見た女房役は、同じく肩を撫で下ろして息を吐いた。
「ほんと。点差がついたらついたで油断ならねえよ。」
監督の意向としては、点差のあるうちに投手に経験を積ませてみようと言う魂胆だった。
まあ、大失敗に終わったわけだけど。
ノリは、慎重になりすぎてストライクが入らない。
川島は、ノーコンだからストライクが入らない。
とてもじゃないが、四球コンボではどうにも出来ない。
それこそ、リードしている捕手ですらも。
「コントロールつくやつ1人いて、よかったぁ…」
「どっかの誰かに煩く言われたからな。」
中学生時にくそほど投げ込みを行わせてくそほど文句言われた身としては、複雑な気分になる。
でも、感謝はしてる。
少なくとも、自分が思ったところに投げられるというのは、気持ちが良いから。
なにはともあれ、関東大会への出場権を得た俺たち。
と言っても、上位2校の参加だから出ること自体は決まってたけど。
まあ、勝つことに意味がある。
とにかく、勝てて良かったというものだ。
明日はオフだし、今日も投げたからゆっくりしよう。
そう思いながら(というか言われた)、俺は部屋へと戻った。
シャワーや夕食、ミーティングも終えてもう完全オフの状態である。
「お疲れ様です、夏輝さん!」
「おう、お前もな。」
部屋でグローブの手入れをしていた金丸が、出迎えてくれる。
彼も入室してから日が経ち、俺たちにもだいぶ慣れたようだ。
クリス先輩も俺が間を取り持ったから結構話すようになったしね。
そんなことはさておき。
明日の予定なのだが、レギュラー陣はオフである。
今日まで大会だったし、特に俺とか丹波さんみたいにイニングを投げた人は勿論だけど、野手陣も相当疲れが溜まっているだろうしね。
そして、主力のオフの裏で、一年生と2軍の壮行試合が行われる。
まあ、そんな生易しいものではないのだが。
一軍を外されて燻っている選手たちが、まだ高校生になって間もない一年生に襲い掛かるのだ。
それはもう、毎年大量得点&大量失点が見られる。
どっちがどっちかは、言うまでもない。
まあ、例外もあるけど。
「どうだ、明日の勝算は。」
「絶対勝ちます…と言いたいとこですがね。正直、厳しいでしょうね。」
「ほう。」
決して、間違いではない。
寧ろ、良く分析できているといえる。
一年、或いは二年と表現すれば短く感じるだろう。
しかし、高校生の数年といえば話は別だ。
身体がまだ成熟していない、所謂成長期というもの。
人にとって、特に男性にとって一番成長の爆発力を抱える時期と言っても過言ではない。
ましてや、強豪校でトレーニングを重ねてきたといえば尚更だ。
「正直勝たせる気なんてないんでしょうね。なんて、少し弱気ですよね。」
「弱気じゃない、お前は自分達の力量をしっかり把握しているだけだ。それに実際、金丸の言う通りだしな。」
監督としても、勝たせるつもりはないのだろう。
寧ろ目的は、2軍の選手で戦力になる選手探すのが、主な目的だろう。
後は、一年生の中に掘り出し物がいるかどうか。
2軍に通用して、手札として数えることのできる選手が。
つまりは、去年の俺パターンである。
元々一也のついでにスカウトされたのだけど、この壮行試合で当時の2軍を圧倒して一軍入りを決めた。
「でも俺、やっぱり勝ちたいです。」
「その意気だ。勝てる可能性はほとんどなかったとしても、勝ちたいと思えるやつこそがチームには必要なんだ。」
笑顔でそういうと、金丸も笑う。
キリもいいし、明日に備えて寝ようかなんて話していると、何やら不穏な足音。
この人のことなんてなーんも考えていないようなアホな足音は…まさか。
俺は慌てて布団に潜り込む。
が、どうやら間に合わなかったみたいだ。
「なっさん、キャッチボールしましょうよ!」
沢村少年である。
まるで放課後の小学生のようなノリで現れた高校生、ちなみに時計は既に22:00を回っている。
そして言うまでもないだろうが、なっさんというのはもちろん俺のことである。
これまた言うまでもないが、この呼び方を許可したこともない。
別に、咎めるつもりもないけど。
「…ちょうどいい、金丸も行こうか。」
「え、ええ。俺もバット振ろうと思ってましたし。」
「なら、俺も行こう。散々金丸に打撃を見てくれと頼まれているからな。」
思わぬクリス先輩の参戦により、4人で室内練習場へ。
珍しく、今日は人がいなかった。
「さて、キャッチボールだよな。」
沢村少年と軽くキャッチボールをしながら、横目で金丸の方を見る。
うん、ちゃんとクリス先輩ともコミュニケーションとっているな。
それを確認して、俺は視線を戻す。
相変わらず腕がぐにゃぐにゃ曲がって気持ち悪い。
けど、少し前よりもリリースが安定している気がする。
それに、フォームも少し変わっているか。
「ああ、この間少しな。」
「どうですかなっさん!師匠直伝のこのフォームは!」
どうですかと言われても。
というか、いつから師匠になったんだよ。
溜め息をついて沢村にボールを投げ返すしながら、俺は視界の延長線上に少年の姿を見た。
見たことはないが、見覚えのある。
そんな彼に話しかける前に、その少年は声を上げた。
「あの、僕らも混ぜてもらってもいいですか!」
桃色の髪の毛を靡かせた少年は、これまた小学生のように健気にこちらに聞いてきた。
なんだよ、ここには小学生しかいねえのか。
そして、その後ろからは一年生の東条(金丸から聞いた)も一緒に現れた。
ったくよ。
まるで小学生みたいに健気じゃねえか。
しかし、こんだけやる気があるなら。
少しばかり、面白い方がいいよな。
「おし、わかった。切り札を呼んでこよう。」
俺はそう言い残し、そそくさと室内練習場をあとに。
そして程なくして、戻ってきた。
頼りになる女房役と、もう1人の背の高い一年生を連れて。
「んじゃ、クリス先輩、一也。打倒二軍団の作戦会議と行きましょうか。」
俺がそう言うと、2人も笑って答えた。
「御幸、少しばかり苦労しそうだぞ。」
「そっちの方が、面白いでしょ?クリス先輩。」
頼りになる2人を据えて、俺は金丸の方を再び向いた。
「ちょっとは、勝てる兆し見えたかな?」
「…絶対に、勝ちます!」
それは、さっき部屋で話したものを裏返すような宣言。
しかしそれでも、金丸は満面の笑みでそう言った。
さて、明日はどうなるかな…。