まだ残暑こそ残っているものの、少しずつ秋模様が顔を出し始めてきた9月半ば。
遂に、秋大の一次予選。
所謂、ブロック予選が開幕した。
秋季東京都高等学校野球選手権大会。
東西東京がブロック予選を経て、トーナメント形式でぶつかる大型の大会である。
新チーム発足後の最初の大会であり、他の競技で新人戦と呼ばれるものに位置するこの大会は、11月より行われる明治神宮大会の実質的な予選となっている。
そして何より、選抜高等学校野球大会。
俗に言う、春の甲子園への優先的な出場権を与えられる大会でもある。
その為、各チームの意気込みはかなり高い。
俺たち青道高校も、今日がその初戦。
対戦相手は、豊崎学園である。
言い方は悪いが、万年1回戦敗退のチーム。
普通に戦えばまず、負けることはないだろう。
今日の先発は降谷。
現段階でエース格のこの1年生投手に、マウンドを任せる。
ちなみに私大野夏輝は、右肘の怪我でお休み。
バッティング自体は問題ないが、少しでも回復を早める為にブロック予選は休む予定だ。
一応ベンチには入っている。
まあ、万が一の代打としてだけどな。
先攻めは対戦相手の豊崎学園。
ということで、マウンドには先発投手の降谷が上がる。
気になる初回の立ち上がり。
普段からスロースターターと言われ、中々四死球無しで三者凡退と行けない降谷なのだが。
まずは先頭に対して、高めのストレートで空振り三振。
続く2番に対しても5球目のストレートを振らせて三振。
最後の3番も高めのストレートで空振り三振。
全く同じ光景だが、これが三者連続続く。
つまり、ストレートによる三者連続三振である。
正に完璧な立ち上がりで、尚且つド派手なスタート。
その為、会場に集まっていた野球ファンは大いに盛り上がった。
しかしまあ、それは観客目線の話。
ベンチに戻ってきた降谷を待ち構えているは、俺と落合コーチ。
そして、降谷と共にやって来た御幸一也である。
「四死球ないのは○だな。」
「球が高い。」
「球数を使いすぎだ。」
ちなみに上から、落合コーチ、一也、俺である。
辛口で有名な落合さんがフォローに回るという、異例な光景である。
野手陣ないし、他の人が見たら圧をかけすぎてるように見えるだろう。
しかし、これも彼が望んだことだ。
「今の相手ならその高さで空振りが奪える。だが、これが稲実や薬師だったら抑えられるか?」
俺がそう聞くと、降谷は首を横に振る。
わかってるならよし。
はっきり言って、地区レベルならまず降谷のストレートは打てない。
それこそ、ど真ん中に集めてフォークを絡めてるだけで抑えられるくらいには。
しかし、目指すところは「そこ」じゃないだろう。
「エースになるんだろ。なら、相手に合わせてる暇ねーぞ。」
夏で悔しい思いをしたんだ。
少し厳しくした方が、こいつの為になる。
ポテンシャルは異常なほど高いんだ。
きっと、こいつは…
「御幸、2回以降はカーブも混ぜてやれ。実際に公式戦でやってみれば、より馴染むだろう。」
「わかりました。」
そう、降谷だがこの夏休みの間にカーブを練習していた。
降谷の持ち味と言えば、やはりその豪速球。
高めならば吹き上がるようにして加速し、低めでも落ちずに伸びる最速153km/hのストレート。
そしてその対を為す、フォークボール。
ストレートと殆ど同じ軌道で、伸びずにストンと落ちる変化球。
この2つの組み合わせで、ストレートを軸にしながら追い込んでからフォークを使って三振を奪ってきた。
しかし、2巡目や3巡目以降。
強豪校であれば、降谷の速球にも対応してくる。
そうなると、必要になって来るのは緩急。
緩い変化球を混ぜることで、彼の最大の武器である速球をより速くみせる。
更に投球に幅を持たせるために、今カーブを練習しているのだ。
軌道としては、俺の縦カーブに近い変化なのだが、まだ感覚を上手く掴めていない為中々変化が小さい。
まあ実際練習試合では何度か投げている。
が、やはり中々感覚が安定しないらしい。
こればかりは、人によって指先の感覚から体躯から差ができるから、俺が口頭で説明するのも難しい。
何より、とにかく体格が違うからな。
実際投げて、掴んでいくしかないのだろう。
さて、対する青道高校の攻撃は、倉持がサードゴロで倒れて1アウト。
しかし、今日2番で起用されている白州がライトオーバーのツーベース、さらに3番の小湊がレフト前に運び、チャンスを広げる。
1アウト、ランナー一三塁。
この大チャンスで打席に回るのは、4番の御幸。
超チャンス男、得点圏打率7割近くのこの男。
流石にバッテリーもこの男との勝負は出来ないと思ったのか、四球。
1アウト満塁と変わり、打席には5番の前園。
典型的なプルヒッターであり、努力の鬼。
現在はチームバッティングを意識しすぎる故に、不振である。
元々引っ張るのが得意な前園である為、無理に右方向を意識するが故に、力ない打球になってしまう。
内野ゴロでも、外野フライでも1点の場面。
最悪なのは、内野手の正面に転がってのダブルプレー。
ゲッツーだけは打つなよ。
そう思ったせいか…
「あっ。」
中途半端に当てた打球はセカンド正面。
一塁ランナーの御幸を余裕を持ってアウトにすると、そのまま一塁に転送。
4-6-3のダブルプレーで、初回の攻撃を無得点で終えてしまう。
大丈夫か、青道打線…。