「アウト!ゲームセット!」
ふぅ…終わった…。
ベンチ内の選手もグラウンドに集まるように促され、俺はホームベース近くへ向かう。
そして、グラウンド後方の得点板に目を向けた。
豊崎 0 0 0 1 0 1 0
青道 0 0 0 4 2 4 ✕
試合は、10-2の7回コールドで勝利した。
結果だけ見れば圧勝なのだが、内容自体はいいものではなかった。
序盤は中々点が取れず、チャンスを作ってもランナーが残塁してしまうという悪い流れが漂う。
そして4回、フォアボールからランナー三塁に置かれた場面。
ここで甘く入ったストレートを4番の香月が弾き返し、一二塁間を抜けるヒットとなる。
しかし、先制された直後。
6番の降谷が自援護のホームランを放ってすぐさま追いつくと、7番の東条と8番の金丸で連打。
その後麻生のタイムリーヒットで逆転すると、倉持、小湊にもタイムリーが生まれてこの回一挙4点を入れる。
残りの回はこちらも勢いに乗り、コールドまでこぎつけた。
ちなみに俺の出番はなかった。
まあ、そこまでやばい展開じゃ無かったわけだし、そもそも俺が出たところでと言うところはある。
降谷は先発として6回を投げきり2失点。
初回から飛ばしていたというのもあり、7回までは投げきれなかったが、試合を作った点で言えばかなりの成長だろう。
最後はノリが三者凡退に抑え込み、試合を終えた。
降谷は、いい出来だったと思う。
特に初回からフォアボールがなく、失点してからの大崩れしなかった。
初回はボールが浮いていたが、回を追うごとに低めに集めることも出来ていた為、今日の降谷は上出来だったというのが、俺と落合コーチからの評価である。
1週間後。
青道、ブロック予選2回戦目を迎える。
相手は都立三野高校。
1回戦目の相手同様、苦戦するような相手ではない。
今日の先発は、練習試合でも安定した投球をみせている沢村。
主にリリーフが多かったものの、先発でも結果を残していた為、監督も思い切って先発に指名した。
まあ、そうだな。
あとは俺が抜けた分を補う為っていうのもあるんだろう。
元々俺と降谷が先発、ノリと沢村がリリーフも兼任という形でやっていた。
その為もう1枚の先発として、沢村。
沢村が抜けた分に、東条が入ってリリーフも2枚になった。
夏の大会ではその安定感を評価されて、抑え。
しかし、俺と一緒に毎朝走っていると言うのもあり、スタミナもかなり上がっている。
また、投球幅も落合コーチからのコーチングによって広がった。
具体的に言うと、不規則に変化する高速チェンジアップに、ある程度コースを決めることができるカットボール。
また、得意のインコース攻めと夏の大会で得た外角低めの投球。
ある程度制球も安定しており、投球テンポもいいため、野手も勢いに乗って攻撃に移りやすい。
そんなこともあり、実は夏大会後から沢村の先発自体は計画されていたのだ。
さて、気になる沢村の立ち上がり。
先頭打者にこそ四球で歩かせてしまったものの、失点を許さずに投げ込んでいく。
打線も初回からチャンスを作る。
相手投手が乱調というのもあり、倉持、この日2番に入った東条が連続ヒットで出塁。
また、3番の白州が四球で出塁し、いきなり0アウト満塁のチャンスを作る。
ここで回りますは、4番の御幸。
チャンスヒッター、生粋のクラッチヒッターであり、今年の青道の4番である。
(俺なら勝負だが。)
無理に勝負して撃たれるくらいなら、歩かせた方がいい。
失点する勇気か、抑え込みにいくか。
勝負だけが、全てじゃない。
寧ろ投手に求められるのは、勝つことだから。
さあ、どうする。
キャッチャーは、座った。
「ほう、勝負するか。」
落合コーチがそう零す。
初回から逃げてては、勝ち目がないと感じたか。
「勝負するなら、腹括っていくしかないですね。」
抑えにいくなら、それだけの力が必要。
でなければ、火傷する。
逃げ腰なら、やられる。
なんて言ったって、満塁の一也は悪球だろうが平気で外野まで飛ばす。
構えられたコースは、外角の低め。
少し、ボール気味か。
案の定、外れてボール。
続けて投げられたコースは、さらに外に外れてボール。
逃げ腰だな。
投手ではなく、リードしている捕手が逃げ腰になっている。
魂胆としては、厳しく攻めてカウントが悪くなったら歩かせる、かな。
だとしたら、悪手だな。
その逃げ腰は、投手にも伝染する。
案の定、少し入れた外角のボール。
しかし、力はない。
もちろん一也は、これを狙っていた。
快音。
逆方向に飛んだ打球はレフト方向。
外野手も全く追いかけることもなく、そのまま場外へと消えていった。
初回、一気に4得点を入れた青道高校。
この熱い援護に応えて、沢村もテンポ良く投げ込んでいく。
打線もコンスタントに点をとっていき、4回終了までで11得点と大爆発していた。
ラスト一回。
スタミナに余裕がある沢村がベンチに下がり、マウンドにはこの男が上がる。
「東条ー!お前ならできるぞー!」
「余計なお世話だっつーの。」
ベンチでアイシングをしながら声をかける沢村。
すかさず、チョップをかましてツッコミを入れる。
高校野球の公式戦では初登板。
かなりの点差もあり、気持ち的にも余裕があるはず。
そもそも、中学時代は投手だったのだ。
きっと、大丈夫。
「東条ー!頑張れよー!」
「なっさんも言ってるじゃないですか!」
熱いピッチャー返し…基ツッコミを受ける。
こいつ、やるな。
そんなことをやっているのとは関係なく、東条がマウンドへ。
まずは、先頭の8番に対しての投球。
初球、外角のストレート。
これが低めに決まり、1ストライク。
続く2球目。
先ほどより甘いコースのストレート。
これに打者は手を出す。
球速としては120キロ台。
しかし打者は、打ち損じた。
球の正体は、ムービングボール。
打者の手元で高速で小さく変化する、ツーシームファストでセカンドゴロに抑えた。
続く打者に対しては一転。
緩い変化球カーブを2球続け、これを引っ掛けさせる。
力なく弾き返された打球はピッチャー正面。
これを東条が丁寧に捌いて2つ目のアウトを奪う。
落ち着いてるな。
流石に強豪シニアで投げてきただけあって、マウンド捌きもいい。
これは思っていたより期待できるんじゃないか。
最後の打者は、1番。
この打者に対して、初球はスライダー。
外角に逃げていくこのボールに、空振り。
2球目、同じようなボールを投げるも、これは見逃されカウント1−1。
3球目、今度はインコースのツーシーム。
これがバットに当たるが前にとばず、ファール。
追い込んだ。
カウントは以前、バッテリー有利のカウント。
1−2から放った4球目。
最後は低めのボールゾーンに落ちるカーブを拾われるも、強いあたりをサードの金丸がガッチリキャッチ。
金丸のファインプレーで、沢村の先発挑戦と東条のデビュー戦は無失点で飾ることができた。