9月20日。
前日のブロック予選に引き続き、今日はその決勝。
この試合で勝つことが出来て初めて、秋大の本戦…トーナメントに進むことが出来る。
対戦相手は、成翔学園。
都立高ながらブロック予選を勢いを持って勝ち上がってきている。
この大事な試合でマウンドを任されたのは、降谷。
沢村は昨日投げているため休みの予定だが、例の如くブルペンに入っている。
ちなみに先発オーダーは、以下の通りだ。
1番 遊撃手 倉持洋一
2番 右翼手 白州健二郎
3番 二塁手 小湊春市
4番 捕手 御幸一也
5番 一塁手 前園健太
6番 投手 降谷暁
7番 三塁手 金丸信二
8番 中堅手 東条秀明
9番 左翼手 麻生尊
今現状、降谷が先発した際のベストオーダーになる。
今回はより攻撃的な打順ということで、前回3番に入っていた白州を2番に。
そして前園が5番にはいっている。
対する相手先発は、最速135km/hの右腕。
決め球としてスライダーとチェンジアップを使い、三振を奪いに来る投手だ。
ちなみに、試合を見た感じではあまりコントロールはよくない。
昨日からの連投ということもあり、ある程度点はとれるであろう。
試合準備をするチームメイトを見ながら、俺はバットを振るう。
そう、バットを振っている。
少し早めだが、先生が思っていたよりも回復が早かった為、この試合からは野手として出場する許可は降りたのだ。
まあ監督が大事をとって先発は流石にないが。
「大野。」
ベンチから聞こえた低い声。
その片岡監督である。
「はい。」
「肘の状態はどうだ。」
一言、そう問われる。
俺も一言に行けますと答えたいところだが、まあ流石にね。
監督自身、クリス先輩の怪我もあって神経質になっているだろうし、ちゃんと御託は並べておく。
「問題ありません。実際、守備打撃に関しては問題なくこなせます。」
「そうか。今日の後半行くから準備しておけ。」
おっ、まじですか。
確かに練習自体は先週から再開してるし、打つ守るに関しては全然問題ない。
寧ろ先発させて貰ってもいいくらいですよ。
「わかりました。」
「試合展開によっては早まるかもしれんが、必ず起用する。」
きっと、本戦で使えるかどうかの試験も兼ねているであろう。
守備打撃ともに大丈夫か見て、戦力になるかを確認するための。
となれば、準備をせねば。
代打としてでなく、両方こなせるように。
まあ、実際準備はしてたしね。
いつでも、出る準備はできている。
さて、そんなこの試合の展開だが。
動き出したのは、初回の成翔高校の攻撃からであった。
先攻の俺たち青道が無得点に終わったその裏の攻撃。
先発のマウンドに上がった降谷は、まさに大乱調というにふさわしいスタートを切った。
「ボール、フォア!」
なんと、三者連続の四死球。
初回から0アウトで、ランナー満塁のピンチを作ってしまう。
前回登板では、初回の立ち上がりは完璧だった。
球数こそ多かったが、試合を通していい投球を見せていた分、この乱調は中々に厳しい部分がある。
これが降谷の読めないところ。
完璧な投球をする日もあれば、大乱調になることもある。
ブルペンに入っていた時は悪くないように見えたんだが。
まあ実際、あり得ないことはないからな。
実際マウンドに上がると、調子を崩すということは稀にある。
ブルペンでの投球と実際にマウンドに上がった時に起こりうるギャップのようなもの。
調子がいい投球練習時と今投げている現実の齟齬が時間ごとに大きくなり、それは悪循環してさらに乱れる。
これは環境もそうだし、緊張感のような精神的なものもあるだろう。
一概に原因は言い切れないがな。
この後降谷は甘く入った真っ直ぐを弾き返され、2点タイムリーとなる。
バックの助けもあって最小失点に抑えることはできたが、内野ゴロの間にも1点を追加されていきなり3失点。
やっぱり、読めない投手だな。
ベンチに戻る降谷。
その額には、大粒の汗が溜まっていた。
「大丈夫か、降谷。」
無言で頷く降谷。
まあ寧ろ、よく立て直したもんだ。
「ここからだぞ。」
「はい。」
調子がいい時は、それはもう誰も手が付けられない。
ストレートで空振りをドンドン奪え、ストレートに合ってくればフォークでまた空振りを奪う。
球に勢いがあるから高めに投げ込んでもバットに当たらないし、低めに決まれば上手く拾えない。
何より、同じ軌道から沈むフォーク。
これで的を散らすことが出来れば、降谷が打たれることはない。
しかし今日のようなとき。
コントロールも細かく決まらない、フォークが上手く抜けない。
こんな不調な日こそどうやって立ち回るか。
投球にマウンド捌き、態度。
ここが今の、降谷の課題。
続く2回。
5番の前園から始まる青道の攻撃は、相手先発の八木の好投もあり三者凡退。
こちらは寧ろ、降谷の逆。
普段よりも制球も効いており、球にキレがある。
対する降谷は2回、ヒットでランナーを許すものの無失点。
まずは失点をした次の回を抑えたところはOK。
切り替えが大事なイニングで、よく丁寧に抑えた。
2回以降、降谷も安定して両者無得点のまま試合は進んでいく。
逆に言うと、ランナーを出しながら、互いに決定打を打てないでいた。
試合が再び動き出したのは、6回の表。
初回以降、打ちあぐねていた成翔学園が再びチャンスを作る。
2アウトながら、ランナーは二三塁。
疲れが出てきた降谷に対して、バッターは4番。
ここまで3打数の無安打、2三振。
降谷が無意識にギアを入れているというのもあり、全く当たっていない。
それだけに、怖い。
こういう打者は、打てていない日ほど、何かを起こす。
(気をつけろよ、降谷。)
恐らく今日は、ここまで。
疲労もあるし、状態が悪い中よく投げているくらいだし。
だからこそ、ここでしっかり止める。
打たれて替わるのと、こちらのタイミングでスイッチをするのとでは、相手に与える印象もかなり変わる。
攻撃に弾みをつけるために、流れを変えるために。
そんな継投をする為にも、何とか抑えていきたい。
初球、低めのストレート。
球威こそ落ちてきているが、コースとしては完璧。
これにバットが空を切り、空振り。
2球目、同じようなコース。
先程より甘いコースにアジャストする打者だったが、これもバットは空を切る。
何故ならボールは、ストレート軌道よりも遥か下。
手元でストンと落ちるフォークでカウントを2ストライクと早くも追い込んだ。
ストライク先行でテンポよく。
ココ最近の降谷が、最も意識していること。
以前までは、ボール先行の中ストレートで強引に攻めていた。
しかしそれでは、適応されてきてから苦労してしまう。
目指すはエース。
チームの柱であり、勝負の責任を問われる投手。
その立場に置かれたいなら。
せめてこんなピンチ、完璧に押さえ込んで見せろ。
降谷がチラリと一瞬、こちらを見た。
3球目。
一也が構えたコースは、外角の高め。
思い切って空振りを狙いに行っての、強いストレート。
コントロールは気にせず、力一杯腕を振るう。
剛腕は、また唸りを上げた。
「ストライク!バッターアウト!」
最後は151km/hのストレート。
今日最速、力のある高めのストレートで空振りの三振に切ってとって見せた。
小さくガッツポーズを浮かべる降谷。
6回3失点、予選にしてはとても良い結果とは言えないが、それ以上に収穫のある登板だったはずだ。
さて、ここからはバッターの番。
降谷が作った流れをそのままに、逆転を狙う。
「大野。準備は出来ているな?」
「勿論。」
監督に呼ばれ、俺はベンチから立ち上がる。
「麻生のところで行くぞ。」
「わかりました。」
攻撃は、8番の東条から。
代打大野夏輝、デビューである。