試合当日。
今日の対戦相手は、成孔学園。
典型的なパワーヒッター揃いで、その力強いプレーで試合の流れを強引に持っていく攻撃的なチームだ。
「うお、近くで見るとでけーな。」
御幸がそう呟き、俺も同調の意を込めて頷く。
確かに、デカい。
上背もそこそこにあるのだが、何より身体の厚みが違う。
野球選手というよりは、本当にボディビルダーとかラガーマンのような筋肉の付き方だな。
余分な脂肪を落としてシャープな身体付きとは、真反対。
大きく、とにかく強い力を出せる身体。
きっと、相当ウエイトトレーニングをやり込んでいるだろう。
それに、食事面もきっとかなり管理されている。
筋肉を構成するのは、トレーニングと栄養、そして休養。
この3つが揃っていなければ、強い筋肉というのはできない。
トレーニングは多くの高校が取り入れている。
しかしそれでは、筋肉は上手くつかない。
栄養と休養がそれぞれ十分に取れる高校というのは、そもそも少ないからな。
俺たちみたいな全寮制で食事管理されていないと、難しい。
「スイングスピードも速いな。」
「特に4番の長田は要注意だな。真っ直ぐにとにかく強いのは分かるが、変化球に合わせる技術もある。」
昨年秋まではストレートブンブン丸の扇風機だったのが、今ではミート力もかなり上がっている。
捩じ伏せるなら、力勝負。
と言いたいところだが、それでも変化球は振ってくれる。
先攻めは、相手の成孔学園。
その為、こちらの先発投手である降谷がマウンドへと上がった。
1番打者の、枡が打席に入る。
この成孔学園という強打のチームでは珍しく、俊足好打の高アベレージのバッター。
また高打率ながら粘り強くカットも上手い為、先頭打者の中でもかなり嫌な部類に入る。
初球、外角の真っ直ぐ。
147km/hのストレートを見逃し、1ストライク。
2ストライク目も真ん中低めに決まるストレートを同じく見逃し、2ストライクと早くも追い込む。
やはり、2ストライクまでは見るよな。
ここからがしぶといだろうから、敢えて決めに行った方がいい。
やはり御幸も、高めに構えた。
(ここは思い切って、高めに来い。)
選んだボールは、威力のあるストレート。
外角高めの直球は枡のバットをすり抜け、御幸のミットを鳴らした。
最後は150km/hで空振り三振に切ってとってみせた。
「良い調子だな。」
「球も相当走ってるからな。今日の降谷は、多分打てない。」
コントロールもある程度低く行ってるし。
今日の降谷は、高めでガンガン空振りが取れるくらい調子がいい。
あとは、フォークだな。
これが上手く決まるようならそれこそ今日の降谷は打たれない。
2人目のバッターは、山下。
このバッターに対しては、低めのストレートを打たせてサードゴロ。
続く3番の西島をフォークで空振り三振に切ってとり、無失点に切り抜けた。
初回からエンジン全開。
成孔打線に全く付け入る隙を与えず、真っ向勝負で捻じ伏せた。
「ナイスピッチ。今日はマジで100点に近い。」
「高めのボールも狙って投げれば確実に空振りが取れるからな。」
「毎回これができれば良いんだがな。」
今日は、珍しく3人ともベタ褒め。
それくらい、今日の降谷は最高の出来であった。
後ろに頼れる投手がいるからこそ、か。
継投前提だからこそ、ここまで出力を出しているんだろうな。
ポワポワとしている降谷。
たまには、俺も褒める。
「んじゃ、降谷の力投に応えて撃ってくるか。」
「セーフティでもいいぞ。」
打席には、あまり頼りないバッター倉持。
新チーム結成後の彼の打率は、.221。
しかしそれでも1番で起用され続けられるところには理由がある。
「セーフティ!」
捕手の桝が声を上げる。
それに反応した三塁手の長田は急いで打球処理のために猛チャージ。
鈍足且つ、お世辞にも守備が上手いとは言えない長田。
この競争は、流石に倉持に軍配が上がった。
セーフティバントによる内野安打。
こうやって塁に出ると、とにかく強い。
この男が塁に出ると、青道に得点が入る。
さてと。
ランナーには、倉持。
ピッチャーの小島はあまりクイックは早くない。
そうなると、確実に走るだろう。
んで、スイングでのアシストさえすれば多分セーフになる。
「2番、センター、大野くん。」
できれば初球で仕掛けて欲しいけど、どうせ倉持の足は警戒されている。
となると、何球か待つべきか。
そんなことを考えながら、俺はベンチに目を向けた。
バントは、ないかな。
俺あんまりバント上手くないし。
(打ちに行って良いぞ。初球から狙っていけ。)
(マジですか。)
盗塁を仕掛けるのであれば、待った方がいい。
フライやライナーでダブルプレーになってしまう確率が高くなるから。
まあ打てと言われれば、打つ。
初球はおそらく高めのボール球。
倉持の盗塁を警戒しているのなら、初球はウエストするであろう。
そうなると、狙いは2球目か。
警戒しているのであれば、自然と速い球で攻めてくるはずだけど。
(倉持、初球から行きそうだな。)
そうだな、そしたら狙ってみるか。
多少のボール球でも、弾き返してみよう。
クイックモーション。
迷いなく倉持がスタートを切る。
投げ込んできたコースは…ドンピシャ。
高めの速いボール、これを叩く。
強く叩きすぎるな。
弾き返すだけでいい。
高めの直球を、上から下に。
思い切って、狙った。
「っつ!」
少し詰まった当たり。
しかし少し前に出ていたファーストの頭を抜けるヒットとなる。
スタートしていた倉持は三塁へ。
ファーストの頭を越えるヒットで出塁。
ランナーは、一、三塁。
ここから、クリーンナップへ。
成孔はサクサク行きます