燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード77

 

 

 

 

 

 

(こいつ、これで本当にエースじゃないのか?)

 

 

目の前で自慢の強力打線をキリキリ舞にされる姿に、成孔の枡は目を見開いた。

 

 

捕手であり1番打者でもある彼はこのチームのまとめ役であり、いつもチームを引っ張ってきていた。

そんな彼ですら、自分たちの打線がここまで手も足も出ないなんてことは、初めてであった。

 

 

 

最速152km/hのフォーシームはまるで生き物かのように唸りを上げ、それが低めにしっかり投げ込まれている。

 

そして高めに投げ込まれたそれは、重力など感じていないかのように、加速しながら伸びていく。

 

 

高めのボールには全くついていけず、低めは力に押されて弾き返せない。

 

更に成孔学園を苦しめていたのは、ストレート軌道から手元で消えるフォーク。

このボールが頭にあると、ストレートに詰まってしまう。

 

 

 

かく言う自分も、その高めのストレートに釣られてしまった。

 

自分で言うのもなんだが、枡自身選球眼とミート力には自信がある。

そんな彼ですら、たったの3球で捩じ伏せられてしまったのだ。

 

 

「バケモンじゃねえか、あの野郎。」

 

前評判では、ムラが凄まじい投手と聞いていた。

好調のときは手が付けられないというのも分かっていたのだが、まさかここまでとは。

 

はっきり言って、超高校級と言っても過言では無いと、枡は唇を噛み締めた。

 

 

どう攻略する、どう攻め立てる。

2巡目までは捨てて、勝負は3巡目か。

 

かといって、今許しているリードは3点。

初回に御幸と金丸のタイムリーで取られたこの3点が、果てしなく遠い。

 

 

できれば早く返したいところだが。

 

どうする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな風に思われているとは露知らず、降谷はまた自慢の右腕を振るっていた。

 

 

「ストライク!アウト!」

 

 

9番の城田を空振り三振で切り落とし、マウンドからゆっくりとベンチへ戻っていく。

 

今日はなんだが、調子がいい。

自分で投げていても、とにかく狙ったところに強い球が投げられる。

 

これは褒められるのもわかると、降谷は右手に目を向けた。

 

 

「降谷、もう一巡行けるな?」

 

 

ベンチに戻る降谷に、片岡がそう問う。

というよりは、確認するように言った。

 

間髪入れずに頷く降谷。

初回から前回とはいえ、まだ3回。

このままなら、もう一巡くらいならいける。

 

 

「一巡と言わず完投でも…」

 

「それはない。」

 

これまた間髪入れずに返答される。

完投できるスタミナがこの降谷にはまだ、ない。

 

 

「まあ続投なだけいいだろ。元々一巡の予定だったんだから。」

 

大野がそういいながら、飲み物の入った紙コップを手渡した。

それを受け取り、降谷は飲料に口をつけた。

 

 

「調子はどうだ。」

 

「いい感じだと、思います。」

 

 

大野も、うなずく。

今日の降谷は、それだけ調子がいい。

 

 

「あと一巡、きちんと抑えてこいよ。」

 

降谷はまた頷く。

しかしその表情は若干だがくらいものであった。

 

 

そんな姿に少し不安を覚えながらも、大野は打席に向かう準備をした。

 

 

 

 

 

 

 

このあとなかなか追加点が奪えない青道高校。

なんとなく嫌な空気が流れる中。

 

その空気を断ち切ったのは、先発の降谷であった。

 

 

 

9番の城田から、クリーンナップを超えて6番の小島までの7人を連続三振で切ってとったのだ。

 

 

7者連続の三振。

圧倒的な投球の前に、青道ベンチだけでなく会場の観客のほとんどが魅了されていた。

 

 

歓声が沸き立ち、会場が揺れる。

 

安定感もあり、球速も出ている。

この会場の誰もが、この降谷の完投を期待していた。

 

 

どこまで速い球を投げるのか。

どこまで三振記録を伸ばすのか。

 

 

7番の小川にようやくレフトフライを打たれたものの、続く加藤と城田にはまたも三振を奪い、今日の三振記録を伸ばした。

 

 

 

ここまでは、四死球0の被安打0。

そして、打者18人に対して14奪三振。

圧倒的という他ない投球に、会場はさらに盛り上がりを見せた。

 

 

 

しかし、青道ベンチは動き始める。

というのも、投手交代は元々計画していたもの。

 

降谷は帽子に手をかけてベンチに深く腰掛けた。

 

 

汗がよく出る。

今日の気温は、22℃。

そこまで暑くないが、それだけ全開で投げているのだろう。

 

 

(疲れた。)

 

 

そんな風に思いながら、降谷は大野から手渡されたドリンクに口をつけた。

 

 

「よく投げたな。なんだかんだ、高校野球最長イニングじゃない?」

 

 

大野がそう言うと、降谷は黙って頷いた。

やはり、全力で投げていただけあって汗の量がすごい。

 

 

「大野先輩は、すごいです。」

 

「俺が、か?」

 

唐突に言われた賞賛に、思わず想定外といった感じで振り返る。

降谷はまた、小さく頷いた。

 

 

「どんなにいい投球をしても、自分はたった二巡しか任せられません。スタミナがないのも、信頼が足りないのも分かっています。」

 

「今日はどちらにせよ、そういう日だからな。」

 

 

継投で、的を絞らせない。

最後まで後手に回らずにこちらのペースで勝つために。

 

最初から計画されていた継投。

 

 

「大野先輩ならきっと、最後まで任されてました。」

 

 

エースである大野夏輝は、基本完投型である。

試合を通して大崩れすることはなく、スタミナも十分な為基本的には最後まで投げ切るケースが多い。

 

夏の大会でも、沢村や降谷に経験値を積ませるために降板していたものの、大一番では一試合を投げ切る。

 

 

それを任せられ、やり遂げることができるからだ。

 

 

「どうかな。俺も調子次第だとは思う。」

 

「何となく、今日は調子がいいことは僕自身でもわかります。それでも、今日は継投が前提でした。」

 

 

自分でスタミナが無いことは、自覚している。

それに安定感に欠けており、試合によって調子の浮き沈みが激しいことも。

 

「僕にはまだ、足りないものが多すぎると感じました。」

 

 

スタミナが無ければ、完投させてもらえない。

安定感が無ければ、一試合通して任せて貰えない。

 

 

エースがいないからこそ、実感できる。

 

自分がどれだけ、エースまで遠いか。

そして、足りないものが多いか。

 

 

目指すべき姿が目の前にいるからこそ、要求も自然と高くなる。

 

その「エース」が本物ならば、尚更。

大野夏輝という象徴のような存在を超えなければ、届かない。

 

 

真っ直ぐ大野を見る降谷。

対するその「エース」は、一旦間を空けて、息を吐いた。

 

 

「焦りすぎるなよ。お前が目指すべき場所が何処にあるかはわからないが、全部一緒に克服できるほど甘いものじゃないはずだ。」

 

 

スタミナなんて、時間をかけなければつかない。

コントロールも、数を投げなくては安定しない。

安定感だって、場数を踏まなければ良くならない。

 

 

「焦るなよ。1つずつ、できることをやっていくしかないからな。」

 

 

無論、それは大野自身もわかっている。

だからこそ、今自分が出来ることに専念している。

 

そんな姿に降谷は、まだ自分がエースには値しないということを感じていたのだ。

 

 

「僕が、エースになります。」

 

大野先輩を超えて。

そこまで言わなかったが、大野も察していた。

 

 

今はまだ、届かないかもしれない。

それでも、いつかは。

 

できれば、大野夏輝を超えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合は降谷の後ろを投げた沢村が1回を無失点。

続く川上も2回を被安打2の1失点で抑えこみ、初戦を3-1で青道高校が勝利を収めた。

 

 

 

 

 

 

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